進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
アトラスお姉様が、眩い光の渦に飲み込まれてこの『道』から姿を消してどれくらいが経っただろうか
永遠にも等しい静寂が、再び銀色の砂漠と星空の世界に降り降りてきた
神様みたいに美しくて、何でもできて、私にたくさんの知らない世界を教えてくれた完璧なお姉様
思い出したらまた、枯れた筈の涙が溢れ出してくる
零れないよう、私は立ち上がり、見上げるほど巨大な光の樹───全エルディア人の魂を繋ぐ『座標』に視線を向けた瞬間、絶望に打ちひしがれていた私の紫色の瞳に微かな光が宿った
お姉様は、始祖の継承者の『十三年の呪い』と『不戦の契り』を解き、『始祖の力』のすべてを自身の独立した『道』へと移管したはずだった
そして私も、それを心から許容し、アクセス権限のすべてをお姉様に明け渡した
だが、座標の樹を見上げた私の紫色の瞳は、そこに生じている『決定的な矛盾』と、信じられないような『バグ』の存在を正確に捉えていた
(……お姉様……もしかして、失敗しちゃったの?)
座標の光は、完全に消え去ってはいなかった
それどころか、私の管理するこの大元の『道』と、お姉様が所有する未知の『道』との間に
極太の光の線──始祖の力という概念のへその緒が、真っ直ぐに繋がり、脈々と二つの世界を繋ぐ橋を架けてしまっていたのだ
理由は、すぐに察しがついた
一つは、お姉様が最後の最後で、私の不意打ちのキスによって極限のパニック状態に陥ってしまったこと
あの瞬間、彼女の概念(システム)移行の集中力は完全に霧散し、実行の処理が中途半端な状態で強制終了してしまったのだ
そしてもう一つ、これが最も大きな理由
そもそも『始祖の力』とは、ただのプログラムやデータではない
この砂漠で果てしない時間巨人を捏ね続けてきた『ユミルという存在そのもの』に近いのだ
お姉様は、私の魂(システム管理者)をここに残したまま、力(権限)だけを強引に引き剥がして自身の『道』に取り込もうとした
その結果、始祖の力は完全に移行しきれず、ちょうど半分に引き裂かれる形で、二つの『道』に跨って定着してしまったのだ
結果として何が起きたか
私、ユミルの『道』と、アトラスお姉様の『道』は、始祖の光の線を通じて完全に同期・接続されてしまったのである
(お姉様ってば、本当に詰めが甘いんだから……)
でも、そのドジで間抜けなところが、たまらなく愛おしかった
私は、お姉様と繋がったその新しい光の線にそっと手を触れ、目を閉じた
すると、繋がったパイプを通じて、お姉様の『道』の内部構造───彼女がどうやってこの砂漠に来ることなく巨人体を生成していたのかという、システムの中枢概念が、私の脳内に流れ込んできた
(これが、お姉様が言っていた『自動で巨人を構築するプログラム』……)
それは、私が悠久の時、ひたすらに泥臭く手作業で砂を捏ねてきたのとは全く異なる、高度に抽象化された概念の塊だった
必要なパーツ、骨格の比率、筋繊維の編み込み
それらをパターン化し、要請に応じて砂が自動的に集束し、巨人体を組み上げるというオートメーションの仕組み
私は、その構造の美しさと効率性に息を呑んだ
だが、同時に理解した
お姉様のこのプログラムは、確かに優れているけれど、まだ『机上の空論』の域を出ていない
私のように、実際に数えきれない程の巨人をその手で創り上げてきた本物の職人としての『感覚』が欠けているため、微細な挙動に無駄が多かった
私は、一切の躊躇いなく、お姉様の『道』にあるその自動構築プログラムの概念に干渉を開始した
私の経験と、泥臭い手作業の記憶を、アルゴリズムの中に次々と落とし込み、最適化していく
砂の結合速度、硬質化結晶の生成プロセス、神経網の瞬時接続
(もっと速く、もっと正確に……私がこの砂漠に縛り付けられていなくても、世界が勝手に巨人を創り出せるように)
私の小さな手が、宙を舞う光の粒子を編み直していく
今まで、王家の命令に従うためだけに使ってきた私の力を、今はただ一つ、私自身の『我儘』を叶えるために行使していた
もし、この『道』に私が存在しなくても、自動で巨人が創られるシステムが完成したなら
私がこの銀色の砂漠に留まり続ける理由は、完全に消滅する
ならば、残されたこの『半分の始祖の力』と、お姉様へと繋がったこの太い光の線(バックドア)を使えば
(……私自身の肉体を、現実世界で再構築(受肉)することも、可能になる……!)
そうだ
お姉様は、私にたくさんのことを教えてくれた
言葉を、文字を、笑うことを、そして……『誰かを特別に想う』という、どうしようもなく甘くて、胸が焦げるような感情を
私はもう、二千年前の、舌を抜かれた可哀想な奴隷の少女ではない
アトラスお姉様から愛され、名前を呼ばれ、温かい膝枕を与えられた、一人の我儘な『妹』だ
ここで大人しく、星空を見上げて永遠に待っているなんて、絶対に嫌だ
お姉様が私のために笑ってくれたように
お姉様が私を抱きしめてくれたように
今度は、私が
この冷たい砂漠の世界を抜け出して、お姉様のいる、あの温かい現実の世界へと会いに行く
たとえ、どんな法則を捻じ曲げてでも
光のプログラムの再構築が、音を立てて完了していく
私の足元から、現実世界で器となる新たな肉体を編み上げるための、新しい砂の渦が巻き起こり始めた
『必ず逢いに行くからね───お姉様』