進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
第十九話
昨晩は結局、夜が白み始める頃まで語り明かしてしまった。
翌朝。巨大樹の隙間から、朝の淡い木漏れ日が森の地面に差し込んでくる。
俺が昨日削り出した即席のクリスタルの宿、その入り口に立て掛けておいた木の板がコトリと動き、中からリーシェが出てきた。
「おはよう」
目を擦りながら、彼女が自然なトーンで声をかけてくる。
すかさず俺も
「おはよう」
と、極力威圧感を出さないよう腹の底から響く重低音で返した。
昨晩の対話のおかげで、俺たちを隔てていた種族の壁は随分と薄くなっていた。
彼女は軽く背伸びをすると、そのまま水場へと向かい一切の躊躇いもなく、調査兵団のジャケットを脱ぎ、中の衣服まで脱ぎ始めた。
(───おいおいおい!)
察した俺の(中身が健全な男子大学生の)脳内は、一瞬でパニックに陥った。
いくら俺が今15メートルのバケモノで、彼女からすれば「無害な巨人」枠に入ったのだとしても、精神は立派な男だぞ。
壁外調査の過酷な環境下で、水浴びのチャンスがあればすぐさま身を清めるのが兵士の習性なのだろうが、流石に無防備すぎる。
俺はすぐさま視線を明後日の方向(太い木の幹)へ移し、地響きを立てないよう慎重に背を向け、その場を離れようとした。
「あっ……ごめんなさい、いきなり服を脱ぐなんて……」
背後でハッと我に返ったような声が聞こえた。
姿は見えないが、人間(中身)がいる前で着替え始めた自分の行動に気づき、恐らく耳の先まで赤面しているのだろう。
俺は内心の動揺を必死に隠し、大人の余裕というやつを総動員して、極めて平静を装いながら低く落ち着いた声で応えた。
「いいや、大丈夫だ。今日中に水浴び専用の小屋を作ろう。そこまで頭が回らなかった私の落ち度だ」
(危ねえ、巨人の顔面が赤くならない仕様で本当に助かった……)などと胸を撫で下ろしつつ、そう言って素早くその場を離れようとすると、背後からぽつりと、
「……妙に紳士ね」
と、呆れたような、でもどこか可笑しそうな呟きが聞こえた。
俺は都合よく巨人の耳が遠くなった振り(聞こえなかった振り)を決め込み、ズシン、ズシンと規則正しい足音を立てて水場から距離を取った。
30分後。
少し離れた場所で、巨大樹の幹を背にしてドカッと座っていると、身支度を終えたリーシェが小走りで戻ってきた。
「待たせてごめんなさい」
俺が見下ろすと、彼女の濡れた金髪が森の木漏れ日に当たり、キラキラと透き通るような光を反射していた。
元々整った容姿も相まって、まるでそこだけ名画の一部分を切り取ったかのような、息を呑む錯覚を見せる。
前世でこんな美人と知り合う機会なんて微塵もなかった俺は、内心で少しだけ見惚れてしまったが、すぐに頭を振って思考を切り替えた。
今日やるべきことは決まっている。
「……周辺の巨人を狩ってこよう」
俺はゆっくりと立ち上がり、15メートルの視座から森の奥を見据えた。
「リーシェは宿で待っているといい。あの中なら、並の巨人ではヒビひとつ入らない」
俺がいない間に万が一のことがあっても、あのクリスタルのシェルターにいれば絶対に安全だ。
俺が周囲の無垢の巨人を一掃(文字通り物理的に粉砕)してくれば、彼女も安心してこの森で過ごせる。
俺がそう告げると、リーシェは立体機動装置のベルトをキュッと締め直し、昨日までの怯えを一切感じさせない、調査兵団の兵士としての強い光を瞳に宿して俺を見上げた。
「私も連れて行って」