進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
845年10月19日
シガンシナ区の朝の空気は少しずつ冷たさを増し、秋の深まりを感じさせるようになっていた。
つい先日、ユミルが現れてから二日目のドタバタの合間を縫って、俺が帝都のエルヴィン団長に向けて書き送った手紙に対する返事が、早くも今朝、早馬で届けられた。
相変わらず仕事が早すぎる。
彼の胃壁の無事を密かに祈りつつ、手紙の内容に目を通した。
我が家の現状はというと、あの一件以降、リーシェとユミルからの狂ったような濃厚接触は随分と落ち着きを見せていた。
もちろん、朝の挨拶代わりの「おはようのちゅー」だけは、なぜか二人の間で不可侵の絶対権利として続行されているようだが。
それでも、街中での公開処刑や風呂場での襲撃がなくなっただけでも、俺の羞恥心と精神衛生は劇的に改善されている。
そんな平和な空気が漂う、昼下がりのリビング。
俺たちは三人仲良くテーブルを囲み、昼食のシチューと焼きたてのパンを食べていた。
「リーシェ、ユミル。来週、帝都でユミルの件について説明と、戸籍のあれこれとかも含めてご挨拶しに行くことになったよ」
俺は、まるで「今日の夕飯はハンバーグだよ」とでも伝えるかのような、極めて軽いトーンで二人に切り出した。
「ええそう、分かったわ」
パンにジャムを塗っていたリーシェは、特に興味もない様子で、涼しげに軽く微笑を浮かべながら返事をした。
彼女にとっては、俺と一緒に行動できるなら、行き先が帝都だろうが壁外の荒野だろうが、全く関係ないのだろう。
一方、左隣に座っていたユミルは、シチューを頬張っていたスプーンをピタリと止め、バッと顔を上げた。
「お姉様……! 帝都ってどんな所なの? 美味しいもの、いっぱいあるかな!?」
その鈍色の金髪を揺らし、紫色の瞳を期待にキラキラと輝かせながら、見事に食べ物のことだけを聞いてくるユミル。
(……この娘、いつの間にかすっかり食いしん坊キャラになったよな……)
俺は苦笑しながら、ユミルの頭を優しく撫でた。
確かに、二千年前の古代エルディア帝国の質素な食事に比べれば、現在の壁内人類、それもウォールマリアまで生存領域として存在している為、食文化──特にシガンシナ区や帝都のそれは、信じられないほど豊かで美味しいものに溢れているのだろう。
それにしても、受肉してからというもの、彼女の食欲は留まることを知らない。
そういえば、以前リーシェから聞いたのだが、ユミルは何でも、どれだけ甘いお菓子やカロリーを過剰摂取しても、何か『道』の謎の能力で肉体の姿が完全固定されているから、絶対に太らないらしいのだ。
(『道』って、そんな便利なエステ感覚で使うものだっけ……?)
俺の知る『道』は、もっとこう、有機生物の起源とか、魂の繋がりとか、そういう神聖で壮大なシステムだったはずなのだが。
(…………後で、そのやり方こっそり教えてもらおっと)
俺は前世からのオタク特有の好奇心と、超絶美少女ボディを維持するための乙女心(?)を覗かせながら、昼食のシチューを平和に平らげたのだった。
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そして、その日の夜、寝る前のこと。
俺はパジャマ姿のまま、リビングで夜食のクッキーを幸せそうにサクサクと齧っているユミルを捕まえ、昼間から気になっていた『太らないチート能力』について尋ねてみた。
「ねえユミル。その姿が固定される魔法みたいなやつ、私にもできるのかな?」
するとユミルは、クッキーを飲み込んでから、不思議そうに小首を傾げた。
「え? お姉様、何言ってるの? その効果、もうとっくにお姉様の身体にも適用されてるよ?」
「……はい?」
俺は間抜けな声を漏らした。
適用されてる? いつの間に?
俺が目を丸くしていると、ユミルは得意げに、衝撃の事実をペラペラと語り始めた。
事の発端は、あの地下礼拝堂での別れの瞬間にまで遡る。
俺がフリーダの呪いを解呪し、ユミルの持つ「始祖の力」を、俺自身の独立した『道』のサーバーへと完全に移行させようとした、あのギリギリのタイミング。
ユミルから突然の不意打ちキスを食らった俺は、完全に動揺してしまい、作業(ハッキング)の精度が著しくガバってしまったらしい。
「あの時ね、お姉様がびっくりして固まっちゃったせいで、始祖の力が半分くらいしか移行できてなかったんだよ。だから、私の『道』とお姉様の『道』が、その残った力(太いパイプ)でガッチリ繋がっちゃったんだー」
「えぇ……」
「でもね、それのおかげで良いこともあったんだよ! お姉様の『道』には、巨人を自動でこねこねしてくれる凄いシステム(概念)があったでしょ? それを私の『道』にそっくりそのままコピペしたの! だから、私がつきっきりで砂を弄らなくても、勝手に『道』が回るようになったんだ!」
なんということだ。
俺の元からあった勝手に転生特典だと考えている『道』の自動砂こねこねシステムを、ユミルが自らコピペしてシステムを自動化させていたとは。
これでもう、彼女が永遠に奴隷のように巨人を捏ね続ける必要はなくなったというわけか。それはそれで素晴らしいことだが。
「ついでにね、お姉様の『道』のシステムにも、私からちょっとだけ細工させてもらったんだー。その中の一つが、今の『姿の固定』なの!」
「姿の固定…」
「うん! 元々は、愛するお姉様に不老不死になってもらうために組み込んだんだけどね。
副作用的な感じで、いくら食べても太らないし、逆に痩せすぎたりもしない、一番綺麗で完璧な状態から絶対に崩れないようになったんだよ!」
「不老不死!?」
しれっととんでもないワードが飛び出した。
俺のこの比類無き黄金比の超絶美少女ボディは、もはや加齢すらも超越してしまったというのか。
「あ、オマケとして、リーシェにも同じ効果を適用しておいたよ! お姉様のパートナーが老衰で死んじゃったら、お姉様悲しむもんね!」
「本人未承諾で何やってんの!?」
俺は頭を抱えた。
人類最強のヤンデレ鬼神が、文字通りの不老不死になってしまった。
冗談抜きで、この先のパラディ島……いや世界の生態系と歴史が変わってしまうぞ。
「でも、流石にこの固定化の枠には制限があるみたいで、他の人にはもう出来ないんだよねー。残念」
ユミルは全く悪びれる様子もなく、残りのクッキーを口に放り込んだ。
「そうしてね、自動化も終わって、お姉様も不老不死になって安心したところで、私の新しい器(肉体)をチャチャッと作って……繋がったパイプでお姉様の道を経由して、この世界のお姉様のお腹の上にポンッて現れたってわけ!」
「…………」
ユミルの無邪気な説明を聞き終え、俺はすべての点と点が線で繋がるのを理解した。
そもそも、二千年前の神様がなぜ現代に受肉できたのか。
そのすべての原因は
元を正せば、あの別れ際のキスで俺が情けなく動揺し、システム移行をガバってしまったことにあるのだ。
俺が、あそこで完璧にハッキングを完了させていれば。
ユミルが俺の『道』に干渉することも、現実世界に受肉することも、このドロドロの百合修羅場が形成されることもなかったのだ。
俺は、パタパタと足を揺らして上機嫌なユミルを見つめながら、心の中で血の涙を流し、絶望の底から魂の叫びを上げた。
(……やっぱ、全部俺のせいじゃねぇか!!!!)
自業自得という重すぎる十字架を背負い、俺の胃痛と羞恥に満ちた平穏な日々は、来週の帝都への旅に向けて、さらなる混沌へと突き進んでいくのだった。
(まぁ…ユミルをずっとあの『道』でひとりぼっちにさせるよりマシか…)