進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
グリシャ・イェーガーの震える背中を玄関で見送った後、シガンシナ区の我が家には、再び静寂が降りてきた。
キッチンから漂うほのかな紅茶の香りと、窓から差し込む夕暮れの赤い光。
俺は、リビングに置かれた質の良い革張りのソファに深く腰を下ろした。隣には、何も言わずに俺に寄り添うように座るリーシェがいる。
これまで、俺は彼女に対して『自身の異常な能力』や『これから起こるであろう危険』については断片的に伝えてきたが、この世界の根本的な謎や、俺がなぜあそこまでしてあの親子に干渉したのかという『真実』については、意図的に伏せてきた。
だが、もうグリシャの因果すら書き換えた今、彼女に隠し事をする必要はないだろう。
俺の唯一の『共犯者』であり、誰よりも俺を愛してくれている彼女には、すべてを知っておいてほしかった。
俺は小さく息を吐き出し、隣に座るリーシェの横顔を見つめた。
「……今から話すのは、壁内人類が歩んできた真の歴史と、これから起こる筈だった未来の話だよ」
「……」
リーシェは何も聞かず、ただ静かにアイスブルーの瞳を俺に向け、無言で続きを促した。
その真剣な眼差しを受け止めながら、俺はぽつりぽつりと、前世の記憶として知る『進撃の巨人』の残酷な世界観を語り始めた。
「約100年前、当時の王は、始祖の巨人の力で壁内の人々の記憶を改竄し、『壁外の人類は滅んだ』と信じ込ませた。
そして、平和を享受する代わりに、もし外の敵が攻めてきても、反撃せずに滅びを受け入れるという『不戦の契り』を自らに課し、それが今も尚、王家の血筋に受け継がれるようになったんだ」
リーシェの眉が微かにピクリと動いたが、彼女は口を挟まなかった。
「私たちが今まで壁の外で戦って、切り捨ててきた無垢の巨人たち。あれはただの化け物じゃない。
海を隔てた外の世界にある『マーレ』という国で、罪人として捕まり、巨人化の注射を打たれて永遠の悪夢を彷徨わされている……私たちの同胞なんだよ」
残酷な真実
今まで自分たちが狩ってきた的が、実は同胞の成れの果てだったという事実。
普通の調査兵団の兵士が聞けば、発狂してもおかしくない事実だ。
だが、リーシェは表情一つ変えなかった。彼女にとって、俺以外の人間がどうなろうと、それが同胞であろうと知ったことではないのだろう。
俺はさらに、これから訪れるはずだった『未来』へと話題を進める。
「そして、今年の秋に。超大型巨人と鎧の巨人、女型の巨人の力を持った『マーレの子供たち』が、このシガンシナ区の門とウォール・マリアの内壁を破り、無数の巨人に住民たちが蹂躙される。
その地獄の中、さっきまでここにいたグリシャさんの奥さん──カルラさんが巨人に食べられて、エレン君が復讐の鬼になる」
俺の脳裏に、アニメで見たあの凄惨な第一話の光景がフラッシュバックする。
「壁が破られた混乱に乗じて、グリシャさんは半狂乱になりながら、王都の地下でレイス家───始祖の巨人を保有する真の王族を襲う。
自身を巨人化して彼らを捕食し、罪のない子供達すらも惨殺する。
そして、何も知らないエレン君を森に連れ出し、巨人化の注射薬を打って……自身を、自分の息子に捕食させて、能力を継承させるんだ」
言葉にするだけで、おぞましさが胃の底からせり上がってくる。
さっき、涙を流して感謝してくれた、あの不器用で優しい父親が。
照れくさそうにクッキーをかじっていた、あの純粋なエレン少年が。
そんな血塗られた運命を辿るはずだったのだ。
「やがて、エレン君は『巨人を一匹残らず駆逐する』という復讐鬼に成り果て、壁の向こうに住まう人々を……十数億人規模で踏み潰し、世界を更地にする大量虐殺を実行する。
……そうなる、筈だった」
そこまで言って、俺はふと口を噤んだ。
自身の膝の上に置かれた華奢な白い手が、無意識の内に、微かにガタガタと震えていることに気がついたのだ。
いくら「自分が回避させた」と頭で分かっていても、記憶の中にあるあの絶望的な世界観の質量は、ただの元男子大学生の精神にはあまりにも重すぎた。
何十万、何億という命が理不尽に散っていく世界。親が子に喰われ、友が友を殺し合う世界。
俺はそんな恐ろしい歴史の真上に立っているのだという実感が、今更になって冷たい恐怖となって背筋を這い上がってきた。
「……アトラス」
不意に、震える俺の両手を、リーシェの温かく柔らかい手が包み込んだ。
顔を上げると、そこには一切の揺らぎもない、どこまでも深く、そして狂気的なまでに俺だけを愛し抜く決意に満ちたアイスブルーの瞳があった。
「震えなくていいわ、アトラス。何十億の人間が死のうが、誰が誰を喰い殺そうが、私にはどうでもいいこと。
……でも、その運命があなたを少しでも怯えさせるというなら、私が先にその『未来』ごと、すべてを切り刻んであげる。王族だろうと、海の向こうの国だろうと、私が一匹残らず蹂躙してあげるから」
世界よりも、ただ俺一人の安寧を優先する彼女の異常な愛情。
普通なら恐れを抱くようなその狂気的な言葉が、今の俺にはたまらなく暖かく、頼もしく感じられた。
強張っていた肩から、スッと力が抜けていく。
俺は震えの止まった手を裏返し、リーシェの指を優しく握り返した。
「……ありがとう、リーシェ。でも、もう大丈夫。リーシェが手を汚す必要なんてないんだ」
俺は、ソファに深く背中を預け、天井を仰ぎ見ながらふわりと微笑んだ。
「だって、その悲惨な未来のフラグは……もう、殆ど全部『へし折った』からね」
「へし折った?」
リーシェが小首を傾げる。
「うん。まず、一番の火種だったエレン君の復讐心。あれはもう完全に消え去った。
今の彼は巨人を駆逐する悪魔じゃなくて、私たちを崇拝する『天才画家』にジョブチェンジしちゃったからね。
世界を踏み潰すどころか、世界を百合の絵で埋め尽くす気満々だよ」
俺がクスクスと笑いながら言うと、リーシェも思い出したように「ふふっ、あれは良い信者(同志)になったわね」と満足げに頷いた。
「そして、今日。グリシャさんから『13年の呪い』と『進撃の運命』を取り払った。
これで、彼がレイス家の子供たちを惨殺して、エレン君に自分を食わせる悲劇も起こらない。
彼はただの優しいお医者さんとして、カルラさんやエレン君と一緒に天寿を全うできる」
俺は、繋いだリーシェの手をギュッと握り締めた。
「残るは、今年の秋に壁を壊しに来る『マーレの子供たち』だけ。
でも、それも大丈夫。壁が破られる前に私が超大型巨人を無力化して、今日グリシャさんに使ったあの『ウイルス』を彼らにも打ち込む。
彼らを脅している寿命の呪いを解いて、私の『道』に組み込めば、彼らは戦う理由を失う……誰も殺さずに、味方に引き入れることができるんだ」
俺の口からスラスラと紡がれる『解答』。
これこそが、俺がこの数ヶ月間、シガンシナ区ののどかな生活の裏で必死に組み上げてきた、この残酷な世界に対する「完全論破(ハッピーエンド)」のシナリオだった。
俺の言葉を聞き終えたリーシェは、心底愛おしそうに目を細め、そのまま俺の肩にコツンと頭を乗せてきた。
「本当に、あなたは女神ね。
……そんな途方もない悲劇の連鎖を、たった一人で、こんなにもあっさりと終わらせてしまうなんて」
「私一人じゃないよ。リーシェがずっと隣にいてくれたから、私は狂わずに済んだんだ」
俺は、肩に寄りかかるリーシェの金色の髪を優しく撫でた。
窓の外は、すでに完全な夜の闇に包まれようとしていた。
だが、俺の心の中にあった、得体の知れない未来への恐怖という暗雲は、完全に晴れ渡っていた。
もう、怯える必要はない。
壁内人類が歩むはずだった地獄の歴史は、俺という特異点であるバグと、リーシェという狂犬の介入によって、完全に別のルートへと分岐したのだ。
あとは、秋にやってくるであろう『彼ら』を迎え撃ち、このどうしようもなくカオスで、だけど平和で温かい日常を守り抜くだけだ。
「……今日の夕飯、何にしようか」
「アトラスの作ったものなら、私、なんだって食べるわよ」
俺たちは、世界の命運など忘れたかのように、ただの恋人同士のように甘く他愛のない会話を交わしながら、静かな夜のキッチンへと向かうのだった。
投稿ペースについて(※結果次第では実際の投稿ペースに反映されるかも)
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今まで通りで大丈夫
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少しペース落としても良いよ
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土日も投稿しろ
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ストック全部引き摺り出しやがれ