進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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リーシェ視点です


第十三話

水辺に降ろされた瞬間、膝の力が抜けそうになるのを必死に堪えた。

 

冷たい水で顔を洗い、泥と返り血を落とす。掌ですくった水を喉に流し込むと、ようやく自分が生きているという実感が、微かな体温と共に戻ってきた。

 

背後には、あの巨躯が鎮座している。

 

水を飲みながらも、意識の半分は常に背後の「アトラス」に向けられていた。

 

彼は私を襲う素振りも見せず、何かを思案するように巨大樹の前に立っている。

 

ふと、耳慣れない、背筋が凍りつくような音が森の静寂を破った。

 

『シュウゥゥッ……!』

 

反射的に腰のブレードに手が伸びる。

 

だが、そこで目にした光景は、これまでの調査兵団の活動記録にも、諸先輩方の証言にも存在しない、未知の恐怖だった。

 

彼の指先から、青白く輝く「何か」が溢れ出している。

 

それは肉の延長のように見えて、太陽の光を反射する鉱物のような、およそ生物の組織とは思えない硬質な質感を備えていた。

 

「……何、あれは……」

 

言葉を失った。

アトラスはその結晶化した指先を、事も無げに巨大樹の幹へと突き立てたのだ。

 

鋼鉄よりも硬いはずの巨木の皮が、まるで濡れた紙のように容易く切り裂かれていく。

 

彼はそのまま、精密な作業を繰り返した。ただの破壊ではない。

 

そこには明確な「設計」があった。

 

数分もしないうちに、巨大樹の幹には完璧な立方体の空洞がくり抜かれていた。

 

それだけではない。

 

彼はその空洞の内壁に、先程の青白い物質を薄く、流れるような動作で塗り広げていく。

 

見る間に、木のうろは美しいクリスタルに覆われた、幻想的な小部屋へと変貌を遂げた。

 

(……もし、あの力が人類に向けられたら)

 

不意に、最悪の想像が脳裏をよぎった。

 

今の調査兵団が持つ「超硬質スチール」のブレード。

 

それは巨人の肉を断つための人類の叡智だが、あの青白い結晶に通用するとは到底思えない。

 

あの指先で壁を突けば、ウォール・マリアの堅牢な外壁すら、この巨大樹と同じように容易く穿たれてしまうのではないか。

 

人類がまだ知らない、巨人の真の到達点。

 

そんな「絶対的な力」を目の当たりにして、私は戦慄し、震えが止まらなくなった。

 

しかし───

 

「食べられそうな実を持ってくる。見える範囲までしか離れないから、心配は無用だ」

 

アトラスは、そう言って穏やかに私を見下ろした。

 

その声には、知性だけでなく、明確な「情」のようなものが含まれている気がした。

 

あのような、一国を滅ぼしかねない理外の力を持ちながら、彼はそれを行使して私を殺そうとはしない。

 

むしろ、はぐれた一兵卒に過ぎない私のために、雨風を凌ぐ場所を造り、食事まで調達しようとしている。

 

「……理性が、ある」

それは人類にとって、唯一にして最大の希望だった。

 

彼は化け物だ。

 

けれど、少なくとも今は「敵」ではない。

 

彼の中に宿る確固たる意識と、人間を尊重しようとする理性が、私の恐怖を辛うじて「信頼」という細い糸に繋ぎ止めていた。

 

アトラスが静かに、地響きを立てながら森の奥へ向かうのを見送る。

 

一人残された私は、入り口に立て掛けられた木の扉と、内側に張られた冷たくも美しいクリスタルの壁をそっと撫でた。

「巨人が造った、家……なんて、誰も信じてくれないわね」

 

私は自嘲気味に呟き、山積みにされた巨大な葉を抱え、その「絶対安全な聖域」へと足を踏み入れた。

 

外の世界では巨人が人間を喰らっているというのに、私は今、最も強力な巨人の庇護下に置かれている。

 

そのあまりの矛盾に、眩暈がした。




サブタイトルは……追々考えときます…
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