進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
845年9月11日
あの一方的な防衛戦という名の蹂躙劇から翌日
シガンシナ区を抜け、定期的に馬と人の休憩を挟みながらウォール・ローゼの内壁へと到達した俺たちは、今、王都があるウォール・シーナの南門に向けてひたすらに馬を走らせていた。
風を切って進む中、俺の脳裏には前世の記憶──原作の『王政編』の展開が浮かんでは消えていた。
原作において、ケニー・アッカーマン率いる対人制圧部隊との本格的な交戦は、王都ミットラスでの苛烈な市街地戦と、レイス家の地下礼拝堂での死闘だったはずだ。
しかし、現在はその本来の歴史から約五年前であり、且つ俺という特異点の介入によって、歴史の軌道は既に大きく変わってしまっている。
もしかしたら、今この瞬間にも平原の向こうからケニーら対人制圧部隊の奇襲を受け、交戦が始まるかもしれない。
……若しくは、意外と彼らと交戦すること無く、すんなりと地下礼拝堂まで辿り着けるかもしれない。
いや、それは無いな。俺は即座にその楽観的な思考を打ち消した。
これだけの精鋭部隊──リヴァイ兵長率いる対人立体機動部隊三十名に加え、エルヴィン団長らトップ層、さらには俺たちまで揃った大規模な行軍だ。
ケニーが独自に持っているだろう密偵網を経由して、確実に我々の行動を捕捉されていると考えるべきだ。
それに、あの男はただの狂犬じゃない。非常に頭が切れる、恐るべき男だ。
俺たちのこの不審な動きが、何らかの形で『始祖の巨人』に関わるものだと気付くかもしれない。
そうなれば、己の夢──始祖の力を見てみたいという執念のために、彼は必ず俺たちの前に立ち塞がるだろう。
まぁ、事実として、俺たちは今から彼が最も重要視している『始祖の力』に干渉し、あの"不戦の契り"という呪いを解除しに行くわけだからな。
(……はぁ。本当に、"不戦の契り"なんて解除出来るのかなぁ)
心の中で、重いため息が漏れる。
理屈の上では、始祖の巨人の能力を丸ごと俺の独自の『道』サーバーに移動・上書きしてしまえば、呪いの完全な解除は出来なくても、俺の管理者権限で『封印』することは出来そうだと踏んでいる。
だけど、そんなプログラム的な力技が、あの100年続いた神の呪いにすんなり通用するのか?
もし、ハッキングが弾かれたら? もし、不戦の契りを解除できなかったら?
その場合、誰が始祖の巨人を継承する?
やっぱり、本来の歴史通りにグリシャさんがフリーダを食って継承するしかないのか?
せっかく彼を因果から解放し、その手を血に染めることなく平和な父親として生きていけるようここまで来たのに、結局あの残酷な惨劇を繰り返すことになってしまうのか?
もしも、もしも───
俺の中で、嫌な想像がドロドロと永遠に渦を巻き、脳の思考領域を黒く埋め尽くしていく。
(……ああ)
ふと横を見ると、並走する馬上のリーシェが、ひどく心配そうな顔で俺の横顔を見つめていた。
以前の彼女なら、俺が暗い顔をしていると「誰がアトラスを苦しめているの? 今すぐ九族まで皆殺しにしてくるわ」という凶悪な思考に直結し、周囲に無差別に殺気を撒き散らしていたはずだ。
しかし今の彼女は違う。性格が丸くなり、他者への慈愛を獲得したからこそ、ただ純粋に、心の底から俺の身を案じ、痛ましそうに眉を下げてくれているのが分かる。
(それはそれで、俺の良心がチクチクと痛んで苦しいな……)
ごめんな、リーシェ。
俺は自身を奮い立たせるように、手綱を握る手にギュッと力を込めた。
とにかく、なるようになれ、としか考えるしかない。
起きていないシステム上のバグを今から悩んでいても仕方がないのだ。
悩んでいても状況は変わらない。
今はただ、この部隊全員で、決戦の地である地下礼拝堂まで無事に到着することだけを考えよう。
俺は強張っていた顔の筋肉を緩め、リーシェに「大丈夫だよ」と視線で伝えながら、前方にそびえるウォール・シーナの巨大な壁へと真っ直ぐに前を向いた。