進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百五十三話

 

 

 

あの『道』の空間に引き摺り込まれてから……体感時間にしてどれくらい経っただろうか。

 

 

 

数ヶ月? 数年? いや、もうこれ考える必要あるか?

 

 

 

星空も銀色の砂漠も一切の変化を見せないこの精神と時の部屋のような空間で、体内時計などという脆弱な機能はとうの昔にバグって信用できなくなっていた。

 

 

 

とにかく、あれから暫く経って、俺が知りうる限りの現代日本語とオタク用語をみっちりと伝授した結果。

 

 

 

孤独だった始祖の神様とのコミュニケーションは、予想の斜め上を行く劇的な進化を遂げていた。

 

 

 

『お姉様、7m級の巨人の手配書来たよ』

 

 

無表情ながらもどこか誇らしげに、ユミルがサラサラと銀色の砂の上に流麗な日本語を書き記す。

 

 

 

「おっけー。じゃあ、ベースの性別どうする? 今回は男型? それとも女型?」

 

 

俺が腕まくりをしながら尋ねると、ユミルは小さな指を迷いなく動かした。

 

 

『小太りの男だから、ベースは男。手足細め、頭でっかち、お腹ぽっこり、で作ろう』

 

 

……「ヤサイマシマシアブラカラメ」みたいな、完全に二郎系ラーメン屋の注文の羅列である。

 

 

 

だが、大体ここ最近の巨人を作る時は、ずっとこんなノリだ。

 

 

最初はもっと神秘的で重々しい儀式のようなものだと思っていたが、実際にやってみると、あの二郎系の注文方式が巨人作成において最も合理的で手っ取り早いという真理に辿り着いてしまったのだ。

 

 

 

「あいよー! 男ベース手足細め頭でっかち腹ぽっこり一丁!」

 

 

俺の掛け声と共に、二人で横に並んで銀色の砂をこねこねし、サクッと手分けして一つの巨人体を造形していく。

 

 

 

あっという間に歪なフォルムの7m級巨人が完成し、それは光の粒子となって現実世界(?)へと送られていった。

 

 

 

作業を終え、俺は砂の上の『手配書』という文字を見て、ふと苦笑した。

 

 

 

にしても、手配書って……俺が教えた語彙とはいえ、神聖な『道』の存在が一気に俗っぽく、まるで下請けの町工場かブラック企業みたいになってきている。

 

 

 

俺は完成した巨人が消えていった座標の光の柱を見上げながら、ポツリと考え込んだ。

 

 

(にしても……ここに引き摺り込まれてから、もうかなりの数の巨人を一緒に作ってきたけど。やっぱ、外の現実世界の時間は進んでるのかな……?)

 

 

 

もし現実世界と『道』の時間が完全に同期しているのだとしたら、とんでもない事態になっているはずだ。

 

 

 

いや、でもエレンやジークがここに来た時の描写を思い出す限り、そんなことはないはずだ。

 

 

 

おそらく、この『道』のシステムは、大量注文(巨人化要請)に対する処理のタイムラグを防ぐため、過去、現在、未来関係なく、ランダムに注文が届くクラウドサーバーのような感じになっているんじゃないか?

 

 

 

そうであってくれ。じゃないと、完全に詰む。

 

 

 

(……ん? 何が詰むんだ?)

 

 

俺の脳裏に、チカッと小さなノイズが走った。

 

 

 

そうだ。俺はそもそも、なぜこの『道』に干渉したんだっけ?

 

 

エルヴィン団長がいて、リヴァイ兵長がいて、狂犬のケニーがいて、リーシェが心配そうな顔で……地下の、クリスタルの洞窟で、誰かに触れて……

 

 

 

俺が、前世の記憶と現実世界の重大なミッションの記憶を辛うじて結び付け、何かを思い出しそうになった、まさにその時だった。

 

 

 

ぽんっ、と

 

ユミルの小さくて冷たい手が、俺の肩を軽く叩いた。

 

 

 

「ん? なになに、ユミルちゃん?」

 

俺は何かが繋がりかけた思考をあっさりと放り投げ、隣を見下ろした。

 

 

ユミルは、上目遣いで俺をじっと見つめながら、砂の上にスススッと文字を書いた。

 

 

『いつもの、アレやって』

 

「ああ、なるほどね。はいはい、"アレ"ね」

 

 

 

俺はすぐさま察して相好を崩すと、銀色の砂の上にペタンと腰を下ろした。

 

 

 

そして、ふんわりとした純白のワンピースの裾を少しだけ整えながら、女の子座りをして自身の柔らかい太ももをポンポンと手で叩き、彼女を促した。

 

 

 

「どうぞ〜、特等席だよ」

 

 

ユミルは待ってましたとばかりに、コクリと小さく頷く。

 

 

 

そして、俺の太ももの上にごろりと横になり、その小さな頭をゆっくりと預けてきた。

 

「……んっ……」

ユミルが、微かに心地よさそうな喉を鳴らし、目を細める。

 

 

そう、膝枕である。

 

 

 

おそらく、俺が過去にオタク趣味の百合スール小説やら漫画やらアニメの尊さを熱弁し、ぶち撒けていた時に、その概念を知ったのだろう。

 

 

日本語の文字をマスターして自分の意思を伝えられるようになってから少しした頃、彼女の方から砂文字で『ひざまくら、してほしい』とお願いされたのだ。

 

 

 

俺は、目を閉じて無防備に身を預けるユミルの金色の髪を、指の腹で優しく、何度も何度も梳くように撫でてやった。

 

 

 

その他にも、作業終わりに「よく頑張ったね!」と正面から思い切り抱きしめるハグだったり、頭撫で撫でだったり、休憩時間(?)の添い寝だったり。

 

 

 

年齢不詳の始祖の神様と、転生特異点のバグTS美少女。

 

 

 

客観的に見れば、距離感が完全にバグり散らかしているどころの騒ぎではない。

 

 

 

だが、まあ害はないし、と言うか俺にとっては益しかない。

 

 

 

誰からも愛されず、ただ奴隷としてこき使われてきた彼女が、こうして誰かの温もりを求め、安心して甘えてくれるようになったのだ。

 

 

 

これほど尊く、胸が温かくなるシチュエーションが他にあるだろうか。

 

 

「よしよし。ユミルちゃんは今日もえらいねぇ、可愛いねぇ……」

 

 

俺はすっかり保護者……いや、完全にダメな姉の顔になりながら、スースーと規則正しい寝息を立て始めたユミルの頭を撫で続けた。

 

 

 

そんなこんなで、俺たちは次の『手配書』が来るまでの間のんびりと、果てしなく続く砂漠と星空の下で、穏やかすぎる時間を過ごしていたのである。

 

 

 

(あ〜、このまま永遠にここで暮らすのも悪くないかもなぁ……)

 

 

完全に緊張感を喪失し、幸せな思考の泥沼に沈みゆく俺の脳の片隅で。

 

 

(……なんか、すっごく大事なこと忘れてるような……)

 

 

という微かなアラートが鳴り続けていたが、俺はそれを華麗にスルーし、愛しい妹分(神様)の寝顔をただひたすらに愛で続けるのだった。

 

 

 

 

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