進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百七十六話

 

 

 

始祖ユミルによる「170mの巨人に変身可能」「数日で世界を更地にできる」「不老不死」という、デタラメ極まりないチートスペックの発表により、特別会議室は完全に各々の感情が暴走するカオス空間と化していた。

 

 

胃を抱えて沈黙する者、嗅覚の確信から天を仰ぐ者、顔面蒼白で震える者、歓喜の奇声を上げる者、そして美少女たちを肴に酒を飲む者。

 

 

このままでは新エルディア帝国の首脳会議がただの精神崩壊の場になってしまうと、俺が口を開いてどうにか場を収拾しようか迷っていた、その時だった。

 

 

不意に、ピクシス司令が酒の入ったスキットルを机にコトンと置き、何かを思い出したかのようにポンと手を打って発言した。

 

 

「あぁ、そういえば。すっかりぶっ飛んでおったが、先週辺りに帝都で不思議なことがあってのぅ」

 

 

そう言って口火を切ったピクシス。

 

 

一体この狂乱の空気の中で何を語り出すのやら。

 

 

俺を含め、会議室にいた全員の視線が、自然とピクシス司令の飄々とした顔へと向けられた。

 

 

「先週、帝都のウォール教本部におる司祭から、ワシの元へ極秘裏に連絡があってな。

なんでも、自分が保護した身寄りのない少女を、どこか健全で安全な家庭のもとに養子として迎え入れさせてやって欲しい、と深く頭を下げて頼まれたんじゃよ。

じゃが……それから数日経って、突然『以前の話はやはり忘れて欲しい』と、一方的に無かったことにされたんじゃ」

 

 

ウォール教、そして帝都本部の司祭と言えば、真っ先に思い浮かぶのはあのニック司祭か?

 

 

しかし、先月の無血革命と、フリーダの真の女王としての即位によって、壁の真実を隠蔽してきたウォール教の権威はすでに完全に地に落ちているはずだ。

 

 

民衆の支持も失い、教団は事実上の解体状態にあると聞いている。

 

 

そんな資金も権力も失い、自身もいつ粛清されるか分からない四面楚歌の状況下で、一人の少女の未来を案じて、駐屯兵団の最高司令官であるピクシスの元へ直接頼み込むなんて。

 

 

あの狂信的なニック司祭が、相当その娘に対して情が深くなっている証拠だ。

 

 

でも、その後すぐに養子の話を無かったことにしたのが謎だな。

 

 

保護した少女の身に、何か想定外の事態でも起きたのだろうか?

 

 

俺が内心で首を傾げていると、ピクシスが顎の無精髭を撫でながら話を続けた。

 

「でじゃ。少し気になったワシは、個人的にその保護された少女とやらの戸籍や素性を確認してみたんじゃが、どうにも不思議でな。

聞けば、壁内で戸籍を持たず、ウォール・マリア内の南部の荒野を一人で徘徊している所を、ワシの兵団の者に保護されたらしいんじゃ。

そして、その少女の名前が……丁度、今目の前にいる可愛らしいお嬢ちゃんと同じ、『ユミル』だったんじゃよ」

 

 

 

「…………あぁ……」

 

その名前を聞いた瞬間、俺の脳内に雷のような閃きが走り、思わず間抜けな声が漏れた。

 

 

そういう事か……! その身寄りのない少女って、多分『顎の巨人』の継承者である、あっちのユミルのことだろ!

 

 

すべてが繋がった。

 

 

本来の原作の歴史であれば、彼女はシガンシナ区の壁が超大型巨人によって破壊され、人々がウォール・ローゼへと避難するあの大混乱に乗じて、人間社会(壁内)へと侵入を果たし、後にクリスタ(ヒストリア)と出会うはずだった。

 

 

しかし、俺が845年9月10日の「運命の日」に特異点バグとして介入し、マーレの戦士たちを壁の外で無傷のまま捕獲してしまったため、シガンシナ区の門が破壊されるというイベントそのものが消滅してしまったのだ。

 

 

 

壁が破壊されなかったことで、人間に戻ったあっちのユミルは壁内への侵入経路とタイミングを完全に失い、高い壁の外、あるいは壁の近くで手こずっていたのだろう。

 

 

 

そしてどうにか壁内に入り込んだものの、戸籍を持たずにウォール・マリア内を不審者のように徘徊していたところを、運悪く(あるいは運良く)駐屯兵団の者に見つかり、そのままニック司祭に保護されたというわけだろう。

 

 

 

ていうか、顎の巨人の方のユミルの存在、完全に俺の頭からすっぽ抜けてたわ……

 

 

マーレの戦士三人(ライナー、ベルトルト、アニ)を捕まえて、フリーダの解呪をして、始祖の受肉という特大のバグの対処に追われているうちに、すっかり忘却の彼方へと消え去っていた。

 

 

 

俺の生来きってのこのガバ気質と忘れっぽさが、こんなカオスな事態に繋がってしまうとは。

 

 

 

俺の隣では、始祖であるユミル本人が「えっ? 私と同じ名前の女の子がいるの?」と不思議そうに首を傾げている。

 

 

 

だが、事態は極めて深刻だ。

 

議場の皆さん方が、「始祖ユミルがもう一人いるのか!?」だの「まさか分裂したのか!?」だのと盛大な勘違いをしてパニックを起こす前に、とりあえず俺の口から正確な情報を説明しなければならない。

 

 

「えぇっと、皆さん。多分それは……九つの巨人の一つである、『顎の巨人』の継承者のことだと思います」

 

 

俺は挙手をして、おずおずと、しかし会議室の空気を引き締めるような声で話を切り出した。

 

 

「顎の巨人の継承者……だと?」

 

 

エルヴィン団長が、痛む胃を押さえていた手をピタリと止め、鋭い視線をこちらに向けた。

 

 

「はい。あの日……壁を破壊しにきたマーレの戦士は、私たちが捕獲した三人(超大型、鎧、女型)でしたが、実は壁に辿り着く前、本来は『四人』だったんです」

 

 

そこから俺は、前世の記憶から引き出した事実を、あたかも推測や独自の調査で知ったかのように説明した。

 

 

マーレからパラディ島へと潜入してくる道中、野営をしていた四人の戦士たち。

 

 

そこに、地面に埋まって休眠していた一体の無垢の巨人が突然姿を現し、ライナーを庇った『顎の巨人』の継承者(マルセル)が奇襲されて捕食されてしまったこと。

 

 

 

巨人のルールとして、知性巨人の継承者を捕食した無垢の巨人は、その力を受け継いで「人間」に戻ること。

 

 

 

そして、人間に戻ったその人物が、壁が破壊されなかったことで侵入に手こずり、結果的にウォール教に保護されたのであろうということを。

 

 

「……もし、私のこれら推測がすべて当たっていた場合。

現在この帝都ミットラスには、いつでも巨人化して暴れ回ることができる『顎の巨人の継承者』を、ウォール教の司祭が隠し持ち、放し飼いにしているという……極めて危険な状況になります」

 

 

俺の言葉が終わると、会議室は先ほどのカオスとは打って変わって、冷や汗を伴う軍事的な緊迫感に包まれた。

 

 

帝都のど真ん中に、敵国由来の知性巨人が潜伏している。ナイルの顔色が再び蒼白になり、リヴァイが鋭く舌打ちをした。

 

 

エルヴィン団長は、深く息を吐き出しながら口を開いた。

 

 

 

「……なるほど。事態の深刻さは理解した」

 

 

彼は、俺が「なぜそんな壁外での出来事や、戦士の人数まで知っているのか」という最大の疑問については、一切触れようとしなかった。

 

 

 

多分、俺という特異点の情報源についてこれ以上深く聞いても、自身の許容量を超えて余計に胃が痛くなるだけだと、彼自身の防衛本能が悟っているからだろう。

 

 

有能な指揮官は、時にスルーする技術も高い。

 

 

「ならば、至急その『ユミル』という少女の身柄を保護する必要がある。

……アトラス殿、以前マーレの戦士たちを無力化した時のように、君の力でその『顎の巨人』の変身能力を、封印してもらうことは可能だろうか?」

 

 

団長の尤もな要請に、俺はコクリと頷こうとした。

 

 

とにかく、顎ユミルの方にかけられている「十三年の寿命の呪い」を解除し、帝都でパニックになって巨人化しないように、能力のロック(封印)をかけなければならない。

 

 

俺の『道』の管理者権限を使えば、それは容易いことだ。

 

 

俺が「はい、やります」と口を開きかけた、まさにその時だった。

 

 

「ん、それならこっちで出来るけど?」

 

 

左隣に座っていた始祖ユミルが、さも「私がやかんのお湯沸かしてくるね」とでも言うような、当たり前で軽いトーンで会話に突っ込んできたのだ。

 

 

「……それは、どういう意味か説明して頂けないだろうか……」

 

 

エルヴィン団長が、再び胃の辺りを両手で強く押さえ込みながら、掠れた声で聞き返した。

 

 

彼の青ざめた顔には「もう嫌な予感しかしない」という絶望が張り付いている。

 

 

「えっ? だからね」

 

 

ユミルは純真無垢な瞳をパチパチと瞬かせながら、首脳陣たちに向かって笑顔で解説を始めた。

 

 

「私とお姉様の『道』は、今太いパイプでバッチリ繋がってる訳でしょ?

ってことは、お姉様の『道』にある便利なシステムや権限は、全部私の『道』のシステムにも当然そのまま適用出来るってことだから、お姉様が作った『十三年の呪いを解くプログラム(概念)』と、『巨人化を制限するプログラム(概念)』は、当然始祖である私にも使えるよ!」

 

 

ユミルは胸を張り、さらに恐ろしい事実を付け加えた。

 

 

「何なら、私は『始祖』だから、お姉様が持っていった鎧と女型と超大型と進撃以外の巨人なら『道』の座標から、私の『道』にその顎の巨人の力も直接繋がってるから、態々お姉様がハッキングしに行かなくても、私がここから指先一つで、今すぐにでも呪いの解除と能力の封印ができるよ?」

 

 

 

 

「…………」

 

 

……そうだった。

 

 

すっかりこのポンコツで重度のお姉様大好きっ娘な性格に騙されていたが、この娘、エルディア人の頂点に立つ『始祖ユミル』ご本人だった。

 

 

すべてのユミルの民の『道』が交わる座標そのもの。

 

 

彼女がその気になれば、記憶の改竄はおろか、巨人化の制限も、呪いの解除も、システムを上書きした今となっては遠隔で自由自在に行えるのだ。

 

 

俺がふと正面を見ると。

 

 

あぁ……エルヴィン団長が、限界を迎えたようにプルプルと震える手で、懐から三瓶目となる胃薬の小瓶を取り出し、蓋も開けずに小瓶ごと口に含もうとしている。

 

 

リヴァイが慌ててそれを止めている。

 

 

そしてミケ分隊長は、自身の鼻を覆い隠すようにして両手で顔を覆い、もはや言葉を失って虚無の表情で天を仰いでいた。

 

 

無理もない。

 

 

ユミルのこの発言は、事実上「今すぐにでも、海の向こうのマーレ国にいる残りの『戦鎚』『車力』『獣』の巨人能力すらも、このパラディ島の会議室にいながらにして遠隔で一斉に封印(無力化)できる」ということを意味しているのだから。

 

 

マーレが世界を支配してきた絶対的な軍事力である巨人の力を、このパッと見人畜無害の少女が、その日の気分一つで完全に無効化できる。

 

 

いや、無茶苦茶だな、ほんと。

 

 

原作のパワーバランスもクソもあったもんじゃない。

 

 

特異点バグと始祖のシステムが融合した結果、とんでもない究極のチートサーバーが完成してしまっている。

 

 

なんとかリヴァイの制止で胃薬を正しく飲み終えたエルヴィン団長が、死人のような顔色で、掠れきった声で口にした。

 

 

「……そ、そうか……

では……とりあえず、その帝都にいる『顎の巨人』の能力だけを、封印して貰っても良いだろうか……」

 

 

エルヴィン団長も、その並外れた頭脳で、ユミルの発言が意味する「マーレの全戦力無力化」という事実に即座に気づいたのだろう。

 

 

 

だが、今のこのカオスな状況で、海の向こうの戦力バランスまで一気に破壊してしまえば、世界情勢がどう転ぶか全く予測がつかなくなる。

 

 

それに、これ以上ユミルにデタラメな力を振るわせるのは、精神衛生上よろしくない。

 

 

だからこそ、彼はあえて「顎の巨人だけ」と付け加え、今目の前にある帝都の危機のみに対処するよう、慎重にお願いをしたのだ。有能すぎる。

 

 

その言葉に対し、ユミルは太陽のようにパッと明るい笑顔を浮かべた。

 

 

「うん! いいよ! えっとね、あの辺にある座標の線を、こうやってチョイチョイって弄って、ロックをかけて……っと」

 

 

彼女は空中で見えない糸を弄るような仕草を、ほんの数秒だけ行った。

 

 

そして。

 

 

「……はい、できた!」

 

「えっ」

 

「顎の巨人の十三年の呪いの解除と、巨人化の完全封印、完了だよ! もうあの娘はただの人間と同じだから、絶対に巨人にはなれないよ!」

 

 

秒だった。

 

 

人類を脅かす知性巨人の脅威が、まるで少女がおままごとで砂の城を崩すかのような手軽さで、たったの数秒で無力化されてしまったのだ。

 

 

「……あ、ありがとう……助かった……」

 

 

エルヴィンが、もはや何の感情もこもっていない虚ろな声で感謝を述べ、そのまま机に突っ伏して動かなくなった。

 

 

ハンジさんだけが「すっごぉぉぉい!! 始祖のシステムってそんなにレスポンス早いの!? どんな原理で介入してるの!?」と大興奮で拍手喝采を送っている。

 

 

それはそれとして。

 

 

俺は、会議室の喧騒の中で、今頃帝都のどこかにいるであろう『二人の人物』に思いを馳せていた。

 

 

今のニック司祭と、顎の巨人の継承者であるあっちのユミルは、きっと結構大変な状況に陥っているはずだ。

 

 

壁外からやってきた得体の知れない少女を保護したはいいものの、頼みの綱であったウォール教の資金は底を尽き、教団の権威は完全に失墜している。

 

 

教会本部ですら、信者が離れてすっからかん状態だという噂だ。

 

 

だからこそ、ピクシス司令に養子縁組を頼み込んだのだろう。

 

 

だが、おそらくその直後、顎ユミルの前で誤って彼女を傷つけるような出来事があり、

彼女が「巨人化の光」か何かを発してしまったことで、彼女が知性巨人であることをニック司祭が知ってしまったのではないだろうか。

 

 

だから慌てて、養子の話を「無かったこと」にして、教団の奥深くに彼女を匿うことにしたのだと考える。

 

 

それに加えて、今この瞬間。

 

 

彼女は自分の身体から「巨人の力」が完全に消え去り、変身できなくなったことに気づき、パニックになっているに違いない。

 

 

(……このままだと、あの二人が路頭に迷うか、変な事件を起こしかねないな)

 

 

あの顎ユミルの不器用な優しさと、ニック司祭の意外な情の深さを知っている身としては、このまま放置しておくわけにはいかない。

 

 

それに、同じ「ユミル」という名前のよしみもある。隣で『お姉様、私えらい?』とドヤ顔をしている始祖のユミルの頭を撫でながら、俺は苦笑した

 

 

その辺の事情説明と、今後の彼女たちの身の振り方、そして「十三年の呪いが解けた」という朗報を伝えるためにも。

 

 

この会議が終わったら、近々俺の方からウォール教本部へ出向き、直接彼女たちと接触しなければならないな。

 

 

俺は、すっかり疲弊しきった首脳陣たちと、未だに事の重大さに気づかずイチャイチャしてくるリーシェとユミルの二人を交互に見つめながら、帝都での新たなミッションに向けて、静かに決意を固めるのだった。

 

 

 

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