進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百五十四話

 

 

 

(…………思い……出し……た………………!!!)

 

 

 

あれから、さらにどれほどの時が経ったのだろうか。

 

 

 

 

完全に俺とユミルの二人だけの箱庭と化し、外の物理的な時間の流れから完全に隔絶されたこの『道』で。

 

 

 

 

俺の脳髄の奥底にこびりついていた、ちっぽけで、しかし絶対に忘れてはならなかったはずの「現実世界の記憶」が、唐突に、そして暴力的なまでに鮮明に蘇ってきた。

 

 

 

 

(……何してんだ、俺ぇぇぇぇ!!!!)

 

 

 

 

俺は現在、自身の太ももの上で安心しきって静かな寝息を立てる始祖ユミルの、柔らかい金髪を優しく撫で続けている。

 

 

 

 

だが、その平穏な外面とは裏腹に、俺の脳内はパニックと絶叫の巨大な渦に飲み込まれていた。

 

 

 

 

(エルヴィン団長! リヴァイ兵長! そして何より、リーシェ! 俺は、あの中でフリーダ・レイスの呪いを解くために、ここに引き摺り込まれたんだった!!)

 

 

 

(それなのに……何百年……いや、下手をすれば何千年!? 普通の人間なら発狂して確実に廃人になってるような悠久の時を、俺はただただこの銀色の砂漠で、始祖ユミル相手に『姉妹百合』に興じて過ごしていたのか!? 馬鹿なの!? 死ぬの!?)

 

 

 

 

脳内で自身の阿呆っぷりを散々に罵倒し、絶叫を響かせながらも。

 

 

 

 

俺の右の手のひらは、その悠久の時の間に完全に身体に染み付いてしまった「ユミルのお姉様」としての役割を完璧にトレースし、ピタリと一定のリズムで彼女の頭を心地よく撫で続けていた。

 

 

 

 

いかん……

 

 

このままでは、本当に俺という存在がこの『道』のシステムの付属物……いや、ユミル専用の愛玩動物(お姉様)として永遠に取り込まれてしまう。

 

 

 

とにかくだ。

 

 

俺が今やらなきゃいけないのは、ユミルが管理している『始祖の力』のアクセス権限を俺の個人サーバー(道)に強制的に移管し、現実世界で気絶しているフリーダにかけられた『十三年の呪い』と『不戦の契り』の解呪プログラムを実行することだ。

 

 

 

 

それを成し遂げるためには。

 

 

 

俺は、この箱庭から出て行かなければならない。

 

 

 

「……ん……」

 

俺は覚悟を決め、太ももの上で眠るユミルの華奢な肩を、そっと優しく叩いた。

 

 

 

ゆっくりと目を開け、不思議そうにこちらを見上げる紫色の瞳。

 

 

 

その無垢で、俺に対する絶対の信頼に満ちた瞳に対し、俺は彼女にとって何よりも残酷であろう言葉を、震える唇から紡ぎ出した。

 

 

 

「……私……もう、帰らないと……」

 

その言葉が、静寂の空間に落ちた瞬間だった。

 

 

 

「……ッ!!」

 

ユミルの瞳孔がカッと見開かれ、その紫色の瞳が一瞬にして大粒の涙と、底知れぬ絶望の表情に塗り潰された。

 

 

 

彼女は弾かれたように跳ね起きると、銀色の砂の上に、信じられないほどの速度で狂乱したように文字を書き殴った。

 

 

『イヤ!!! ダメ!!!』

 

『いかないで!!! おねえさま!!!』

 

「ユミル、聞いて。私は……」

 

『ヤダ!!! ききたくない!!!』

 

バンッ! と砂を叩きつけ、ユミルは耳を塞ぐようにして首を横に振った。

 

 

 

「あぁぁっ……あぁぁぁ……ッ!」

 

言葉にならない、掠れた悲鳴のような声を上げながら、彼女は顔をくしゃくしゃにして泣き叫んだ。

 

 

 

悠久に等しい果てしない時間、誰かに感情をぶつけることすら許されなかった奴隷の少女が、初めて見せた我儘で、痛ましいほどの子供の姿だった。

 

 

 

その泣き顔を見て、俺の胸がギリッと千切れそうに痛んだ。

 

 

 

俺は膝立ちになり、泣き叫ぶ彼女の小さな身体を、力強く、そして壊れ物を扱うようにそっと抱きしめた。

 

 

 

 

「ごめんね、ユミル。

……でも、現実世界で、私を待ってくれている家族がいるんだ。

彼らを救うために、私は……『始祖の力』を、私の『道』に移す……いい?」

 

 

 

 

俺のその言葉に、ユミルは途端に、俺の背中に腕を回し、骨が軋むほどの強い力でしがみついてきた。

 

 

 

 

絶対に離さない。私をまた独りにしないで。

 

 

 

そんな彼女の心の叫びが、痛いほどに伝わってくる。

 

 

 

それから、どれくらいの間、この星空の下で彼女を抱擁し続けていただろうか。

 

 

 

俺の揺るがない意志と、彼女への深い愛情を感じ取ってくれたのか。

 

 

 

やがて、ユミルの俺を抱き締める力が、少しずつ、少しずつ緩んでいった。

 

 

 

彼女は俺の腕の中からゆっくりと顔を上げた。

 

 

 

 

泣き腫らして真っ赤になった目。

 

 

鼻水を啜りながら、それでも俺を真っ直ぐに見つめ、彼女は震える指先で、静かに砂に文字を綴った。

 

 

 

『……わかった……』

 

 

 

本当に悲しい。寂しい。行かないでほしい。

 

 

 

そんなすべての感情を隠すことなく剥き出しにしながら、それでも俺の意志を尊重し、別れを受け入れてくれたその端正な顔。

 

 

 

そのあまりにも健気な姿に、俺は一瞬、現実世界の使命も、何もかもすべて投げ出して、このまま永遠に彼女の姉としてこの砂漠で暮らしてしまおうかという強烈な誘惑に駆られた。

 

 

 

 

だが、俺は歯を食いしばってその衝動を抑え込み、彼女がくれた『わかった』という許諾の言葉を皮切りに、システムの深層部───始祖の力への介入を開始した。

 

 

 

 

俺の意識が、光の樹(座標)の根幹へと接続される。

 

 

 

 

システムへのハッキング、そしてフリーダ・レイスを縛る二つの呪いの解呪プログラムの実行。

 

 

 

 

それは、本来ならば二千年の歴史の重みが強固にブロックするはずの神の御業だったが。

 

 

 

 

最高管理者であるユミルが俺に心を開き、すべてのアクセスを『許可』してくれたおかげで、驚く程に何の抵抗もなく、あっさりと解除することができた。

 

 

 

(……終わった)

 

 

後は、この『始祖の力』の管理者権限を、俺の独自の『道

』へと移管するだけだ。

 

 

 

恐らく、その移行処理が完了した瞬間、俺の意識はこの空間から弾き出され、現実世界のクリスタルの洞窟へと戻ることになるだろう。

 

 

 

俺は、最後にユミルの顔をしっかりと目に焼き付けるため、彼女に向き直った。

 

 

「ユミル……今まで、凄く楽しかった。

私のくだらない話に付き合ってくれて……本当に、ありがとね」

 

 

 

俺は極上の、そして少しだけ寂しそうな美少女スマイルを浮かべ、別れの言葉を告げた。

 

 

 

そして、自身の『道』へ始祖の力を移す、最後のエクスキュート(実行)コマンドを念じた。

 

 

 

 

 

──────パァァァァァァッ……!

 

 

 

 

 

視界が、圧倒的な純白の光に包まれていく。

 

 

 

 

 

俺の身体が粒子となって、この空間から薄れ始めているのが分かった。

 

 

 

(あぁ……帰るんだな、俺)

 

 

そう思い、目を閉じようとした、その瞬間だった。

 

 

 

「……!」

 

白んでいく視界の中。

 

 

 

ユミルの顔が、俺の視界いっぱいに、唐突に拡大した。

そして。

 

 

 

俺の唇に、ふわりと、柔らかくて温かい感触が押し当てられた。

 

 

 

(……!?!?!?)

 

 

思考が、完全に停止した。

 

 

 

 

えっ!? キス!? 今、ユミルちゃん、俺の唇に……キスした!?

 

うぇ!? ちょっと待って!? スール制度の話で「別れの時はこうするんだよ」って教えたの、実践しちゃったのか!? 冗談で教えただけなのに!?

 

 

 

俺の純情な脳髄が完全にショートし、パニックを引き起こす。

 

 

 

だが、もう俺の意識は現実世界へと引き戻される不可逆の奔流の中にあった。

 

 

 

「ふぇぇぇ!? あわわわ……っ!!」

 

 

 

俺は、神様からの不意打ちのファーストキス(実は既にリーシェに奪われているが知らない)に、限界までだらしなく顔を赤く染め、おそらくめちゃくちゃ情けない悲鳴を上げながら。

 

 

 

 

 

クスッと、最後に小さく悪戯っぽく笑ったユミルの前から、光の渦に飲まれて完全に姿を消したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

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