進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

171 / 171
第百七十一話

 

 

845年10月19日

 

 

シガンシナ区の朝の空気は少しずつ冷たさを増し、秋の深まりを感じさせるようになっていた。

 

 

つい先日、ユミルが現れてから二日目のドタバタの合間を縫って、俺が帝都のエルヴィン団長に向けて書き送った手紙に対する返事が、早くも今朝、早馬で届けられた。

 

 

相変わらず仕事が早すぎる。

 

 

彼の胃壁の無事を密かに祈りつつ、手紙の内容に目を通した。

 

 

我が家の現状はというと、あの一件以降、リーシェとユミルからの狂ったような濃厚接触は随分と落ち着きを見せていた。

 

 

もちろん、朝の挨拶代わりの「おはようのちゅー」だけは、なぜか二人の間で不可侵の絶対権利として続行されているようだが。

 

 

それでも、街中での公開処刑や風呂場での襲撃がなくなっただけでも、俺の羞恥心と精神衛生は劇的に改善されている。

 

 

 

そんな平和な空気が漂う、昼下がりのリビング。

 

 

俺たちは三人仲良くテーブルを囲み、昼食のシチューと焼きたてのパンを食べていた。

 

 

「リーシェ、ユミル。来週、帝都でユミルの件について説明と、戸籍のあれこれとかも含めてご挨拶しに行くことになったよ」

 

 

俺は、まるで「今日の夕飯はハンバーグだよ」とでも伝えるかのような、極めて軽いトーンで二人に切り出した。

 

 

「ええそう、分かったわ」

 

パンにジャムを塗っていたリーシェは、特に興味もない様子で、涼しげに軽く微笑を浮かべながら返事をした。

 

 

彼女にとっては、俺と一緒に行動できるなら、行き先が帝都だろうが壁外の荒野だろうが、全く関係ないのだろう。

 

 

 

一方、左隣に座っていたユミルは、シチューを頬張っていたスプーンをピタリと止め、バッと顔を上げた。

 

 

「お姉様……! 帝都ってどんな所なの? 美味しいもの、いっぱいあるかな!?」

 

 

その鈍色の金髪を揺らし、紫色の瞳を期待にキラキラと輝かせながら、見事に食べ物のことだけを聞いてくるユミル。

 

 

(……この娘、いつの間にかすっかり食いしん坊キャラになったよな……)

 

 

俺は苦笑しながら、ユミルの頭を優しく撫でた。

 

 

確かに、二千年前の古代エルディア帝国の質素な食事に比べれば、現在の壁内人類、それもウォールマリアまで生存領域として存在している為、食文化──特にシガンシナ区や帝都のそれは、信じられないほど豊かで美味しいものに溢れているのだろう。

 

 

それにしても、受肉してからというもの、彼女の食欲は留まることを知らない。

 

 

そういえば、以前リーシェから聞いたのだが、ユミルは何でも、どれだけ甘いお菓子やカロリーを過剰摂取しても、何か『道』の謎の能力で肉体の姿が完全固定されているから、絶対に太らないらしいのだ。

 

 

(『道』って、そんな便利なエステ感覚で使うものだっけ……?)

 

 

俺の知る『道』は、もっとこう、有機生物の起源とか、魂の繋がりとか、そういう神聖で壮大なシステムだったはずなのだが。

 

 

(…………後で、そのやり方こっそり教えてもらおっと)

 

 

俺は前世からのオタク特有の好奇心と、超絶美少女ボディを維持するための乙女心(?)を覗かせながら、昼食のシチューを平和に平らげたのだった。

 

 

────────────────────────

 

 

そして、その日の夜、寝る前のこと。

 

 

俺はパジャマ姿のまま、リビングで夜食のクッキーを幸せそうにサクサクと齧っているユミルを捕まえ、昼間から気になっていた『太らないチート能力』について尋ねてみた。

 

 

「ねえユミル。その姿が固定される魔法みたいなやつ、私にもできるのかな?」

 

 

するとユミルは、クッキーを飲み込んでから、不思議そうに小首を傾げた。

 

「え? お姉様、何言ってるの? その効果、もうとっくにお姉様の身体にも適用されてるよ?」

 

「……はい?」

 

俺は間抜けな声を漏らした。

 

適用されてる? いつの間に?

 

俺が目を丸くしていると、ユミルは得意げに、衝撃の事実をペラペラと語り始めた。

 

 

事の発端は、あの地下礼拝堂での別れの瞬間にまで遡る。

 

 

俺がフリーダの呪いを解呪し、ユミルの持つ「始祖の力」を、俺自身の独立した『道』のサーバーへと完全に移行させようとした、あのギリギリのタイミング。

 

 

ユミルから突然の不意打ちキスを食らった俺は、完全に動揺してしまい、作業(ハッキング)の精度が著しくガバってしまったらしい。

 

「あの時ね、お姉様がびっくりして固まっちゃったせいで、始祖の力が半分くらいしか移行できてなかったんだよ。だから、私の『道』とお姉様の『道』が、その残った力(太いパイプ)でガッチリ繋がっちゃったんだー」

 

 

「えぇ……」

 

 

「でもね、それのおかげで良いこともあったんだよ! お姉様の『道』には、巨人を自動でこねこねしてくれる凄いシステム(概念)があったでしょ? それを私の『道』にそっくりそのままコピペしたの! だから、私がつきっきりで砂を弄らなくても、勝手に『道』が回るようになったんだ!」

 

 

なんということだ。

 

 

俺の元からあった勝手に転生特典だと考えている『道』の自動砂こねこねシステムを、ユミルが自らコピペしてシステムを自動化させていたとは。

 

 

これでもう、彼女が永遠に奴隷のように巨人を捏ね続ける必要はなくなったというわけか。それはそれで素晴らしいことだが。

 

 

「ついでにね、お姉様の『道』のシステムにも、私からちょっとだけ細工させてもらったんだー。その中の一つが、今の『姿の固定』なの!」

 

 

「姿の固定…」

 

 

「うん! 元々は、愛するお姉様に不老不死になってもらうために組み込んだんだけどね。

副作用的な感じで、いくら食べても太らないし、逆に痩せすぎたりもしない、一番綺麗で完璧な状態から絶対に崩れないようになったんだよ!」

 

 

「不老不死!?」

 

しれっととんでもないワードが飛び出した。

 

 

俺のこの比類無き黄金比の超絶美少女ボディは、もはや加齢すらも超越してしまったというのか。

 

 

「あ、オマケとして、リーシェにも同じ効果を適用しておいたよ! お姉様のパートナーが老衰で死んじゃったら、お姉様悲しむもんね!」

 

 

「本人未承諾で何やってんの!?」

 

俺は頭を抱えた。

 

 

人類最強のヤンデレ鬼神が、文字通りの不老不死になってしまった。

 

 

冗談抜きで、この先のパラディ島……いや世界の生態系と歴史が変わってしまうぞ。

 

 

「でも、流石にこの固定化の枠には制限があるみたいで、他の人にはもう出来ないんだよねー。残念」

 

 

ユミルは全く悪びれる様子もなく、残りのクッキーを口に放り込んだ。

 

「そうしてね、自動化も終わって、お姉様も不老不死になって安心したところで、私の新しい器(肉体)をチャチャッと作って……繋がったパイプでお姉様の道を経由して、この世界のお姉様のお腹の上にポンッて現れたってわけ!」

 

 

「…………」

 

 

ユミルの無邪気な説明を聞き終え、俺はすべての点と点が線で繋がるのを理解した。

 

 

そもそも、二千年前の神様がなぜ現代に受肉できたのか。

 

 

そのすべての原因は

 

元を正せば、あの別れ際のキスで俺が情けなく動揺し、システム移行をガバってしまったことにあるのだ。

 

 

俺が、あそこで完璧にハッキングを完了させていれば。

 

 

ユミルが俺の『道』に干渉することも、現実世界に受肉することも、このドロドロの百合修羅場が形成されることもなかったのだ。

 

 

 

俺は、パタパタと足を揺らして上機嫌なユミルを見つめながら、心の中で血の涙を流し、絶望の底から魂の叫びを上げた。

 

 

(……やっぱ、全部俺のせいじゃねぇか!!!!)

 

 

自業自得という重すぎる十字架を背負い、俺の胃痛と羞恥に満ちた平穏な日々は、来週の帝都への旅に向けて、さらなる混沌へと突き進んでいくのだった。

 

 

(まぁ…ユミルをずっとあの『道』でひとりぼっちにさせるよりマシか…)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

TS転生憑依ロリ人造人間16号(作者:政田正彦)(原作:ドラゴンボール)

お、俺はただ……じ、人造人間16号を美少女にしたら……▼お、おもしれえんじゃねえかと思ってよ……へへ……▼だ、だから……美少女にした上で記憶ぶっこ抜いた男を憑依させて……TS転生憑依ロリ人造人間16号を造ったんだ……▼クククッ……も、もう止められんぞ……▼ヤツの曇らせと勘違いの嵐は……!!▼なんか思ったより長引きそうだから短編から連載に変えたぞ……クククッ……


総合評価:4945/評価:8.64/連載:12話/更新日時:2026年04月03日(金) 14:20 小説情報

七崩賢『強欲の魔女』エキドナ(偽物)(作者:魔女の茶会のお茶汲み係)(原作:葬送のフリーレン)

 フリーレン世界にエキドナ憑依系TS転生者をぶち込んで、ただただエキドナロールプレイさせるだけの愉快なお話。▼「ボクはただ、君の全てを知りたいだけさ」▼ なおスペックは、種族が魔族になった以外まんまエキドナと同程度の力を扱えるが、頭が少しばかり残念になってます。▼「お前はその好奇心を満たすためにどれだけの人間を殺したんだ」▼ ちなこの転生者は人殺したことはあ…


総合評価:4918/評価:8.38/連載:2話/更新日時:2026年04月05日(日) 22:18 小説情報

【悲報】目覚めたら巨人だった【敵じゃないよ】(作者:佐東)(原作:進撃の巨人)

目が覚めたら進撃の巨人世界で無垢の巨人になってた。▼「オ゙エ゙ア゙ア゙!ガオガオ!」▼(俺は敵じゃない!善良な巨人なんだ!)▼何とか人類の味方になったり人間に戻ったりしたい男の話。▼↓なんとなくのイメージ図を載せてみたり。▼【挿絵表示】▼心優しい化け物になる人外転生が好きなので自給自足しました。誰か書いてください。▼☆カニ・バ・リズム☆様からイオリのファンア…


総合評価:12704/評価:8.41/連載:40話/更新日時:2026年05月12日(火) 18:00 小説情報

呪術廻戦in水神(作者:白黒ととか)(原作:呪術廻戦)

原神のフリーナが大好きなオリ主が転生してフリーナの見た目と声、過剰なモリモリスペックになったオリ主がビビりながらロールプレイしつつ呪い合うお話。▼2026.4.27_あらすじをあらすじにしました。▼p.s.漫画読んでる時「人の心とか無いんか⤵︎」だと思ってたらアニメで「人の心とか無いんかぁ⤴︎」だったのを見て笑いすぎて椅子から転げ落ちた▼


総合評価:6344/評価:8.58/連載:30話/更新日時:2026年04月27日(月) 18:45 小説情報

ウマ娘に領域展開を教えたい転生者トレーナー(作者:白髪サングラス女)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

担当ウマ娘に領域展開を教えたい六眼・無下限呪術持ち一般転生女トレーナーの話


総合評価:6158/評価:8.13/連載:6話/更新日時:2026年04月16日(木) 22:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>