進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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リーシェ視点です


第二十話

ひんやりとした、けれど不思議と安らぐ空気の中で目が覚めた。

 

体を起こすと、視界に広がるのは朝の淡い光を乱反射する青白いクリスタルの壁。

 

昨晩、あの規格外の巨人が私のために造ってくれた「家」だ。

 

壁外調査の最中に、木の枝の上ではなく、足を伸ばしてぐっすりと眠れたこと自体が奇跡だった。

 

私は軽く背伸びをして凝り固まった筋肉をほぐすと、入り口に立て掛けられた木の板をずらし、外へ出た。

 

木漏れ日が差し込む森の広場。そこには、すでに起き出していたアトラスの巨大な背中があった。

「おはよう」

私が声をかけると、彼はこちらを振り返り、

「おはよう」

と、腹の底に響く重低音で、けれど極力威圧感を抑えた穏やかな声で返してくれた。

 

私はそのまま水場へと歩み寄った。

 

水面に映る自分の顔は、昨日の死闘(私は逃げ回っていただけだが)の土埃と、巨人の返り血の蒸発した汚れでひどい有様だった。

 

壁外調査において、安全な水場を見つけた時に身体を清めるのは、生存率を上げるための兵士の鉄則であり、染み付いた習性だ。

 

私は一切の躊躇いもなく調査兵団のジャケットを脱ぎ捨て、インナーの裾に手をかけた。

 

───その瞬間、ピタリと手が止まった。

(……待って。彼、元は「人間の男」だって昨日言っていなかったかしら……?)

 

ゆっくりと背後を振り返る。

 

そこには、15メートルの恵まれすぎた体躯を持つ、彫刻のように端正な顔立ちの巨人がいる。

 

そしてその巨人の「中身」は、私とさして年齢の変わらない、うら若き青年の精神なのだ。

 

カアァァッ、と顔から火が出るのが自分でも分かった。

いくら相手が巨大なバケモノの姿をしているとはいえ、うら若き人間の男性の目の前で、何の前触れもなく服を脱ぎ始めたのだ。

 

兵士の習性とはいえ、あまりにも無防備で、恥知らずすぎる。

「あっ……ごめんなさい、いきなり服を脱ぐなんて……」

 

私が消え入るような声で謝ると、アトラスはビクッと巨大な肩を揺らし、すかさず視線を明後日の方向──太い木の幹の方へと逸らした。

 

そのまま、地響きを立てないよう抜き足差し足で、けれど明らかな動揺を孕んだ早歩きで背を向ける。

 

「いいや、大丈夫だ。今日中に水浴び専用の小屋を作ろう。そこまで頭が回らなかった私の落ち度だ」

 

背中を向けたまま、必死に大人の余裕を装うような、ひどく真面目な声が降ってきた。

 

そのあまりにも人間臭い反応と、逃げるように去っていく巨大な背中を見送って、私は思わず毒気を抜かれたように息を吐いた。

 

「……妙に紳士ね」

巨人が人間の着替えにドギマギして視線を逸らすなんて、壁の中の誰に話しても絶対に信じてもらえないだろう。

 

私は少しだけ可笑しくなって、くすりと笑いながら冷たい水で身体を洗い流した。

 

30分後。

水浴びと身支度を終えた私は、少し離れた場所で木の幹を背にして座っているアトラスの元へ向かった。

 

タオル代わりの布で濡れた髪を拭きながら近づくと、木漏れ日を浴びた彼がこちらを見下ろす。

 

その青い瞳が、ほんの一瞬だけ見惚れたように揺らいだのを、私は見逃さなかった。

 

……なんだか、本当に普通の青年と接しているような気分になってくる。

 

だが、アトラスはすぐに表情を引き締め、15メートルの視座から森の奥深くへと視線を向けた。

 

「……周辺の巨人を狩ってこよう」

彼が静かに、けれど有無を言わせぬ響きで宣言した。

 

「リーシェは宿で待っているといい。あの中なら、並の巨人ではヒビひとつ入らない」

私を危険に晒さないための、彼なりの最大限の配慮だ。あの中にいれば、間違いなく私は無事に壁内へ帰還する日を待つことができるだろう。

 

───でも

 

私は、キュッと立体機動装置のベルトを締め直した。

 

私は守られるだけの箱入り娘じゃない。

 

壁の外で生き抜くために訓練を重ねてきた、調査兵団の兵士だ。

 

それに……彼がどんな戦いをするのか、この目でしっかりと見ておきたかった。

 

この圧倒的な力を持つ彼が、これからどうやってこの世界と向き合っていくのかを。

 

私は濡れた髪を払い、真っ直ぐにアトラスの瞳を見上げて、はっきりと告げた。

 

「私も連れて行って」

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