進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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エレンくんの暴走考えてる時が一番楽しい





第百六十九話

 

 

 

あれから十数分後

 

俺がリーシェさんとユミルさんから聞き出した『背徳的で罪深い三日間の百合エピソード』の全貌を、狂ったような速度でノートのページに書き留め終わったのと、ほぼ同時のことだった。

 

 

 

丁度お昼の準備が終わったのだろう。

 

 

キッチンの方から、二人が木製のお盆に乗せた大皿を運んでくる足音が聞こえた。

 

 

俺はサッとメモ帳を閉じ、誰にも見られないように素早く鞄の奥底へとしまい込む。

 

 

そして、何事もなかったかのように背筋を伸ばし、手を膝の上に置いて、テーブルへと運ばれてきた料理を眺めた。

 

 

 

大皿に綺麗に盛り付けられているのは、色鮮やかな新鮮な野菜と、こんがりと焼かれたベーコン、そして薄切りのチーズがたっぷりと挟まれた、彩り豊かなサンドイッチだった。

 

 

向かいの席に、俺と対面するようにしてリーシェさんとユミルさんが並んで腰を下ろす。

 

 

 

リーシェさんが、アンティーク調の美しいティーポットを傾け、俺たち三人の前に置かれた純白のティーカップへと、ゆっくりと琥珀色の紅茶を注いでいく。

 

 

 

トクトク、と小気味良い音が響き、湯気と共にアールグレイの芳醇な香りがリビングに広がる。

 

 

 

その一連の流れるような所作は、ただお茶を淹れているだけだというのに、切り取って王宮の回廊に飾っても全く違和感がないほどの、圧倒的な気品と芸術性を放っていた。

 

 

 

彼女が時折見せる『人類最強の鬼神』としての冷徹な顔を忘れそうになるほど、今の彼女は完璧な淑女だった。

 

「さぁ、いただきましょう」

 

リーシェさんの静かな掛け声と共に、俺は「いただきます」と小さく呟き、目の前のサンドイッチに手を伸ばそうとした。

 

 

すると

 

───カチャリ

 

背後の奥の部屋

 

アトラスさんが怒って引きこもってしまった、あの寝室の扉から。

 

 

金属製の鍵が、内側からゆっくりと回されて開錠される、重々しい音が響き渡ったのだ。

 

 

キィィィ……ッ

 

 

続いて、扉が開く時特有の、少し軋んだ蝶番の音が、静寂のリビングの空気を鋭く切り裂いた。

 

 

「……!」

 

「あっ……」

 

 

その音を聞いた瞬間。

 

 

俺を含め、リビングにいた三人の表情が、文字通りカチコチに固まった。

 

 

テーブルに伸ばしかけていた俺の手は空中でピタリと止まり、リーシェさんとユミルさんは、息を呑んだまま、目を見開いて音のした方へと視線を釘付けにしている。

 

 

ゆっくりと。

ペタッ……ペタッ……と。

 

 

素足がフローリングの床を踏みしめる音が、一歩、また一歩と、確実にこちらのテーブルへと向かって近づいてくる。

 

 

極度の緊張感。

 

 

怒り心頭のアトラスさんが、果たしてどんな顔をして、どんな言葉を放つのか。

 

 

俺はバクバクと煩く鳴り響く自身の心臓の鼓動と、耳の奥で鳴るキーンという耳鳴りを必死に抑え込もうと、深く息を潜めた。

 

 

誰も、口を開かない。誰も、動かない。

 

 

痛いほどの静寂と、ただゆっくりと近付いてくる足音だけが、この空間のすべてを支配している。

 

 

やがて

 

 

俺と、向かいに座る二人の間の空間。テーブルのすぐ横に、一人の少女が音もなく立った。

 

 

下を向いているため、顔の表情までは窺えない。

 

 

だが、微かに俺の視界の端に入ったその服装は、先ほどの俺の脳を破壊し尽くした『未知の破廉恥な衣装』ではなくなっていた。

 

 

いつもの、アトラスさんがよく着ている、白い暖かみと清潔感を感じさせる、ゆったりとした純白のワンピース姿へと着替えていたのだ。

 

 

彼女の白くて細い手が、ゆっくりと、テーブルの中央に置かれた大皿へと伸びる。

 

 

そして、綺麗に切り分けられたサンドイッチの一つを指先でそっと摘み上げると、俺の視界から外れた自身の口元へと近付けていった。

 

 

シャキ……ッ

シャキ、シャキ……

 

 

パンに挟まれた新鮮なレタスを咀嚼する音が、水を打ったように静まり返ったリビングの中で、異常なほどうるさいぐらいに鮮明に聴こえてくる。

 

 

怒っているのか。

 

それとも、ただお腹が空いていただけなのか。

 

 

全く読めない彼女の行動に、俺たちはただ息を詰めて、その咀嚼音を聞き続けることしかできない。

 

 

 

やがて、咀嚼する音が消え、ゴクッ、と嚥下する、どこか背徳的で艶のある音が微かに響いた。

 

 

アトラスさんが、二つ目のサンドイッチに手を伸ばそうと、再びテーブルへと腕を動かした、その時だった。

 

 

 

 

 

「……アトラス、あのね……その……」

 

 

リーシェさんが、震えるような、切実で、真摯な、しかしどこまでも控えめな声で、重い口を開いた。

 

 

「ごめんなさい……

貴女の気持ちも考えずに、ただ一方的に……酷いことをして……本当に……ごめんなさい」

 

 

俺が、その言葉を皮切りにして、恐る恐る顔を上げて向かいの席を見た。

 

 

そこにあったのは、人類最強の鬼神としてのプライドも、ヤンデレ特有の狂気もすべてかなぐり捨てた、一人の弱くて不器用な美少女の顔だった。

 

 

リーシェさんは、ポロポロと大粒の涙を流しながら、ただ、心から真剣に、自身の愚かさを悔い、愛する人と向き合おうとする……そんな、痛切な表情を浮かべていた。

 

 

続くように、隣に座っていたユミルさんも、小さな肩を震わせて口を開いた。

 

 

「お姉様……ごめんなさい……っ。

私、お姉様が優しくしてくれるのに甘えて……お姉様のこと、いっぱいいっぱい傷つけて……本当に、ごめんなさい……っ」

 

 

ユミルさんは、まるで叱られた小さな子供のように、ポロポロと透明な涙を零していた。

 

 

両手を自身の胸の前でギュッと強く組み、しゃくり上げながらも、しっかりとアトラスさんの目を真っ直ぐに見上げて、ただひたすらに、純粋な謝罪の言葉を口にし続ける。

 

 

 

俺は、二人のそのあまりにも真剣な謝罪の姿から、流れるように視線を動かし、横に立つアトラスさんの顔を見上げた。

 

 

 

そこに在ったのは──────

 

 

 

いつも俺たちに向けてくれる、あの聖母のように柔らかで、明るい慈愛の籠った笑顔ではなかった。

 

 

 

今まで一度も見たことがない、少し不機嫌そうに唇を尖らせた、ムッとした表情。

 

 

 

だが、その怒りの表情のまま、彼女の赤く腫れた目元の端から、まるで宝石のようにキラキラと輝く美しい涙の雫が、ツーッと頬を伝って零れ落ちたのだ。

 

 

 

「……ッ」

 

 

俺は、そのあまりにも神秘的で、息を呑むほどに美しい光景に、思わず声にならない息を飲んだ。

 

 

 

怒っている顔すらも。泣いている姿すらも。

 

 

 

ただそこに存在するだけで、まるで王都(帝都)の美術館の最奥に飾られるべき至高の宗教画へと昇華してしまう、彼女の絶対的な美貌。

 

 

 

俺は、芸術家としての根源的な恐怖と歓喜で、魂が戦慄するのを感じた。

 

 

「……うん……」

 

 

アトラスさんの薄い桜色の唇から、ただ一言、微かな声が零れ落ちた。

 

 

 

叱責でも、罵倒でもなく。

 

 

 

ただ、二人の真摯な謝罪と涙を、そのすべてを受け入れるという、赦しの言葉。

 

 

たったそれだけで、十分だった。

 

 

 

(……来るッ!)

 

 

 

俺の芸術家としての直感が、かつてない最大級の警鐘を鳴らした。

 

 

 

俺は即座に、先ほどミカサに豪語した自身の最強スキル───気配を極限まで薄め、部屋の観葉植物や壁紙と同化して自身の存在を完全に消し去る『背景化』のスキルを、全力で発動させた。

 

 

 

呼吸を止め、瞬きすら忘れ、俺はただの『概念の写し絵』と化す。

 

 

 

アトラスさんは、手に持っていたサンドイッチをそっとお皿に戻すと。

 

 

ゆっくりとした、どこか夢見るような足取りで、泣き続けるユミルさんとリーシェさんの座る椅子の、ちょうど真ん中の後ろへと回った。

 

 

そして、彼女たちの背後から少し身を屈めると。

 

 

 

右に座るリーシェさんの濡れた頬に。そして、左に座るユミルさんの濡れた頬に。

 

 

 

それぞれ一つずつ、そっと、触れるだけの優しくて甘い、小鳥のような『赦しの唇』を落としたのだ。

 

 

「あっ……」

 

「お姉様……」

 

 

二人が驚きに目を見開く中。

 

 

 

アトラスさんはさらに二人の肩に両腕を回して引き寄せ、自身の左右の頬を、二人の頬にピッタリとくっつけるようにして、背後から深く抱きしめた。

 

 

 

「好きだよ……リーシェ……ユミル……」

 

 

 

甘く、とろけるような、けれどどこか照れくさそうな、女神の囁き。

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、リーシェさんとユミルさんの瞳から、先程までの罪悪感の涙とは全く違う、歓喜と圧倒的な幸福感に満ちた大粒の涙が、堰を切ったように溢れ出した。

 

 

 

三人の美しい髪が絡み合い、涙と笑顔が交錯し、窓から差し込む午後の斜陽が、彼女たちを黄金色の光で神々しく包み込む。

 

 

(…………あぁ……)

 

 

 

俺は……気付けば、無意識のうちに天を仰いでいた。

 

 

 

 

 

ユートピア(究極の百合園)は、確かに、このシガンシナ区の小さなリビングに存在していたのだ。

 

 

 

 

神すらも嫉妬するであろう、完全なる愛と美の結晶。

 

 

 

 

俺の網膜に、いや、魂の奥底に、この一瞬の光景が、永遠に色褪せることのない鮮烈な色彩となって焼き付いていく。

 

 

 

だが、同時に俺は悟ってしまった。

 

 

 

今の俺の技術では。今の俺の、この未熟な絵筆と矮小な表現力では。

 

 

 

この目の前で繰り広げられている『究極の美』を、カンバスの上に完璧に再現することなど、絶対に不可能だと。

 

 

 

 

もし中途半端な実力でこれを描いてしまえば、それはこの神聖な光景に対する、万死に値する冒涜となる。

 

 

 

だから、俺は決めた。

 

 

 

この光景は、絶対に、必ず、意地でも、一生忘れない。

 

 

 

故に、俺が……自身の命と魂を削り尽くし、世界中のあらゆる巨匠を凌駕する『人生最高の描写力』を身に付ける、その究極の時が訪れるまで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────この光景だけは、決して描かない。

 

 

 

 

 

それが例え、俺が寿命を迎え、死の淵を彷徨う間際だったとしてもだ。

 

 

 

俺は必ず、あの境地に辿り着いてみせる。

 

 

 

 

俺は弱冠10歳にして。

 

今日この瞬間、自身の芸術家としてのすべてを懸け、一生を費やしてでも必ず描き上げるべき『最高傑作の構図』を手に入れたのだと、強く、強く、心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────遠い将来

 

 

壁の中の世界と外の世界があらゆる障壁を超え、平和を勝ち取ったずっと後の時代。

 

 

帝都の中央美術館の最奥にて、これ以上の美に数千、数万年は辿り着くことが不可能であると後世の芸術家たちから称されることになる、

 

 

一枚の『究極の作品(百合画)』が世に解き放たれることとなる。

 

 

 

『赦しと聖母の抱擁』

 

 

 

 

と名付けられたその絵画が、世界中の人々の心を狂わせ、真理へと導くことになるのだが。

 

 

 

まだそれは、歴史の陰で絵筆を握りしめる一人の少年以外、誰も知らない未来の話であった。

 

 

 

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