進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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情報量多いと思いますが、この土日で何とか処理しきってください。m(_ _)m
あとエルヴィンへの応援も宜しくお願いいたします。





新エルディア帝国神話
第百八十四話


 

 

846年1月上旬

 

 

王都──いや、今は新エルディア帝国の帝都と呼ぶべきミットラスの空は、厚く重い冬の雲に覆われていた。

 

 

 

分厚いガラス窓の向こうで、冷たく乾いた北風が街路樹の枯れ枝を揺らしている。

 

 

 

私は、重厚なマホガニーの執務机に積み上げられた膨大な書類の山からふと視線を上げ、手元のカップに注がれたすっかり冷え切った紅茶を一口含んだ。

 

 

 

静寂に包まれた団長執務室、いや、現在は実質的な軍部トップとしての執務室において、私の耳に届くのは、遠く窓の外から微かに響いてくるリズミカルな金属音と、重々しい駆動音だけだった。

 

 

 

視線を帝都の市街地へと向ければ、石造りの建物の隙間から、真っ白な水蒸気の柱が冬の空へと勢いよく立ち昇っているのが見える。

 

 

『蒸気機関』つい数年前まで、我々壁内人類には想像すらできなかった未知の動力源が、今、この帝都の一部区画で確かな産声を上げ、試験的な稼働を始めているのだ。

 

 

 

この技術革新の中心にいるのは、技術開発部門の部門長に就任したハンジ・ゾエである。

 

 

彼女の狂気的なまでの探究心と開発力は、立体機動装置の改良や対巨人兵器の開発だけに留まらず、今や国家のインフラ構築にまで及んでいた。

 

 

最近のハンジは、文字通り寝食を忘れ、日夜奇声を上げながら研究所に引き籠もっている。

 

 

 

その直接の要因となったのは、彼女がシガンシナ区から特別顧問として招き入れた一人の少年──アルミン・アルレルトの存在だった。

 

 

 

聞くところによれば、彼はベニア姉妹やイェーガー一家と懇意にしており、その類稀なる明晰な頭脳を見込まれてハンジの目に留まったらしい。

 

 

 

驚くべきは、そのアルミン少年から齎されるアイデアの数々である。

 

 

まるで壁の外、いや、我々の認識の外側にある全く別の異世界を見聞きしてきたかのような、独創的で先進的な理論。

 

 

 

神か何かが彼に語って聞かせたとしか考えられない様な『空を飛ぶ鉄の塊』や『世界を繋ぐ情報網』といった概念の欠片を、少年は持ち前の知性で見事に咀嚼し、ハンジへと提示したのだ。

 

 

 

結果として、ハンジの脳内で燻っていた狂気的なまでの探究心に致死量の油が注がれることとなった。

 

 

彼女は「物理法則が泣いて謝る!」などと歓喜の悲鳴を上げながら、アトラス殿がかつて我々に見せた超高圧蒸気の概念を応用し、急速な蒸気機関の実用化へと漕ぎ着けたのである。

 

 

 

技術の発展は、帝都の景色だけを変えたのではない。

かつて、陽の光など一度も差し込んだことのない、腐った泥と行き場を失ったクズ共の放つ体臭が充満する掃き溜めとして扱われていた『地下街』。

 

 

あの日、私がリヴァイとその仲間たちを泥底から引き上げたあの場所は、今や本格的な地下資源採掘の本拠地として目覚ましい活況を呈している。

 

 

新政府の主導の下、大規模な労働環境の整備が行われ、今まで地上に出ることが叶わなかった貧困層やゴロツキたちが、真っ当な労働の対価として地上の陽の光を浴び、自由と安全を手にすることができるようになったのだ。

 

 

 

彼らの働きにより掘り出された豊富な資源は、ハンジたちの開発部門へと回され、さらなる技術革新の糧となっている。

 

 

このように、革命を経て国家運営の基盤が完全に整い、急速な技術発展と産業の活発化が波のように押し寄せた結果。

 

 

 

現在の新エルディア帝国は、かつてない『深刻な労働力不足』という、為政者にとってはあまりにも贅沢な、嬉しい悲鳴を上げる事態に直面していた。

 

 

 

農地の開拓、新兵器の量産、インフラの整備、資源の採掘。

 

 

どれだけ資金と資源があろうとも、それを動かす『人手』が圧倒的に足りないのだ。

 

 

壁内人類の総人口は約百三十万。

 

 

これまで巨人の脅威によって制限されてきた生存圏を広げ、産業を爆発的に拡大させるには、根本的な絶対数が不足している。

 

 

私は、冷めた紅茶のカップをソーサーに置き、ふと、壁に掛けられた巨大なパラディ島の地図を見つめた。

 

 

 

その地図には、我々を囲むウォール・シーナ、ウォール・ローゼ、ウォール・マリアという三重の同心円が描かれている。

 

 

……解決できないことも、無い。

 

 

私の脳裏に、ある途方もない、一般の人間であれば狂気と断じて思考を放棄するような奇策が浮かび上がっていた。

 

 

 

壁の中に存在する、幾千万もの『超大型巨人』

 

 

 

あの忌まわしき防壁の正体が、同胞であるエルディア人の成れの果てであることは、グリシャ・イェーガー氏の告白によって既に判明している。

 

 

 

彼らは、元は我々と同じ『人間』なのだ。

 

 

そして今、我々の側には、神話の次元から現世へと受肉を果たした二千年前の神──『始祖ユミル』本人が存在している。

 

 

彼女の口から直接語られたデタラメなスペックによれば、彼女は現在のアトラス殿の『道』と太いパイプで接続されており、アトラス殿が構築した呪いの解除や巨人化の制限機能を、遠隔で、指先一つで自由自在に行使することができる。

 

 

ならば。 始祖ユミルに頼み、ウォール・シーナとウォール・ローゼの壁を形成している硬質化を解除し、中に眠る幾千万の超大型巨人から『巨人の力』を奪い去り、彼らを一斉に人間に戻すことはできないだろうか。

 

 

 

もしこれが可能であれば、我々は数十万という莫大な同胞の命を救い出すと同時に、現在帝国が抱える労働力不足の窮地を、一気に、かつ劇的に解決することができる。

 

 

 

無論、ウォール・マリアの壁だけは外敵からの絶対的な防衛線として残すか、あるいはアトラス殿の硬質化能力を用いて、新たに『ウォール・アトラス』とでも呼ぶべき絶対不可侵の防壁を構築し直すことも視野に入るだろう。

 

 

 

さらに、この計画には計り知れない副産物が存在する。

 

 

壁の中の巨人を人に戻すことができるのなら、海の向こうのマーレ国によってパラディ島に放たれ、長年我々を苦しめてきた『無垢の巨人』たち……

 

 

すなわち、マーレで罪人として巨人化させられた同胞たちをも、すべて救済することが可能となるのだ。

 

 

壁外を彷徨う無垢の巨人たちが人間に戻れば、その中には必ず、近代化の進むマーレ国の内情や、最新の軍事・技術情報に精通した知識人、あるいは反マーレの活動家が含まれているはずだ。

 

 

彼らを引き当て、我々の陣営に組み込むことができれば、今後の対マーレ、ひいては世界を相手取った外交と戦略において、我々は圧倒的な情報のアドバンテージを得ることになる。

 

 

「…ふっ、本当にデタラメな力だ」

 

 

私は、自身が思考したあまりにもスケールの大きすぎる絵図に、思わず自嘲気味な笑みを漏らした。

 

 

巨人の脅威に怯え、数メートルの巨人を倒すためだけに何十人もの命を散らしていた数年前の私にこの計画を話せば、間違いなく過労による精神崩壊を疑われるだろう。

 

 

 

しかし、今やそれは、実行可能な現実の戦術オプションとして私の手の中にあるのだ。

 

 

 

無論、幾千万の人間が突如として壁内に溢れ返れば、致命的な混乱が生じる。

 

 

社会インフラが崩壊しないよう、段階的に、計画的に壁を解除していく緻密なスケジュール調整が必須となる。

 

 

だが、それは政治と行政の力で乗り越えられる壁だ。

 

 

最も懸念される食料問題にしても、王政府がこれまで民衆をコントロールするために不当に溜め込んでいた膨大な備蓄を解放すれば、当面は十分に凌げる。

 

 

そもそもの生産量自体、壁内人類の消費を満たしてなお有り余っているのが現状だ。

 

 

それに加えて、労働力が確保できれば、ウォール・マリア内の広大な未開拓地を瞬く間に農地として運用することができる。農地開拓の余地は、まだまだ無限に等しい。

 

 

安全保障上の問題は、と問われれば、鼻で笑ってしまうだろう。

 

 

今年の春、我々調査兵団には、訓練兵団での苛烈な教練と、安全が確保された壁外での『狂気の実践訓練』を生き抜いた"歴戦の新兵"が約300名加入する予定だ。

 

 

これで、調査兵団の総員は1500名を超える。 彼らは皆、単騎で巨人を討伐し得る技量と、死線を越えた兵士の目を持っている。

 

 

そして何より、我々の陣営には、個の力で一個旅団にも匹敵する戦闘力を誇る、二人の『人類最強』が在籍しているのだ。

 

 

一人は、アトラス殿への狂信的な愛と『道』への接続により人類の限界を突破した。鬼神──リーシェ・ベニア特別班長。

 

 

もう一人は、地下の泥底から私が引き上げ、鬼神の背中を追うことで覚醒を果たした、対人・対巨人戦闘の極致──リヴァイ・アッカーマン兵士長。

 

 

通常の兵団戦力だけでも他国からすれば異常極まりないというのに、我々はさらに、マーレから鹵獲した『知性巨人』という、潜在的かつ圧倒的な戦術・戦略・終末兵器を保有している。

 

 

 

ライナーの『鎧』、ベルトルトの『超大型』、アニの『女型』。

ニック司祭が保護していた『顎』、グリシャ氏が保持する『進撃』、受肉した神である『始祖ユミル』。

 

 

 

 

そして──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『理外の巨人』アトラス・ベニア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15メートルの巨体にして、超音速の硬質化弾を放ち、その気になれば半径10キロ圏内の地形を一撃で崩壊させる、歩く終末兵器。

 

 

これだけの人智を超えた戦力が、今、我々新エルディア帝国の手札として揃っているのだ。

 

 

 

これほどの暴力の結晶があるのなら、寧ろ壁など今後の経済活動や生産、物流を阻害する言わば障壁でしかない。

 

 

 

そう、この案を実行するにあたって問題など無に等しいのだ。

 

 

私の脳内での緻密な演算結果は、すでに明確な答えを出していた。

 

 

今すぐにでもシガンシナ区の彼女たちに協力を要請し、壁内全域の受け入れ体制の構築に全力を注ぐべきだと。

 

 

私は、無意識のうちに引き出しから茶色い小瓶を取り出し、胃薬の錠剤を数粒、手のひらに転がした。

 

 

壁内人類が、この島の向こうに存在するマーレや、世界中の未知の国々と対等に渡り合えるよう、我々は如何なる手を使ってでも、強くならなければならない。

 

 

実質的に保有する武力・戦力という一点に絞れば、確かにこちらが圧倒的だろう。

 

 

世界を容易く蹂躙できる。 だが、その力はあまりにも属人的であり、不安定な奇跡の上に成り立っている。

 

 

もし突然それが消えたら?

 

 

今の帝国に彼女ら無しで壁の向こうに存在する敵と渡り合う事など不可能だ。

 

 

軍事技術、資源の採掘量、生産力、兵の物量。

何もかもが、百年もの間鳥籠に閉じ込められていた我々は、外の世界に対して圧倒的な『格下』であるという冷酷な事実。

 

 

だからこそ。彼女たちが我々に味方し、その御業を振るってくれている今この瞬間に、我々は壁内人類自身の力で立ち上がれるだけの土台を、死に物狂いで構築しなければならない。 私が休んでいる暇などない。

 

 

 

自身の胃を案じるなど甘えだ、壁内人類の為に捧げろ。

 

 

 

私は、手のひらの錠剤を水も飲まずに口内へと放り込み、ガリガリと音を立てて噛み砕きながら、己の弱い心臓と悲鳴を上げる胃壁を冷徹に鼓舞した。

 

 

 

己を鼓舞しながら、紙にペン先を走らせる。

 

 

 

私の構想した、壁内の超大型巨人の救済と労働力確保の計画を打診すると同時に。

 

 

 

 

始祖ユミルのデタラメな能力で、広範囲の壁の硬質化解除と、巨人を人間に戻すという神の如き奇跡の実行が可能であるかについて確認しなければならない。

 

 

 

 

冬の風が窓ガラスを叩く音を背に、私は人類の夜明けを決定づけるであろう書簡に、ただひたすらにペン先を走らせ続けるのだった。

 

 

 

 

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