進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百九十七話

 

 

846年7月20日

 

 

肌をジリジリと焼くような真夏の強い日差しが、雲一つない抜けるような青空から降り注いでいた。

 

 

吹き抜ける風にはすでに青々とした夏の草の匂いが混じり、世界が圧倒的な生命力に満ち溢れていることを実感させる。

 

 

あの、オルブド区での最初の壁解体と、超大型巨人を人間に戻すという『神話の証明』から、約五ヶ月という月日が過ぎていた。

 

 

あの日を境に、新エルディア帝国の歴史は、かつてない猛烈な速度で激動のうねりの中を進んできた。

 

 

数週間に一回のペースで、ウォール・シーナから順に、ウォール・ローゼへと、少しずつ、計画的に壁の硬質化を解体する作業が続けられてきたのだ。

 

 

俺がクリスタルの保護膜を展開し、ユミルが始祖の力で巨人の呪いを解く。

 

 

そこから現れた、約百年前の同胞たち──その数、実に五十万人。 帝国はまさしく国家の総力を挙げて、彼らの受け入れ態勢を構築した。

 

 

エルヴィン団長やピクシス司令、ナイル師団長といった首脳陣たちは、連日連夜、文字通り血を吐くような(特にエルヴィンは胃にいくつ穴が開いたか分からないほどの)激務をこなし、没収した旧王政の莫大な隠し資産を惜しみなく注ぎ込んだ。

 

 

彼らに戸籍を与え、住む場所を用意し、農地開拓やインフラ整備といった職を提供し続けたのだ。

 

 

当初懸念されていた既存の壁内民衆との軋轢やパニックも、俺たち三柱の女神を崇める『三神教』の強烈なプロパガンダと、同胞を迎え入れるという大義名分によって、驚くほど平和的に抑え込まれていた。

 

 

今や、百年前の人間たちもすっかりこの時代に順応し、爆発的な勢いで進む帝国の産業革命と領土開拓の強力な担い手として、壁内の発展に大いに尽力している。

 

 

そして、今日。 すべての始まりの地であり、俺たちにとっての第二の故郷とも呼べる、ウォール・マリア南端の突出区──『シガンシナ区』の壁を解体する、記念すべき最後の日がやってきたのだった。

 

 

「焼きたての串肉はいかがー! たっぷりタレが絡んで美味いよー!」 「今が旬の、帝都でも手に入らない珍しいフルーツ売ってるよー! よく冷えてるよ!」 「はい、そこのお客さん! 一人一つまで! 帝都の職人が一つ一つ魂を込めて彫り上げた、女神様方の特製木彫りフィギュアだ! ここでしか買えないぞ!」

 

 

シガンシナ区の外門。 かつては調査兵団が悲壮な覚悟で潜り抜け、常に死と隣り合わせの地獄であった『壁外の平原』に向けて。

 

 

 

今は、真っ直ぐに整備された土の道の両脇に、色とりどりの天幕を張ったおびただしい数の屋台群がズラリと立ち並んでいた。

 

 

 

肉の焼ける香ばしい脂の匂い、甘い果実の香り、そして商人と客たちの活気ある笑い声が、夏の熱気と混ざり合ってシガンシナ区の空気を震わせている。

 

 

 

彼らが、かつて人類の天敵であった巨人の脅威に一切怯えることなく、こうして壁の外で盛大な祭りに興じていられるのには、明確な理由があった。

 

 

俺がひたすら歩き続けて生成し、ユミルと共に創り上げた、ウォール・マリアを遥かに超える巨大な絶対防壁。

 

 

直径1200km、円周にして約3770kmに及ぶ、絶対に破壊不可能なクリスタルの壁。

 

 

その名も、新政府によって正式に命名された『ウォール・アトラス』。

 

 

(……当たり前の様に俺の名前が使われてるなー……)

 

 

俺は、屋台の喧騒を歩きながら、内心で盛大なツッコミを入れていた。

 

 

三神教の「破壊と創造の神、女神アトラス」として崇め奉られるというインパクトが強過ぎて最近まで霞んでいたが、俺はとんでもない名前の残し方をしてしまったのだ。

 

 

 

聞くところによれば、現在爆発的に信者を増やしている三神教の教義には、『我々を守り給うた神聖なる壁がある方向に向かって、毎日感謝の祈りを捧げよ』という一文が記述されているらしい。

 

 

(……壁内にいる限り、360度どこ向いても壁じゃねぇか。どっち向いて祈るんだよそれ……)

 

 

メッカの方向とかそういう次元の話ではない。全方位が祈りの対象である。

 

 

信者たちは毎朝、適当な方角を向いて祈っているのだろうか。

 

 

そんなアホな光景を想像しつつ、俺は苦笑交じりに意識を目の前の現実へと引き戻した。

 

 

「お姉様! フルーツ買おう! 今が旬だって! すっごく美味しそう!」

 

 

隣を歩いていたユミルが、俺の腕を引っ張りながら、屋台の一つを指差して目をキラキラと輝かせていた。

 

 

初夏ということもあり、今日の俺たちの衣装は比較的薄手で、風通しの良い涼しげなものをチョイスしていた。

 

 

俺は、淡い水色の生地に白いレースがあしらわれた、肩周りや鎖骨が少し露出するノースリーブのサマーワンピース。

 

 

ユミルは、純白のキャミソールの上に薄いカーディガンを羽織り、短いショートパンツから健康的な白い脚を惜しげもなく出している。

 

 

ちなみにリーシェは、俺がデザインしたタイトな黒のノースリーブシャツに、スリットの入ったロングスカートという、彼女の引き締まった完璧な肢体を暴力的なまでに強調する大人の装いだ。

 

 

 

絶世の美少女三人が、薄着で夏の陽射しを浴びながら肩を並べて歩いているのだ。

 

 

周囲の民衆からの熱視線と歓声が凄まじいことになっているのは言うまでもない。

 

 

ユミルの指差す先を見ると、氷水が張られた大きな木桶の中には、毒々しい赤紫色の果肉を持つ果物がゴロゴロと冷やされていた。

 

 

「こーら、先走らない。護衛さんが困るでしょ」

 

 

屋台に向かって一人で突っ走ろうとする無邪気なユミルの手をキュッと引き、俺はたしなめるように制止した。

 

 

そう、今の俺たち三人の周囲には、数メートル間隔で、黒服のスーツに身を包んだ屈強なボディガードたちが数名、完璧なフォーメーションを組んで取り囲んでいるのだ。

 

 

彼らは、あのリヴァイ兵長が直々に手塩にかけて鍛え上げた『対人立体機動部隊』の中から、さらに選抜された超精鋭兵とのことだ。

 

 

 

真夏の暑い日差しの中、分厚い黒服を着込んでいるというのに、彼らの顔には汗一つ浮かんでいない。

 

 

 

服の上からでもはっきりと分かる鋼のような筋肉の隆起と、一切の隙を感じさせない重心の低い立ち姿。

 

 

並大抵の修練では決して到達し得ない、人を殺すことに特化したプロフェッショナル特有の冷たい気配が漂っている。

 

 

正直な話、俺とリーシェがいれば、どんな暗殺者や暴徒が来ようが、それこそ小指の先でコンマ数秒で制圧できる。

 

 

彼らを守ることはあっても、守られる必要など全くないのだ。

 

 

だが、新エルディア帝国の『生きた最高神』が、護衛もつけずに無防備に祭りを歩き回るのは、国家の威信と体裁的に大問題らしい。

 

 

エルヴィン団長から「政治的な理由だ。どうか彼らを連れて歩いてやってくれ」と、胃薬を片手に深々と頭を下げられてしまったため、こうして大袈裟な護衛を引き連れることになったのだ。

 

 

 

お陰で、ただでさえ目立つ俺たちが、さらに大名行列のような注目を一身に浴びている訳だが……そこはもう、アイドルとしての宿命だと割り切って慣れるしかない。

 

 

俺たちがゆっくりと人垣を分ける様に、目的のフルーツ屋台の前に立つと。

 

 

屋台の店主は、初夏の暑さとは全く別の、滝のような尋常ではない脂汗を額から滲み出させていた。

 

 

「……こ、これはこれはッ! ア、アトラス様に、ユミル様、リーシェ様……ッ! ど、どうぞ! どうぞお好きなだけ持っていってください! 勿論、お代は一切要りませんのでッ!!」

 

 

店主は、まるで閻魔大王の裁きを受ける亡者のように、ガタガタと震えながら氷水に浸かったフルーツの入った木桶ごと、俺たちに差し出してきた。

 

 

「わぁ! タダだって! やったねお姉様! じゃあこれとこれと、あとこれと──────」

 

 

「ダーメ、一個までだよ。食べ切れないでしょ」

 

 

食欲の権化と化したユミルが、遠慮という言葉を知らずに次々とフルーツを抱え込もうとするのを、俺はすかさず彼女の広いおでこに「ペチンッ」と軽いデコピンをお見舞いして制止した。

 

 

「あうっ!」と涙目になっておでこを押さえるユミルを横目に、俺は隣のリーシェに視線を送り、お仕置きの続きを任せる。

 

 

「ふふっ、卑しい真似をすると、アトラスに嫌われるわよ?」 リーシェは極上の笑みを浮かべながら、ユミルの柔らかいほっぺたを両手で「むにむにむにっ」と容赦なく引っ張り始めた。

 

 

「いひゃい……りーへ、やめへ……っ」と情けない声を上げるユミル。

 

 

そんな微笑ましい百合のじゃれ合いを背後に感じながら、俺は自身の比類なき超絶美少女フェイスに、ありったけの慈愛と気品に溢れた外向けの『女神スマイル』を完璧に貼り付け、恐縮しきっている店主に向き直った。

 

 

「店主さん、お気遣い誠にありがとうございます。ですが、お代はしっかり払いますのでご安心ください。私たち三人の分と……後ろで警護してくださっている、護衛さん方の分も含めて、一つずつ頂けますでしょうか?」

 

 

俺が鈴を転がすような声でそう告げると、背後に控えていた黒服の護衛たちが、ビクッ!と一斉に肩を震わせた。

 

 

「ア、アトラス様! 我々の事はどうかお気遣いなく──────」

 

 

護衛の一人が、恐れ多いとばかりに、慌てて遠慮しようと声を上げる。 だが、その言葉を遮るように。

 

 

「あら。……アトラスの厚意を、無碍にするつもり?」

 

 

ユミルの頬を摘んでいたリーシェが、スッと首を巡らせ、護衛の男たちに向けて、零下数十度の絶対的な『圧』を含んだ笑みを向けた。

 

 

言葉こそ静かだが、その瞳の奥には「断ればこの場でうなじを削ぐわよ」という、人類最強の鬼神としての明確な殺意がチラついていた。

 

 

「め、滅相もございません!! 大変失礼いたしました!! ありがたく、頂戴いたします!!」

 

 

護衛の男たちは、一瞬にして姿勢を九十度に折り曲げ、額を地面に擦り付けんばかりの勢いで直角のお辞儀をした。

 

 

(……なんか、会社の飲み会で部下に無理やり飲ませるパワハラ上司みたいになってないか……?)

 

 

俺は内心で冷や汗を流しながら、盛大にツッコミを入れた。

 

 

炎天下の中、付きっきりで厚手の黒服に身を包んでくれている護衛さんたちの水分補給も兼ねて、ついでに奢ってあげようと気を利かせたつもりだったんだけど……

 

 

上に立つ者というのは、中々どうして難しいものである。

 

 

そんなこんなで、慌てふためきながらも、人数分のフルーツを見事にカットして用意してくれた店主が、台の上に木製の器を並べていく。

 

 

「……あの、アトラス様……本当にお代は結構ですので……」

 

 

申し訳なさそうな、むしろお金を受け取ったらバチが当たるのではないかと本気で怯えるような表情で、固辞しようとする店主。

 

 

俺は、護衛さんたちを含め、一人一人に冷えたフルーツの器を笑顔で手渡ししながら、台の上に、相場よりも少しだけ色を付けた銀貨を置いた。

 

 

「ありがとうございます。私たちが来たせいで少しお騒がせしてしまいましたので、そのお詫びの分もどうかお受け取りください。それでは失礼しますね」

 

 

俺はそう言い残し、店主がさらに恐縮する前に、そそくさとその場を退散することにした。

 

 

「おおお……なんて慈悲深いんだ……」 「我々のような平民から、泥棒のような真似はしないと……御姿だけでなく、御心までどこまでも清らかとは……!」 「アトラス様ぁぁぁ!!」

 

 

背後から、屋台の店主や周囲の民衆たちが、涙を流しながら手を合わせ、俺の去り際に向けて狂信的なまでの持て囃す声や祈りの言葉を投げかけてくる。

 

 

(……あぁ、背中がむず痒い……いたたまれない……)

 

 

俺は恥ずかしさで耳の先を赤くしながら、足早に人混みを抜けていった。

 

 

日差しの強いメインストリートから少し外れ、背の高い木々が作る涼しい日陰へと移動した俺たちは、遠くに聞こえる賑やかな屋台通りの喧騒をBGMにしながら、例のフルーツに舌鼓を打っていた。

 

 

「んー! 甘くて瑞々しい! 見た目はちょっと毒々しい不思議な色だけど、すっごく美味しい!」

 

 

ユミルが、顔をほころばせながら木製のスプーンで赤紫色の果肉を頬張る。 彼女の言う通り、とても不思議な味がする。

 

 

前世の記憶にある果実に照らし合わせると、まさに『ドラゴンフルーツ』に似た、さっぱりとした甘さと微かな酸味が特徴的だ。

 

 

ついさっきまで氷水に浸されていたのだろう。口に含むと、果肉の冷たさが火照った身体の芯にまで染み渡り、夏の暑さをすーっと引かせてくれる。

 

 

少し離れた場所では、黒服の護衛さんたちも、周囲への警戒の目を光らせながら、交代で順番にフルーツを口にしていた。

 

 

彼らのいかつい顔にも、冷たい甘味に癒やされたのか、心なしか顔色に生気と活力が漲っている様に見えた。

 

 

 









質問コーナー設置しました。
何でも答えます。
ネタバレ注意です。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=342227&uid=510753

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