進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第十四話

掌いっぱいに、文字通り山盛りといってもいいほど多種多様な森の実を集めた俺は、極力足音を忍ばせながら(といっても一歩ごとに地響きはするのだが)リーシェが待つ「木造クリスタル張りシェルター」のもとへと戻った。

 

俺の視点で見れば、掌にちょこんと乗る程度の可愛らしい果実の盛り合わせだ。

 

色とりどりの赤、紫、黄色。中には前世で見たリンゴやアケビに似たものもあり、どれも瑞々しく熟れていて美味そうに見えた。

 

だが、シェルターの前で待っていたリーシェの視界に俺が戻ってきた瞬間、彼女の顔が劇的に引き攣ったのを俺は見逃さなかった。

 

「約束通り、食べられそうな実を持ってきたぞ」

俺は膝をつき、掌を彼女の足元にそっと差し出す。

 

ドサササッ、と小気味良い音を立てて転がり落ちた実の山は、リーシェの腰の高さにまで達した。

一つ一つが彼女の頭ほどもある巨大な実も混じっている。

 

「これは..また随分と沢山……」

リーシェがどこか呆れたような表情で、そう口にした。

 

 

……そこで、俺は致命的なミスにようやく気がついた。

 

(やっべ。俺の感覚で『ちょっと多め』に採ってきたけど、これ人間基準だと一人で消費しきれる量じゃねえわ……)

 

今の俺にとっての「ひと口サイズ」は、彼女にとっては「数日分の食糧」に相当する。

 

ざっと見積もっても、この量は成人女性が数ヶ月かけても食べきれないだろう。

 

冷蔵庫も保存技術もないこの時代、この場所だ。

 

彼女が全部平らげる前に、この果実の山は間違いなく腐って発酵し、このシェルターを甘ったるい悪臭の漂うゴミ溜めに変えてしまう。

 

「……つい、採取が捗ってしまってな。採りすぎたようだ」

 

俺は端正な顔を少しだけ気まずそうに歪め、人差し指で頬を掻いた。

 

巨大な指先が皮膚を擦る「ゴリッ」という重い音が静かな水場に響く。

 

すると、それまで驚愕で固まっていたリーシェが、不意に肩を震わせ始めた。

 

絶望からくる震えではない。彼女は下を向き、必死に口元を抑えている。

 

「……ふっ……ふふ、ふふふふ!」

 

やがて、我慢しきれなくなったように鈴を転がすような、凛とした、それでいて年相応の可愛らしい笑い声が溢れ出した。彼女は膝を折り、腹を抱えて笑っている。

 

「ふふっ……ごめんなさい、アトラス……でも、おかしくて。どうにも、その見た目と今の姿の差異が……ふふっ」

 

(まぁ、笑ってるし結果オーライか)

 

恐怖で凍りついていた彼女の心が、この「採りすぎた果物」というあまりに平和な大失敗によって、ようやく溶け始めた。

 

俺は内心でホッと胸を撫で下ろした。2年以上の孤独な修行生活で忘れかけていたが、他人の笑顔を見るというのは、これほどまでに心が安らぐものだったか。

 

「……いや、いいんだ。笑ってくれた方がこちらとしても助かる。とりあえず、シェルターの中に持っていける分だけでも持っていてくれ。残りは適当に処分するか、他の動物にでもやるさ」

 

俺が自嘲気味にそう言うと、リーシェは笑い残した息を整えながら、すっと顔を上げた。

 

「分かったわ。せっかく採ってきてくれたんだもの。少しでも無駄にしないようにする」

 

俺は思わず目を見開いた。

 

彼女の口調が変わった。

 

今までの、強大な捕食者に対する「敬語と畏怖」が混じった壁のような言葉遣いではない。

 

対等な、あるいは親しい仲間に向けるような、自然体で柔らかな響き。

 

今、彼女の瞳に宿っているのは、生存の恐怖ではなく、一人の「アトラス」という個体に対する純粋な信頼の兆しだった。

 

「……ありがとう」

その言葉が、俺の口からつい漏れ出た。

 

15メートルの異形である俺が、手の平の上の小さな人間に感謝を述べる。

 

その滑稽で、しかし温かい矛盾が、この血塗られた世界においてどれほど奇跡的なことか。

 

「どういたしまして。……名付け親としての最初の仕事が、この果物の処理になりそうね」

 

リーシェは茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせると、早速抱えられるだけの大きな実を手に取り、俺が造ったクリスタル張りの「家」へと運び始めた。

 

その背中は、先ほどまでの死を覚悟した兵士のそれではなく、この過酷な壁外で明日を生きようとする力強い生命力に満ちていた。

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