進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百九十八話

 

 

「あらあら、久しぶりねー! アトラスちゃんにリーシェちゃん、それにユミルちゃんも」

 

 

ふと、木陰の奥から、聞き覚えのある温かい声がかけられた。 振り返ると、そこには日傘を差したカルラさんが、穏やかな笑みを浮かべて立っていた。

 

 

どうやら、イェーガー一家も家族揃って、このシガンシナ区の壁解体の祭りにやってきていたらしい。

 

 

カルラさんの背後には、少し草臥れた様子ながらも幸せそうに笑うグリシャさんと、エレンくん、そしてミカサちゃんの姿があった。

 

 

俺は護衛さんたちに「身内ですから大丈夫です」と目配せで伝え、警戒を解かせると、嬉々としてイェーガー一家のもとへ向かった。

 

 

「お久しぶりです! カルラさん、グリシャさん。エレンくんにミカサちゃんも、元気にしてた?」

 

 

俺は、外向けの『完璧な女神スマイル』ではなく、この世界で出会った大切な第二の家族に向ける、嘘偽りのない『素の笑顔』を弾けさせた。

 

 

ここ数ヶ月、壁の解体作業や帝都との往復で忙しく、彼らとゆっくり交流する時間が取れていなかったのだ。久々に会えた喜びで、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 

 

「はい! アトラスさんたちも、お元気そうで何よりです!」

 

 

エレンが、ビシッと直立不動の姿勢をとり、目をギラギラと輝かせながら即答した。

 

 

「俺は、アトラスさんとリーシェさんたちが織りなす究極の『美しさと尊さ』を、後世の世に広く知らしめる為に、日々カンバスに向かって精進しています!」

 

 

「あ、あはは……程々にね?……」

 

 

俺は、エレンのあまりにもブレない、相変わらずの『百合の宣教師』の如く魂を燃やしている狂気的な様子に、頬を引き攣らせて乾いた笑いを返すしかなかった。

 

 

どうやら彼の天才百合絵師としての業は、さらに深いところまで到達してしまっているらしい。

 

 

「はぁ……。本当に、この子ったら。最近はご飯を食べるのも忘れて絵ばかり描いてるのよ。誰に似たんだか……」

 

 

カルラさんが、恥も外聞も気にせず熱く語る息子の姿に、深くため息をつきながら呆れた笑みを浮かべた。

 

 

グリシャさんも隣で「私の血ではないな……」と遠い目をしている。

 

 

そんな和やかな会話が交わされる中。

 

 

俺たちとは少し離れた、さらに奥まった木陰のスペースで、何やらひどく物騒で、冷え切った空気を漂わせている二人の姿があった。

 

 

「……中々、様になってきたようね、ミカサ」

 

 

腕を組み、冷徹なアイスブルーの瞳で眼前を見下ろすリーシェ。

 

 

「はい。リーシェさんのお陰で……エレンに集る、煩わしい羽虫共は、完全に近寄らなくなりました」

 

 

リーシェの前に立ち、年端もいかない10歳そこらの少女とは思えないほど、暗く、底知れぬ凄みを宿した黒い瞳で静かに答えるミカサ。

 

 

彼女のその細い腕は、自然と脱力しているように見えて、いつでも瞬時に相手の急所を的確に破壊できる、完璧な臨戦の姿勢──いわゆる暗殺術の『構え』を無意識のうちに完成させていた。

 

 

周囲を警戒していた黒服の護衛たちも、その異常な気配に当然気付いたのだろう。

 

 

彼らプロの戦闘者の本能が、あの小さな少女から放たれる『異質な圧』に、ジワリと冷や汗を流して警鐘を鳴らしていた。

 

 

 

「リーシェ様……」 護衛のリーダー格の男が、おずおずと、しかし警戒を解かずにリーシェに質問を投げかけた。

 

 

「そちらの少女は……一体、何者ですか。あの立ち姿、並の訓練で身につくものではありませんが……」

 

 

護衛の問いに対し、リーシェはフッと口角を上げ、極上の、しかしひどく好戦的な笑みを浮かべた。

 

 

「そうね。……貴方達の上司である、あの忌々しい小男……リヴァイと、同じ血筋を引く逸材よ。私が暇つぶしに護身術を指南してあげてるの。 ……貴方達、一人一人となら、良い勝負をするんじゃないかしら?」

 

 

「ッ!?」

 

 

その言葉に、護衛たちの間に目に見えるほどの激震が走った。 あの、人類最強の鬼神・リーシェと同等に渡り合う次元のバケモノ、リヴァイ兵長と同じ『アッカーマンの血』を引いているという衝撃。

 

 

しかも、その恐るべき血筋を、あのリーシェ・ベニアが密かに直々に鍛え上げているという絶望的な事実。

 

 

さらにリーシェは、目の前に立つ齢十かそこらの少女が、帝国随一の対人戦闘のスペシャリストである自分たち護衛を相手に、タイマンなら『良い勝負をする』と断言したのだ。

 

 

誇張ではない。護衛たちの目から見ても、彼女の立ち姿の美しさと、そこから漏れ出る尋常ならざる死の気配は、すでに自分たちの領域に片足を突っ込んでいることがはっきりと分かっていた。

 

 

「リーシェさん。……この黒い服の人達、すごく強い」

 

 

ミカサは、一切の表情を変えることなく、黒い瞳で護衛たちをスキャンするように見つめながら、静かにそう分析した。

 

 

「分かるのね。大丈夫よ。彼等は帝国随一の精鋭、そこらの賊やチンピラとは訳が違うわ」

 

 

リーシェは、まるで優秀な愛弟子を誇るように、満足げに頷く。

 

 

「……帝国随一」

 

 

ミカサが、その言葉の響きを反芻するように呟く。

 

 

「あなたなら、数年もすれば彼らくらい、片手間で片付けられるぐらいに強くなるわよ。 ……なんなら、いつか私を越えることだってあるかもしれないわね」

 

 

リーシェが、冗談交じりに、しかしどこか本気で期待しているような微笑みを浮かべる。

 

 

そこには、他者を「塵芥」と見なしてきた彼女からは想像もつかない、弟子に対する一種の『馬鹿親』のような温かい感情が垣間見えていた。

 

 

だが、その言葉に対するミカサの返答は、あまりにも冷徹で、そして真理を突いたものだった。

 

 

「リーシェさんを越えるのは、無理。……果てが見えない」

 

 

謙遜や、遠慮ではない。 彼女のその言葉は、至極当たり前の、太陽が東から昇るのが自然であるかのように、絶対的な事実をただ口にしただけだった。

 

 

アッカーマンとしての本能が、目の前に立つ師匠の背後にある、底なしの暴力の深淵を正確に測り取っていたのだ。

 

 

「あら、そんな風に私を褒めても、何も出ないわよ?」

 

 

「……褒めてない。事実を言っただけ」

 

 

どこまでもマイペースで冷徹な師弟の、殺伐としているのにどこか微笑ましいやり取り。

 

 

俺は、エレンたちと談笑しながらも、その木陰での物騒すぎる会話を盗み聞きし、内心で(……ミカサちゃん、頼むからその才能をエレンの周りの女の子を物理的に排除するためだけに使わないでね……)と、彼女の未来に若干の危惧を抱きながら、苦笑を漏らしていた。

 

 

 

そんな、温かくも騒がしい再会の時間を楽しんでいると。

 

 

──────ゴォォォォン……ッ!

 

 

ふと、シガンシナ区の中央広場の方角から、時刻を知らせる重厚な鐘の音が、空気を震わせて鳴り響いた。

 

 

俺は、手元にあったフルーツの器を空にし、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

隣で笑っていたリーシェとユミルも、スッと表情を引き締め、俺の左右に並び立つ。

 

 

「……そろそろ、時間だね」

 

 

俺は、見上げるほど高くそびえ立つ、シガンシナ区の巨大な壁───かつて超大型巨人に蹴り破られ、地獄の蓋が開くはずだった、因果の象徴───へと視線を向けた。

 

 

今日、この壁を解体し、中に眠る同胞たちを解放する。 それは、壁内人類を縛り付けていた過去の亡霊との、完全なる決別の儀式だ。

 

 

「行こう。……私たちの、新しい未来を創るために」

 

 

俺は、愛する二人、そして第二の家族たちに力強い笑顔を向け、護衛たちを引き連れて、祭りの熱狂が渦巻く特設舞台へと、決意の歩みを進めるのだった。

 

 

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