進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百三十九話

王都ミットラスの奥深く。中央第一憲兵の薄暗い詰所で、俺は安葉巻の煙を燻らせていた。

 

 

 

845年9月12日

 

ここ最近の情勢だが、妙に静かだ。

 

 

今まであれだけ暴れ回っていた調査兵団もなりを潜めてやがる。

 

 

そのせいか王政からも俺たちには一切のお呼びが掛からねぇ。まさに嵐の前の静けさってやつか。

 

 

そんな退屈な静寂を破ったのは、息を切らして駆け込んできた一人の密偵だった。

 

 

「ケニー隊長! 緊急の報告があります!」

 

「あぁ? 騒々しい野郎だ。便所紙が切れたってなら他を当たれ」

 

「違います! 調査兵団です! エルヴィン・スミスとその側近たちが、王都を抜け、北へ向かって移動しているのを捕捉しました!」

 

密偵の報告によれば、その構成は明らかに異常だった。

 

 

エルヴィン本人に加え、鼻利きのミケ、奇人のハンジ。そして、俺がかつて地下街で拾い、殺しの技術を教え込んだあの小柄なクソガキ──リヴァイ。

 

 

 

それだけじゃねぇ。最近、王都の貴族どもの間でも気味の悪い噂になっている『ベニア姉妹』とかいう二人の女。

 

 

 

さらに極めつけは、シガンシナ区のしがない医者だという男、グリシャ・イェーガー。

 

 

 

連中は、調査兵団の制服こそ着ていたが、その腰にぶら下げている得物は対巨人用のあの鈍重な刃じゃなかったらしい。

 

 

 

密偵の目によれば、幅の狭い短いブレードと、何やら見慣れぬ筒状の機構──おそらくは銃火器の類を備えた、特注の立体機動装置。

 

 

 

それを装備した約三十名の精鋭部隊が、リヴァイに率いられて随伴しているという。

 

 

「……おいおい、冗談だろ?」

 

俺は咥えていた葉巻を灰皿に押し付け、低く笑いを漏らした。

 

 

対巨人用の兵器をわざわざ小型化し、あまつさえ銃まで仕込んでいる部隊。

 

 

そんなものを、あのクソ真面目なエルヴィンが、密かに開発させてまで何のために用意した?

 

 

 

決まってやがる。俺たち『対人制圧部隊』の喉笛を掻き切るためだ。

 

 

 

「あのクソガキ……いっちょ前に俺の首を獲るための部隊を育て上げやがったってわけか」

 

 

しかし、疑問は残る。なぜ、このタイミングで? なぜ、シガンシナ区のただの医者が同行している?

 

 

 

俺の脳内で、バラバラだったピースがカチリと音を立てて組み合わさっていく。

 

 

 

なりを潜める前の数ヶ月に及ぶ、調査兵団の異常な躍進。

壁外調査での死亡率がゼロという、あり得ない戦果。

 

 

 

一介の兵士が単騎で巨人を屠るという、常軌を逸した平均戦闘力の突出。

 

 

 

特にあの鬼神リーシェとかいうイカれ女は王政でも手をこまねいている、なんていう噂だ。

 

 

 

あいつらは、とっくに壁の外の巨人を狩り尽くす気でいる。いや、もしかしたら……巨人の『真実』すら、既に掴み取っているのかもしれねぇ。

 

 

 

「……医者、注射器、巨人の力……」

 

 

俺はポツリと呟いた。

 

 

 

そうだ。奴らはただの暴動を起こす気じゃねぇ。

 

 

 

エルヴィンたちが向かっている目的地。王都を抜け、その先にあるもの。

 

 

それは、レイス家の領地。そして、あのウーリの姪である、フリーダ・レイスが潜む『地下礼拝堂』だ。

 

 

 

奴らは、フリーダを殺しに行く気か?

 

 

いや、違う。エルヴィンほどの男が、ただの暗殺で終わらせるはずがねぇ。

 

 

あの医者───グリシャ・イェーガーとかいう得体の知れない男が同行しているのがその証拠だ。

 

 

 

奴らは、巨人化薬の存在と、始祖の巨人の『能力の継承方法』を完全に把握しやがったんだ。

 

 

 

レイス家から始祖の巨人を奪い取り、自分たちの手駒に食わせて、この壁内のルールそのものを根底から引っくり返す気だ。

 

 

 

「……ふざけんなよ」

 

 

ギリッ、と奥歯が鳴った。俺の口から、自分でも驚くほど低く、焦りと殺意に満ちた声が漏れた。

 

 

 

エルヴィンが王政を引っくり返そうが、世界がどうなろうが、本来なら俺の知ったことじゃねぇ。俺はただのチンピラだ。

 

 

 

だが、あの『始祖の巨人』だけは別だ。

 

 

 

あれは、俺の夢なんだ。

 

 

 

脳裏に蘇るのは、かつての友人──ウーリ・レイスの穏やかな顔だ。

 

 

 

圧倒的な力を持っていながら、俺みたいなゴミクズに頭を下げた、あの奇妙な男。

 

 

 

この残酷な世界で、あいつだけが見ていた景色。

 

 

 

あいつをあそこまで追い詰め、同時に慈愛に満ちた聖者のように変えた『不戦の契り』という名の呪い。

 

 

 

俺みたいな、殺し合いでしか他人と関われねぇクソ野郎でも……あの巨人の力を手に入れて、歴代の王たちの思想に脳みそを上書きされたら。

 

 

 

(ウーリ。俺もお前みたいに、本当の意味で他人に優しくなれるのか?)

 

 

 

(お前が見ていた、あの世界の真実ってやつを、俺もこの目で見ることができるのか?)

 

 

 

そのたった一つの、俺の人生のすべてを懸けたくだらねぇ夢が。

 

 

 

今、調査兵団の青二才どもによって、無残に踏み躙られようとしている。

 

 

 

フリーダが食われ、始祖の巨人がレイス家の血筋以外の手に渡っちまったら、俺の夢は永遠に潰える。

 

 

 

俺は一生、ただの人殺しのクズとして死んでいくしかなくなる。

 

 

それだけは、絶対に御免だ。

 

 

「……おい、野郎どもッ!!」

 

俺は詰所の奥に向かって、腹の底から怒鳴り声を上げた。

ダダダダッ! と、騒ぎを聞きつけた俺の部下たち──王政の暗部として人を殺すことだけを教え込まれた、対人制圧部隊の精鋭数十名が、即座に俺の前に整列する。

 

 

 

「寝惚けたツラしてんじゃねぇぞ! 仕事の時間だ。それも、とびきりデカくて血生臭い大仕事だ」

 

 

俺は壁に立てかけてあった自身の対人立体機動装置を乱暴に掴み取り、腰のベルトにガチャリと固定した。

 

 

 

両手で愛用の散弾銃を弄り、カシャッ、と乾いた装填の音を響かせる。

 

 

「相手は調査兵団だ。エルヴィン、リヴァイ、そして最近調子に乗ってるバケモノたちをまとめて相手にしてやる。

奴らは今、レイス家の地下礼拝堂に向かってやがる。俺の獲物(始祖)を横取りしようって腹だ」

 

 

部下たちの顔に、微かな緊張と、それを上回る獰猛な殺意が浮かんだ。

 

 

 

「奴らも俺たちを殺す気満々で、わざわざ対人専用のオモチャを用意してきやがった。

……舐められたもんだぜ。立体機動で人を殺す技術なら、俺たちが世界一だってことを、たっぷりと教えてやれ」

 

 

俺は散弾銃を収め、詰所の出口へと歩み出した。

 

 

胸の奥で、ドクン、ドクンと嫌なぐらい心臓が跳ねている。恐怖じゃねぇ。これは、どうしようもない高揚だ。

 

 

 

かつて地下街で俺が戦い方を叩き込んだ、あの小さくて小汚いクソガキ。

 

 

リヴァイ。お前がどれだけ強くなったのか、俺の首を獲れるほどの男になったのか、見せてみろ。

 

 

 

「急ぐぞ。レイス家の礼拝堂、あの建物の前で盛大な待ち伏せと洒落込もうじゃねぇか」

 

 

王都の冷たい風を顔に受けながら、俺はニィッと唇を歪めた。

 

 

エルヴィンがどれだけ緻密な盤面を描こうが、鬼神リーシェがどれほどのバケモノだろうが関係ねぇ。俺の邪魔をする奴は、神だろうが撃ち殺す。

 

 

 

最後にあの力を手に入れ、ウーリと同じ景色を見るのは、この俺だ。

 

 

 

俺は部下たちを引き連れ、血の匂いが立ち込めるであろう決戦の地へ向けて、夜の王都を蹴り上げた。

 

 

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