進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百六十二話

 

 

 

何とかあの地獄のようなリビングの入り口での惨状───ユミルによる「お姉様大好き」という名の、リーシェへの特大の宣戦布告───を物理的かつ強制的に収め、俺たちはリビングのソファとテーブルに陣取っていた。

 

 

 

現在、俺と見知らぬ美少女(ユミル)は隣同士に座らされ、正面には腕を組んで絶対零度のオーラを放つリーシェ、そして困惑しきった顔のグリシャさんとカルラさんに囲まれている。

 

 

 

エレンたち子供三人は、空気を読んだのか庭に出て、リビングの様子をガラスの窓越しに眺めている状態だ。

 

 

 

「……アトラス。事情を説明してちょうだい。この女は誰」

 

 

完全に浮気を確信し、今にも隠し持ったブレードで目の前の女を八つ裂きにしかねない顔で、リーシェが低く凄みのある声で俺に説明を求めてきた。

 

 

 

「アトラスちゃん、しっかり説明してあげて」

 

 

隣に座るカルラさんも、親身になりつつも、どこか「どうかただの親戚の子だと言って」と嘘であって欲しいと願うような表情で言葉を投げかける。

 

 

 

(いや、浮気とかそういう次元の話じゃなくてですね……!)

 

 

俺が必死に誤解だと弁明しようと口を開きかけた、その瞬間だった。

 

 

「ふふっ、私は始祖ユミル。エルディア人の起源であり、アトラスお姉様の妹だよ」

 

 

俺の隣に座るユミルが、一切の悪びれる様子もなく、むしろ誇らしげに胸を張ってとんでもない自己紹介を再度ぶちかました。

 

 

「……始祖ユミルッ……!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、エルディア復権派の生き残りであり、世界の真実を知るグリシャさんが、信じられないものを見たという様子でガタッと立ち上がり驚愕した。

 

 

無理もない。

 

 

彼にとって「始祖ユミル」とは神話の存在であり、すべての巨人の頂点に立つ神そのものなのだから。

 

 

 

その直後、グリシャさんはハッとして隣のカルラさんに向き直り、庭にいる子供たちの様子を見てくるよう告げた。

 

 

 

内容が内容(世界の真理と神様の受肉)だからなぁ……

 

 

 

一般人のカルラさんに聞かせるには危険すぎる情報だ。

 

 

「カルラ、子供たちの様子を見ていてくれ……」

 

「あなた……でも……」

 

「お願いだ……」

グリシャさんが切実な、どこか懇願するような目を向ける。

 

 

カルラさんは夫のただならぬ様子を察し、「……わかったわ」と静かに頷いて、席を外し庭へと向かっていった。

 

 

 

カルラさんがリビングから完全に出ていったのを確認してから、リーシェが深くため息をつき、再び口を開いた。

 

 

「……あのねぇ……百歩……いえ、一億歩譲ってあなたがアトラスの妹だとして。

普通の妹は、姉の首筋に顔を埋めて、ましてや貪るように啄むなんて事しないの。

というか、始祖って……何で二千年前に死んだ筈の人間が現実世界にいるのよ……」

 

 

額に手を当て、頭が痛そうな様子で、リーシェが至極真っ当な正論をぶちかます。

 

 

本当にその通りだ。

 

 

 

妹という設定はピクシス司令がでっち上げた俺の戸籍上の話だけで十分なのに、まさか本物の神様が「妹」を自称して受肉してくるなんて、誰が想像できただろうか。

 

 

だが、ユミルはリーシェの怒気などどこ吹く風で、くすくすと上品に笑った。

 

 

「ふふっ、知りたい? あれは『道』の時間を含めると、数千万年前のこと───」

 

 

そして、悲劇は始まった。

 

 

ここから数十分程。

 

ユミルは、自身が王の奴隷としてずっとこき使われてきた悲惨な過去から始まり、俺が『道』に引き摺り込まれてからの出会い、一緒に砂をこねこねして巨人を創ったこと、俺が日本語を教えたこと

 

 

そして……俺が彼女にスール制度(お嬢様学校の姉妹百合)というオタク趣味を延々と垂れ流して布教し、彼女が俺を「お姉様」と慕うようになるまでの過程を、一語一句違わず、永遠と赤裸々に語り続けたのである。

 

 

 

庭の方に目をやると、いつも通りどこからともなく高級な画材道具を持ち出したエレンが、ミカサとカルラさんをモデルに絵を描いているのが見えた。

 

 

 

あいつ、この状況でもブレないな。

 

 

「───という訳で、最後にお姉様に愛のキスをしてお別れしたんだぁ…

ふふっ……あの時の、真っ赤になって慌てたお姉様、すっごく可愛かったなぁ……」

 

 

(コイツ……全部ぶち撒けやがった……!)

 

 

俺の脳内で絶望の鐘が鳴り響く。

 

 

俺とユミルの、あの凡そ人様には教えられないような、甘くて胸焼けしそうな数千年間(主に俺の黒歴史とイタい布教活動)を、こともあろうにリーシェとグリシャさんの前で全部暴露しやがった……!

 

 

 

途中、あまりの羞恥心に俺がユミルの口を物理的に塞いで止めようとしたのだが、リーシェが「最後まで聞かせなさい」と有無を言わさぬ笑顔で俺の腕をホールドしてきたため、止めるに止められなかったのだ。

 

 

 

俺は今、己の性癖とバグをすべて白日の下に晒され、審判を待ち受ける哀れな罪人のように、完璧な美少女フェイスを青ざめさせながらリーシェの判決を待っていた。

 

 

 

沈黙がリビングに落ちる。

 

 

 

グリシャさんは胃を痛そうに押さえながら俯いている。

 

「……アトラス」

 

リーシェが、地獄の底から這い出るような低く、重い声で言葉を紡ぐ。

 

「……はい……」

 

俺はビクッと肩を揺らし、消え入りそうな声で返事をした。

 

「……一人だけよ」

 

 

「……え?」

「……え?」

俺の間の抜けた声と、何故かグリシャさんの素の驚きの声が綺麗にハモった。

 

 

 

思わず二人で聞き返す。

 

 

「……だから、一人だけなら許すって言ってるの。この女の事情が事情だから」

 

 

リーシェは腕を組んだまま、少しだけ顔を背けて、不機嫌そうにそう言い放った。

 

 

 

つまるところ、ユミルの「『道』で悠久の時を、奴隷としてただひたすらに歯車として巨人をこね続けてきた」というあまりにも重すぎる事情に同情して、この可哀想な神様の娘相手なら、特例として浮気(リーシェ主観)をOKするということか?

 

 

 

あの、アトラス以外の命の価値はゼロと言い切っていたリーシェが!? シガンシナ区での生活が、彼女の人間性をそこまで丸く、慈悲深く成長させていたというのか。

 

 

 

グリシャさんも信じられないといった様子で目を丸くし、

「……懐が大きいですね……」

と、小声のまま感嘆(あるいは畏怖)の言葉を漏らした。

 

 

 

当のユミルも、目をキラキラと輝かせて俺の腕に抱きついてきた。

 

 

「お姉様! やったね! これで心置き無く、一緒に"尊い"ことができるよ!」

 

(尊いって言うな。俺の布教の成果が如実に表れてて恥ずか死ぬ)

 

 

「でも! これだけは覚えといて」

 

 

平和的解決(?)に安堵しかけた空気を切り裂くように、リーシェがユミルを鋭く睨みつけ、釘を刺すようにとんでもない暴露を投下した。

 

 

「アトラスのファーストキスは、私が先だったからね」

 

 

……ん?

今、なんとおっしゃいました?

 

「あれは、地下礼拝堂に行く前のオルブド区の宿舎で……アトラスの無防備に寝ている顔を見てたら……その……つい、我慢出来なくて……」

 

 

リーシェが頬を微かに赤らめ、少し目を伏せながら、もじもじとそんなとんでもない自白をし始めた。

 

 

(……えっ、怖っ!? 俺、いつの間にか寝込みを襲われてたのか!?)

 

 

俺の知らないところで、俺の唇の純潔がリーシェによって既に奪われていたという衝撃の事実。

 

 

 

俺はパニックと恐怖で言葉を失い、目を見開いた。

 

 

 

そんな頬を染めるリーシェに対し、ユミルは抱きついていた俺の腕からスッと顔を上げ。

 

 

 

「…………うわぁ」

 

 

本当に、心底軽蔑したような、正真正銘の『ゴミを見るような目』で、リーシェを冷ややかに見つめていた。

 

 

(神様にドン引きされてるぞ、おい)

 

ヤンデレのリーシェと、お姉様大好きっ娘の始祖ユミル。

 

 

二人の間にバチバチと不可視の火花が散るのを肌で感じながら、俺の平穏なシガンシナ区の生活は、更なる混沌のステージへと突入したことを悟ったのだった。

 

 

 

R-18な回って需要ある?

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