進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百七十九話

 

 

845年10月26日

 

 

あの帝都ミットラスの旧王城で繰り広げられた、エルヴィン団長をはじめとする国家首脳陣の胃や情緒を物理的かつ精神的に破壊し尽くした、絶望の最高会議を終え。

 

 

圧倒的な権力───というか、人類最強の武力と世界を数日で更地にできる神のチート能力という、逆らうことなど到底不可能な圧倒的な物理的「圧」によって、政府の各種手続きは異常なまでの速度で進められた。

 

 

結果、始祖ユミルはサクッと「ユミル・ベニア」として、俺とリーシェの妹という形で正式に戸籍登録されるに至ったのである。

 

 

これで彼女も、晴れてパラディ島の正当な壁内人類の一員だ。

 

 

その手続きが無事に完了した翌日のこと。

 

 

俺とリーシェ、そしてユミルの三人は、帝都の片隅に位置する巨大な施設、ウォール教本部へと足を運んでいた。

 

 

目的は一つ。

 

 

先日ピクシス司令の口から話題に上がった、この教会に匿われているであろうもう一人のユミルと、彼女を保護しているニック司祭に接触するためだ。

 

 

彼女にかけられていた十三年の寿命の呪いが解け、巨人化能力も完全に失われたという朗報を伝えると共に、資金も権威も失って路頭に迷いかけているであろう二人の、今後の身の振り方について支援を申し出る必要がある。

 

 

しかし、目の前にそびえ立つ教会の重厚な正門は固く閉じられ、周囲には信者や関係者らしき人影は全く見当たらなかった。

 

 

本来なら、壁の真実を隠蔽し、民衆の信仰を一身に集めていた教団の総本山である。

 

 

以前なら門前市をなすほどの賑わいがあったはずなのだが、革命後の今の惨状は、見るに堪えないほどの寂れようだった。

 

 

「うわー、ほんとに一人もいないねー」

 

 

俺の左隣で、ユミルが間の抜けたのほほんとした調子で、教団の傷口に塩を塗り込むような容赦ないセリフを吐き捨てた。

 

 

「ユミル……それ、本人たちの前で絶対に言っちゃダメだからね?」

 

 

俺は、『道』で永遠にも等しい時間引きこもっていたせいで微妙にデリカシーとモラルに欠ける天然の神様が、余計な地雷を踏んで相手を怒らせないように慌てて釘を刺した。

 

 

「そうよユミル。

あなた、偶に会話が致命的に噛み合わないところがあるから、ちゃんと自覚した方がいいわよ」

 

 

右隣では、リーシェが呆れたようにため息をつきつつも、どこか口角を上げた様子で俺の忠告に同調する。

 

 

最近の彼女は、ユミルをちょっと手のかかる妹のように扱うことにすっかり慣れてきたらしい。

 

 

「えぇ……? 私、そんなに変なこと言ってたかなぁ……

本当のこと言っただけなのに」

 

 

ユミルは不思議そうに小首を傾げている。

 

 

どうやら、人間社会の複雑な空気とデリカシーというものを完全に身につけるには、ユミルにはまだ少し時間と教育が必要そうだ。

 

 

兎に角、門の前で立ち往生していても埒が明かない。

 

 

俺は試しに、そっと巨大な鉄格子の門に手をかけ、体重をかけて押してみた。

 

 

「……っあ」

 

 

ギィィ……

 

 

重々しい金属の摩擦する音と共に、門はあっさりと、ゆっくりと内側へと開いてしまった。

 

 

どうやら、鍵すらもかかっていなかったようだ。

 

 

防犯意識の欠片もない。

それほどまでに教団は機能不全に陥り、管理する人間すらいなくなっているのか。

 

 

「……入る?」

 

 

俺はおずおずと二人に提案する。

 

 

流石に、いくら寂れているとはいえ、無断でよその宗教施設に上がり込むのは気が引ける。

 

 

「えー? それって不法侵入じゃない?」

 

 

ユミルが、こういう時に限って「どこで覚えてきたんだその言葉」というような謎の正論を振りかざしてくる。

 

 

「大丈夫よ。私たちが捕まる訳ないじゃない。もし憲兵が来ても、私が追い払うわ」

 

 

そう言って、リーシェは全く躊躇うことなく、堂々とした足取りで開かれた門を潜っていった。

 

 

彼女の辞書に「不法侵入」という文字は存在しないらしい。人類最強の特権である。

 

 

「あ、待ってリーシェ〜」

 

 

俺は、自身が常識人であることを主張したいものの、結局は彼女の行動力に引っ張られる情けない声で、リーシェの名を呼びながら小走りでついて行く。

 

 

「それもそっか!」

 

 

一人納得した様子で、ユミルもパタパタと足音を立てて俺の後に続いた。彼女の倫理観も相当ガバガバである。

 

 

そうして、誰もいない荒れ果てた中庭を抜け、俺たち三人は本殿である巨大な教会の重厚な木製の扉の前に並んで立った。

 

 

「ねえねえ、誰が扉コンコンする?」

 

 

少しワクワクした様子で、ユミルが俺の袖を引っ張りながら話しかけてくる。

 

 

なんだろう、その遠足の肝試しみたいなテンション。

 

 

そのノリでこられると、俺たちが何か悪い事をして、こっそり忍び込んでいるみたいじゃないか……

 

 

「じゃあ、私が───」

 

 

リーシェが、班長としての責任感からか、あるいは単に手っ取り早く済ませたいからか、率先して扉を叩こうと手を伸ばした。

 

 

「『じゃんけんで決めよう!』」

 

 

だが、そのリーシェの言葉に覆い被せるように、ユミルが元気いっぱいに両手を挙げて提案したのだ。

 

 

「……じゃんけん?」

 

 

リーシェが、伸ばしかけた手をピタリと止め、怪訝な様子でユミルに説明を促す。

 

 

この壁の中の世界には、まだ「じゃんけん」という概念が普及していないらしい。

 

 

「うん! お姉様と『道』で過ごしてた頃にね、教えて貰ったんだー!」

 

 

ユミルは自慢げに胸を張る。

 

 

あー……

 

 

言われてみれば、そんな事もあったような無かったような……

 

 

文字を教えた少し後に、少しでも娯楽を与えようと、俺が前世の記憶から手遊びを教えた記憶が微かに蘇ってきた。

 

 

「えーっと……物事を決める時に、よく使ってた遊びみたいなものなんだけどね?」

 

 

俺は苦笑いしながら、軽くリーシェに向けて『じゃんけん』のルールを説明することにした。

 

 

「グーは石、チョキはハサミ、パーは紙に見立ててね。

グーはチョキに勝って、チョキはパーに勝って、パーはグーに勝つっていう、三すくみのルールだよ。

これで負けた人が、代表して扉をノックするってことを言いたいんだと思う」

 

 

俺が手で形を作りながら説明すると、リーシェはふむ、と顎に手を当てて真剣な顔で考察を始めた。

 

 

「……なるほどね。

単純な運否天賦に見えて、相手の心理や癖を読み合う高度な心理戦の要素も含まれているというわけね……面白そうじゃない。やりましょう」

 

 

なんだか、乗り気な様子でリーシェの瞳の奥に、闘争本能という名の炎がメラッと宿ったのが分かった。

 

 

人類最強は、勝負事になると途端に負けず嫌いが発動するらしい。

 

 

(……そういう所、可愛いよなぁ)

 

 

俺は内心でデレデレと惚気つつ。

 

 

この最強の二人が、ただの扉のノック権を巡ってじゃんけんに本気になっている姿がどうにも微笑ましくて、思わず頬を緩ませた。

 

 

「それじゃあ、いくよー!」

 

 

俺は二人の間に立ち、ゲームマスターのように明るく掛け声をかける。

 

 

「さーいしょーは、グー!」

 

 

俺、リーシェ、ユミルの三人が、同時に右手を握りこぶしにして前に突き出す。

 

 

「じゃん、けん──────」

 

 

ぽん、っと。

 

 

俺が元気よく次の言葉を言いかけ、それぞれが手を出そうとした、まさにその瞬間だった。

 

 

ガチャリッ

目の前の重厚な木製の扉が、内側から勢いよく開かれた。

 

 

「コホンッ!」

 

 

静まり返った教会の空気を切り裂くように、ひどく態とらしい、そして明確な苛立ちを含んだ咳払いをする音が響き渡った。

 

 

俺たちが一斉に背筋をビクッとして動きを止め、出したままの右手を空中に彷徨わせながら顔を扉の方に向けると。

 

 

そこには、黒い法衣を身に纏い、眉間に深いシワを刻んだ長身の細身の男が立っていた。

 

 

ウォール教の幹部にして、現在この教会で少女を匿っている張本人────ニック司祭であった。

 

 

「…………何用で、この教会に来られた」

 

 

彼は、扉の前で「グー」やら「チョキ」やら謎のポーズをとったまま固まっている俺たち三人の絶世の美少女を、心底呆れたような、そして「面倒な連中が来やがった」とでも言いたげな、極めて冷ややかな目で一瞥したのだった。

 

 

 

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