進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百七十二話

 

 

845年10月22日、夜

 

 

帝都ミットラスの旧王城の奥深く、重厚な扉に閉ざされた特別会議室には、新エルディア帝国の首脳陣とも呼べる面々が集結していた。

 

 

アトラス殿とリーシェ班長、そして例の同居人(始祖ユミル)との直接会談まで、残り三日。

 

 

 

長机の上座には、新女王として即位したフリーダ・レイスが静かに腰を下ろしている。

 

 

その周囲を囲むように、調査兵団団長である私、憲兵団師団長のナイル・ドーク、駐屯兵団のピクシス司令、そして調査兵団の幹部であるリヴァイ、ハンジ、ミケが顔を揃えていた。

 

 

私は咳払いを一つし、数日前にシガンシナ区から届いたばかりの『問題の手紙』を机の中央に置いた。

 

 

 

「夜遅くに集まってもらい感謝する。本日の議題はただ一つだ。三日後に帝都へやってくるアトラス・ベニア殿の用件……すなわち、手紙に記されていた『始祖ユミルの受肉と、彼女らとの同居』について、情報の共有と各々の見解のすり合わせを行いたい」

 

 

私の言葉に、会議室の空気が微かに揺れた。

 

 

しかし、その反応は私が予想していたような「全人類の危機」に対する絶望的な戦慄とは、少し毛色が異なっていた。

 

 

無理もない。ここにいる彼らは、壁内人類の真実や九つの巨人の存在については最低限の理解を得ているものの、グリシャ氏から語られた『始祖ユミルが持つ真のデタラメなスペック(世界を容易く滅ぼせる力)』については、まだ実感として理解できていないのだ。

 

 

 

沈黙を破ったのは、女王であるフリーダ氏だった。

 

 

彼女は机の上の手紙を見つめ、どこか憑き物が落ちたような、スッキリとした表情で頷いた。

 

 

「あの地下礼拝堂で、アトラスさんが私に触れたあの瞬間。

私の頭の中から、歴代の王たちの怨念めいた声が完全に消え去り、同時に『始祖の巨人』としての能力が一切行使できなくなったのです。

……大元である『始祖ユミル』ご本人が、あの見えない世界から抜け出して実体化してしまったのだとすれば、私がアクセスする先が失われ、力を使えなくなったのも道理というわけです」

 

 

彼女は自身の無力化の理由が判明し、むしろ納得したように微かに微笑んですらいた。

 

 

それに続くように、ナイルが腕を組みながら大きく息を吐き出した。

 

 

「神話の人物が生き返った……いや、受肉したってのは確かに信じ難い驚きだがよ。

エルヴィン、お前がそんなに胃を痛めるような事か? アトラスの奴らがシガンシナ区で大人しく同居してるなら、それでいいじゃねぇか」

 

「ナイル、お前は事の重大さが分かっていない……」

 

 

「俺は、俺の家族が無事で、壁の中が平和ならそれで良いんだよ。相手が神様だろうが何だろうが、アトラスが上手く手綱を握ってくれてるんだろ?」

 

 

事態の深刻さを全く理解していないナイルの楽観的な言葉に、私は再び胃の辺りがズキリと痛むのを感じた。

 

 

「フォッフォッフォ! ナイルの言う通りじゃ。案ずるより産むが易し、というやつじゃな」

 

 

ピクシス司令が、携帯用のスキットルを傾けながら上機嫌に笑い声を上げた。

 

 

「ワシはむしろ、大いに期待しておるんじゃよ! あの規格外の力を持つアトラス殿が、奇跡のような『超絶美少女』であったという前例がある。

ならば、二千年前の神様とやらも……さぞかし極上の美少女として顕現しているに違いないのう! あわよくば、ワシと一緒に酒を酌み交わしてくれんじゃろうか!」

 

 

「司令、不敬極まりない発言は慎んでいただきたい……!」

 

 

私は大っぴらに神様の容姿(美少女)に期待を寄せる最高(最低)司令官を、頭痛を堪えながら嗜めた。

 

 

そんな中、完全に別のベクトルで狂気に呑まれている者がいた。ハンジである。

 

「アハハハハ! いやー、たまらないね! 神話の存在がどうやって質量を持った肉体としてこの現実世界に顕現したのか! そのメカニズムは!? 巨人化するとしたら一体どんな姿になるんだろう!? アトラスと同じ15m級? いや、始祖なんだからもっとデカいのか!? 100mくらいあったりして!」

 

 

ハンジは机に身を乗り出し、目を血走らせながら興奮のままにまくし立てた。

 

 

 

「ねえエルヴィン! もしアトラスと始祖ユミルが本気で殴り合ったら、一体どっちが勝つと思う!? その戦闘の余波で、この壁内の地盤はどれくらい抉れるかな!? あぁーっ、早く直接本人たちに会って、この仮説の答え合わせがしたくてたまらないよ!」

 

 

 

「ハンジ、頼むから本人たちの前でその実験的・破壊的な探求心を爆発させるのだけは堪えてくれ。帝都が消し飛ぶ」

 

 

私は本気で懇願した。

 

 

一方で、壁際で一人腕を組み、黙って手紙の匂いを嗅いでいたミケの顔色は、決して良いものではなかった。

 

 

彼はスッと目を細め、鼻をヒクつかせて低く唸った。

 

 

「……ミケ、何か分かるか?」

 

 

私の問いに、ミケは険しい表情のまま答えた。

 

 

「……この手紙から、微かにだがアトラスのいつもの甘い花の香りがする。だが、それに混じって……別の『匂い』がべったりと付着している」

 

 

「別の匂い?」

 

 

「あぁ。例えるなら……何かに対する、底なしの執着。ただならぬ『劣情』と『独占欲』の匂いだ。

……この匂いの性質、どこかで嗅いだことがあると思ったら、リーシェと同じだ」

 

 

その言葉に、会議室の空気が一瞬だけ凍りついた。

 

 

あの、アトラス至上主義にして人類最強のヤンデレ鬼神・リーシェと同質の匂い(劣情)を放つ存在が、アトラスと共に同居している……?

 

 

ミケは「またアトラスの奴、ヤバい奴に目をつけられたのか……」と、戦々恐々とした表情で身震いをした。

 

 

そんな混沌とした会議室の空気を切り裂くように、窓際にもたれかかっていたリヴァイが、不機嫌そうに舌打ちをした。

 

 

「チッ……神様だろうがバケモノだろうが、知ったこっちゃねぇ。どうせまた、あいつの周りが騒がしくなるだけだろ」

 

 

冷たく、興味がない風を装って言い放つリヴァイ。

 

 

だが、その鋭い眼光の奥には、確かな憂いの色が浮かんでいた。

 

 

(……あのお人好しのバカが、また厄介事を背負い込んで、無理してねぇだろうな……)

 

 

口には出さないが、彼は内心で、規格外の運命に振り回され続けるアトラスの身を、一人の仲間としてごく普通に案じていたのだ。

 

 

「……とにかくだ」

 

 

私は深く息を吸い込み、会議の締めくくりに入った。

 

 

「三日後、彼女たちはこの帝都へやってくる。我々が相対するのは、壁内人類の常識が一切通用しない、究極のイレギュラーたちだ。決して失礼のないよう、そして、最悪の事態を引き起こさないよう、各員気を引き締めて事に当たってくれ」

 

 

私の号令に、会議室の面々はそれぞれの思惑と期待(と不安)を胸に、力強く頷いた。

 

 

窓の外には、静かな帝都の夜の街並みが広がっている。

 

 

果たして、三日後の会談は無事に終わるのか。私は手元の胃薬の小瓶を握りしめながら、迫り来る未知の神様との対面に向け、ただただ自身の胃壁の無事を祈るしかなかった。

 

 

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