進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第二話

俺はとりあえず、この訳の分からない状況下で、自分がどれくらいの身体能力を持っているのか試してみることにした。

 

視線をスッと下へ向ける。

 

実験体第一号は、先程から足元をフラフラと彷徨っている5メートルほどの小型巨人。

 

──そう、君だ。

 

俺はゆっくりと歩みを進める。

 

ドスン、ドスンと大地を揺らしているにも関わらず、信じられないことに、転生前の慢性的な運動不足だった人間の肉体を遥かに超える「軽さ」を感じていた。

 

15メートルというビルサイズの巨躯を動かしているはずなのに、まるで重力という枷が外れたかのように身体が羽のように軽いのだ。

 

軽く地を、踏み込む。

 

そのまま数歩、走る。

 

そして、跳ぶ。

 

たったそれだけの動作で、俺の巨体は凄まじい推進力を生み出し、まるで巨大な砲弾のように軽々と宙を舞った。眼下の景色が恐ろしいスピードで流れていく。

 

俺は滞空したまま、眼下にいる巨人の頭部めがけて右腕を大きく振りかぶった。

 

当然、格闘技の経験などない。

 

ボクシングのフォームもクソもない、ただ力任せに振り下ろすだけの、ひどく雑な打撃だ。

 

落下する勢いと体重を完全に直乗せして、その拳を叩き込む。

 

 

 

───ッッパァァアアアアン!!!!

 

 

 

拳が激突した瞬間、それは最早「打撃音」などという生易しいものではなかった。

 

巨大な風船が破裂したような、あるいは至近距離で爆薬が起爆したかのような凄まじい爆音が平原に響き渡り、すさまじい風圧が周囲の草を円状に薙ぎ払った。

 

「……マジかよ」

 

着地した俺が拳を振り抜いた先を見ると、実験体第一号だった巨人の頭部は、首の付け根から上ごと跡形もなく綺麗に消し飛んでいた。

 

血飛沫の代わりに大量の高熱の蒸気をブシュウウウッと噴出しながら、その残骸は糸が切れたマリオネットのようにドサリと崩れ落ち、急速にシュウシュウと音を立てて朽ちていく。

 

俺は自分の巨大な右拳と、蒸発していく巨人の死骸を交互に見比べた。

 

一通り原作の漫画を読み終え、無垢の巨人から九つの巨人まで、大体の巨人のスペックや強さを知っている俺の目から見ても、これは明らかにおかしい。

 

異常なパワーだ。

 

ただの15メートル級の無垢の巨人が、いくら小型で無防備だったとはいえ、同族の頭部を豆腐のように一撃で粉砕できるものだろうか?

 

いよいよもって、自分が本当にただの無垢の巨人なのかどうか疑わしくなってきた。

 

だが、困惑すると同時に、先程までのどん底の気分を打ち払うような「新たな希望」が、俺の胸の奥底でふつふつと湧き上がってくるのを感じていた。

 

もしかしたら……。

 

これほどの圧倒的な強さ、異常なまでのスペックがあれば。

 

俺が知っているあの残酷すぎる歴史を、救いのない悲劇の運命を、少しでも変えられるんじゃないか……?

 

自身の拳から立ち昇る蒸気をぼんやりと見つめながら、俺はふと冷静になった。

 

(いや、待てよ。もう一度よく考えろ。)

 

確かに今の俺は異常に強い。

 

そこら辺の無垢の巨人をワンパンで粉砕できる物理チート野郎だ。初期の調査兵団相手なら無双できるかもしれない。

 

だが……原作の中盤から後半にかけての怒涛の展開を思い出せ。

 

雷槍による一点突破、マーレ軍の対巨人野戦砲、空から降り注ぐ飛行船からの爆撃、そして何より、世界を平らに踏み潰す「地鳴らし」の絶望的なスケール。

 

あのインフレしきった物語の後半戦においては、ただの「殴るのが強いだけの15メートル級」なんて、的がでかいだけのサンドバッグに過ぎない。一体の巨人の力でどうこうできる基準を、あの世界はとうに超えてしまっているのだ。

 

(……足りない。これじゃあ全然足りない。もっと、圧倒的に強くならないと)

 

もしエレンやミカサたち、ひいてはこの残酷すぎる世界を少しでもマシな方向に導きたいと願うなら、今のままではどこかで犬死にするのがオチだ。

 

だが、俺にはこの異常なパワーと、巨人の本能に呑まれない「確固たる意思」がある。

 

もしかしたら、まだ俺自身が知覚できていないだけで、異世界転生モノのお約束である隠された"特典(チートスキル)"があるかもしれない。

 

(とはいえ、今すぐ人類と接触するのは時期尚早すぎるな……)

 

言葉が通じるとはいえ、見た目は完全なる化け物だ。壁に近づけば問答無用で駐屯兵団の大砲の的になり、調査兵団に出くわせばうなじを削ぎ落とされる。

 

運良く意思疎通できたとしても、あのマッドサイエンティストな分隊長(ハンジさん)の実験台として「ソニー」「ビーン」に続く名前を付けられ、夜通し語り明かされる拷問を受けかねない。

 

考えただけで背筋(ないけど)が凍る。

 

俺は安全に自分の能力を検証し、開発できる場所を探すことにした。

 

狙うは「巨大樹の森」。

 

あそこなら樹高80メートルを超える大木が鬱蒼と茂っている。

 

15メートル級の俺が隠れるにはうってつけだし、多少ド派手に暴れ回ったところで、外から目立つこともなく周囲への影響も最小限に抑えられるはずだ。

 

(無事に着いたら、まずはそうだな……)

 

"硬質化"でも試してみるか。

 

あの世界における絶対的な防御であり、最強の矛にもなる必須スキル。

 

女型の巨人や鎧の巨人が見せたあの技術が使えるかどうかで、今後の俺の生存率は天と地ほど変わってくる。

 

目標が決まれば行動あるのみだ。俺は巨大な脚に力を込め、平原を蹴り飛ばすように走り出した。

 

……それにしても、本当に奇妙な感覚だ。

 

どれだけ全力疾走しても、息が切れない。筋肉が悲鳴を上げない。

 

心臓がバクバクと暴れることもない。疲労物質という概念すら消え失せたかのような、永久機関と化した異常な肉体。

 

時折遭遇する無垢の巨人たちをガン無視し、進路を塞ぐ不運な巨人はサッカーボールのように蹴り飛ばしながら、俺はただひたすらに壁外の荒野を風となって駆け抜けた。

 

そうして、疲労を一切知らない肉体で不眠不休のまま走り続けること、約二日間。

 

ウォール・マリアから直線距離にしておよそ50キロほど離れた壁外の奥深く。

 

地平線の彼方に、俺の巨体ですら見上げるほどの圧倒的なスケールを誇る、巨大な幹の群れが見えてきた。

 

(ようやく着いた……!)

 

薄暗く、どこか神秘的な空気を纏うその場所。俺はついに、目的の地である「巨大樹の森」に到着した。

 

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