進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百四十八話

冷たくてカビ臭ぇ、長く狭い石造りの階段を、ランプの明かりだけを頼りに降りていく。

 

 

王政の暗部として、この地下礼拝堂の入り口までは何度も足を運んだことがあった。

 

 

だが、その奥の聖域に足を踏み入れるのは、ウーリが死んで以来のことだ。

 

 

前を歩くのは、エルヴィン・スミスに、俺のかつての教え子であるリヴァイ、そして鼻利きのミケとクソメガネ。

 

 

さらに、シガンシナ区のヤブ医者と……得体の知れねぇ、二人の小娘だ。

 

 

王政の番犬である俺が、自分の夢をぶっ壊した調査兵団の連中と大人しく肩を並べて歩いてるんだから、人生ってのは本当に何が起こるか分からねぇ。

 

 

俺の視線は、前を歩く黒髪の小娘───アトラスとかいう見た目と名前のギャップが激しい嬢ちゃんの背中に向けられていた。

 

 

 

平原で、俺の散弾の雨からエルヴィンたちを守った、あのデタラメな水晶のドーム。

 

 

 

あんな手品みてぇな能力、聞いたこともねぇ。

 

 

 

あの嬢ちゃんが何者なのか、どんな理屈であんな芸当をやってのけたのか、俺には全く見当もつかなかった。

 

 

 

だが、あの底知れねぇ力が、この後の「交渉」とやらでどう転ぶのか。俺の潰えた夢の終着点を、この特等席で見届けさせてもらうとしようじゃねぇか。

 

 

やがて、ジメジメとした重苦しい空気がふっと抜け、視界が一気に開けた。

 

 

「……ほう」

思わず声が漏れた。

 

 

 

そこは、空間の全体が青白く発光するクリスタルで覆われた、馬鹿デカい地下洞窟だった。

 

 

天井を支える何本もの巨大な光る柱が、神秘的で、どこか薄気味悪い雰囲気を醸し出している。

 

 

そして、その広大な空間の奥、祭壇のような場所の前に、待ち構えていた連中がいた。

 

 

黒髪の女──ウーリの姪である、フリーダ・レイス。

 

 

 

その後ろには、当主のロッド・レイスと、怯えた顔でこちらを覗き込むガキ共が身を寄せ合っている。

 

 

 

医者の男の顔が、一瞬だけ険しく強張るのを見た。

 

 

 

だが、エルヴィンは微塵も躊躇うことなく、その巨躯を揺らして堂々と前へ進み出た。

 

 

「あなた方は……一体……」

 

 

フリーダが、信じられないものを見るような目で俺たちを見た。当然だ。王を守るはずの俺が、反逆者どもを引き連れてやって来たんだからな。

 

 

 

「夜分遅くに失礼する」

 

エルヴィンが、よく響く声で口火を切った。

 

 

「我々は、フリーダ氏。あなたにかけられた呪い──歴代の王を縛る"不戦の契り"と"十三年の呪い"を解き、偽りの王政を打倒し、真の女王として我々の革命の一助を担って頂くために、ここまで来た」

 

 

……相変わらず、ストレートすぎて頭が痛くなるぜ。

 

 

もう少しオブラートに包むとか、交渉のカードを小出しにするとかいう発想はねぇのか、この金髪野郎は。

 

 

だが、その無骨すぎる言葉に、フリーダの顔色が変わった。

 

 

『呪いを解く』という言葉に、一瞬だけ、本当に一瞬だけだが、すがるような希望の光がその瞳に浮かんだのだ。

 

 

 

(……なんだ。あの娘も、本当はあんな呪いから解放されたかったってわけか)

 

 

俺がそう思ったのも束の間、フリーダの表情は、まるで別の生き物に乗り移られたかのように、冷たく、重く、漆黒の苦悩に塗れたものへと変貌した。

 

 

間違いない。

 

 

ウーリの目にも時折宿っていた、あの『初代王』のクソ忌々しい思想が表にしゃしゃり出てきやがったんだ。

 

 

「……それは……なりません……」

 

 

フリーダの声は、まるで老婆のように低く、感情のない響きに変わっていた。

 

 

「人類は、罪を犯した……その罪を受け入れなければなりません……

巨人の力による報復など、あってはならない。

その意志を取り除くなど、以ての外です……お引き取り願います……」

 

 

ああ、そうだ。それだ。

 

俺がずっと見てきた、あの狂った平和主義。

 

だが、エルヴィンは鼻で笑うように、さらに一歩前に出た。

 

 

「我々も、ここまで来たからには後に引けない。こちらとしても、強引な手は取りたくないのだがね」

 

 

完全に喧嘩を売ってやがる。

 

 

フリーダは苦痛に顔を歪めながら、右手をゆっくりと自身の口元へと持ち上げた。

 

 

「もう一度言う……立ち去れ」

「断る」

エルヴィンが即答した、その瞬間だった。

 

 

────カッ!!

 

 

目を焼くような強烈な黄色い閃光が、クリスタルの洞窟を乱反射し、視界を完全に白く染め上げた。

 

 

凄まじい地響きと熱風。

 

 

俺は思わず腕で顔を庇いながら、薄目を開けた。

 

 

そこに立っていたのは、13メートルほどのしなやかな体つきを持った、始祖の巨人。

 

 

(……あれが。俺が焦がれ、手に入れようとした『始祖の巨人』……!)

 

 

俺の胸の奥で、もう潰えたはずの感情が僅かに疼く。

 

 

 

だが、俺のその感慨は、直後に起きた『あり得ない現象』によって、跡形もなく消し飛ぶことになった。

 

 

 

俺のすぐ斜め前。あの水晶の壁を出した黒髪の嬢ちゃん──アトラスが、エルヴィンを庇うようにスッと前へ飛び出したのだ。

 

 

 

そして、空中で自らの掌に、持っていたナイフを突き立てやがった。

 

 

───ギィィィィィィィンッ!!!!

 

 

 

黄色い落雷とは違う。

重く、空気を押し潰すような鈍い光と、爆発的な蒸気が立ち昇った。

 

 

「……は?」

 

 

俺の口から、間抜けな声が漏れた。

 

 

 

吹き荒れる熱風が収まった後、フリーダの巨人の眼前に立ち塞がっていたのは。

 

 

黄金比で彫刻されたかのような、鋼の筋肉を纏う、15メートル級の『男』の巨人だった。

 

 

「どうなってやがる……」

俺は完全に思考を停止した。

 

 

壁の中に、始祖以外の知性巨人がいる? しかも、あの小柄な嬢ちゃんが、こんなデタラメな質量の大男の巨人に化けただと?

 

 

あの水晶のドームは、ただの巨人化の副産物に過ぎなかったってのか。

 

 

「……ッ!?」

 

フリーダの巨人体も、目の前に突如現れた圧倒的な存在に、明らかな驚愕の色を浮かべて固まっていた。

 

 

 

すると、その厳つい男の巨人が、エルヴィンを振り返り、腹の底から響くような野太い男の声で喋り出しやがった。

 

 

『……エルヴィン団長。もう少し、穏やかに交渉できないものですかね』

 

 

「この方が、アトラス殿もやりやすいと思ってな。反省はしているが、後悔はしていない」

 

 

……会話まで成立してやがる。

 

 

何だこの茶番は。世界の真理を懸けた頂上決戦じゃなかったのか?

 

 

「オオオオオオッ!!」

 

 

正気を取り戻したフリーダの巨人が、必死の形相でその鋼の巨人へと拳を振り下ろした。

 

 

だが、俺みたいな素人の目から見ても、その動きはあまりにも遅く、軽かった。実戦経験のねぇ小娘が、ただ腕を振り回しただけの攻撃。

 

 

鋼の巨人は、その拳を「パシッ」と虫でも払うように軽々と受け止めた。

 

 

『悪いが、女王様。少しばかり痛いかもしれない、ただ、これも壁内人類のためだ』

 

 

そう言ったかと思うと、巨人はフリーダの腕を強引に引き寄せ、ブチィッ! と、まるでパンでも千切るように簡単に右腕をもぎ取りやがった。

 

 

「ギャアアアアッ!?」

 

「なっ……!?」

 

「フリーダが、一瞬で……!」

 

祭壇の奥で息巻いていたロッド・レイスとガキ共が、悲鳴を上げて顔面を蒼白にしている。

 

 

あっという間だった。

 

 

鋼の巨人は、バランスを崩したフリーダの脚を蹴り折り、うつ伏せに押し倒すと、うなじの肉をバキバキと割いて、中から気絶したフリーダの本体を丁寧に引きずり出しやがった。

 

 

 

時間にして数秒。戦いとすら呼べねぇ、ただの虫の駆除みたいな一方的な蹂躙。

 

 

 

これが、調査兵団の隠し持っていた『本物のバケモノ』の力……!

 

 

気絶したフリーダを床に置いた鋼の巨人は、役目を終えたとばかりに、自身のうなじを開いて高圧の蒸気を噴出させた。

 

 

──────シューゥゥゥゥッ……!

 

 

もうもうと立ち込める白い蒸気の中から、人影が床へと飛び降りてくる。

 

 

「よっと……。まったく、団長さんは人使いが荒いねー」

 

蒸気が晴れたそこには。

 

 

さっきまで歩いていた、純白のワンピースを着た、透き通るような黒髪の『超絶別嬪な嬢ちゃん』が、軽く肩を回しながら、やれやれといった顔で立っていた。

 

 

やはり俺の目がおかしくなった訳じゃなかった。

 

 

あの嬢ちゃんが前に飛び出した瞬間、彫像みてぇな筋肉ダルマの『大男』になりやがった。

 

 

それが、うなじの中から、こんないい匂いのしそうな絶世の美少女が、服の乱れ一つなく出てきやがる。

 

 

 

巨人の仕組みってのは、俺の知らねぇところでそんなファンタジーなことになってるのか?

 

 

 

俺は、真横で一部始終を無表情で眺めていたリヴァイの肩を掴み、思わず素っ頓狂な声で問い詰めた。

 

 

「……おいおい……リヴァイ。お前んとこのあの超別嬪な嬢ちゃんが、さっきまで彫像みたいな厳つい男の巨人になっちまいやがったぞ……巨人ってのは、そういうもんなんかぁ……?」

 

 

長年、裏社会で血の雨を降らせてきたこの俺が、今日一番の底知れねぇ恐怖と混乱を覚えていた。

 

 

だが、俺の教え子は、そんな俺の疑問に一切の慈悲をかけることなく、冷ややかな灰色の瞳を向けて吐き捨てた。

 

 

「……知るか」

それだけだった。

 

おい嘘だろ、お前ら。なんでお前ら全員、その理不尽極まりねぇ現象を、さも当たり前みたいな顔して受け入れてやがるんだよ。

 

 

 

俺の生きてきた数十年の常識は、今日この日、物理的にも概念的にも、粉々に木っ端微塵に砕け散っちまったらしい。

 

 

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