進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百四十九

 

 

祭壇の奥で、恐怖のあまりガタガタと震えながら身を寄せ合う五人の子供たちと、顔面を蒼白にしてへたり込むロッド・レイス。

 

 

 

俺は彼らを尻目に、調査兵団の面々とケニーらに囲まれながら、冷たいクリスタルの床で意識を失い横たわるフリーダの前に静かに腰を下ろした。

 

 

 

周囲の視線が、一斉に俺の一挙手一投足へと注がれているのを感じる。

 

 

 

エルヴィン団長の期待に満ちた眼差し。

 

 

 

ハンジ分隊長の好奇心剥き出しの熱視線。

 

 

リヴァイ兵長とケニーの、得体の知れないものを見るような鋭い目。そして、リーシェからの痛いほどの愛情と心配の念。

 

 

「……ふぅ」

 

俺は昂る心臓の鼓動を落ち着かせる為、ゆっくりと深く深呼吸をした。

 

 

 

マーレの戦士三人の呪いを解除した時は、彼らのパスを強制的に俺のサーバーに書き換えるだけで済んだ。

 

 

 

だが、今回の相手は『始祖の巨人』だ。

 

 

 

歴代の王の思想(不戦の契り)という強固なセキュリティと、それを束ねる巨大なシステムそのものの根幹に直接触れることになる。

 

 

 

大丈夫。俺ならできる。

 

 

 

俺は自身の美少女フェイスに滲む微かな緊張を、ふわりとした柔らかい微笑みで覆い隠し、横たわるフリーダの白く細い手へと、そっと自身の手を重ね合わせた。

 

 

 

「……っ……!!!」

 

 

触れた瞬間だった。

 

 

 

バチィィィッ!!! という、物理的な痛みを伴うほどの強烈な痺れが、指先から全身の神経へと爆発的に駆け巡った。

 

 

 

(……なんだ……!? これ!?)

 

 

マーレの戦士たちの時とは全く違う。

 

 

パスを上書きするどころか、向こう側のシステムが俺の干渉に気付き、逆に俺の意識の根幹を凄まじい引力で掴んで引き摺り込もうとしてきたのだ。

 

 

(引き摺り込まれる……!!!)

 

抗う間もなかった。

 

 

視界が激しく明滅し、平衡感覚が完全に消失する。

 

 

次の瞬間

 

 

パッと視界が開けた時、俺を包んでいたクリスタルの洞窟の冷気も、仲間たちの気配も、すべてが幻のように消え去っていた。

 

 

見渡す限り、どこまでも広がる銀白色の砂の荒野。

 

 

そして頭上には、無数の星々が瞬き、巨大な光の樹──『座標』がそびえ立つ、果てしなく高く澄んだ夜空。

 

 

俺の保有する、こぢんまりとした『道』じゃない。

 

 

ここは、すべての大元。

 

 

二千年もの間、全エルディア人の魂を繋ぎ続けてきた、始祖ユミルの『道』だ。

 

 

「……うわぁ…」

 

俺は砂の上に座り込んだまま、ポカンと口を開けて辺りを見渡した。

 

 

さっきまで俺を囲んでいたリーシェも、エルヴィン団長も、誰もいない。

 

 

圧倒的な静寂と、時間すら止まったような永遠の孤独だけが、この空間を支配している。

 

 

 

ふと、視界の端に、ポツンと立つ小さな人物の影が目に入った。

 

 

 

ボロボロの、質素で淡いワンピース風の簡素な衣服に身を包んだ、金髪の少女。

 

 

 

その目は前髪に隠れて見えないが、彼女が誰なのかは、前世の記憶を持つ俺には痛いほどよく分かった。

 

 

 

二千年前……いや、『道』と現実では流れる時間が違う。

 

 

 

恐らく万年、億年単位、ここで巨人を捏ね続けている、このシステムの創造主にして絶対の奴隷。

 

 

 

始祖ユミルだ。

 

(……あれか? もしかして俺が最近、勝手に九つの巨人のうち何体かを自分のサーバーに借りパク(強制移行)したから、システム管理者の権限でブチギレて呼び出したのか?)

 

 

 

だとしたら、かなり気まずい。

 

 

 

無断で部室のパソコンの設定を弄り回して、部長室に呼び出されたアホな部員の気分だ。

 

 

 

しかし、ここでビビっていても始まらない。

 

 

 

何とかしてフリーダの呪いを解き、現実世界に戻らなければならない。

 

 

 

俺は砂を払って立ち上がり、とりあえず、できる限り愛想よく声をかけてみることにした。

 

 

 

「……こ、こんにちは〜……」

 

俺の完璧な美少女ボディが放つ、鈴を転がしたような凛とした可愛らしい声。

 

 

 

女神スマイルも全開だ。これで大概の人間は骨抜きになるはずである。

 

 

「…………」

 

しかし、ユミルは俺の方を向いたまま、微動だにしない。

無言。

 

 

完全にスルーである。

 

 

(……えっ、無視……?)

 

俺の元男子大学生としてのメンタル(現在は美少女仕様で少々繊細)が、ピシッと音を立ててヒビ割れた。

 

 

 

この絶世の美少女フェイスで、しかもこんなに愛想よく挨拶したのに、女の子に完全無視されるとか……普通に泣くよ?

 

 

俺、豆腐メンタルなんだからね?

 

 

だが、そこで俺の脳裏に、原作の設定がフラッシュバックした。

 

 

(……あっ。そう言えばユミルって、生前、王様に奴隷としてこき使われて、何か色々あって『舌を抜かれた』んだっけ……!)

 

 

そうだ!

 

 

俺を無視したんじゃない!

 

 

きっと、物理的に、あるいは概念的に話せないだけなんだ!

 

 

俺は、崩れかけた自身のメンタルを守る為に、必死に心の中でガバだらけの言い訳をして体裁を保った。

 

 

うん、そうだ。

 

 

怒ってるわけじゃない。

 

 

コミュニケーションの取り方が分からないだけの、可哀想な女の子なんだ。

 

 

 

そうとなれば、話は早い。

 

 

 

こっちの都合で勝手にシステムに干渉した負い目もあるし、ここは一つ、彼女のご機嫌を取るために、俺からいっぱい話しかけて場を和ませるしかない!

 

 

 

「ええっと、私の名前、アトラスって言うんだ! よろしくね!」

 

 

俺は、まるで近所の子供に話しかけるような、明るくフレンドリーな声色でズンズンとユミルに歩み寄った。

 

 

 

「君はユミルさんだよね! 親しみを込めて、ユミルちゃんって呼ぶね!」

 

 

相変わらず、彼女はうんともすんとも言わないし、表情すら読めない。

 

 

だが、そんなことは気にせず、俺は持ち前の図太さ(あるいは開き直り)を発揮して、彼女の隣にドカッと腰を下ろし、ペラペラと語り掛け続けた。

 

 

「実はさ、さっきまで現実世界で色々バトっててー。もう大変だったんだよ! うちのエルヴィン団長がさ、王政の番犬相手にいきなり煽りスキル全開で喧嘩売るもんだから、こっちはヒヤヒヤでさぁ……」

 

 

 

銀色の砂漠に、俺の透き通るような美少女ボイスの愚痴が響き渡る。

 

 

 

ユミルはただ黙って、立ち尽くし無表情無反応を決め込んでいる。

 

 

 

だが、俺はめげずに、シガンシナ区でのリーシェの重すぎる愛情の話や、エレンが天才百合絵師になってしまった話などを、身振り手振りを交えて一方的に話し続けた。

 

 

 

現実世界では一瞬の出来事かもしれないが、この『道』の空間では時間は無限に等しい。

 

 

 

ここから、神のような力を持つ転生特異点バグ──俺と、二千年孤独だった始祖の少女──ユミルによる、奇妙な、そして長いようで短い共同生活(?)が始まるのだった。

 

 

 

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