進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第十七話

夜の静寂を切り裂くように、焚き火が爆ぜる。

 

その火の粉が夜空に吸い込まれていくのを眺めていると、手の平の上で小さく、けれど確かな存在感を放つリーシェが、意を決したように俺を見上げて問いかけてきた。

 

「ねぇアトラス……あなたはなぜ私を助けてくれたの? あなたは何処から来て、何を目指しているの?」

 

その瞳は、暗闇の中でもなお澄み渡り、俺の「本質」を見極めようとする強い意志に満ちていた。

 

助けた理由、そして俺の正体。

 

一瞬、思考が止まる。

 

前世の日本、アニメや漫画でこの世界の結末を知っていること、トラックにも轢かれず神様にも会わずにここに放り出されたこと……そんな突飛な話をいきなりぶつけても、彼女を混乱させるだけだろう。

 

何より、彼女は自分の生い立ちを、その魂の欠片を削り出すようにして俺に話してくれた。

 

それに対して、得体の知れない嘘やはぐらかしで返すのは、あまりにも不義理だ。

 

そんな「ダサい」真似は、今の俺の理念に反する。

 

(……嫌だな、そんなのは。俺を『アトラス』と呼んでくれた彼女にだけは、せめて誠実でありたい)

 

俺は深く、腹の底に溜まった重低音を一つ吐き出した。そして、ゆっくりと言葉を選びながら、俺という存在の根幹を語り始めた。

 

「今から話す事は……君にとっては、到底信じ難い話だと思う。だが、嘘を吐くつもりはない。

……私は───

 

 

───元は人間だった」

 

俺がそう告げると、リーシェの肩が小さく跳ねた。夜空のような青い瞳が驚愕に染まる。

 

しかし、彼女は悲鳴を上げることも、拒絶することもしなかった。

 

むしろ、どこか心の奥底でその可能性を予感していたかのように、納得の色を浮かべながら、無言で続きを促した。

 

「当時は、しがない学生だった。将来に漠然とした不安を抱えながら、ただ出される課題に向き合うだけの、なんてことはない、どこにでもいるような人間だったよ」

 

自嘲するように、鼻から蒸気を漏らして軽く笑う。15メートルの巨体が漏らす笑いは、それだけで周囲の空気を震わせる。

 

「そんなある日、目覚めた私は、見知らぬ平原に立ち尽くしていた。……この、忌々しくも強大な巨人という姿になってな」

 

「!」

リーシェの眼が大きく見開かれる

 

「幸か不幸か、私は他の巨人とは違い、明確な意思を持って行動できた。そして、今こうして話している通り、言葉を紡ぐこともできた。……だが、もしかしたら、その知性こそが孤独を深める要因になったのかもしれない。この身では、人間たちに恐れられ、まともな対話など不可能だと悟っていたからな」

 

俺は、自分の巨大な掌を見つめた。硬質化を繰り返したこの手は、今や岩盤をも砕くが、人間を抱きしめるにはあまりに無骨で、あまりに巨大すぎる。

 

「だから私は、人との接触を避け、この森でただひたすらに己を鍛え上げた。いつか来るかもしれない『その時』のために、あるいは単に、一人でいる寂しさを紛らわせるために……。

体感時間があやふやになり始めた頃、無意識のうちに人との関わりに飢えていた私の下に現れたのが、リーシェ、君だったんだ」

 

俺がそう告げると、彼女が小さく息を呑む音が聞こえた。

 

「正直に言えば、君に姿を見られる前、半ば八つ当たりのように他の巨人を蹂躙していた姿を見られたのは、内心かなり恥ずかしかった。理外の怪物として振る舞うつもりが、ただの荒ぶるバケモノに見えただろうからな」

 

照れくささを誤魔化すように、俺はゴリゴリと巨大な音を立てて後頭部を掻いた。

 

「ただ、このまま君を見捨ててしまえば、私はもう二度と、自分の『人間としての心』を取り戻せない気がしたんだ。だから、勇気を振り絞って君に声をかけた。……あの時は、本当に怖がらせてしまって済まなかった。いきなり巨人が流暢に挨拶してくるなんて、今考えれば、人間だった頃の私でも腰を抜かして絶命していただろうな」

 

俺は地面に膝をついたまま、手の平の上の彼女に対して、深々と、敬意を込めて頭を下げた。

 

15メートルの巨躯が折れ曲がり、周囲の木々がその風圧でざわめく。

「でも、勇気を出して良かった」

顔を上げ、俺はしみじみと口にした。その言葉に偽りはなかった。

 

「こうして種の壁を超えて、君と語り合うことができた。温かい火を囲み、君から名まで貰えた。……はは、人生とは、本当に何が起こるか分からないものだな」

焚き火の光が、俺の端正な巨人の顔と、リーシェの小さな身体を優しく照らし出す。

 

元人間だった巨人と、彼を信じ始めた兵士。

二人の間に流れる時間は、もはや捕食者と被食者のそれではなく、暗闇の中で互いの体温を確かめ合う、孤独な魂同士の共鳴だった。

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