進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第二百三話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん──────"絶対"嫌……かな」

 

 

 

 

 

甘く、どこまでもか弱く掠れた声。

 

 

だが、目元をトロンとさせながらも、俺を見つめるその瞳の奥には、決して揺るがない強烈な『明確な意志』と『拒絶』の光が宿っていた。

 

 

命を落とすことになろうとも、俺との繋がりだけは絶対に手放さないという、狂気的なまでの執着。

 

 

「……じゃ、じゃあそっちから入口を塞ぐのは──────」

 

 

パイプを切断しないまでも、彼女の側からバルブを閉めるようにして、俺のエネルギーの流入を一時的にシャットアウトすることはできないのか。

 

 

俺がすがるような思いで代案を口にすると、ユミルは熱い息を吐きながら、ふにゃりと頬を緩めた。

 

 

「んー、できるけど……多分、圧力に耐えきれなくて破裂するだろうから、結局は同じかなー」

 

 

さも当然のように微笑みを浮かべながら、まるで『明日の天気は雨みたいだよ』とでも占うような、極めて軽い調子で告げたのだ。

 

 

「そ、そんな……」

 

 

俺の言葉が、絶望に掠れて消えた。

 

 

パイプを塞いでも、俺の『道』から溢れ出す無限のエネルギーの奔流が、行き場を失ってパイプごと彼女の『道』の入り口を粉砕してしまう。

 

 

そうなれば、ハンジさんの仮説通り、最悪の大爆発を引き起こしかねない。 完全に、手詰まりだった。

 

 

「…………」

 

 

俺が絶望に打ちひしがれて俯いている横で、リーシェが難しい顔をしながら無言で腕を組んでいた。

 

 

彼女は何も言わなかった。

 

 

俺の行動を責めることも、ユミルを説得することもしない。

 

 

俺の『道』と直接繋がり、俺のエネルギーを日常的に受け取っているリーシェだからこそ、ユミルが言わんとする気持ち───アトラスからの繋がりを断たれることへの絶対的な恐怖と喪失感が、痛いほどによく分かるのだろう。

 

 

「大丈夫だよ。お姉様」

 

 

俺の手を握り返すユミルの力が、ほんの少しだけ強くなった。

 

 

「お互いの『道』の圧力差が無くなるまで、私が我慢すれば良いだけ……爆発なんて、しないよ」

 

 

何でも無いかのように振る舞い、俺を安心させるための無邪気な笑顔を見せるユミル。

 

 

自分の『器』が今まさに限界を迎えて悲鳴を上げているというのに、この娘は俺を安心させるためだけに、そんな強がりを口にするのだ。

 

 

「……ケホッ、ケホッ……あぁ……タイミング悪いなぁ……」

 

 

「ユミル……!」

 

 

俺を安心させようと笑ったのも束の間、彼女はすぐに苦しそうに胸を押さえ、激しく咳き込んでしまった。

 

 

痛々しい咳の音に、俺はただ背中をさすってやることしかできず、自身の無力さに唇を噛み締めた。

 

 

結局、その後も根本的な解決に向けた進展がないまま、時間は過ぎていった。

 

 

俺は、このまま俺がここにいて焦りを見せ続ければ、ユミルが無理をして強がり続けてしまうと判断した。

 

 

少し冷静になり、別の解決の糸口を一人で思考するためにも。俺はユミルの看病をリーシェに任せ、重い足取りで別部屋へと退室し、一人でベッドに横たわることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

カチャリ、と。 重厚な寝室の扉が閉まり、お姉様の気配と足音が、廊下の奥へと遠ざかっていくのが分かった。

 

 

「……行ったね」

 

 

熱で重たい頭を微かに動かし、私はベッドの傍らに立つリーシェを見上げた。

 

 

「ええ」

 

 

リーシェは、腕を組んだまま、短く、静かに応えた。

 

 

窓の隙間から差し込む青白い月明かりが、彼女の端正な横顔を照らし出している。

 

 

そのアイスブルーの瞳には、どうしようもなく複雑で、歯がゆい思いが見え隠れしていた。

 

 

「ごめんね。困らせちゃって」

 

 

私は、唇を微かに動かして、謝罪の言葉を口にした。

 

 

「……何のことかしら」

 

 

リーシェは、態とらしく、まるで自身の心を読まれたくないかのように、ふいっとそっぽを向いた。

 

 

でも、分かってる。 それが彼女なりの私に対する不器用な配慮だっていうことくらい。

 

 

「お姉様を、困らせちゃってること」

 

 

私は、決して彼女の差し出した逃げ道に甘えることはしない。

 

 

私が意地を張って、お姉様との繋がりを断ち切ることを拒絶したせいで、あんなにも優しいお姉様を、泣きそうなほど絶望させてしまったのだから。

 

 

「……普段から、それぐらい察しが良いと良いのだけどね」

 

 

リーシェは、小さくため息を吐き出した。

 

 

そして、私の方へと向き直ると、手のかかる妹に向ける呆れたような、でもその奥に確かな慈愛を込めた表情で、そう口にした。

 

 

「えへへー、褒められちゃった」

 

 

痛いところを突かれた私は、どうにも照れ臭くなって、ついふにゃりと笑って茶化してしまった。

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫よ、ユミル」

 

 

 

リーシェが、ベッドの端に静かに腰を下ろして、熱で火照る私の身体を、毛布ごとそっと優しく抱き寄せた。

 

 

「あなたは悪くない。誰も、悪くないの」

 

 

赤子をあやすように、優しく、優しく私の髪を撫でてくれる。

 

 

その手つきは、お姉様のものとは違うけれど、同じくらい温かくて、不器用な優しさに満ちていた。

 

 

「私たちは、この世界で誰よりもお互いを理解し合ってる。……でも、理解し合ってるからこそ、お互い苦しくなってしまうこともある」

 

 

リーシェの静かな声が、熱で霞む私の脳内に、スッと溶け込んでいった。

 

 

そう。お姉様が私を想って『繋がりを断とう』と提案してくれたことも。

 

 

私が、お姉様との繋がりを失うくらいなら破裂した方がマシだと思うことも。

 

 

そして、リーシェが今、自分の無力さに歯がゆさを感じながら、私を抱きしめてくれていることも。

 

 

すべては、お互いを想いすぎるが故の、どうしようもないすれ違いなのだ。

 

 

「……ぅ……っ……」

 

 

気付けば、私の熱い頬に、何か温かくてしょっぱいものが伝っていた。

 

 

月明かりに照らされた寝室の景色が、次第にぼやけ始めていった。

 

 

 

 

 

「……リーシェは、悪い女だね。傷心中の女の子を、こんな風に抱きしめちゃって」

 

 

 

私は、鼻を啜りながら、リーシェの胸元に顔を埋めたまま悪態をついた。

 

 

 

「お姉様が見たら、嫉妬しちゃうよ?」

 

 

 

「ふふっ……そうね」

 

 

私の強がりな言葉に、リーシェはクスリと小さく笑い声を漏らす。

 

 

「あの子、あの感じで結構『重い』性格だものね。でも、そこがすごく可愛いところでもあるわ」

 

 

くすくすと笑い合いながら、リーシェが私を抱き締めていた腕をゆっくりと解く。

 

 

少し離れて見合わせた彼女の瞳には、最早先程までの複雑さや迷いは無く、ただ真っ直ぐな決意の光が宿っていた。

 

 

 

「何だか、良い雰囲気だね……!」

 

 

私は、わざとらしく目をキラキラさせて、意味深なトーンで見つめると、リーシェは呆れたように肩をすくめた。

 

 

「またそういう事言って。私はアトラス一筋なんだからね」

 

 

その、お姉様至上主義でブレない彼女の言葉を聞いて。

 

 

私は、今日の昼間に起こった『ある出来事』を思い出して、にししと悪い笑みを浮かべた。

 

 

「……何? また何か悪い事考えてるでしょ」

 

 

私の表情の変化を敏感に察知したリーシェが、片頬をぷくっと膨らませながら、ジト目を向けてくる。

 

 

私は、そんな不機嫌そうな表情をする彼女に対して意に介さず、口を開いた。

 

 

「そういえば今日、お姉様"から"キスされてたよねぇ〜」

 

 

態とらしく、非難するように、そしてからかうように話題を振り掛ける。

 

 

「いいなぁ〜。私もお見舞いのキス、欲しかったのにー。羨ましいなぁ〜」

 

 

すると、さっきまでジト目を向けていたリーシェの態度が一変した。

 

 

彼女は、まるで宝物を自慢する子供のように、得意げに胸を逸らしながら語り始めたのだ。

 

 

「ふふん、当然でしょ。アトラスは私にだけ甘えるんだから──────」

 

 

 

「へぇー。でも、私だけ貰えないのは不公平だから……

 

 

 

 

───────貰うね?」

 

 

 

「……え?」

 

 

リーシェが間の抜けた声を漏らした、その瞬間。

 

 

 

私は、熱で重い身体に鞭打って、ベッドからふわりと上体を起こした。

 

 

 

そして、彼女が自慢げに語るために無防備になっていたその顔へと、限界まで身を乗り出し──────

 

 

 

 

──────ちゅっ

 

 

 

ほんの一瞬だけ。

 

 

互いの唇が重なり、静まり返った夜の寝室に、水面に落ちる水滴のような、甘く小さな艶かしい音が響き渡った。

 

 

「──────ッ!?」

 

 

何が起きたのか理解できず、口を半開きにして大きく目を見開くリーシェ。

 

 

私は、そんな彼女に向けて、悪戯が大成功した子供のような満面の笑みを浮かべて、こう言った。

 

 

 

 

「…えへへ……これで……お姉様と"間接キス"……だね?」

 

 

 

「なっ…………!?」

 

 

 

月明かりに照らされたリーシェの白い頬が、私の言葉の意味を理解した瞬間、みるみるうちに耳の先まで真っ赤な朱に染め上げられていく。

 

 

「あ、あんたって子は……っ! 本当に、病人のくせに……!///」

 

 

顔から火が出るほど赤面し、ワナワナと震えながら抗議の声を上げるリーシェ。

 

 

その普段の余裕ある仮面が完全に剥がれ落ちたポンコツな姿を見て、私は熱の苦しさも忘れて、クスクスとお腹を抱えて笑ってしまった。

 

 

どうなるか分からない明日。

 

 

それでも、この温かく騒がしい時間が少しでも長く続くようにと祈りながら。

 

 

私は、火照った身体を再びシーツへと沈め、静かに瞳を閉じるのだった。

 

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