進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百三十八話

 

 

よし、これでようやく最大の山場は超えた。

 

 

 

冷たく薄暗い地下牢の中で、俺は内心で大きく、本当に大きく安堵の息を吐き出していた。

 

 

 

表面上は『比類なき黄金比で設計された神の如き超絶美少女』の余裕たっぷりな微笑みを崩さなかったが、実のところ、先程の「三人連続での呪い解除とパスの書き換え」は、俺の脳の処理領域に凄まじい負荷をかけていたのだ。

 

 

 

例えるなら、三台分の重たいOSのアップデートを一台のパソコンで同時に、しかも強制的に実行したようなものだ。

 

 

 

 

始祖ユミルの巨大なシステムから彼らを引っこ抜き、俺の独自の『道』へと接続し直す。

 

 

 

 

その概念のコードを脳内で並列処理した結果、危うくこの完璧な美少女フェイスの鼻から、ツーッと赤い鼻血が垂れそうになる寸前だった。

 

 

 

(……マジで危ねぇ)

 

 

何とかあの場は気丈に、そして小悪魔的に振る舞って誤魔化したけれど、隣にいたリーシェだけは、俺の微かな体温の上昇や呼吸の乱れから「違和感」に気付いていそうな気配があった。

 

 

 

(まぁいいや。最近のリーシェは、俺以外の人間も『第二の家族』と呼べるくらいにはかなり性格が丸くなったからな。いきなりブチギレて彼らを切り刻むような真似はしないだろう、多分)

 

 

それはともかくとして、捕獲したマーレの戦士たち三人の今後の処遇についてだ。

 

 

 

エルヴィン団長が彼らに告げた計画によれば、彼らはこのまま地下牢で一生を終えるわけではない。

 

 

 

調査兵団が駐屯兵団のピクシス司令らと結託し、彼らの戸籍を壁内の辺境出身者として完璧にでっち上げた上で、来年あたりに『訓練兵団』へと入団させることになっている。

 

 

 

現在の彼らの年齢は12歳。実年齢的にも、訓練兵団に入隊するには丁度良い時期だ。

 

 

 

彼らは軍事訓練の基礎は嫌というほど叩き込まれているから、壁内での生活にもすぐ順応できるだろう。

 

 

 

監視付きとはいえ、寿命の呪いから解放され、巨人の力も俺のロックで使えないただの人間として、安全な壁内で生きていくことができる。

 

 

 

(ちなみに、原作で彼らと同期になるはずだったエレン少年は現在10歳。しかも巨人を駆逐するどころか『俺とリーシェの尊い百合空間』を後世に残すための天才画家ルートを爆進中なので、彼が調査兵団に入る未来は完全に潰えている。運命のバタフライエフェクトって本当に恐ろしいな……)

 

 

そんな事を脳内でツッコミながら、俺たちはようやく地下25メートルの底から続く、長く急な螺旋階段を上がりきり、地上の光が差し込む森の中へと出た。

 

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

「くそっ、足が……」

 

背後を振り返ると、マーレの過酷な軍事訓練を生き抜いてきたはずのライナーやベルトルト、そしてアニまでもが、額に大粒の汗を浮かべ、肩で激しく息を切らしていた。

 

 

 

いくら体力があるとはいえ、未知の悪魔に蹂躙された極度の精神的疲労と、寿命の呪いを強制解除されたことによる魂の反動が重なり、この長さの階段は彼らの身体に相当堪えたようだ。

 

 

 

外の岩扉の前には、ハンジ分隊長が事前に手配していた、口が堅く絶対に信用できる分隊の精鋭たちが数名待機していた。

 

 

「団長。周辺の警戒、異常ありません」

 

 

「ご苦労。彼ら三人を頼む。決して手荒な真似はするな」

 

 

エルヴィン団長の指示で、息も絶え絶えの少年少女たちはハンジ班の兵士たちに預けられた。

 

 

 

彼らはしばらくの間、この壁外の極秘拠点で生活しながら、壁内の言葉や常識を学び直すことになる。

 

 

 

「さて、我々も急ごう」

 

 

彼らを見送った後、俺たちはあらかじめ用意されていた馬に跨り、手綱を握った。

 

 

 

次なる目的地は、すぐ目の前にそびえ立つシガンシナ区だ。

 

 

 

そこで待機しているグリシャ・イェーガーさんと、リヴァイ兵長率いる『対人立体機動部隊』と合流し、そのまま例の場所──真の王家であるレイス家が隠れ潜む『地下礼拝堂』へと一気に向かう作戦なのだ。

 

 

 

巨人の脅威を退けた今、俺たちが直面するのは「人間同士」の、この国の歴史そのものを引っくり返す血生臭い闘いである。

 

 

 

パカッ、パカッ、と乾いた蹄の音を響かせながら、森を抜けてシガンシナ区の巨大な壁門へと向けて馬を走らせていると、並走していたリーシェが、不意に俺の顔を覗き込んで声をかけてきた。

 

 

 

「アトラス……無理、しないでね?」

 

そのアイスブルーの瞳には、一切の誤魔化しを許さない鋭い観察眼と、痛いほどの深い愛情が入り交じっていた。

 

 

 

(……やっぱり、気付いてたみたいだ)

 

先程の地下牢での俺の僅かな脳への負荷。呼吸のリズム。瞳の瞬きの回数。そのすべてを、彼女の狂信的なセンサーは完璧に読み取っていたのだ。

 

 

 

「うん、大丈夫だよ。ありがとう、リーシェ」

 

 

俺は内心の焦りを隠し、彼女を安心させるべく、ありったけの慈愛を込めた極上の女神スマイルを作って微笑み返した。私、全然疲れてないですよアピールである。

 

 

しかし

 

 

「……っ……!」

 

 

俺の笑顔を見た瞬間、リーシェはふいっと顔を背け、何故かひどく悲壮感の漂う、今にも泣き出しそうな痛ましげな表情を浮かべたのだ。

 

 

(……なんで分かるんだよ……!!)

 

俺は手綱を握ったまま、内心で盛大にドン引きした。

 

 

 

どれだけ完璧に美少女スマイルを取り繕っても、俺の「本当はちょっと疲れてるけど平気なフリをしている」という強がりすら、彼女の異常な愛情フィルターの前では完全に筒抜けなのだ。

 

 

 

これが人類最強の鬼神、いや、俺への愛をこじらせたヤンデレ妻の真骨頂か。

 

 

丸くなったとはいえ、俺に対する解像度の高さだけは狂気的なまでに進化し続けている。

 

 

 

彼女の観察眼に恐れ慄きつつも、その重すぎる愛が少しだけ心地よく感じてしまう自分に呆れながら、俺たちはシガンシナ区の南門へと到着した。

 

 

 

────ギィィィィィィィィッ……!

 

 

 

地鳴りのような音を立てて、巨大な壁の門が重々しく開かれる。

 

 

 

その奥の薄暗い通路に広がっていたのは、先程までの平和なシガンシナ区の空気とは打って変わった、極限まで張り詰めた冷酷な殺気だった。

 

 

 

整然と並び、待機していたのは、リヴァイ兵長が直々に手塩にかけて鍛え上げた『対人立体機動部隊』の超精鋭たち、約30名。

 

 

 

彼らは対巨人のブレードではなく、対人戦闘に特化した特殊な装備に身を包み、一言も発することなく影のように佇んでいた。その中心には、腕を組んで目を細めるリヴァイ兵長の姿がある。

 

 

 

そして、彼らの先頭に立っていたのは。

 

 

「無事、成功したようですね」

 

 

白衣ではなく、調査兵団から貸与された黒いマントを羽織った、グリシャさんだった。

 

 

彼は、馬から降りた俺とエルヴィン団長に向けて、深く安堵したような、それでいてどこかしみじみとした穏やかな表情で口にした。

 

 

未来からの呪縛を解かれた彼は、もはや狂気に満ちた復権派の闘士ではない。

 

 

だが、この残酷な世界を変えるという意志だけは、そのエメラルドグリーンの瞳に確かな炎として宿っていた。

 

 

「はい、グリシャさん。三人の無力化と保護は、アトラス殿の力で完璧に成し遂げられました」

 

 

エルヴィン団長が歩み寄り、その厳しい表情をさらに引き締めながら応える。

 

 

「ですが、まだ終わりではありません……ここからは、グリシャさん。貴殿の協力が絶対に必要なのです」

 

 

壁の中の真の王家、レイス家が潜む『地下礼拝堂』。

 

 

そこへ至る正確な道のりを知るのは、かつてエルディア復権派として単独で壁内の暗部を調査し、彼らの居場所を突き止めていた彼しかいない。

 

 

「勿論です。私にできることなら、何でも案内しましょう……さぁ、行きましょう」

 

 

グリシャさんは、先程までの穏やかな顔から一転、表情を硬く引き締め、鋭い眼差しでエルヴィン団長に頷き返した。

 

 

風が、冷たく吹き抜けた。

 

 

ここから先は、巨人の力を持つ子供たちを制圧するような、理不尽な暴力による「一方的な蹂躙」では済まされない。

 

 

道中、俺達がレイス家に接触しようとすれば、王政の真の暗部である『中央第一憲兵』──そして、その奥に潜む悪魔、ケニー・アッカーマン率いる対人制圧部隊が、必ずや絶対の防壁として立ちはだかるだろう。

 

 

 

あのリヴァイ兵長にすら匹敵するかもしれない、人の命を刈り取ることに特化した殺人鬼たちの群れ。

 

 

俺は、自身の手のひらをそっと見つめた。

 

 

巨人から人間へ。

 

 

人類を巨人の恐怖から解放する戦いから、人類自身が自由を勝ち取るための血塗られた内戦へ。

 

 

 

戦いのフェーズが、明確に切り替わったのを感じる。

 

 

 

俺は、決意を秘めたグリシャさんと、静かに殺気を研ぎ澄ますリヴァイ兵長、そして俺の隣で愛しい半身を守るために黒鋼の剣に手を添えるリーシェを見据えながら、静かに息を吸い込んだ。

 

 

 

壁内人類の歴史が根底から覆る、真のクーデターの幕が、今、切って落とされたのだ。

 

 

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