進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百四十二話

スゥ……スゥ……と。

 

 

 

私の太ももの上から、規則的で穏やかな寝息が聞こえてくる。

 

 

 

張り詰めていたアトラスの身体から完全に力が抜け、その愛おしい重みが私の膝に全て預けられていた。

 

 

 

 

 

私は、壊れ物に触れるように、そっと、艶やかな漆黒の髪を梳くように撫で続ける。

 

 

 

 

その度に、ふわりと甘い花の香りが私の鼻腔をくすぐった。

 

 

 

 

あんなにも美しく、神のように無敵で、どんな絶望的な状況でも決して余裕の微笑みを崩さなかった、私のアトラス。

 

 

 

 

でも、彼女は決して感情のない神などではない。

 

 

 

 

 

誰よりも優しくて、誰よりも心を痛め、そして誰よりも重いものをその細い肩に背負っているのだ。

 

 

 

 

 

あの地下牢で、マーレの子供たちから『十三年の呪い』を解いた時。

 

 

 

 

彼女は平気な顔をして笑っていたけれど、私には分かっていた。

 

 

 

 

世界の理を書き換え、彼らの魂を自身の『道』へと繋ぎ直すという途方もない神の御業が、彼女の精神と脳にどれほどの過負荷をかけていたかを。

 

 

 

 

 

そして今、彼女の心を最も削り取っているのは、これから私たちが向かう『人間同士の殺し合い』と、歴史を根底から引っくり返すという絶大なプレッシャーだ。

 

 

 

 

 

「……よく頑張ったわね、アトラス」

 

 

 

 

 

誰にも聞こえないほどの小さな声で囁きながら、私は彼女の白い頬を指の背でそっと撫でた。

 

 

 

 

 

私や、あのシガンシナ区の家族たちの平和な日常を守るため。

 

 

 

 

 

ただそれだけのために、この優しすぎる私の女神は、冷や汗を流し、息を乱すほどの恐怖と重圧を一人で飲み込もうとしていた。

 

 

 

 

 

そんな彼女の孤独な痛みが手に取るように分かって、胸の奥がギュッと締め付けられる。

 

 

 

 

 

代われるものなら、その苦痛のすべてを私が引き受けてしまいたい。

 

 

 

 

でも、同時に……どうしようもなく、嬉しかった。

 

 

 

 

 

限界を迎える前に、彼女が私を頼り、私に甘えてくれたことが。

 

 

 

 

 

私の膝の上で、こんなにも無防備で安らかな寝顔を見せてくれていることが、私の心を狂おしいほどの愛情で満たしていく。

 

 

 

 

 

 

長い睫毛が落とす影。規則的に上下する華奢な肩。

 

 

 

 

 

そして、ほんのりと熱を持って色づいている、柔らかな桜色の唇。

 

 

 

 

(……ああ。本当に、可愛くて、愛おしくて、おかしくなりそう……)

 

 

 

静まり返った昼下がりの宿屋の一室。

 

 

 

 

部屋には、私とアトラスの二人きり。

 

 

 

 

気がつけば、私は吸い寄せられるように、自身の顔をゆっくりと下へと降ろしていた。

 

 

 

 

彼女の甘い吐息が、私の肌を撫でる。

 

 

 

 

心臓が高鳴り、頬が熱く燃えるように熱くなるのが分かったけれど、もう止まれなかった。

 

 

 

 

 

 

これは、私だけの特権。私だけの秘密。

 

 

 

 

 

そっと、目を閉じ。

 

 

 

 

 

私は自身の唇を、アトラスのその柔らかい唇に、静かに重ね合わせた。

 

 

 

 

ちゅっ、と

 

 

 

微かな、水滴が弾けるような音が落ちた。

 

 

 

 

 

ほんの一瞬の、柔らかな感触。

 

 

 

 

 

私とアトラスの、初めての口づけ。

 

 

 

 

 

熱に浮かされたように唇を離し、息を呑んで彼女の顔を覗き込む。

 

 

 

 

「……ん……」

 

 

 

 

アトラスは目を覚ますことはなく、ただ夢の中で私の温もりを感じ取ったのか、すりすりと太ももに頬を擦り寄せ、微かに安心したような笑みを浮かべただけだった。

 

 

 

 

「……ふふっ」

 

 

 

 

 

 

私は真っ赤になった顔を隠すように、彼女の寝顔に覆い被さるようにして、その愛おしい身体をそっと抱きしめた。

ゆっくり休んで、私のアトラス。

 

 

 

 

 

あなたが目覚めるその時まで、この絶対の安寧は私が守る。

 

 

 

 

 

そして、これから先、あなたを脅かし、その美しい顔を曇らせるような障害が立ち塞がるというのなら。

 

 

 

 

 

王政だろうが、壁の向こうだろうが、世界のすべてを敵に回そうが。

 

 

 

 

 

 

あなたの愛しい妻である私が、全て斬り伏せてあげる。

 

 

 

 

 

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