進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百五十話

この銀白色の砂と、果てしなく広がる星空だけの『道』の空間に引き摺り込まれてから。

 

 

 

俺の体感時間で言えば、およそ「二日」ほどが経過していた。

 

 

 

もちろん、喉の渇きも空腹も感じないし、疲労という概念すらここには存在しない。

 

 

 

ただただ、永遠にも等しい時間が緩やかに流れているだけだ。

 

 

 

『道』の空間と現実世界とでは、流れる時間に凄まじい差がある。

 

 

 

原作のジークやエレンがこの空間で長い時間を過ごしても、現実ではほんの一瞬の出来事だったはずだ。

 

 

 

だから、向こうではまだ一秒たりとも時間は動いていないだろうから、俺がここでどれだけ時間を潰そうが大丈夫なはずだ。

 

 

 

……多分。いや、きっと。そう信じたい。

 

 

 

そんな現実逃避を交えつつ、俺は隣にちょこんと座る少女に向けて、この二日間、ひたすらに一方的なトークを繰り広げていた。

 

 

「──それでねー、私が元々居た世界ではさ〜、色んな物語を描いた『本』っていうのがあってね。

あ、本……って分かるかなぁ。ユミルちゃんの時代にあったか分からないけど、紙をいっぱい束ねて、そこに絵とか文字とかを書いて、いろんなお話を作って楽しむんだよ───」

 

相も変わらず永遠とぺちゃくちゃ喋り続ける俺。

 

 

 

前世の漫画の話から、現代の便利グッズの話、さらにはリーシェの困ったヤンデレエピソードまで、ありとあらゆる話題を振っては一人で相槌を打つという、高度な一人喋りスキルを存分に発揮していた。

 

 

 

ユミルは、俺が何を言っても無言のままだ。

 

 

 

だが、逃げ出したり、俺をこの空間から追い出したりする素振りはない。

 

 

 

ただ静かに膝を抱え、俺の話を聞いているのかどうかは分からないが隣で受け流し続けていた。

 

 

 

すると、不意にユミルが立ち上がった。

 

 

 

彼女はトコトコと数十メートルほど先へ歩いていくと、銀色の砂漠の上にしゃがみ込み、無言で両手を動かして砂を捏ね始めた。

 

 

 

現実世界で巨人の力を使おうとしている、若しくは無理矢理巨人化させられた壁外からの哀れな誰かのために、途方もない時間をかけて巨人の肉体を造形する作業。

 

 

 

この永遠に思える『道』で、彼女がただ一人で延々と繰り返してきた、奴隷としての終わりのない仕事だ。

 

 

 

俺は、彼女が小さな手で黙々と砂を捏ねるその後ろ姿を眺めながら、ふと口を開いた。

 

 

 

「……ねぇ、ユミルちゃん。私も一緒にやってみて良い?」

 

その言葉をかけた瞬間。

サワッ、と砂を動かしていたユミルの小さな手が、ピタリと止まった。

 

 

(……やばい。流石に神聖な仕事(?)の邪魔をするのはダメだったか?)

 

 

部外者が勝手にシステム構築を手伝うなんて言ったら、そりゃあ管理者としては警戒するよな。

 

 

 

怒らせて現実世界に強制送還されたら、フリーダの呪い解除のミッションが失敗に終わってしまう。

 

 

 

俺は内心で冷や汗をかきながら、ユミルの次の動きを固唾を飲んで見守った。

 

 

───すると

 

 

「……」コクン

 

振り返ることはなかったが。

 

 

ユミルの小さな頭が、静かに、しかし確かに、首肯を意味する動作で縦に揺れたのだ。

 

 

「……っ……!!!!」

 

俺は、声にならない歓喜の絶叫を心の中で盛大に響かせながら、全身を震わせた。

 

 

(よっしゃーー!!! 遂に反応したーーー!!!)

 

 

てか、今の『コクン』って何!? 無口な女の子の控えめな頷き、めちゃくちゃ可愛いな! おい! 破壊力高すぎだろ!!

 

 

俺は内心のオタク特有の荒ぶりを必死に抑え込み、表向きは「極上の美少女スマイル」を全開にして、彼女の元へと駆け寄った。

 

 

「やったー! ありがとう! じゃあ、私こっちの脚の方をやるね!」

 

 

そう言って、俺はユミルの隣にしゃがみ込み、彼女が創り出そうとしている巨人の作成を手伝うことになった。

 

 

 

銀色の砂は、触れるとひんやりとしていて、それでいてどこか不思議な温もりを帯びている。

 

 

 

実は、俺自身の『道』は、ありがたいことに「オート機能」が完備されており、巨人化の際はシステムが勝手に肉体を構築してくれる仕様になっている。

 

 

 

だから、こうして砂を捏ねて手作業で巨人体を作るのは、俺にとってもこれが初めての経験だった。

 

「えっと、筋繊維の重なり方はこうして……骨格のバランスはこれで……」

 

 

手探りで砂を固めながら、見よう見まねで巨人のパーツを形作っていく。

 

 

最初は少し戸惑ったが、慣れてくるとこれが意外と楽しい。

 

 

図画工作の授業で泥団子や粘土細工を作っているような、奇妙な没入感があった。

 

 

「ユミルちゃん、ここの脚の関節……こんな感じで良いかな?」

 

 

少し歪な仕上がりになってしまったが、初めてにしては我ながら上出来なんじゃないかと思いながら、隣で作業するユミルに確認を取る。

 

 

「……」コクン

 

前髪で目は見えないが、彼女は再び小さく頷いてくれた。

 

 

 

相変わらず表情は影で分かりにくいけど、確かに俺の問いかけに反応してくれている! コミュニケーションが成立している!

 

 

 

だが、彼女は頷いた直後、俺が作った「少し歪な脚の関節」のパーツを、小さな手でサササッと素早く、かつ完璧な比率へと修正し直してしまった。

 

 

 

(……あ、やっぱちょっとアレだったか。なんか二度手間かけさせちゃって、下手でごめんなぁ……)

 

 

職人の手直しを食らった見習いのような申し訳なさを感じつつ、それでも俺の心は温かいもので満たされていた。

 

 

 

「おっけー! 修正ありがとう! ────で、さっきの話の続きなんだけどね───」

 

俺は砂を捏ねる手を動かしながら、再び彼女への他愛のないおしゃべりを再開した。

 

 

ユミルは黙々と作業を進めながらも、時折、俺の話の区切りに合わせて砂を動かす手をわずかに止めたり、小さく頷いたりしてくれるようになった。

 

 

静寂と孤独だけが支配していたこの星空の下の砂漠に、俺の明るい声と、二人で砂を捏ねる小さな音が心地よく響き渡っている。

 

 

……俺はこの辺りから、徐々に本来の目的である「フリーダの不戦の契りの解除」や「始祖の巨人のシステムハッキング」という超重要ミッションを脳内から放り出していた。

 

 

(あぁ……ユミルちゃん、徐々にデレてきてるな。これ、好感度上がってるよな……?)

 

 

ただの寂しがり屋(?)の神様を相手に、いかに心を開かせるか。

 

 

 

俺の思考はすっかり、ユミル攻略という名のギャルゲー(俺の見た目的には百合ゲーか?)に完全に侵されつつあったのだった……

 

 

 

 

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