進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百二十九話

 

 

 

シガンシナ区の我が家のリビングは、外の暖かな陽気とは裏腹に、極めて密度の高い緊張感に包まれていた。

 

 

 

グリシャさんから「9月10日の夕方頃、マーレの戦士である子供たちが壁を破壊しに来る」という決定的な事実がエルヴィン団長に伝えられた。

 

 

 

エルヴィンの青い瞳には一切の動揺は見られなかったが、その視線は既に数ヶ月先の「防衛戦」の盤面を見据えているようだった。

 

 

 

「……その『運命の日』についてですが」

 

 

俺は、静まり返るリビングの中で口を開き、エルヴィンを真っ直ぐに見つめた。

 

 

 

「壁を破壊しに来る超大型巨人、鎧の巨人、そして女型の巨人の三人の無力化に関しては、すべて私とリーシェに任せてください。調査兵団の兵士たちを犠牲にする必要はありません」

 

 

「君たち二人だけで、その巨人を三体同時に相手取ると?」

 

 

エルヴィンが眉を潜める。疑っているわけではない。

 

 

 

俺たちの異常な戦闘力を誰よりも知っている彼だからこそ、純粋な戦術的確認だった。

 

 

「はい。ただ、団長には一つ頼みたいことがあります。調査兵団の極秘任務として、今のうちから『壁外』の適当な地下に、彼らを収容するための堅牢な地下牢を作成しておいて欲しいんです」

 

 

 

「壁外に、地下牢を……? 壁内ではなくか?」

 

 

 

「ええ。王政や憲兵団の目から完全に隠匿するためです。それに、今の調査兵団にとって壁外はもはや『安全な裏庭』のようなものでしょう? 捕獲した三人を、速やかにその壁外の地下牢へ移送させてください」

 

 

俺は言葉を区切り、これから行う途方もない計画の全貌を語った。

 

 

 

「私は、捕らえた彼らにかけられている『13年の寿命の呪い』を完全に解除し、彼らを縛る巨人の力を私の管理下に置きます。

その上で、マーレの故郷に残されている彼らの家族を、我々の圧倒的な武力をもって保護・救出することを条件に、彼らをこちら側に寝返らせ、協力させます」

 

 

 

「……呪いを解除し、管理下に置く。そんな神懸かったことが本当に可能なのか?」

 

 

エルヴィンが、信じられないものを見るような目を向けた。

 

 

「可能です。エルヴィン団長、先程グリシャさんが話した始祖ユミルの『道』という概念を覚えていますか? すべてのエルディア人を繋ぐ、目に見えない不可視のネットワークのことです」

 

 

俺は自身の胸に手を当てた。

 

 

 

「私はそのユミルの『道』から完全に独立した、独自の『道』を保有しています。マーレの戦士たちをユミルの道から引き剥がし、私の道へ繋ぎ変える。……実は、隣にいるリーシェが、アッカーマンの血筋でもないのにあれほど理不尽に強いのも、この『道』が理由なんです」

 

 

 

俺が視線を向けると、リーシェはふふんと誇らしげに胸を張った。

 

 

 

「私はアトラスの、そうねぇ……言うなれば『擬似アッカーマン』として、彼女の道に直接繋がっているの。そこから常時、無限に近いエネルギーと身体強化の加護を注ぎ込まれているから、疲労も知らないし、巨人の群れだって一瞬で更地にできるのよ」

 

 

 

「……なるほど。アッカーマン一族の特異性に似ているが、その源泉が君自身というわけか」

 

 

エルヴィンは、胃のあたりを軽く押さえながら深く息を吐き出した。特異点たちのデタラメな仕様に、彼の常識がまた一つ破壊された音がした。

 

 

「……分かった。壁外の極秘地下牢の建設と、移送ルートの確保。そして彼らを寝返らせた後の戦略への組み込みについては、本部に戻った後、直ちに計画を練ろう」

 

 

 

「ありがとうございます、団長」

 

 

ここでひとまず、重い軍議のような空気は一段落した。

 

 

 

リーシェが新しく淹れ直してくれた紅茶と、先日エレン少年も絶賛した特製クッキーがテーブルに並べられ、私たちは少しの休憩を挟むことにした。

 

 

 

ティーカップに口をつけ、一息ついた後、エルヴィンは俺たちがシガンシナ区に長期休暇で移住して以降の、調査兵団の現状について報告を始めた。

 

 

春に入団した新兵を含めて団員が1000人を超えたこと。一般兵士ですら単騎で巨人を屠る怪物集団と化していること。

 

 

そして、リヴァイ兵長の指導下で対人立体機動の超精鋭部隊が完成し、憲兵団のナイル次期師団長とも水面下で協力関係を結びつつあること。

 

 

 

「我々の軍事力と、王都内部の協力者。盤面の駒はすべて揃った」

 

 

エルヴィンは静かに、しかし確かな熱を帯びた声で言った。

 

 

「実は、君たちに相談する前に……私は間もなく、この圧倒的な武力を背景に、偽りの王政府に対するクーデターを始めようとしていたところだ。早ければ来月にも決行するつもりだった」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間だった。

 

 

「お待ちください、エルヴィン団長!!」

 

 

隣に座っていたグリシャさんが、顔面を蒼白にさせて身を乗り出した。

 

 

「今は、まだ革命を起こすべきではありません! 絶対に、王政に直接牙を剥いてはならない!」

 

 

 

「……何故だ、グリシャ医師。我々の武力をもってすれば、憲兵団も中央第一憲兵も、もはや敵ではない。流血すら最小限に抑えて王都を制圧できる算段がついている」

 

 

 

エルヴィンが鋭い視線を向けるが、グリシャさんは首を横に激しく振った。

 

 

「武力の問題ではないのです! 真の王家であるレイス家は、始祖の巨人の能力……すべてのエルディア人の記憶と精神を支配する『座標』の力を持っています!」

 

 

グリシャさんの声が、切羽詰まったように響き渡る。

 

 

「もしあなたがクーデターを起こし、レイス家が『王政の危機』だと判断すれば……彼らはその力を使って、壁内の全人類の記憶と思想を一瞬にして書き換えてしまう。

あなた方調査兵団が抱いている『自由への意志』も、クーデターの計画そのものも、彼らの念波一つで『最初から無かったこと』にされてしまう恐れがあるのです!」

 

 

その事実の重さに、エルヴィンは目を見開き、完全に絶句した。

 

 

 

どれだけ無敵の軍隊を作り上げようと、どれだけ緻密な戦略を練ろうと、相手が「ルールそのものを書き換える神の力」を持っている以上、物理的な革命は一瞬にして頓挫する。

 

 

最悪の場合、調査兵団そのものが記憶を弄られ、自ら解散させられる可能性すらあった。

 

 

「……記憶の、改竄……

父の仮説は、そこまで絶対的な力を持っていたのか……」

 

 

エルヴィンがギリッと奥歯を噛み締める。あと一歩で、彼自身が築き上げたすべてを水泡に帰すところだったのだ。

 

 

「そうです」

俺は、静かに二人の会話に割って入った。

 

 

 

「だからこそ、クーデターを起こす前に、まずは始祖の巨人にかけられている『不戦の契り』を、私の能力で解除しなければならないんです」

 

 

 

「アトラス……君の力で、始祖の記憶操作を防げるのか?」

 

 

 

「防ぐというより、交渉のテーブルに着かせるんです」

俺は、頭の中で練り上げていたもう一つの重大なシナリオを口にした。

 

 

 

「始祖の巨人を現在保有しているのは、フリーダ・レイスという心優しい女性です。彼女は王家の呪いである不戦の契りに縛られて身動きが取れないだけ。

私が彼女と接触してその呪いを解除できれば……王政を武力で打倒したあと、フリーダ自身に『真の王家』として表舞台に出てもらい、正統な女王として君臨してもらうよう交渉するのはどうでしょう?」

 

 

「真の王を、我々の手で表の玉座に座らせる……」

 

 

 

エルヴィンが、その壮大な絵図に息を呑んだ。

 

 

 

それならば、民衆の反発も抑えられる。

 

 

 

流血を伴う泥沼の内戦ではなく、正統な権力の委譲という形で、腐敗した王政府だけを一掃することができる。

 

 

 

「ええ。彼女は本来、領民を愛する立派な王の器です。私の『道』の力で呪縛を解けば、必ず我々の革命に賛同してくれるはずです」

 

 

 

俺はそう断言し、最後にグリシャさんの方へと向き直った。

 

 

「来るその日……私たちがフリーダに接触するためには、彼女が潜む『地下礼拝堂』へ向かわなければなりません。グリシャさん。あなたはその礼拝堂の正確な場所を知っているはずですよね?」

 

 

グリシャさんは、ハッとして俺を見つめ返した。

 

 

エルディア復権派として、壁内の王族の居場所を執念で突き止めたかつての彼。

 

 

その知識が、今度は惨劇を引き起こすためではなく、血を流さずに壁内人類を解放するための「希望の道標」として求められているのだ。

 

 

「……はい。レイス家の領地にある、あの地下礼拝堂の場所なら、間違いなく案内できます」

 

 

 

グリシャさんは、迷いのない、力強い声で頷いた。

 

 

 

「ありがとうございます。その時は、調査兵団の精鋭部隊と共に、案内役としてご協力をお願いしますね」

 

 

 

俺が微笑みかけると、エルヴィンもまた、憑き物が落ちたようなスッキリとした顔でグリシャさんに頭を下げた。

9月の壁破壊と、マーレの戦士の捕獲。

 

 

 

そして、それに続く始祖の奪還ならぬ、真の女王の擁立と無血革命。

 

 

 

すべてのピースが、ここシガンシナ区の小さなリビングで完璧に繋がり、人類の歴史が大きく舵を切る準備が整った瞬間であった。

 

 

投稿ペースについて(※結果次第では実際の投稿ペースに反映されるかも)

  • 今まで通りで大丈夫
  • 少しペース落としても良いよ
  • 土日も投稿しろ
  • ストック全部引き摺り出しやがれ
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