進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
新幹線並みの猛スピードで平原を駆け抜け、視界を遮る巨大樹の森の奥深くへと突入する。
俺の肩にはリーシェがしがみつき、手には三人のマーレの戦士たちを閉じ込めた硬質化のクリスタル球体が握られている。
この巨体で森の木々を縫うように疾走するのも、超音速の機動に慣れた俺にとっては造作もないことだった。
やがて、鬱蒼と生い茂る木々の合間に、周到にカモフラージュされた巨大な岩の扉────ハンジ分隊長が狂気的な執念で設計し、俺の硬質化能力を利用して突貫工事で完成させた、極秘地下牢の入り口が見えてきた。
入り口の前のわずかに開けたスペースには、すでにエルヴィン団長、ハンジ分隊長、ミケ分隊長、そしてリヴァイ兵長の四人が待機していた。
王都での政治工作や配置の指揮を終え、極秘裏にこの壁外拠点へと先行してくれていたのだ。
彼らを視界に捉えた俺は、ドスンドスンと地響きを立てていた足取りから一気に速度を落とし、舞い上がる土煙を抑えながら、彼らの前で静かに立ち膝を着いた。
『お届けに参りました』
俺は、腹の底から響くような男性ベースの重低音で、うやうやしく告げた。
その普段(人間体)の可憐な少女の声とは似ても似つかない厳つい声と口調に、エルヴィン団長は少し意表を突かれたようにピクリと眉を動かした。
だが、すぐに冷静な指揮官の顔に戻り、俺が巨大な手のひらの上に差し出した硬質化の球体へと視線を向ける。
球体の中では、衝撃で気絶していたアニとベルトルトもようやく意識を取り戻したようで、三人揃って蒼白な顔で周囲の大人たちを見回していた。
「彼らが……あの日、グリシャ医師が語った、壁を破壊しに来るはずだった戦士というのだな」
エルヴィンが、確認するように、しかしその瞳の奥に静かなる闘志を燃やしながら問う。
『はい、そうです。怪我はありませんが、心は完全に折ってあります』
俺が答えると、腕を組んで壁のようにもたれかかっていたリヴァイ兵長が、鋭い灰色の瞳で球体の中の三人を見下ろし、呆れたように鼻を鳴らした。
「……まだ、ただのガキじゃねぇか。こんな奴らが壁を破壊して大勢の人間を肉塊にしようとしたって言うのか……?」
人類最強の男の口から漏れた、信じられないというような呟き。
確かに、地下街の泥水を啜って生き抜いてきた彼からすれば、この恵まれた体格の子供たちが、人類を絶滅に追い込む悪魔だとは俄かに信じがたいだろう。
「そんなのどうでも良いじゃないか!!!」
突如、静寂を破ってハンジが奇声を上げた。彼女は目を血走らせ、口元から盛大に涎を垂らしながら、クリスタル球体へと猛烈な勢いで顔を近づけていく。
「彼らが! あの九つの巨人である『超大型巨人』と『鎧の巨人』と『女型の巨人』なんだろう!? うわぁぁあ……すごい、すごいよ! 人間体を保ったままの知性巨人! あぁぁあ……っ……もう我慢できない! 早く、早く解剖したいぃ……!」
狂喜乱舞し、クリスタル越しに三人を舐め回すように見つめるハンジ。
巨人の生態を知り尽くしたいという純粋かつ狂気的な探求心は、時として悪魔よりも恐ろしいプレッシャーを放つ。
そのハンジの狂人ムーブを目の当たりにした幼い戦士三人は、限界を超えた恐怖に顔を歪め、ガタガタと激しく震え出した。
マーレの軍事訓練を積んできたとはいえ、彼らはまだ十代の子供だ。
自分たちを食い殺す悪魔が住む島だと教え込まれてきた場所にやって来て、初手で巨人の力を完全に無力化され、挙げ句の果てに「解剖する」と涎を垂らす狂気に直面させられたのだ。
「ひぃっ……! や、やめてくれ……っ! いやだぁ……っ……!」
気弱なベルトルトが、ついに堪えきれずに情けない悲鳴を上げ、ライナーの背中に隠れるように縮こまった。
ライナーもまた、完全に顔面を蒼白にして歯の根を合わさず震えている。
「おい、クソメガネ。ガキ共が本気で怯えてチビりそうになってるじゃねぇか。少しは自重しろ」
見かねたリヴァイが、ハンジの襟首を掴んで強引に引き剥がし、助け舟を出した。口は悪いが、彼なりの不器用な優しさだ。
その間に、俺は役目を終えた巨人体を破棄することにした。
シューゥゥゥゥッ……! という凄まじい高圧蒸気を噴出させながら、15mの強靭な男性型の肉体が急速に崩壊していく。
うなじが開き、熱い蒸気の中から、俺は自身の本体を引っ張り出した。
「……ふぅ……。久々の巨人化、やっぱり解放感があって良かったなー」
真っ白な蒸気が晴れた後。
そこに立っていたのは、恐ろしい男性型の巨人でも、屈強な兵士でもなく───比類なき黄金比で設計された、神の如き超絶美少女だった。
艶やかな漆黒の長髪を揺らし、少し火照った頬をほんのりと赤く染めながら、ふわりと甘い微笑みを浮かべる。
着ているのは、調査兵団の女性服では無く純白のサマーワンピースだ。
理由はあのタイトな制服に嫌気が差したのとリーシェからの熱い眼差しが居心地悪いからだ。
団長も理解してくれた。
そしてそんな姿を目の当たりにした捕獲された三人の戦士は、恐怖で歪んでいた顔を、今度は信じられないほどの驚愕の色に染め上げた。
「はっ……? 女……?」
アニが、普段のクールな表情を完全に崩し、素っ頓狂な声を上げた。
無理もない。先程まで自分たちを圧倒的な暴力で捻り潰し、『歓迎しようじゃないか』と野太い男の声で語りかけてきたバケモノの中身が、自分たちと大して歳も変わらない、しかも目を疑うような可憐な美少女だったのだから。
(……ふふん、驚いてる驚いてる)
俺は、自分のこの「TSバグの超絶美少女ボディ」が持つ圧倒的な破壊力と、無自覚に撒き散らすフェロモンの効果を、もうあれから完全に理解し、開き直って使いこなすようになっている。
男のプライドなんて言う粗末なものは、平和な日常を守るための盤面操作の前には些細な犠牲である。
「えへへ……びっくりした……?」
俺は、クリスタル球体の前にしゃがみ込み、首を小さく傾げながら、いたずらが成功した小悪魔っ娘のような表情を作って彼らを上目遣いで見つめた。
透き通るような甘い声と、至近距離で見せつけられる国を傾けるほどの美貌。
「…………ッ!!!」
その瞬間、恐怖で震えていたはずのベルトルトとライナーの顔が、別の意味で一瞬にして真っ赤に茹で上がった。
二人は慌てて視線を逸らし、バツが悪そうに頭を掻きながら、落ち着きなく視線を泳がせている。
……よし。チョロい。これなら後の交渉も随分とやりやすくなるだろう。
「アトラス……あんまり他の男に、そういう顔を見せないでくれるかしら?」
背後から、リーシェが極低温のヤンデレボイスを囁き、俺の腰に腕を回してきつく抱き寄せてきた。
彼女の青い瞳が、球体の中の二人の少年を「その目玉をくり抜いてやろうか」と言わんばかりの殺気で睨みつけている。
「あはは……ごめんごめん、ちょっとからかってみただけだよ」
俺は慌ててリーシェの頭を撫でて宥めつつ、指先を鳴らして、彼らを包んでいた硬質化の球体膜をパリンッと音を立てて解除した。
球体が消滅し、地面に転がり出た三人に対し、すかさずハンジとミケが素早く接近する。
「さーて、大人しくしててねー」
ハンジが、あらかじめ用意していた特製の拘束具を取り出し、彼らの手を後ろ手に回してガッチリと固定した。
それは手首だけでなく、手全体を分厚い鉄のミトンのように覆い隠す特殊な手枷だった。
「ごめんねぇ、ちょっと重くて不便かもしれないけど……君たち、指を噛みちぎるだけで爆発(巨人化)しちゃうからね。私たちも死にたくないからさ」
ハンジが、おどけるように笑いながら──しかしその口元にはまだ解剖への渇望の涎を光らせながら、容赦なく手枷を嵌めていく。
自傷行為を完全に封じられ、これで彼らは完全に無力化された。
「連れて行け」
エルヴィン団長の冷徹な指示により、三人の戦士は調査兵団の精鋭たちに両脇を抱えられ、地下牢の入り口へと連行されていく。
岩の扉の奥は、長く薄暗い螺旋階段が続いていた。
松明の灯りだけが頼りの冷たい石造りの階段を、一歩、また一歩と下っていく。
地下深くへと潜るにつれ、空気はひんやりと冷たくなり、カビと湿った土の匂いが鼻を突いた。
そして到着した、地下25メートルの最深部。
そこは、ハンジの設計と俺の硬質化によって作られた、強固なコンクリートとクリスタルが混ざり合った巨大な檻の空間だった。
壁面の厚さは数メートルに及び、万が一この中で巨人化したとしても、地上に出る前に生き埋めになるよう計算され尽くしている。
重厚な鉄格子が開かれ、三人は冷たく硬いコンクリートの床へと乱暴に座らされた。
鉄格子がガシャンと音を立てて閉まり、厳重に鍵がかけられる。
檻の外には、エルヴィン団長、リヴァイ兵長、ハンジ分隊長、ミケ分隊長。そして、俺とリーシェ。
壁内人類の最高戦力であり、この世界の真実を知る者たちが、冷たい瞳で檻の中の子供たちを見下ろしていた。
逃げ場のない、圧倒的な絶望の空間。
ライナー、ベルトルト、アニの三人は、背中を寄せ合い、ただ震えながら運命の裁きを待つことしかできなかった。
重苦しい沈黙の中、エルヴィン団長が一歩前に進み出た。
その青い瞳には、一切の迷いも容赦もない、冷徹な指揮官としての威厳が満ちていた。
「……さて。長旅ご苦労だった、マーレの戦士諸君」
エルヴィンの低く響く声が、地下牢の壁に反響する。
「それでは、これより……君たちの今後の処遇について、説明しよう」
血を流すための闘いは、終わった。
ここからは、世界の理を書き換え、彼らの魂そのものをこちら側へと引きずり込むための、本当の意味での『交渉』が幕を開けるのだ。