進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百七十四話

翌朝

 

 

トロスト区の宿で軽く朝食を済ませた俺たちは、昼前まで街をぶらりと観光することにした。

 

 

秋の涼しい風が吹き抜ける中、活気を取り戻しつつあるトロスト区の市場を見て回り、道中の馬車で食べるための甘い焼き菓子や果物などの食べ物をたっぷりと買い込む。

 

 

 

すっかり食いしん坊キャラが板についたユミルは、両手に紙袋を抱えてご機嫌だった。

 

 

その後、ウォール・シーナ南部の要衝であるエルミハ区に向かう馬車に乗り込む。

 

 

 

初日と同じように、道中は特にトラブルもなく、俺が二人に挟まれて過剰なスキンシップの標的にされるという極めて平和(?)な状態のまま馬車は進み、夕暮れ時には無事、エルミハ区の宿へと到着した。

 

 

 

そして夜

 

 

昨日、あんなにも「狭い」「寝られない」と俺が内心で絶望の抵抗を見せたというのに。

 

 

今日も今日とて、当たり前のように一つのベッドに三人並んで密着していた。

 

 

右にはリーシェの滑らかな肌。

 

 

左にはユミルの柔らかな体温。

 

 

薄着の美少女三人が一つのシーツに包まり、身動きを取るのも難しいほど密着しているこの状況にも、俺の脳は少しずつ麻痺し、適応(という名の諦め)を始めつつあった。

 

 

「いよいよ明日だね」

 

天井の木目を見つめながら、俺がポツリと口にすると。

 

 

「ええ、そうね。彼らの仰天する顔が容易に想像付くわ」

 

 

右耳の傍で、リーシェが事も無げに、少しだけ意地悪な微笑みを浮かべた声でそう言ってみせた。

 

 

確かにそうだ。

 

 

『始祖ユミル』。エルディア人にとってのすべての始まりであり、二千年前に死んだはずの神話の存在が、何の因果か(ほぼ俺のガバのせいだが)現世に受肉してしまったのだ。

 

 

 

ただでさえ「神様が顕現した」という字面だけでもインパクトが強すぎて脳がバグるというのに。

 

 

それが現実に起こり、あまつさえその神様が、俺のことを「お姉様」と慕ってベッタリと甘えまくっているのだから。

 

 

(……確実に、エルヴィン団長はまた胃を痛めるだろうな……胃薬、差し入れに持ってきた方が良かったかな)

 

 

俺が旧知の上官の胃壁の無事を案じていると、左側にいたユミルが、えへへと無邪気に笑いながら俺の胸元にすり寄ってきた。

 

 

 

「任せて、お姉様っ! このご挨拶が終わったら、必ず盛大な結婚式を挙げるから! ……それで、三人でいーっぱい、愛し合おうね……!」

 

 

「……あぁ……うん、そうだね……」

 

 

俺の口から出たのは、完全に感情と理性を手放した、脳死の同意だった。

 

 

ツッコミどころが多すぎる。

 

 

どうやら、この頭の緩い愛しの妹の頭の中では、明日のご挨拶と戸籍登録など、ただの『通過点(親族への挨拶回り)』に過ぎないらしい。

 

 

それに、戸籍を無事に手に入れたとしても、同性同士だと今のパラディ島の法律では結婚出来ないよ……

 

 

 

という至極真っ当で野暮な現実を突きつける気力も、今の俺には残っていなかった。

 

 

というか、多分その気になれば、この二人のことだ。

 

 

 

────『法律がないなら作ればいいじゃない』

 

 

 

とばかりに、新政府の議会やエルヴィンに直接物理的な圧という名の国家滅亡の脅迫をかけて、その辺の法律の概念ごと強引にねじ曲げて法案を可決させそうである。

 

 

(これが、俺の約束された未来か……)

 

 

 

ついでに言えば、結婚式を挙げたその日の夜に、俺の残り少ない貞操も完全に捧げられる(奪われる)予定らしい。

 

 

 

というか、二人のギラギラした瞳の奥の色を見る限り、確実にこっち(初夜)の方がメインの目的だろう。

 

 

「ふふっ、アトラスと結婚……ね。

こんなに愛らしくて可愛い人と結婚出来るなんて、私、本当に光栄だわ……

沢山の人に祝ってもらいましょ? アトラス」

 

 

リーシェまでもが、俺の首筋に熱い吐息をかけながら、恍惚とした表情で未来のウェディングドレス姿の妄想を膨らませ始めている。

 

 

(お二人さん……どうか、明日の本当の目的(ユミルの自己紹介と戸籍の話し合い)を忘れないでくれよ……)

 

 

俺は、ここ最近で何度目か分からない「死んだ魚の目」を虚空に向けながら、重たくなる瞼をゆっくりと閉じるのだった。

 

 

……

 

………………

 

…………………………

 

……………………………………

 

 

 

そして、運命の朝

 

 

「アトラスのウェディングドレスは絶対に私が仕立てるわ」「えー! 私も『道』の砂で最高のドレス作るもん!」と、昨晩から引きずったままの夢見心地な表情で言い合っている二人を横目に。

 

 

俺はいそいそと、今日着ていく少しだけフォーマルな白いワンピースへの着替えや身支度を済ませた。

 

 

宿を出て、手配されていた馬車に乗り込むまでの僅かな間にも。

 

 

 

道行く人々からの、俺たち三人に対する突き刺さるような熱い視線とざわめきを全身に浴び、俺はすっかり辟易としていた。

 

 

 

美少女三人が並んで歩く破壊力は、エルミハ区でも健在だった。

 

 

「さぁ、行くわよ」

 

 

リーシェの合図と共に、遂に最終目的地である帝都ミットラスに向けて、馬車がゆっくりと出発する。

 

 

 

道中、何度か馬を休ませるための休憩を挟みつつ、シーナ内の整備された石畳の街道を進んでいく。

 

 

 

そして、馬車の窓の外の景色が完全な夜の闇に包まれた頃。

 

 

 

ようやく俺たちは、新エルディア帝国の中枢である帝都ミットラスへと到着した。

 

 

時刻はすでに遅く、日中の活気に満ちた街からの喧騒は静かに消え去っていた。

 

 

 

石造りの重厚な建物の窓から漏れるガス灯やランプの温かい光だけが、石畳の道を微かに、そして幻想的に照らし出している。

 

 

 

馬車は止まることなく、帝都の中心にそびえ立つ巨大な要塞───『旧王城』の分厚い鉄の門を、事前に通達されていた許可証によってスムーズに潜り抜けた。

 

 

 

そのまま石畳の中庭を進み、本殿の入り口と思われる巨大な階段の前で、馬車は静かに横付けされた。

 

 

「到着したわ。降りましょう、アトラス」

 

「うん」

 

リーシェにエスコートされる形で馬車から降り立った俺は、目の前に広がる光景を見て、思わず息を呑んだ。

 

 

「……えっ?」

 

入り口の巨大な扉から、会議室へと続くであろう長い赤絨毯の回廊。

 

 

その両脇に、ズラリと等間隔に整列し、直立不動で待機している兵士たちの姿があった。

 

 

彼らが装備しているのは、通常の調査兵団や駐屯兵団が使うただの立体機動装置ではない。

 

 

散弾銃と立体機動装置を組み合わせた特殊な装備を身につけた兵士たちが、ズラリと等間隔で整列し、無言のまま待機していたのだ。

 

 

 

リヴァイ率いる『対人立体機動部隊』の兵士たちだった。

 

 

 

黒いコートと帽子で顔を隠し、一切の感情を見せずに立ち並ぶその姿は、まるで処刑場へ続く道を作っているかのように冷徹で、ひどく物々しい雰囲気を放っていた。

 

 

(なんだか、凄く物々しい雰囲気だな……)

 

 

俺は少し困惑して、隣を歩くリーシェとユミルの顔を窺った。

 

 

 

確かに手紙には防衛上の方針に関わる重大な何かとやらが書かれてはいたが

 

 

 

俺たちはただ、「新しく家族が増えたので、戸籍の挨拶に来ました!」という、ご近所への回覧板を回すようなノリで来ただけなのに。

 

 

完全武装の精鋭部隊がズラリと並んでお出迎えだなんて、なんか重苦し過ぎないか?

 

 

「……ふん。エルヴィンの奴、随分とビビってるみたいね。私たちに対してこんなオモチャ(銃)が通用すると思っているのかしら」

 

 

 

リーシェは、並び立つ対人部隊の兵士たちをゴミでも見るかのように冷ややかに一瞥し、微かに鼻で笑った。

 

 

 

彼女から、隠しきれない「人類最強の鬼神」としてのプレッシャーがジワリと漏れ出す。

 

 

「わぁ! お出迎えの人たちがいっぱい! これってパーティーの始まりかな!?」

 

 

一方のユミルは、銃口を向けられかねないこの重圧の中でも全く物怖じすることなく、むしろ目をキラキラさせて無邪気にはしゃいでいる。二千年の神様の図太さは伊達じゃない。

 

 

 

「二人とも、喧嘩売っちゃダメだよ……ほら、行こう」

 

 

俺は両脇から放たれる殺気と能天気さを必死になだめながら、小さくため息をついた。

 

 

俺の左右に、氷の鬼神と神話の神様がピタリと並び歩く。

 

 

俺たち三人は、微かな緊張でガチガチに固まっている対人立体機動部隊の兵士たちの護衛(というより監視?)と案内のもと、エルヴィン団長たちが待つ、王城の最奥にある特別会議室へとゆっくりと足を踏み入れていくのだった。

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