進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百四十五話

西へ傾きかけた秋の夕陽が、広大な平原を血のような赤に染め上げている。

 

 

その美しい静寂を、耳を劈くような一発の銃声が容赦なく引き裂いた。

 

 

「死にやがれぇぇッ!!」

 

 

ケニーの咆哮と共に放たれた無数の鉄弾。

 

 

俺は反射的に足に力を込め、馬の上に突っ立っていた馬鹿な指揮官──エルヴィンを蹴り飛ばして射線から弾き出した。

 

 

ズドンッ、という重い炸裂音の直後、エルヴィンがコンマ一秒前まで存在していた空間を散弾の雨が通過し、背後のあのやたら面の良い化け物女──アトラスが展開した結晶ドームに虚しく弾かれた。

 

 

 

土煙と硝煙の饐えた匂いが、夕暮れの空気に混ざり合った。

 

 

それを合図に、周囲の空気が一気に沸騰した。

 

 

「リヴァイは俺が殺る!! 他のウジムシどもは一匹残らず穴だらけにして挽肉にしろォッ!!」

 

 

ケニーが両手の銃を構え直し、背後に控える黒ずくめの部下どもに怒号を飛ばす。

 

 

「聞け、お前ら!」

 

俺もまた、ブレードのグリップを握り締めながら、自らが手塩にかけて鍛え上げた三十名の部下たちに向けて叫んだ。

 

 

「敵は王の番犬だが、今はただの狂犬だ! だが、命までは取るな! 二度と俺たちに銃を向けられねぇよう、骨の一本や二本……いや、三、四本はへし折って確実に無力化しろ!!」

 

 

「「「ハッ!!」」」

 

 

俺の号令に応え、三十名の対人立体機動部隊が一斉に平原を蹴り上げた。

 

 

シューゥゥゥゥッ!! と、極限まで静音化されたハンジ特製のガス噴射音が響く。

 

 

「なっ……速えっ!?」

 

 

ケニーの部下の一人が、想定外の初速に驚愕の声を上げた。

 

 

無理もねぇ。

 

こいつらが普段使っている対人立体機動装置は、確かに人間同士の戦闘に特化しているが、基本設計は古い。

 

 

 

対して俺たちが装備しているのは、あのクソメガネが「対人間を最も効率よく制圧する」ことだけに執念を燃やして再構築した、最新鋭の小型・静音モデルだ。

 

 

 

平原という障害物の少ない地形であっても、俺の部下たちは地面すれすれを滑るように超低空で機動し、あるいはアトラスが展開した巨大な硬質化ドームの水晶の表面にワイヤーを打ち込み、三次元的な変則軌道を描いて敵の射線を次々と躱していく。

 

 

 

「チィッ! ちょこまかと……当たらねぇ!」

 

「リロードだ! カバーしろ!」

 

パンッ! パンッ! と乾いた発砲音が連続するが、俺の部下たちはあらかじめ徹底的にケニーの部隊の「散弾銃の特性」と「射線」を研究し尽くしている。

 

 

相手が二丁の銃を撃ち尽くし、リロードのために動きが止まる、そのコンマ数秒の隙を見逃すはずがなかった。

 

 

「隙ありだ、憲兵さんよ」

 

部下の一人が、リロード中の敵の死角──真上へと跳躍した。

 

 

ワイヤー移動の慣性を殺さぬまま、大腿部のホルスターから内蔵型の散弾銃を引き抜き、牽制の一発を敵の足元に撃ち込む。

 

 

「ぐあっ!?」

 

相手がバランスを崩した瞬間、銃を投げ捨てると同時に背面から特注のショートブレードを引き抜き、流れるような動作で敵の懐へと肉薄する。

 

 

そして、首を刎ねるのではなく、ブレードの峰と柄を使い、相手の腕の関節と膝の裏を容赦なく強打した。

 

 

 

ゴキッ! という鈍い音と共に、ケニーの部下が悲鳴を上げて地面に崩れ落ちる。

 

 

殺さず、骨を折り、制圧する。

 

 

 

それは相手を殺すよりも遥かに高度な技術と冷静さを要求されるが、俺の部隊は誰一人として躊躇うことなく、その冷酷な制圧術を完璧に遂行していた。

 

 

 

ハンジの作成した装置の圧倒的な性能と、俺が叩き込んだ「対・対人制圧部隊」のメタ戦術。

 

 

 

戦局は開戦から数分と経たずして、完全に俺たちの優勢へと傾いていた。

 

 

 

だが、俺には部下の戦果を確認している暇はねぇ。

 

 

 

目の前には、世界で一番厄介で、世界で一番殺し甲斐のある男が、爛々と目を輝かせて俺に銃口を向けているからだ。

 

 

「よそ見してんじゃねぇぞ、リヴァイ!!」

 

「チッ……!」

俺は横っ飛びに機動し、ケニーの放った散弾の雨を紙一重で回避する。

 

 

そのままアンカーを地面の岩に打ち込み、振り子の要領で一気にケニーの懐へと加速した。

 

 

「速くなったなァ、おい! だが単調だぜ!」

 

ケニーは余裕の笑みを浮かべ、俺の接近軌道に合わせて冷静に二発目を放つ。

 

 

俺は大腿部から散弾銃を抜き放ち、ケニーの弾幕に向かってカウンターのように発砲した。

 

 

ガキンッ!! と、空中で無数の鉄弾同士が衝突し、火花が散る。

 

 

 

その煙幕の向こう側から、俺は背面のショートブレードを引き抜き、ケニーの首元へと白刃を一閃させた。

 

 

「おらよッ!」

 

ケニーはもう片方の銃身で、俺のブレードをガキンッと受け止める。

 

 

 

鍔迫り合い。顔と顔が至近距離で交錯する。

 

 

「どうしたクソガキ、動きが鈍えぞ! 地下街のネズミだった頃の方が、もっと殺気があったんじゃねぇのか!」

 

「アンタこそ、耄碌したんじゃないのか、ケニー。随分と銃が軽く感じるぜ」

 

俺はブレードを弾き返し、空中で身体を捻りながら連続で斬撃を叩き込む。

 

 

右、左、袈裟斬り。

 

 

ケニーはその巨体に似合わぬ俊敏さで、立体機動のガスを細かく噴射して距離を取りながら、俺の刃を紙一重で躱し、あるいは銃のグリップで逸らしていく。

 

 

 

師と弟子。互いの思考を読み合い、呼吸の隙を突き合う、極限の死闘。

 

 

 

ケニーの動きは確かに洗練されており、経験に裏打ちされた恐ろしいほどの直感が備わっている。

 

 

 

だが、俺には分かる。

 

 

この男の動きは、確かに俺の原点だが……今の俺の速度には、完全に追いつけていない。

 

 

アトラスたちの異常な力や、巨人の真実を知り、世界を引っくり返す覚悟を決めた今の俺たちと。

 

 

ただ古い王政の番犬として飼い慣らされてきたこの男とでは、背負っているものの重さも、見据えている盤面の広さも違うのだ。

 

 

「オラオラァ! 当たれよクソガキィ!!」

 

ケニーが苛立たしげに二丁の銃を連射する。

 

 

俺はそれを最小限の動きで躱し、ワイヤーをケニーの真横の木に打ち込み、鋭角にターンして一気に距離を詰める。

 

 

「終わりだ、ケニー」

俺が致命の一撃を放とうとブレードを振り上げた、その時だった。

 

 

「……あン?」

ケニーが、俺の攻撃を迎え撃とうと構えた銃の動きを、ふと止めた。

 

 

彼も気づいたのだ。

 

 

夕暮れの平原を包んでいた、耳を劈くような銃声と、立体機動のガス噴射音が……いつの間にか、完全に鳴り止んでいることに。

 

 

静寂

聞こえるのは、風が枯れ葉を揺らす音と、地面を這いつくばる人間たちの苦痛の呻き声だけ。

 

 

ケニーが視線を巡らせる。

 

 

その瞳が、驚愕に見開かれた。

 

「な……っ」

広大な平原のあちこちで、ケニーの誇る『対人制圧部隊』の精鋭数十名が、腕や脚の骨を無残にへし折られ、あるいは意識を刈り取られて、文字通り一人残らず地面に転がっていた。

 

 

 

そして、その血まみれの集団を、俺の『対人立体機動部隊』の三十名が、誰一人欠けることなく、無傷で完全に包囲している。

 

 

 

全員が、抜弾済みの散弾銃と、血糊一つついていないショートブレードを、ただ一人残されたケニー・アッカーマンの脳天へと真っ直ぐに向けていた。

 

 

「……嘘だろ、おい……俺の部隊が、こんなガキ共に……」

 

ケニーの口から、信じられないものを見たというような乾いた笑いが漏れた。

 

 

アトラスの展開した透明な硬質化ドームの中から、エルヴィンやハンジ、グリシャたちが、この完璧な制圧劇を静かに見つめている。

 

 

「……よそ見してんじゃねぇぞ、ケニー」

背後から放たれた俺の声に、ケニーがハッとして振り返るより早く。

 

 

俺はケニーの背後に着地し、その首筋の動脈に、冷たいショートブレードの刃をピタリと押し当てた。

 

 

 

少しでも動けば、刃が肉を裂き、噴水のように血が吹き出す絶好のポジション。完全にチェックメイトだ。

 

 

「……チッ。大した部隊を育て上げやがったな、リヴァイ」

ケニーは両手の銃をダラリと下げ、自嘲気味に息を吐いた。

 

 

 

刃を当てられたまま、抵抗する素振りは見せない。

 

 

 

彼ほどの男なら、自分が完全に詰んでいることなど痛いほど理解しているはずだ。

 

「終わりだ、ケニー」

俺は首筋への刃の圧力を少しだけ強め、氷のように冷たい声で、しかしどこか、かつての師に向けた微かな哀愁を込めて告げた。

 

 

 

「銃を捨てて……降伏しろ」

夕陽が完全に沈み、青黒い夜の帳が平原を包み込もうとしている。

 

 

 

王政府の最恐の暗部が、俺たち調査兵団の新たな力の前に、完全に膝を屈した瞬間であった。

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