進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百三十六話

 

 

壁の向こうの悪魔どもを根絶やしにし、始祖の巨人を奪還する。

 

 

 

それが、故郷マーレから選ばれた俺たち『戦士』の使命だった。

 

 

 

太陽が真上に差し掛かる頃、果てしなく続く平原の向こうに、標的であるシガンシナ区の巨大な壁門がその姿を現した。

 

 

 

緊張で胃が焼けるようだった。

 

 

 

だが、やるしかない。俺たちは世界を救う戦士になるんだ。

 

 

 

アニと顔を見合わせ、頷き合う。そして、ベルトルトが壁の真下へと走り込み、あらかじめ打ち合わせていた通りに自身の手を噛みちぎった。

 

 

 

───キィィィィィン!!!!

 

 

 

黄色い閃光と爆風が吹き荒れ、60メートルの『超大型巨人』が壁に手をかける。

 

 

 

完璧な奇襲のはずだった。

 

 

 

壁の向こうの悪魔どもは、今頃パニックに陥り、絶望の叫びを上げているはずだ。

 

 

 

だが

 

次の瞬間、俺の視界に映ったのは、理解の範疇を完全に超えた『悪夢』だった。

 

 

 

壁の外側、空中の何もない空間から、突如として15メートル級の巨人が現れたのだ。

 

 

 

黄色い閃光ではなく、空気を重く押し潰すような鈍い光。

 

 

 

そして現れたのは、黄金比で彫刻されたかのような、鋼の筋肉を持つ黒髪の巨人。

 

 

 

そいつは、瞬きする間もなく全身を硬質化させると、どこからともなく『硬質化の縄』を生み出し、ベルトルトの胴体に巻きつけた。

 

 

 

『遠路遥々ようこそ、歓迎しようじゃないか』

 

 

……喋った?

 

 

地鳴りのような、低く厳つい男の声だった。

 

 

 

俺が思考を停止させたコンマ数秒の間に、その巨人はベルトルトを平原側へと強引に引き倒した。

 

 

 

60メートルの巨体が、まるで子供の玩具のようにひっくり返される。

 

 

 

──────ズドォォォォォォンッ!!

 

 

 

地響きと共に倒れ込んだ超大型の四肢が、黒髪の巨人のたった数発の拳で、弾け飛ぶように跡形もなく粉砕された。

 

「あ、あああ……っ! ライナー!」

 

「くそっ、巨人化しろアニ!!」

 

 

俺はパニックに陥りながらも、戦士としての生存本能で自身の手を噛みちぎった。アニも同時に巨人化する。

 

 

 

装甲に覆われた『鎧の巨人』の視界で、俺は黒髪の巨人を殺すために猛突進した。

 

 

 

無敵の盾であるこの鎧なら、どんな攻撃も弾き返せる。そう信じていた。

 

 

 

だが、視界の端で信じられないものが動いた。

 

 

 

壁の上から飛び出してきた、たった一人の小柄な兵士。

 

 

 

銀色の軌跡を描いて超音速で飛来したその女が、アニの『女型の巨人』に肉薄した。

 

 

 

アニの格闘術はマーレでも随一だ。しかし、防御の構えをとる暇すらなかった。

 

 

 

──────シュパパパパパパンッ!!!

 

 

 

一瞬にして、アニの四肢がダルマのように切り刻まれ、肉塊となって崩れ落ちたのだ。

 

 

 

「ウオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

俺は絶望と混乱の中で咆哮し、黒髪の巨人へと突っ込んだ。

 

 

 

だが、その巨人は俺を冷徹に見下ろすと、『元気だな。ただ、それは無謀だ』と吐き捨て、右手に握ったクリスタルの球体をこちらへ投げつけてきた。

 

 

 

──ズドボォォォォォォォォォォォォッ!!!!

 

 

 

直撃した瞬間、世界が吹き飛んだ。

 

 

 

絶対に砕けないはずの俺の鎧が、肉ごと、骨ごと、綺麗さっぱり消し飛んだのだ。

 

 

 

胸から下が完全に消失し、突進の勢いのまま、俺は顔面から平原の土を数十メートルも抉りながら滑っていく。

 

 

 

何も、できなかった。

 

 

 

マーレが誇る最強の戦士たちが、壁に指一本触れることすらできず、たった一分足らずで制圧された。

 

 

 

硬質化した手でうなじの装甲を無理やり引き剥がされ、俺は外の空気に引きずり出された。

 

 

 

見上げた先には、俺たちをゴミのように捻り潰した、あの黒髪の巨人の冷たい瞳があった。

 

 

「ヒッ……!!」

 

戦士としての誇りなど、そこには欠片も残っていなかった。

 

 

 

ただ、得体の知れない神のような暴力に対する、絶対的な恐怖だけが俺の全身を支配していた。

 

 

 

俺たちは気絶したアニと共に、巨人の手から生成されたクリスタルの球体に閉じ込められた。

 

 

 

巨人は凄まじい速度で平原を駆け抜け、深い森の中へと俺たちを運んでいく。

 

 

 

隣では、意識を取り戻したベルトルトが絶望に顔を歪めて泣きじゃくっている。

 

 

 

俺たち、一体どうなるんだ。殺されるのか。それとも、このまま食われるのか。

 

 

 

やがて巨人の足が止まり、森の奥深く、地下へ続く巨大な岩の扉の前で俺たちは地面に下ろされた。

 

 

 

巨人の周囲には、数人の調査兵団の大人たちが立っていた。その中の一人、眼鏡をかけた狂気じみた女が『解剖したい!』と涎を垂らしながら迫ってきた時、俺は本気で狂いそうになった。

 

 

 

──────シュゥゥゥゥゥッ……!

 

 

 

巨人体が蒸気を上げて崩壊していく。

 

 

 

うなじの中から、あの厳つい声で喋った化け物の「本体」が姿を現す。

 

 

どんな屈強な大男が出てくるのか。俺は恐怖に歯を鳴らしながら、その蒸気の晴れ間を凝視した。

 

 

 

だが、そこに立っていたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……? 女……?」

アニが素っ頓狂な声を上げた。

 

 

 

俺も、自分の目を疑った。

 

 

蒸気の中から現れたのは、純白のワンピースを着た、黒髪の美少女だった。

 

 

 

見た目の年齢は俺たちより少し上……十代後半くらいの、少しお姉さんといったところだろうか。

 

 

 

だが、そんな年齢の推測などどうでもよくなるほど、その女は異常なまでに美しかった。

 

 

 

透き透き通るような白い肌、夜空のように深くミステリアスなアイスブルーの瞳。

 

 

 

少し火照った頬をほんのりと赤く染めるその姿は、俺たちが教えられてきた「壁の中の悪魔」という概念を、根底から破壊するものだった。

 

 

 

『えへへ……びっくりした……?』

 

 

 

少女が、俺たちの前でしゃがみ込み、小悪魔のように首を傾げて上目遣いで微笑みかけてきた。

 

 

 

鈴を転がすような、どこまでも甘く可憐な声。

 

 

 

そして、彼女から漂ってくる、ふわりとした花のような、頭がクラクラするほど甘い香り。

 

 

 

「…………ッ!!!」

 

恐怖で凍りついていたはずの俺の脳髄が、一瞬にして別の熱に侵された。

 

 

 

バクン、と心臓が跳ねる。顔がカッと熱くなるのが自分でも分かった。

 

 

 

隣を見ると、ベルトルトも顔を真っ赤にして、慌てて視線を逸らしている。

 

 

 

俺も無意識に頭を掻きながら、彼女のその眩しすぎる美貌から目を逸らしてしまった。

 

 

 

どうなっている?

 

 

俺たちの人生を完全に終わらせた、あの無慈悲で圧倒的なバケモノの正体が、どうしてこんなにも可憐で、目が眩むほど美しいお姉さんなんだ。

 

 

 

感情の処理が完全に追いつかない。

 

 

 

『アトラス……あんまり他の男に、そういう顔を見せないでくれるかしら?』

 

 

直後、背筋が凍るような殺気が飛んできた。

 

 

 

先程アニを数秒でダルマにしたあの恐ろしい金髪の女兵士が、少女の腰を抱き寄せながら、俺たちを「今すぐその眼球を抉り出してやろうか」と言わんばかりの目で睨みつけていたのだ。

 

 

 

俺はヒッと息を呑み、再び圧倒的な絶望の現実に引き戻された。

 

 

 

クリスタルの球体が割られ、眼鏡の女に分厚い鉄のミトンのような手枷を嵌められる。

 

 

 

「ごめんねぇ、ちょっと重くて不便かもしれないけど……君たち、指を噛みちぎるだけで爆発しちゃうからね」

 

 

 

その言葉に、俺たちは完全に無力化されたことを悟った。

 

 

 

こいつらは、俺たちの能力の仕組みから何から、すべてを知り尽くしている。

 

 

 

屈強な兵士たちに両脇を抱えられ、冷たく薄暗い螺旋階段を、深く、深く下っていく。

 

 

 

カビと湿った土の匂い。

 

 

 

辿り着いた先は、地下の最深部に作られた、コンクリートとクリスタルで補強された巨大な檻の中だった。

 

 

 

ガシャン、と重厚な鉄格子が閉められる。

 

 

 

檻の外には、俺たちを見下ろす調査兵団の大人たち。

 

 

 

そして、あの美しすぎる少女と、彼女を抱き寄せる恐ろしい金髪の女が立っている。

 

 

 

「……さて。長旅ご苦労だった、マーレの戦士諸君」

 

 

金髪の精悍な男─おそらくこいつらのリーダーだろう─が一歩前に進み出た。

 

 

 

その青い瞳には、一切の迷いも容赦もない、冷徹な光が宿っている。

 

 

 

「それでは、これより……君たちの今後の処遇について、説明しよう」

 

 

 

その低く響く声を聞きながら、俺は冷たいコンクリートの床の上で、ただガタガタと震えることしかできなかった。

故郷に帰る道は、もうどこにもない。

 

 

 

俺たちは、得体の知れない神のような力と、抗いようのない狂気を持つ『壁の中の悪魔たち』の手によって、世界の深淵へと引きずり込まれてしまったのだ。

 

 

 

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