進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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金曜ロードショーします











第百七十五話

 

 

 

重厚なオーク材で作られた特別会議室の両開きの扉が、対人立体機動部隊の兵士たちの手によってゆっくりと押し開かれた。

 

 

キィィィ……という軋む音が広い室内に響き渡る。

 

 

俺と、リーシェ、そしてユミルの三人が、静まり返った会議室へと足を踏み入れた瞬間。

 

 

長大なマホガニーのテーブルを囲んで座っていた新エルディア帝国の首脳陣たちの視線が、まるで物理的な質量を持っているかのように、一斉に俺たち三人へと突き刺さった。

 

 

その視線の種類と感情の色は、見事なまでに十人十色であった。

 

 

まず、駐屯兵団の最高トップであるドット・ピクシス司令。

 

 

彼は、俺の左隣で無邪気に室内を見回しているユミルの姿を視界に捉えた瞬間、シワだらけの顔をパァッと明るく輝かせた。

 

 

アトラスという『超絶美少女』が規格外の力を持っているという前例から、「神様もきっと極上の美少女に違いない」と密かに……いや、大っぴらに期待していた彼の読みは、完璧に的中したのだ。

 

 

腰まで届く鈍色の金髪と、神秘的でありながらも庇護欲をそそるユミルの圧倒的な美貌に釘付けになり、彼は嬉しそうに携帯用のスキットルを撫で回している。

 

 

一方、調査兵団の狂気的頭脳であるハンジ・ゾエ分隊長は、全く別の意味で目を輝かせていた。

 

 

彼女のメガネの奥の瞳は、まるで未知の希少生物を発見した学者のようにギラギラと血走っている。

 

 

「今度は一体どんな化け物なのか」「その肉体構造はどうなっているのか」「アトラスの特異点バグとどう違うのか」といった、知的探求心という名の暴走機関車が、すでに頭の中でフル稼働しており、今にも椅子から飛び出してきそうなほどワクワクと身を乗り出していた。

 

 

 

対照的に、憲兵団師団長のナイル・ドークは、拍子抜けしたように小さく息を吐き出し、強張っていた肩の力を抜いていた。

 

 

彼は最低限、壁内人類の真実や『九つの巨人』については理解しているものの、グリシャから語られた『始祖ユミル』という存在の真の力。

 

 

────世界を容易く滅ぼせるほどのデタラメなスペックについては、いまいち実感として理解できていなかった。

 

 

そのため、彼が想像していたような「おどろおどろしい神話の怪物」ではなく、あまりにも人畜無害で可憐なパッと見16歳程の美少女がそこに立っているのを目の当たりにして、「なんだ、ただの可愛い女の子じゃないか」と、完全に気が抜けてしまったのだ。

 

 

彼にとっては、とにかく帝都が破壊されず、自身の家族が無事であればそれで良いのである。

 

 

しかし、人類最強の兵士であるリヴァイ兵長の眼光は、決して緩むことはなかった。

 

 

彼は腕を組み、鋭い三白眼でユミルの全身を隙なく観察している。

 

 

かつて、俺という『可憐な絶世の美少女』の中から『15m級の筋骨隆々な終末兵器』が飛び出してくるのを間近で目撃している彼は、外見の愛らしさに騙されるような素人ではない。

 

 

アトラスという凶悪な前例がある以上、この見知らぬ美少女がどれほどの脅威を隠し持っているのか、一切の警戒を怠らずに静かに睨みつけていた。

 

 

そして、この会議を主催した張本人である調査兵団団長、エルヴィン・スミス。

 

 

彼は、我々が入室してきた時点で、すでに酷い胃の痛みから眉間に深いシワを寄せ、顔を青ざめさせていた。

 

 

 

彼には分かっているのだ。

 

 

俺という特異点が連れてきた存在が、ただの可愛い美少女で済むはずがないと。

 

 

彼の額には、じっとりと嫌な脂汗が滲み出ている。

 

 

そんなエルヴィンの悲惨な顔色を横目で見ながら、ミケ・ザカリアス分隊長は、心底同情するような、哀れむような眼差しを彼に向けていた。

 

 

ミケの優れた嗅覚は、ユミルから漂う「二千年の神様としての圧倒的な気配」と、同時に「アトラスに対する重すぎる劣情と愛の匂い」を正確に嗅ぎ取っていた。

 

 

最後に、長机の最奥、上座に座る新女王フリーダ・レイス。

 

 

彼女は、かつて自身の脳内に響いていた『初代王の呪縛』の大元であり、すべてのエルディア人の祖である始祖ユミルを前にして、ただひたすらに深く、神聖なものを見るような尊敬と畏怖の眼差しを送っていた。

 

 

そんなカオスな視線が交錯する中、俺たちは案内された席へと向かい、三人が並んで静かに着席した。

 

 

中央に俺、右にリーシェ、左にユミルという、いつも通りの陣形である。

 

 

重苦しい静寂が数秒流れた後、エルヴィン団長がゆっくりと立ち上がった。

 

 

彼は胃の辺りを無意識に押さえ、額の脂汗をハンカチで拭いながら、低く落ち着いた声で口を開いた。

 

「……遠路はるばる、よくぞここまで足を運んでくれた。

アトラス・ベニア殿、リーシェ・ベニア殿。

本日は、このような物々しい警戒態勢を敷いた場で出迎えてしまったこと、我々の不調法をどうかお許しいただきたい。

そして……我々の要請に応じ、この帝都まで来てくれたことに、心から感謝する」

 

 

絞り出すようなお詫びと感謝の言葉。

 

その裏にある彼の途方もない心労と苦悩が痛いほど伝わってきて、俺は申し訳なさでいたたまれない気持ちになった。

 

 

エルヴィンは一つ深呼吸をしてから、俺の隣に座るユミルへと視線を向けた。

 

 

「……早速で申し訳ないが、事の重大性に鑑み、単刀直入にお伺いしたい。

アトラス殿からの手紙にあった、そちらの『始祖ユミル』殿ご本人の口から、詳しい事情と自己紹介をお願いできないだろうか」

 

 

エルヴィンの言葉を受け、ユミルは「はい!」と元気よく返事をすると、全く緊張する様子もなく、スッと立ち上がった。

 

 

「えっと、初めまして! 私が、始祖ユミルなんだー」

 

 

あまりにもフランクで、年相応の明るい女の子らしい、タメ語混じりの自己紹介。

 

 

その緊張感の欠片もない第一声に、身構えていたエルヴィンやナイルが拍子抜けしたように目を瞬かせる。

 

 

しかし、ユミルが続けて語り出した自身の身の上話は、その明るい口調とは裏腹に、あまりにも重く、悲惨なものだった。

 

 

「私ね、二千年くらい前から、ずっと奴隷として過ごしてまともな思考回路も持つことなく、ただ道具として扱われてきたの。

それからずっと、誰からも愛されず、誰の言葉も届かない『道』っていう果てしない砂漠の中で、たった独りで、ずーっと巨人をこねこねして作らされてたんだ。

正直殆ど自我が死んでたから、あんまり実感ないんだけどね!」

 

 

会議室の空気が、一瞬にして凍りついた。

 

 

二千年。

 

ただの歯車として孤独の中で巨人を創り続ける奴隷。

 

 

フリーダが思わず口元を覆い、痛ましそうに目を伏せる。

 

 

リヴァイの眉間にも、不快感による深いシワが刻まれた。

 

 

「でもね!」

 

 

ユミルはそこで、まるで太陽が差し込んだようにパァッと顔を輝かせ、隣に座る俺の腕にギュッと抱きついた。

 

 

「ある日、愛するお姉様……アトラスお姉様が、私の『道』に迷い込んで来てくれたの!

お姉様は、私に言葉を教えてくれて、優しくしてくれて、一緒に砂遊び(巨人生成)してくれて……

それから、『スール制度』っていう、とっても尊くて素晴らしい姉妹の愛の形を教えてくれたんだよ!」

 

 

(おいバカやめろ、余計な黒歴史まで語るんじゃない!)

 

 

俺は顔から火が出るほどの羞恥に襲われたが、ユミルの演説は止まらない。

 

 

「お姉様が、私を奴隷の運命から救い出してくれたの!

だから私は、お姉様と一緒にいるために、この新しい身体を作って現実世界にやって来たんだー!

 

 

──────お姉様のためなら、私、なんでもするよ!」

 

 

ユミルの、真っ直ぐで、純粋で、そしてあまりにも重すぎる愛の宣言。

 

 

「スール制度」という単語の意味が分からず、首脳陣たちは首を傾げているが、ユミルがアトラスに対して異常なほどの執着と愛情を抱いていることだけは、誰の目にも明らかだった。

 

 

「なるほどなるほど! 君の生い立ちとアトラスちゃんへのラブっぷりはよーく分かったよ!」

 

 

その時、空気を全く読まない大声が会議室に響き渡った。

 

 

 

身を乗り出し、机をバンッと叩いて立ち上がったのは、限界まで好奇心を膨らませていたハンジさんだった。

 

 

「ねえねえ、始祖ユミルちゃん! ぶっちゃけ聞きたいんだけど、君の『始祖の力』って、今の現実世界でどれくらい凄いわけ!?

巨人化するとしたら、どんなサイズ!? アトラスちゃんみたいに色々できるの!?」

 

 

「ハ、ハンジ! 何を考えているッ! 控えろ!」

 

 

躊躇いもなく、世界の真理であり絶対的な禁忌である『神の力』の底を、初対面で無遠慮に探ろうとするハンジの暴挙に、エルヴィンが血相を変えて制止の声を上げた。

 

 

だが、時すでに遅し。

 

 

「うん! いいよ、教えてあげる!」

 

 

ユミルはニコニコと笑いながら、あっさりとその狂気的な質問に答えてしまったのだ。

 

 

「えっとね、私がもし巨人化するなら、サイズは15mから、最大で170mくらいまで、自由に変幻自在にサイズ変更できるんだー」

 

 

 

「……ひゃく、ななじゅう……?」

 

ナイルの口から、間抜けな声が漏れた。

 

 

超大型巨人でさえ60mだというのに、その3倍近いサイズの巨人が自由に出現するという絶望的なスケールに、彼の思考は停止しかけた。

 

 

「それにね」ユミルはさらに続ける。

 

 

「今は私とお姉様の『道』が太いパイプで繋がってるから、エネルギーの供給は無限なの。

だから、疲れることもないし、ほぼ無限に活動可能だよ!」

 

 

無限のエネルギーで動く、最大170mの神様。

 

 

リヴァイの顔から、微かに血の気が引くのが分かった。

 

 

「どれくらい強いかっていうと……うーん。

 

その気になって本気で暴れれば、数日くらいで、世界中の地表を綺麗さっぱりにして、更地にできるくらいかな!」

 

 

ニコッ、と。

 

 

まるで「明日のお天気は晴れだよ」とでも言うような、極めて愛らしく、人畜無害な笑顔で。

 

 

彼女は「単体で地鳴らしと同等の世界滅亡を引き起こせる」という、絶望的な事実を言い放ったのだ。

 

 

会議室は、水を打ったような、いや、生命活動のすべてが停止したかのような、完全な死の静寂に包まれた。

 

 

「あっ、そうそう! ついでにもう一つ!」

 

ユミルは何かを思い出したように、ポンッと手を打った。

 

 

「この身体で受肉する時にね、私の肉体を『不老不死』になるように構築したの!

何を食べても太らないし、怪我しても一瞬で治るし、永遠に老いないの!」

 

 

不老不死。

 

 

人類が古来より追い求め、決して手の届かなかった神の領域。

 

 

それが、目の前の少女の口から、実にあっさりと語られた。

 

 

「でね! 私の愛するお姉様がいつか寿命で死んじゃったら悲しいから、ついでにお姉様と、そこにいるリーシェの身体にも、勝手に不老不死を適用しておいたんだー!

流石に、不老不死のシステムを適用できる枠には限界があったから、これ以上他の人を増やすことは出来ないんだけどね。

ごめんね!」

 

テヘッ、と舌を出して笑うユミル。

 

 

だが、その言葉が投下した爆弾の威力は、170mの巨人など比較にならないほど、ある一人の人物の精神を激しく揺さぶっていた。

 

 

「……ッ!?」

 

 

俺の右隣に座っていたリーシェが、ビクンッ! と大きく肩を震わせ、目を限界まで見開いたのだ。

 

 

(ふ、不老不死!? アトラスが不老不死!? そして私も!?)

 

 

リーシェの脳内で、とてつもない情報の嵐が吹き荒れているのが、隣にいる俺にもはっきりと伝わってきた。

 

 

(永遠に! 寿命という概念すらなく! アトラスと二人きりで、永遠に一緒にいられるというの!? な、なんて素晴らしい! ユミル、なんて有能なの! 今すぐこの場でアトラスを抱きしめて歓喜の叫びを上げたい……ッ!)

 

 

だが、リーシェはスッと目を閉じ、膝の上で震える拳をギリィッと強く握りしめた。

 

 

(ダメよ、リーシェ・ベニア。落ち着きなさい。

今は新エルディア帝国の重要な会議の場。アトラスの正妻たる私が、ここで取り乱して騒ぐようなことがあれば、アトラスの顔に泥を塗ることになる。

……ここは、どんなに嬉しくても、クールに自制するのよ……ッ!)

 

 

彼女は必死に自身の表情筋を制御し、表面上はなんとか冷静な『氷の鬼神』のポーカーフェイスを保ち続けた。

 

 

しかし、その耳の裏が茹でダコのように真っ赤に染まっているのを、俺は見逃さなかった。

 

 

そして、ユミルのこの「軽いスペック紹介」が終わった後の、会議室の反応はと言えば。

 

 

「…………」

 

 

エルヴィン・スミスは、ついに言葉を発することを諦め、机の上に両肘をついて、両手で自身の胃袋のあたりを強く押さえ込んでいた。

 

 

脂汗は滝のように流れ、彼の瞳からはすべての光が消え失せている。

 

 

世界を滅ぼせる不老不死の美少女が三人……いや、三柱もいる国家など、どうやって舵取りをすればいいのか。

 

 

彼の指揮官としての許容量は、完全にバーストしていた。

 

 

ミケ・ザカリアスは、ユミルの発言の最中ずっと匂いを嗅いでいたが。

 

 

彼女の放つ匂いから、その言葉に「一切の嘘偽りや誇張が無い」という絶望的な真実を察知し、深く、深く天を仰いでいた。

 

 

「人類は、今日終わったのかもしれない」と、自身の嗅覚を恨みながら。

 

 

ナイル・ドークは、先ほどの「人畜無害な美少女」という自身の評価を全力で撤回し、顔面を蒼白にしながらガタガタと震えていた。

 

 

エルヴィンがなぜあそこまで異常なまでに慎重になり、胃を痛めていたのか。

 

 

その本当の意味と恐怖を、彼は今更ながらに骨の髄まで理解させられたのだ。

 

 

「アハッ……アハハハハハハッ!! 170m!? 無限エネルギー!? しかも不老不死!? なにそれ、なにしょれぇぇぇっ!!」

 

 

ハンジ・ゾエは、完全に正気を失っていた。

 

 

口の端から涎を垂らし、興奮のあまり両目からボロボロと涙を流しながら、歓喜に打ち震えて奇声を上げている。

 

 

彼女にとって、ここは世界一魅力的な実験の宝庫であり、今すぐユミルの肉体を解剖したくてたまらないという狂気が全身から溢れ出ていた。

 

 

「フォッフォッフォ! いやぁ、実に素晴らしい!」

 

 

対照的に、ピクシス司令は、ユミルの語った絶望的なスペックの話など、完全に右の耳から左の耳へと受け流していた。

 

 

彼はただ、不老不死のチートボディを手に入れたアトラス、リーシェ、ユミルという「三人の絶世の美少女」が並んで座る姿を、心底幸せそうな、眼福の極みといった表情でデレデレと眺め、スキットルの酒を美味そうに煽っている。

 

 

世界の滅亡よりも、目の前の美である。

 

 

ある意味、最も図太い男だった。

 

 

「……チッ」

 

リヴァイ兵長は、深く、鋭い舌打ちを一つ落とした。

 

世界を更地にできる神と、不老不死。

 

 

彼のアッカーマンとしての本能が、「これ以上コイツらの理不尽な生態について考えるだけ、労力の無駄だ」と告げていた。

 

 

彼は腕を組んだまま目を閉じ、思考を完全に放棄して、壁際で彫像のように固まることを選んだ。

 

 

そして、ただ一人。

新女王フリーダ・レイスだけは、異なる感情で胸を満たしていた。

 

 

170mの巨人も、世界を滅ぼす力も、彼女にとっては些末な問題だった。

 

 

彼女の心を占めていたのは、二千年もの間、暗く冷たい『道』の中で、舌を抜かれ、誰からも愛されずにただ奴隷として巨人を創り続けてきた始祖ユミルの、耐え難い悲惨な過去への深い同情。

 

 

そして、そんな彼女が今、アトラスという優しい存在に救い出され、こうして現実世界で心から楽しそうに、幸せそうに笑っている姿を見ることができたという、純粋な喜びだった。

 

 

「本当に、良かったですね……ユミル様」

 

 

フリーダは、密かに安堵の涙を拭っていた。

 

 

それぞれの絶望、狂喜、現実逃避、そして感動。

 

 

国家の存亡を懸けた極秘の最高会議は、一人の神様の無邪気な自己紹介によって、結局いつも通りの、完全に収拾のつかない混沌の空間へと堕ちていくのであった。

 

 

 

 

 

 

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