進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
スゥ……スゥ……と。
私の太ももの上から、規則的で穏やかな寝息が聞こえてくる。
張り詰めていたアトラスの身体から完全に力が抜け、その愛おしい重みが私の膝に全て預けられていた。
私は、壊れ物に触れるように、そっと、艶やかな漆黒の髪を梳くように撫で続ける。
その度に、ふわりと甘い花の香りが私の鼻腔をくすぐった。
あんなにも美しく、神のように無敵で、どんな絶望的な状況でも決して余裕の微笑みを崩さなかった、私のアトラス。
でも、彼女は決して感情のない神などではない。
誰よりも優しくて、誰よりも心を痛め、そして誰よりも重いものをその細い肩に背負っているのだ。
あの地下牢で、マーレの子供たちから『十三年の呪い』を解いた時。
彼女は平気な顔をして笑っていたけれど、私には分かっていた。
世界の理を書き換え、彼らの魂を自身の『道』へと繋ぎ直すという途方もない神の御業が、彼女の精神と脳にどれほどの過負荷をかけていたかを。
そして今、彼女の心を最も削り取っているのは、これから私たちが向かう『人間同士の殺し合い』と、歴史を根底から引っくり返すという絶大なプレッシャーだ。
「……よく頑張ったわね、アトラス」
誰にも聞こえないほどの小さな声で囁きながら、私は彼女の白い頬を指の背でそっと撫でた。
私や、あのシガンシナ区の家族たちの平和な日常を守るため。
ただそれだけのために、この優しすぎる私の女神は、冷や汗を流し、息を乱すほどの恐怖と重圧を一人で飲み込もうとしていた。
そんな彼女の孤独な痛みが手に取るように分かって、胸の奥がギュッと締め付けられる。
代われるものなら、その苦痛のすべてを私が引き受けてしまいたい。
でも、同時に……どうしようもなく、嬉しかった。
限界を迎える前に、彼女が私を頼り、私に甘えてくれたことが。
私の膝の上で、こんなにも無防備で安らかな寝顔を見せてくれていることが、私の心を狂おしいほどの愛情で満たしていく。
長い睫毛が落とす影。規則的に上下する華奢な肩。
そして、ほんのりと熱を持って色づいている、柔らかな桜色の唇。
(……ああ。本当に、可愛くて、愛おしくて、おかしくなりそう……)
静まり返った昼下がりの宿屋の一室。
部屋には、私とアトラスの二人きり。
気がつけば、私は吸い寄せられるように、自身の顔をゆっくりと下へと降ろしていた。
彼女の甘い吐息が、私の肌を撫でる。
心臓が高鳴り、頬が熱く燃えるように熱くなるのが分かったけれど、もう止まれなかった。
これは、私だけの特権。私だけの秘密。
そっと、目を閉じ。
私は自身の唇を、アトラスのその柔らかい唇に、静かに重ね合わせた。
ちゅっ、と
微かな、水滴が弾けるような音が落ちた。
ほんの一瞬の、柔らかな感触。
私とアトラスの、初めての口づけ。
熱に浮かされたように唇を離し、息を呑んで彼女の顔を覗き込む。
「……ん……」
アトラスは目を覚ますことはなく、ただ夢の中で私の温もりを感じ取ったのか、すりすりと太ももに頬を擦り寄せ、微かに安心したような笑みを浮かべただけだった。
「……ふふっ」
私は真っ赤になった顔を隠すように、彼女の寝顔に覆い被さるようにして、その愛おしい身体をそっと抱きしめた。
ゆっくり休んで、私のアトラス。
あなたが目覚めるその時まで、この絶対の安寧は私が守る。
そして、これから先、あなたを脅かし、その美しい顔を曇らせるような障害が立ち塞がるというのなら。
王政だろうが、壁の向こうだろうが、世界のすべてを敵に回そうが。
あなたの愛しい妻である私が、全て斬り伏せてあげる。