進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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リーシェ視点です


第十五話

クリスタルで内装を整えられた木のうろの中で、私は集められた巨大な葉を敷き詰め、自分なりの「寝床」を作っていた。

 

ひんやりとした結晶の壁は、外の蒸し暑い森の空気とは切り離された、どこか神聖な静寂を保っている。

 

ズシン……ズシン……。

 

遠くから、規則正しい地響きが聞こえてきた。

 

普通なら絶望して立体機動のグリップを握りしめる音。でも、今の私にはそれが、約束通りに戻ってきた「護衛」の足音に聞こえた。

 

入り口から外を覗くと、夕闇が降り始めた森の木々の向こうから、アトラスの巨大なシルエットが近づいてくるのが見えた。

 

その右手──巨岩のような掌の上には、色とりどりの果実が文字通り山のように積まれている。

 

『約束通り、食べられそうな実を持ってきたぞ』

 

アトラスは拠点の前に膝をつくと、慎重な手つきでその掌を私の足元へ差し出した。

 

ドサササッ、と小気味よい音を立てて転がり落ちた実の山を見て、私は思わず言葉を失った。

 

「……これは……また随分と、沢山……」

 

呆然と呟く私の前には、私の腰の高さまで届きそうな果実のピラミッドが出来上がっていた。

 

一つひとつが私の頭ほどもある立派な実。瑞々しい香りが鼻をくすぐるけれど、冷静に考えてこれを私一人が食べきるのにどれだけの月日がかかるだろう。

 

ふと、アトラスの顔を見上げる。

 

彼はその端正な顔立ちを、まるでバツの悪い悪戯が見つかった子供のように、ほんの少しだけ気まずそうに歪めていた。

 

そして、巨大な人差し指でポリポリと頬を掻く。

 

「……つい、採取が捗ってしまってな。採りすぎたようだ」

その言葉と、あまりにも不器用で人間臭い仕草。

 

15メートルもの巨体、数十体の巨人を紙屑のように引き裂いた圧倒的な武力。そして、この世のものとは思えない神秘的な能力。

 

そんな「超越した存在」が、たった一人の人間の食事量を測り損ねて困惑している。

 

「……ふっ……ふふふ」

我慢しようと思ったけれど、無理だった。

 

お腹の底から、こみ上げてくる笑いを抑えきれなかった。

 

「ふふっ……あはは! ごめんなさい、アトラス……でも、おかしくて。どうにも、その見た目と今の姿の差異が……ふふっ」

 

涙が出るほど笑ったのは、一体いつ以来だろう。

 

壁外調査の恐怖も、仲間とはぐれた絶望も、この瞬間だけはどこか遠い国の出来事のように思えた。

 

笑いながら見上げたアトラスは、呆れたような、でもどこか満足げな眼差しで私を見下ろしている。

「……いや、いいんだ。とりあえず、持って入れる分だけでも持っていてくれ」

彼の声は低く、相変わらず大気を震わせるけれど、そこにはもう私を竦ませるような威圧感はなかった。

 

私は乱れた息を整え、おかしな笑い残しを飲み込んで、真っ直ぐに彼の青い瞳を見返した。

 

「分かったわ。せっかく採ってきてくれたんだもの。少しでも無駄にしないようにする」

 

自分でも驚くほど、自然に言葉が出てきた。

 

これまでまとっていた、軍人としての硬い殻。強大な「巨人」を前にして張り詰めていた敬語。

 

それらが、この果実の山と一緒に崩れ去った気がした。

 

私の言葉に、アトラスが僅かに目を見開くのが分かった。

対等な、一人の「相手」として接した私の変化を、彼は敏感に感じ取ったんだろう。

 

アトラスの口元が、ほんの少しだけ柔らかく綻ぶ。

「…ありがとう」

その短くも温かい返事を聞きながら、私は抱えられるだけの大きな実を手に取った。

 

名付け親としての最初の仕事は、どうやらこの「不器用な守護神」が張り切りすぎて持ってきた、大量の果実を片付けることから始まるみたいだ。




活動報告の方にキャラ設定とか色々投稿しようと思います
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