進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百七十三話

 

 

845年10月23日

 

 

高く澄み渡った秋晴れの空の下、シガンシナ区のベニア邸の前には、帝都ミットラスへ向かうための立派な馬車が横付けされていた。

 

 

エルヴィン団長が手配してくれた、調査兵団の紋章が控えめに刻まれた特注の馬車だ。

 

 

乗り心地も良さそうだし、護衛の兵士まで数名付いているというVIP待遇である。

 

 

俺は、お気に入りの純白のワンピースに身を包み、少しだけ冷たい朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 

 

シガンシナ区を出て遠出をするのは、あの日、地下礼拝堂での決戦に向かった時以来だ。

 

 

だが、あの時のような胃の痛くなるような緊迫感は微塵もない。

 

 

今回はあくまで、新政府の上層部への「ご挨拶」と、ユミルの「戸籍登録」のための顔合わせである。

 

 

言うなれば、ちょっとしたお泊まり旅行のようなものだ。

 

 

前世の修学旅行を思い出すような、不思議な高揚感が胸を満たしていく。

 

「2人とも、準備はできた?」

 

 

俺が振り返って確認すると、玄関からひょっこりと顔を出したユミルが、花が咲いたような明るい笑顔で応えた。

 

 

「大丈夫だよ、お姉様!」

 

『道』の砂漠から俺に会う為現世に受肉したユミルも、初めての遠出に少しウキウキしているようだ。

 

 

腰まで届く鈍色の金髪が、朝日にキラキラと反射している。

 

 

続くように、荷物の入った鞄を手にしたリーシェも、落ち着いた足取りで出てきた。

 

 

「大丈夫よ。荷物は私が預かっておくから」

 

 

人類最強の鬼神にしてアトラス至上主義のリーシェは、今日も非の打ち所がないほど美しい。

 

 

その頼もしい返事に、俺は嬉しくなってパッと笑顔を弾けさせた。

 

 

「よしっ! じゃあ、しゅっぱーつ!」

 

 

俺は意気揚々と右の拳を天高く突き上げ、元気いっぱいに声を上げた。

 

 

だが、その直後。

 

 

目の前に立つ二人が、顔を見合わせ、まるで可愛らしい小動物でも見るかのように、可笑しそうにくすくすと笑い始めたのだ。

 

 

「ふふっ。お姉様ぁ、もしかして…結構ワクワクしてた?」

 

 

ユミルが、少し首を傾げながら、揶揄うようなニヤニヤ顔で弄ってくる。

 

 

「ユミル、分かってても言っちゃダメよ。

ほらっ、アトラスが顔真っ赤にしちゃったじゃない」

 

 

リーシェが優しく手を差し伸べて、フォローを入れてくれた……かと思いきや。

 

 

「……ほんと、可愛いんだから」

 

 

と、俺の赤くなった頬をツンと突きながら、一緒になってとどめを刺してくるではないか。

 

 

(うぐっ……! 見透かされてる……!)

 

 

確かに、ちょっとはしゃぎ過ぎた自覚はある。

 

 

だが、それを正面から指摘されて「可愛い」なんて言われると、前世からの男のプライド(残りカス)が激しく羞恥の警鐘を鳴らすのだ。

 

 

俺は片頬をぷくっと膨らませ、そっぽを向いた。

 

 

「……っ! 二人なんてもう知らないっ!」

 

 

これ以上顔の赤さを見られないよう、恥を誤魔化すために、俺はさっさと馬車の方へと歩みを進める。

 

 

「あはは、ごめんねお姉様! 待ってー!」

 

「ふふ、拗ねた顔も素敵よ、アトラス」

 

 

二人は全く反省した様子もなく、ニヤニヤと笑いながら俺の隣に並び、ご機嫌取りのように両脇から俺の腕に腕を絡ませてきた。

 

 

その柔らかな感触と、二人から漂う甘い香りに、俺の怒りなど数秒で霧散してしまう。

 

 

「……もう、次は置いてくからね」

 

 

俺はわざとらしくため息を一つついて、呆れたように二人を許したのだった。

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

それからの道中は、絵に描いたような平和で甘い時間だった。

 

 

豪華な馬車の密室空間。向かい合わせの席があるというのに、なぜか二人は俺の両脇にピタリと密着して座っている。

 

 

「お姉様、あーん!」

 

 

道中、ユミルが持参したお菓子を俺の口に運んできたり。

 

 

「アトラス、少し疲れたでしょ。膝、貸してあげる」

 

 

と、リーシェが俺の頭を自身の太ももに引き寄せ、極上の膝枕を提供してくれたり。

 

 

俺がリーシェの膝枕でウトウトしていると、ユミルが対抗して俺の顔を覗き込み、唇が触れるか触れないかの距離まで近づいてきて、ちょっと危ない(意味深)雰囲気になったりと。

 

 

 

傍から見れば、絶世の美少女三人がキャッキャウフフと爛れたイチャイチャを繰り広げているだけの、極めてけしからん馬車の旅であった。

 

 

 

そうして夕刻

 

馬車は無事に中継地点であるトロスト区へと到着した。

 

 

エルヴィン団長が手配してくれたのは、区内でも最高級であろう立派な宿だった。

 

 

俺たちは長旅の埃を落とすために、広々とした浴室で三人一緒に身を清めた(あの日程ではないにせよ、お風呂でも過剰なスキンシップの嵐に遭い、俺は茹でダコのように真っ赤になった)。

 

 

その後、宿の併設されたレストランで夕食を共にしたのだが……これがまた別の意味で疲れた。

 

 

俺、リーシェ、ユミルという、神がかり的な美貌を持つ三人が同じテーブルを囲んでいるのだ。

 

 

周囲の客や宿の従業員からの視線は、もはや痛いほどだった。

 

 

「あんな綺麗な娘たち、見たことねぇぞ……」「三姉妹か? いや、それにしても……」というざわめきが絶えず、俺は恥ずかしさでずっと俯いたまま、二人に「あーん」で料理を食べさせられる公開処刑を味わう羽目になったのだ。

 

 

 

 

そして、夜

 

すべての予定を終え、割り当てられた宿の豪華な部屋に戻ってきた俺は、現在、致命的な問題に直面していた。

 

 

「……流石に、狭くない?」

 

 

俺は、天井の立派なシャンデリアを見据えながら、ひきつった声で苦言を呈した。

 

 

シガンシナ区の家にある俺たちのベッドは、区内随一の職人がリーシェの要望通り作り上げた特注品だ。

 

 

非常に大きく、頑丈で、どんな激しい動き(意味深)をしても軋む音すらしない、完璧な城である。

 

 

しかし、ここは宿だ。いくら高級とはいえ、備え付けのベッドはそうもいかない。

 

 

部屋には、一人用のゆったりとしたベッドがちゃんと「三つ」用意されていた。

 

 

それなのに、だ。

 

 

当然のように、リーシェとユミルは俺が寝ようとしていた一つのベッドに両脇から潜り込み、俺を真ん中に挟み込む形でがっちりとホールドしているのである。

 

 

三人もの大人が一つのベッドに横になれば、少し身じろぎするだけで「ギシッ……」と頼りない音が鳴るし、何より密着度が尋常ではない。

 

 

しかも、風呂上がりで寝る前ということもあり、俺を含め三人とも薄手のネグリジェのようなもので、肌の露出が非常に多い。

 

 

 

必然的に、右からはリーシェの、左からはユミルの、直の肌の温もりと、女性特有の柔らかな質感が、俺の過敏な美少女ボディの全身にダイレクトに浴びせられる事態に陥っていた。

 

 

「ふふっ、安心して? アトラスが寝るまで、何もしないから」

 

 

右耳のすぐ傍で、リーシェが甘い吐息を交えながら、妖艶な声で囁いてきた。

 

 

「……いやそれ、私が寝た後、何かするってことじゃん……」

 

 

俺が呆れ半分、恐怖半分でツッコミを加えると。

 

 

「ふふっ」

 

 

リーシェはそれ以上何も言わず、否定もせずに、シーツの下で俺の足に自身の滑らかな脚をスルスルと絡ませてきた。

 

 

(ひっ……!?)

 

 

体温が直に伝わり、俺の心臓がドクンと大きく跳ねる。

 

 

すると今度は、左側から。

 

「……お姉様」

 

「ひゃうっ……///」

 

突然、ユミルが俺の左耳の敏感な部分に吐息を吹きかけながら、くすぐるように囁きかけてきたのだ。

 

 

不意打ちの刺激と、快感にも似た甘い声色に、俺の口から意図せず可愛らしい悲鳴が漏れてしまう。

 

 

「……っ! えへへ、前から思ってたけど……お姉様って……すっごく"敏感"だよね……?」

 

 

ユミルの瞳が、暗い部屋の中でも怪しく、そして捕食者のようにギラリと光ったのが見えた。

 

 

(まずい……!)

 

 

俺の脳内で、最大級の危険信号が鳴り響く。

 

 

このままだと、この薄い壁の宿で、防音設備もないまま、この過剰な性欲と愛情を持った二人に完全に捕食(意味深)されてしまう!

 

 

心なしか、反対側にいるリーシェの抱擁の力も、獲物を逃がさない蛇のように強くなっている気がする。

 

 

「も、もう寝るよっ……!」

 

 

俺はこれ以上の刺激をシャットアウトするため、自身の羞恥を隠すように、ギュッと強引に目を閉じた。

 

 

逃げ場はない。せめて、狸寝入りでも何でもして、この嵐が過ぎ去るのを待つしかない。

 

 

そんな俺の必死な抵抗すらも、彼女たちにとっては最高の娯楽(ご褒美)でしかないのだろう。

 

 

左右から、くすくすと、愛おしくてたまらないといった様子の小さな笑い声が聞こえてきた。

 

 

 

そして──────

 

 

ちゅっ……、ちゅっ……

 

 

俺の火照った両頬に、同時に、とても優しくて柔らかな感触が落とされた。

 

「おやすみなさい、アトラス」

 

「おやすみ、お姉様」

 

愛に満ちた二人の囁き。

 

 

だが、脚は絡められたままで、密着した柔らかな肌からは尋常ではない熱が伝わり続けている。

 

 

(……こんな状況で、寝られるわけないだろ……っ!)

 

 

俺は真っ暗な視界の中で顔を極限まで赤く染め上げながら、自身の尊厳と理性を守るための、長く果てしない夜の戦いを覚悟した。

 

 

 

 

 

当然ながら、その日、俺は中々寝付けるはずもなかった。

 

 

 

 

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