進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
水辺に降ろされた瞬間、膝の力が抜けそうになるのを必死に堪えた。
冷たい水で顔を洗い、泥と返り血を落とす。掌ですくった水を喉に流し込むと、ようやく自分が生きているという実感が、微かな体温と共に戻ってきた。
背後には、あの巨躯が鎮座している。
水を飲みながらも、意識の半分は常に背後の「アトラス」に向けられていた。
彼は私を襲う素振りも見せず、何かを思案するように巨大樹の前に立っている。
ふと、耳慣れない、背筋が凍りつくような音が森の静寂を破った。
『シュウゥゥッ……!』
反射的に腰のブレードに手が伸びる。
だが、そこで目にした光景は、これまでの調査兵団の活動記録にも、諸先輩方の証言にも存在しない、未知の恐怖だった。
彼の指先から、青白く輝く「何か」が溢れ出している。
それは肉の延長のように見えて、太陽の光を反射する鉱物のような、およそ生物の組織とは思えない硬質な質感を備えていた。
「……何、あれは……」
言葉を失った。
アトラスはその結晶化した指先を、事も無げに巨大樹の幹へと突き立てたのだ。
鋼鉄よりも硬いはずの巨木の皮が、まるで濡れた紙のように容易く切り裂かれていく。
彼はそのまま、精密な作業を繰り返した。ただの破壊ではない。
そこには明確な「設計」があった。
数分もしないうちに、巨大樹の幹には完璧な立方体の空洞がくり抜かれていた。
それだけではない。
彼はその空洞の内壁に、先程の青白い物質を薄く、流れるような動作で塗り広げていく。
見る間に、木のうろは美しいクリスタルに覆われた、幻想的な小部屋へと変貌を遂げた。
(……もし、あの力が人類に向けられたら)
不意に、最悪の想像が脳裏をよぎった。
今の調査兵団が持つ「超硬質スチール」のブレード。
それは巨人の肉を断つための人類の叡智だが、あの青白い結晶に通用するとは到底思えない。
あの指先で壁を突けば、ウォール・マリアの堅牢な外壁すら、この巨大樹と同じように容易く穿たれてしまうのではないか。
人類がまだ知らない、巨人の真の到達点。
そんな「絶対的な力」を目の当たりにして、私は戦慄し、震えが止まらなくなった。
しかし───
「食べられそうな実を持ってくる。見える範囲までしか離れないから、心配は無用だ」
アトラスは、そう言って穏やかに私を見下ろした。
その声には、知性だけでなく、明確な「情」のようなものが含まれている気がした。
あのような、一国を滅ぼしかねない理外の力を持ちながら、彼はそれを行使して私を殺そうとはしない。
むしろ、はぐれた一兵卒に過ぎない私のために、雨風を凌ぐ場所を造り、食事まで調達しようとしている。
「……理性が、ある」
それは人類にとって、唯一にして最大の希望だった。
彼は化け物だ。
けれど、少なくとも今は「敵」ではない。
彼の中に宿る確固たる意識と、人間を尊重しようとする理性が、私の恐怖を辛うじて「信頼」という細い糸に繋ぎ止めていた。
アトラスが静かに、地響きを立てながら森の奥へ向かうのを見送る。
一人残された私は、入り口に立て掛けられた木の扉と、内側に張られた冷たくも美しいクリスタルの壁をそっと撫でた。
「巨人が造った、家……なんて、誰も信じてくれないわね」
私は自嘲気味に呟き、山積みにされた巨大な葉を抱え、その「絶対安全な聖域」へと足を踏み入れた。
外の世界では巨人が人間を喰らっているというのに、私は今、最も強力な巨人の庇護下に置かれている。
そのあまりの矛盾に、眩暈がした。
サブタイトルは……追々考えときます…