進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百三十一話

シガンシナ区からの帰路、馬車に揺られながら、私は幾度も己の手のひらを見つめ返した。

 

 

 

震えは、とうに止まっている。

 

 

 

だが、胸の奥底で燃え盛るような熱と、途方もない重圧は、王都近郊の調査兵団本部へ到着してからも消えることはなかった。

 

 

 

夜半過ぎの団長室

 

 

分厚い樫の扉を固く閉ざし、私は、調査兵団において私が最も信頼を置く三人の側近──リヴァイ、ミケ、そしてハンジをこの部屋に集めた。

 

 

 

「夜分遅くにすまない。……お前たち三人にだけは、今夜のうちに共有しておかねばならないことがある」

 

 

執務机の前に立つ三人は、私のただならぬ気配を察し、一切の無駄口を叩かずに私の次の言葉を待っていた。

 

 

 

ミケが微かに鼻を鳴らし、部屋の空気に混じる私の『真実を知った熱』を嗅ぎ取っている。

 

 

「単刀直入に言おう」

 

私は、深く息を吸い込み、人生のすべてを懸けて追い求めてきた言葉を口にした。

 

 

「私の父の仮説は、正しかった。……壁の外に、人類は存在している」

 

「……は?」

 

最初に声を出したのは、ハンジだった。

 

 

 

目を丸くし、口を半開きにして私を見つめている。

 

 

リヴァイは眉一つ動かさなかったが、その灰色の瞳がスッと細められた。

 

 

「約100年前、当時の王は『始祖の巨人』の力を用いて、壁内の人々の記憶を改竄した。

壁外の人類は滅んだと我々に信じ込ませたのだ。

だが現実には、海の向こうには『マーレ』という大国が存在し、優雅な文明を築いている」

 

 

 

「ま、待って、待ってよエルヴィン! じゃあ、私たちが今まで壁の外で戦ってきた、あの巨人たちは……!」

 

 

ハンジが机に身を乗り出し、悲鳴のような声を上げた。

 

 

 

私は酷薄な事実を、ありのままに告げた。

 

 

「そうだ。あの巨人たちは、ただの化け物ではない。マーレ国で罪人として捕まり、巨人化の注射を打たれて永遠の悪夢を彷徨わされている……我々と同じエルディア人の同胞だ」

 

 

「ああ……あぁあ……っ!」

 

ハンジが両手で頭を抱え、その場に膝から崩れ落ちそうになるのを、ミケが黙って支えた。

 

 

 

巨人を愛し、巨人の正体を知ろうと狂気的なまでの探求心を燃やしてきた彼女にとって、今まで自身が切り刻んできたものが「同胞の成れの果て」であったという事実は、あまりにも残酷だった。

 

 

 

「ハンジ、しっかりしろ。まだ話は終わっていない」

 

 

私は痛む心を押し殺し、さらに言葉を続けた。

 

 

「現在の中央の王政は、偽物だ。壁の中の真の王家は『レイス家』。彼らこそが始祖の巨人を保有し、戦うことを禁ずる『不戦の契り』によって我々をこの鳥籠に閉じ込めている。

そして……その始祖の記憶改竄を受けない、巨人科学の副産物たる特異な血筋がある。人の姿のまま、巨人の力を引き出せる一族だ」

 

 

私は、静かに壁際によりかかっている小柄な男に視線を向けた。

 

 

「それが『アッカーマン一族』……お前のことだ、リヴァイ」

 

「……チッ」

 

リヴァイは短く舌打ちをし、自身の腕を組んだ。

 

「俺のこの異常な力は、巨人のなり損ないってわけか。クソ忌々しいが……合点はいく。で? エルヴィン。そのとんでもねぇおとぎ話を、お前はどこで仕入れてきた? ただの妄想じゃねぇんだろ」

 

 

「シガンシナ区に滞在している、アトラスとリーシェ。……そして、壁の外から来たと言う一人の医師からだ」

 

 

 

私は、彼らとの密会で明かされたすべての計画をテーブルの上に広げた。

 

 

「今年の秋、9月10日の夕方頃。マーレ国から送り込まれた『超大型巨人』『鎧の巨人』『女型の巨人』の力を持つ三人の戦士が、シガンシナ区の壁を破壊しにやってくる」

 

 

 

その言葉に、流石のミケも息を呑んだ。だが、私はすぐに手を挙げて制した。

 

 

 

「案ずるな。壁の破壊は未然に防がれる。この迎撃と三人の捕獲については……アトラスとリーシェの二人に完全に一任する」

 

 

「あ? あの二人だけでか?」

 

 

「そうだ。そして、ここからが我々の任務だ」

 

 

私は地図を広げ、壁外の適当な地点を指差した。

 

 

「極秘裏に、壁の外に『地下牢』を建設しろ。アトラスたちが捕らえた三人の戦士を、一時的に王政の目から完全に隠匿するためだ。今の我々なら、壁外での土木作業などピクニックと変わらん」

 

 

「待て、エルヴィン。敵を捕らえてどうする? 殺さねぇのか?」

 

 

リヴァイの鋭い問いに、私はあのシガンシナ区でアトラスが語った、神の如き計画を口にした。

 

 

「アトラスが、彼らを縛る『13年の寿命の呪い』を解除し、マーレの家族の保護を条件に、彼らをこちら側に引き入れる」

 

 

「……寿命の呪いを、解除? 待ってエルヴィン、アトラスはいったい何者なの!?」

 

 

復活したハンジが、血走った目で私に迫る。

 

 

「彼女は『独自の道』を持つ、第十の巨人化能力者だそうだ。……私にも専門的な理屈は分からないが、始祖ユミルという存在が束ねる『道』から彼らを引き剥がし、自身の管理下に置くことができるらしい。

ちなみに、リーシェがアッカーマン一族でもないのにリヴァイと同等の力を持っているのは、アトラスの『道』から常時、無限のエネルギーを注がれているからだそうだ」

 

 

「「「…………」」」

 

団長室に、重すぎる沈黙が落ちた。

 

 

 

特異点バグたるベニア姉妹のデタラメな仕様に、ついにこの三人の常識すらも完全に破壊された瞬間だった。

 

 

 

「……馬鹿馬鹿しい。あいつら、本当に人間かよ」

 

 

リヴァイが心底呆れたようにため息をつく。

 

 

「私もそう思う。だが、彼女たちが我々の味方である以上、これほど心強いことはない」

 

 

私は微かに口角を上げ、最後の、そして最大の作戦を告げた。

 

 

「我々は当初、この過剰な武力をもって間もなくクーデターを起こす予定だったが、計画は一時凍結する。

レイス家の持つ『記憶改竄』の力で、我々の革命そのものを無かったことにされる危険があるからだ」

 

 

「じゃあ、どうするのさ?」

 

 

「壁破壊の当日まで、我々は息を潜める。

アトラスが、現在の始祖の保有者であるフリーダ・レイスの『不戦の契り』を解除し、彼女を『真の女王』として表舞台に擁立する交渉を行う。

……我々は、ピクシス司令やキース教官、そして憲兵団のナイルを次期師団長に押し上げる政治工作を水面下で進め、無血での権力移行の盤面を整えるのだ」

 

 

すべてを語り終え、私は三人を見回した。

 

 

ハンジは目を血走らせながらも、未知の真実とこれからの希望に口元を震わせている。

 

 

 

ミケは静かに頷き、その鼻で『勝利の匂い』を嗅ぎ取っているようだった。リヴァイは壁によりかかったまま、鋭い視線を私に向けていた。

 

 

「盤面は整った。あとは、運命の秋を待つのみだ」

 

 

 

私は、窓の外、白み始めた夜明けの空を見つめながら、静かに、しかし絶対の決意を込めて宣言した。

 

 

 

「人類の反撃は……いや、人類の解放は、ここから始まる」

 

 

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