進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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百四十七話

845年9月12日、夜

 

 

外の世界は完全に闇に包まれていたが、俺たちの戦いはこれからが本番だった。

 

 

重厚な石の扉を押し開け、遂に俺たちは『礼拝堂』へと足を踏み入れた。

 

 

 

地上の入り口付近に三十名の対人立体機動部隊を待機・警戒させ、地下深くへと降りていく少数の精鋭メンバー。

 

 

 

俺、リーシェ、グリシャさん、エルヴィン団長、ミケ分隊長、ハンジ分隊長、リヴァイ兵長。そして、両手をポケットに突っ込んで飄々と歩くケニー・アッカーマン。

 

 

 

前世の記憶を持つ俺からすれば、原作勢がこの光景を見たら確実に「いや、そうはならんやろ」と全力でツッコミを入れたくなるような、完全にバグったメンツである。

 

 

 

狭く、じめじめとした冷たい石造りの階段を、ランプの明かりだけを頼りに延々と降りていく。

 

 

 

やがて、重苦しい空気がふっと抜け、視界が一気に開けた。

 

 

「……おお……」

誰かが感嘆の息を漏らした。

 

 

 

目の前に広がっていたのは、アニメの画面越しに見たあの光景。

 

 

 

空間の全体が青白く発光するクリスタルで覆われ、所々に天井を支えるための巨大なクリスタルの柱が立ち並ぶ、幻想的で広大な地下洞窟だった。

 

 

そして、その広大な空間の奥。

 

 

 

祭壇のような場所の前に、こちらを強い警戒と恐怖の入り交じった目で見据える集団がいた。

 

 

 

黒髪の美しい女性──現在の始祖の巨人保有者である、フリーダ・レイス。その後ろには、小太りの男ロッド・レイスと、彼に寄り添い怯える五人の子供たちの姿があった。

 

 

 

俺の隣を歩いていたグリシャさんの表情が、一瞬だけ硬く強張った。

 

 

 

無理もない。

 

本来の歴史であれば、彼はここで自ら巨人化し、フリーダを喰らい、そして背後にいるあの罪のない子供たちを自らの手で叩き潰し、握り潰し、踏み潰して惨殺するはずだったのだから。

 

 

その因果の重さが、彼の脳裏を過ったのだろう。

 

 

静まり返るクリスタルの洞窟に、フリーダの凛とした、しかし微かに震える声が響いた。

 

 

「あなた方は……一体……」

彼女は、王政の番犬であるはずのケニーが調査兵団の連中と共に大人しく歩いてきたことに、明らかな混乱をきたしているようだった。

 

 

「夜分遅くに失礼する」

エルヴィン団長が一歩前に進み出た。

 

 

「我々は、フリーダ氏。

あなたにかけられた呪い──歴代の王を縛る"不戦の契り"と"十三年の呪い"を解き、偽りの王政を打倒し、真の女王として我々の革命の一助を担って頂くために、ここまで来た」

 

 

単刀直入すぎる要求。

 

 

だが、その『呪いを解く』という言葉を聞いた瞬間、フリーダの紫色の瞳がハッと見開かれ、微かな、本当に微かな『希望』と『期待』の色が浮かんだ。

 

 

 

彼女自身も、本当は王の呪縛など背負いたくはなかったのだ。

領民を愛し、壁内の悲劇を終わらせたいと願う優しい少女なのだから。

 

 

 

しかし、その希望の光は、一瞬にして重く、漆黒の苦悩に塗れた表情へと塗り潰された。

 

 

 

彼女の脳内で『初代王の思想』が強制的に起動し、彼女の本来の人格を冷酷に上書きしていくのが、外から見ていてもはっきりと分かった。

 

 

 

「……それは……なりません……」

フリーダの声のトーンが、全く別の、老成した何者かの響きへと変わる。

 

 

 

「人類は、罪を犯した……その罪を受け入れなければなりません……

巨人の力による報復など、あってはならない。

その意志を取り除くなど、以ての外です……お引き取り願います……」

 

 

ウーリから受け継いだ、絶対的な平和主義という名の『自殺願望』。

 

 

だが、今のエルヴィン団長に、そんな呪縛の言い訳が通用するはずもなかった。

 

 

「我々も、ここまで来たからには後に引けない」

 

エルヴィン団長が、さらに一歩、威圧するように前に出る。

 

 

 

「こちらとしても、強引な手は取りたくないのだがね」

 

それは、明らかな挑発であり、宣戦布告だった。

 

 

 

フリーダは苦痛に顔を歪めながら、自らの右手を口元へとゆっくりと持ち上げた。

 

 

「もう一度言う……立ち去れ」

 

「断る」

エルヴィン団長が食い入るように即答した、その瞬間だった。

 

 

────カッ!!

 

 

目も眩むような黄色い落雷の閃光が、地下空間を乱反射し、視界を完全に埋め尽くした。

 

 

 

(……やっぱ、そうなるよねぇ……)

 

俺は心の中でため息をつきながら、エルヴィン団長を守るようにして彼の前に勢いよく飛び出した。

 

 

 

空中で自身の掌にナイフを突き立てる。

 

 

────ギィィィィィィィンッ!!!!

 

 

黄色い閃光を掻き消すような、重く鈍い光と爆発的な蒸気が立ち昇る。

 

 

 

吹き荒れる熱風が収まると同時、クリスタルの空間に二体の巨人がその姿を現した。

 

 

 

一体は、女性のしなやかな肉体を持つ、13m級のフリーダの始祖の巨人。

 

 

 

そしてもう一体は───その眼前に立ち塞がる、黄金比で彫刻されたかのような鋼の筋肉を持つ、15m級の男性型の巨人だ。

 

 

 

「……ッ!?」

 

フリーダの巨人体が、目を大きく見開き、明らかな驚愕の表情に包まれた。

 

 

 

壁の中に、始祖以外の知性巨人が存在するはずがない。

 

 

 

しかも、見たこともない圧倒的な質量と威圧感を放つ、鋼の肉体を持つ巨人。

 

 

 

フリーダの巨人体は声帯の構造上、言葉を発することができないため、「グオォォ……」という言葉にならない戸惑いの声が、洞窟に低く響き渡った。

 

 

 

俺は、自身の背後の足元に立つエルヴィン団長へと顔を向け、現在のいかつい巨人体の見た目に合わせた、重低音の男性ボイスで軽く苦言を呈した。

 

 

『……エルヴィン団長。もう少し、穏やかに交渉できないものですかね』

 

 

すると、エルヴィン団長は腕を組んだまま、俺の巨大な顔を見上げて「ふっ」と鼻で笑った。

 

 

 

「この方が、アトラス殿もやりやすいと思ってな。反省はしているが、後悔はしていない」

 

 

……この人、余裕の表情で悪びれた様子もなく言い切りやがった。

 

 

 

つい数ヶ月前まで、俺たちの特異点バグのせいで胃痛に苦しんで「人類の常識が……」と頭を抱えていた男が、今やすっかり俺たちのデタラメな仕様に適応し、盤面操作のために遠慮なく使い倒す図太さを身につけてやがる。

 

 

 

俺は内心で呆れながらも、正面から迫り来るフリーダの巨人の動きに視線を戻した。

 

 

 

「オオオオオオッ!!」

 

 

フリーダの巨人が、こちらに向けて必死の形相で拳を振り下ろしてくる。

 

 

 

だが、その動きはあまりにも素人くさく、体重の乗っていない、ただ腕を振り回しただけの攻撃だった。

 

 

 

俺は自身を硬質化で覆うまでもなく、その拳を巨大な左手で「パシッ」と軽々と受け止めた。

 

 

 

『悪いが、女王様。少しばかり痛いかもしれない、ただ、これも壁内人類のためだ』

 

 

 

俺はそのまま、フリーダの巨人の腕を掴んだまま強引に引き寄せ、もう片方の手で彼女の肩口を掴むと、まるでパンの生地をちぎるように、ブチィッ! と軽々とその右腕を引きちぎった。

 

 

 

「ギャアアアアッ!?」

 

 

 

バランスを崩したフリーダの脚を蹴り折り、そのままうつ伏せに押し倒す。

 

 

 

時間にして、わずか三秒の出来事だった。

 

 

 

俺は躊躇なく、フリーダの巨人のうなじに手をかけ、バキバキと肉を割いて、中から本体であるフリーダを丁寧に引きずり出した。

 

 

「なっ……!?」

 

「フリーダが、一瞬で……!」

 

 

 

祭壇の奥で、さっきまで「やっちまえー!」「始祖の力を見せてやれー!」と息巻いていたロッド・レイスや子供たちが、あまりの圧倒的蹂躙劇に顔面を蒼白にし、完全に意気消沈してガタガタと震え出した。

 

 

 

俺はその様子を尻目に、気絶して湯気を立てるフリーダの本体を、冷たいクリスタルの床にそっと置いた。

 

 

 

これで無力化は完了だ。

 

 

 

────シューゥゥゥゥッ……!

 

 

 

俺は自身の巨人体のうなじを開き、高圧蒸気を噴出させながら、一気に床へと飛び降りた。

 

 

 

「よっと……まったく、団長さんは人使いが荒いねー」

 

 

もうもうと立ち込める白い蒸気が晴れると、そこに立っていたのは、屈強な大男ではなく、純白のワンピースを着た、神の如き比類なき超絶美少女だった。

 

 

 

俺は長く艶やかな黒髪を揺らしながら、軽く肩を回し、やれやれといった小悪魔的な表情でエルヴィン団長を振り返った。

 

 

 

その瞬間──────

 

リヴァイ兵長の真横に突っ立って、一部始終を呆然と眺めていたケニー・アッカーマンの口から、信じられないものを見たというような呟きが漏れた。

 

 

「……おいおい……リヴァイ。

お前んとこのあの超別嬪な嬢ちゃんが、彫像みたいな厳つい男の巨人になっちまいやがった……

巨人ってのは、そういうもんなんかぁ……?」

 

 

ケニーの、長年の殺し屋としての常識すらも一瞬で粉砕する、特異点最大のバグ(TS美少女化)。

 

 

その間抜けな問いに対し、リヴァイ兵長は一切表情を変えず、ただ冷たく、俺に聞くなと言わんばかりに吐き捨てた。

 

 

「……知るか」

原作のシリアスな王政編では絶対にあり得なかったであろう、このカオスでコミカルな光景。

 

俺は「ふふっ」と笑いを漏らしながら、気絶したフリーダの元へと歩み寄った。さぁ、ここからが俺のハッキング(呪い解除)の本番だ。

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