進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第二百七話

 

 

846年11月10日

 

 

帝都ミットラス、旧王城の奥深くに位置する特別会議室。

 

 

新エルディア帝国の未来を決定づける、最も神聖で、同時に最も重圧に満ちたこの部屋で、これまで数々の超常現象を扱ってきた。

 

 

分厚い遮光カーテンが引かれた室内には、いくつものランプが青白い光を落とし、部屋の中央に鎮座する豪奢なマホガニーの机を冷ややかに照らし出している。

 

 

その高級な机の上に、ポツンと置かれた一通の『未開封の手紙』。

 

 

ただの紙切れに過ぎないそれに向け、私、ミケ、ハンジ、リヴァイ、ピクシス、ナイル、そしてフリーダ女王の七名が、まるで爆発寸前の爆弾でも囲むかのように、誰一人として言葉を発することなく、重く沈痛な面持ちで立ち尽くしていた。

 

 

新エルディア帝国を牽引する首脳陣が、たった一通の手紙を前にしてこれほどの緊張状態を強いられることなど、本来であればあり得ない。

 

 

だが、その差出人の名を知れば、ここにいる全員が息を呑み、己の常識を疑うのも無理からぬことだった。

 

 

──────アトラス・ベニア。

 

 

彼女は、人類の希望たる旧・調査兵団の救世主にして、単独で人類文明を容易く灰塵に帰すことができる圧倒的な戦闘力を持つ『理外の巨人』。

 

 

そして同時に、世界を無慈悲に踏み潰すのではなく、我々と同じ常識的な倫理観と底なしの優しさを併せ持つ、心優しき特異点である。

 

 

先月、『始祖ユミル』が突如として高熱を出して体調を崩すという、不老不死のシステムを根本から覆すあり得ない事態が起きたばかりだ。

 

 

その報せを受けた時、私の胃の腑はどれほどの痛みに苛まれたことか。

 

だが、あの騒動からまだ、たったの一ヶ月しか経っていないのである。

 

 

既に彼女らの邸宅を厳重に守護する対人立体機動部隊の警備兵を通して、始祖ユミルが信じられないほどの力技で『道』の圧力を調整し、無事に快復したという事実は確認済みだった。

 

 

私も、政務の合間を縫って直々に帝都の中枢敷地にある彼女たちの邸宅を訪問し、直接この目で彼女らが平和にクッキーをかじっている様子を確認し、安堵の息を吐き出したばかりだったのだ。

 

 

──────にもかかわらず、だ。

 

 

こうしてまた、何の前触れもなく、彼女から私宛に一通の極秘書簡が送られてきた。

 

 

それが意味することは、ただ一つ。

 

 

あの三柱の女神たちが、また何かしら、我々の常識と物理法則を根底から破壊する『超常現象』を引き起こしたという事に他ならない。

 

 

私は、伝令兵からこの手紙を受け取った瞬間、一秒でも早く内容を確認したいという己の感情を分厚い理性で強引に押さえ込んだ。

 

 

もしこれが、国家の存亡に関わる、あるいは世界の理を再び書き換えるような致命的な案件であった場合、私一人で抱え込むにはあまりにもリスクが高すぎる。

 

 

故に、私は手紙を未開封のまま己の懐にしまい込み、「国家の存亡に関わる重大な緊急案件」という名目で、直ちに彼ら国家中枢の重要人物らをこの特別会議室にかき集めるに至ったという訳である。

 

 

「……で、誰がこの手紙を読むんだ」

 

 

重苦しい、粘り気のある静寂を切り裂いたのは、私の左隣で腕を組みながら、鋭い三白眼で居並ぶ面々を見渡すリヴァイの低い声だった。

 

 

彼のその冷ややかで威圧的な視線を受け、ピクシスはそっと視線を逸らしてスキットルを撫で回し、ナイルは額の冷や汗を拭い、フリーダ女王でさえも少しだけ身を縮こませた。

 

 

無理もない。アトラス殿からの手紙は、いわば『パンドラの箱』だ。

 

 

中から飛び出してくるのが世界滅亡の危機か、あるいはそれに匹敵する頭の痛い厄介事か。

 

 

誰だって、その第一発見者になって精神的な直撃を受けるのは御免被りたいだろう。

 

 

ここから、探り合いという名の醜い押し付け合いが始まる。

 

 

そう、私は冷静に状況を俯瞰し、自らが毒見役となるべきかと覚悟を決めた、その時だった。

 

 

「ハイ!ハイ!こんな機会滅多にないんだ!それに、いつもエルヴィンばっかりアトラスちゃんたちの面白い秘密を先に知って、ずるいと思っていたからね!今回は私が読ませてもらうよ!」

 

 

向かいに立つハンジが、両目を限界まで血走らせ、狂気的なまでの探究心と好奇心を爆発させながら、天井に向けて自身の右腕を勢いよく高く掲げたのだ。

 

 

「……」

 

 

私とリヴァイは、そして他の首脳陣たちも、ただ無言で顔を見合わせ、深く、安堵の頷きを交わした。

 

 

今日ばかりは、彼女のこの一切の恐れを知らぬ、常軌を逸した探究心に、心の底から感謝せずにはいられなかった。

 

 

「それじゃあ、遠慮なく!」

 

 

ハンジは、まるで世界に一つしかない貴重な古代遺跡の遺物を発掘するかのような手つきで、そっと件の手紙を掴み取った。

 

 

ペーパーナイフを滑らせ、封蝋を慎重に、しかし素早く剥がし、中から丁寧に折り畳まれた便箋を取り出す。

 

 

会議室の空気が、極限まで張り詰めた。 誰もが呼吸を忘れ、ハンジの口から紡がれるであろう『神の託宣』を待つ。

 

 

「……え〜っと、時候の挨拶は読み飛ばして、と」

 

 

ハンジの瞳が、羊皮紙に踊る美しい文字列を高速で滑っていく。 その目元が、ピクリと動いた。 次の瞬間。

 

 

「なになに──────っ!? ぷっ、ぶははははは!!! ギャハハ! イヒヒヒヒヒ!!! しんじゃう!!! しんじゃうよ! あははっ! 傑作だ!!」

 

 

張り詰めた弓の糸を引き裂くような、ハンジの腹の底からの、狂気的とも言える大爆笑が、重厚な特別会議室の壁にガンガンと反響して響き渡った。

 

 

彼女は手紙を握りしめたまま、机に突っ伏し、涙を流して床を転げ回らんばかりの勢いで笑い転げている。

 

 

「な、何事だ!? 帝都が吹き飛ぶとでも書いてあったのか!?」

 

 

ナイルが血相を変えて怒鳴り、フリーダ女王が口元を覆って息を呑む。

 

 

各々が極度の困惑と恐怖の表情を浮かべながら顔を見合わせる中。

 

 

私とリヴァイの二人だけは、一切の動揺を見せることなく、ただ腕を組み、冷ややかな、しかし確かな覚悟を持った視線で真っ直ぐにハンジの背中を見つめ続けていた。

 

 

この程度のカオスで取り乱していては、あの特異点たちの引き起こす事象の対応など到底できはしないのだ。

 

 

内容が何であれ、彼女が笑い終わって言葉を紡ぐのを、ただひたすらに待つ。

 

 

 

「イヒヒッ……あははっ……はぁ……ふぅ……」

 

 

数分にも及ぶ狂乱の笑いの後、ひとしきり笑い終えたのか、ハンジはようやく呼吸を整え、未だにニヤケが止まらない口元を手で押さえながら、ゆっくりと上体を起こした。

 

 

「いやー、ごめんごめん。余りにも内容が面白くてさ、ぷぷっ……。とりあえず、安心しなよ。国が傾く様な、世界が滅ぶような内容じゃなかったよ」

 

 

その最後の言葉だけは、彼女にしては珍しく、一切の冗談を排した真剣な眼差しで告げられた。

 

 

私の右隣で、目を閉じて深く鼻から息を吸い込んでいたミケも、「……あぁ。絶望の匂いはしない。ハンジの言葉に嘘はない」と、確かな裏付けとなる首肯をする。

 

 

そのミケの確認が取れたことで、会議室を満たしていた重圧が、ふっと音を立てて解れ、皆が目に見えて安堵の息を長く吐き出した。

 

 

「それで、内容はなんじゃったんじゃ? もったいぶらずに、さっさと聞かせてくれんか」

 

 

ピクシス司令が、早く話せとばかりに懐のスキットルを弄りながら続きを催促する。

 

 

ハンジは、咳払いを一つして声を整えると、信じられない人物の名を口にした。

 

 

「今回のアトラスちゃんからの報告はね……今、この新エルディア帝国内で、あの三人組たちの次に有名人といっても過言ではない、『エレン・イェーガー』についての記述さ」

 

 

エレン・イェーガー。

 

 

その名を聞いて、私は無意識に眉間を揉みほぐした。

 

 

齢十という若さでありながら、三柱の女神たちが織りなす『究極の百合空間』を、狂気にも近い情熱と神がかった筆致でカンバスに描き出し、瞬く間に国内の芸術界と宗教界の頂点へと上り詰めた少年。

 

 

彼の描く絵画は、三神教の公式な宗教画として帝都中の大聖堂に掲げられ、民衆の信仰心を煽る最強のプロパガンダとして完璧に機能している。

 

 

今や、彼の名と作品を知らぬ者は、壁内において誰一人として存在しない。

 

 

私はその特異すぎる影響力と、彼が持つ技術の国家的な価値を鑑み、彼と彼の家族を『帝国の戦略的重要人物』と公式に指定した。

 

 

 

そして、彼らをシガンシナ区から、厳重な警備が敷かれた政府中枢敷地に隣接する要人専用住宅街──アトラス殿たちの邸宅のすぐ近くへと、強引に越させてきたばかりだったのだ。

 

 

その、帝国の思想を塗り替える天才絵師の少年に、一体何があったというのか。

 

 

我々は再び固唾を飲み、ハンジの次の言葉に耳を傾けた。

 

 

「そのエレン少年がさ……」

 

 

ハンジは、再び吹き出しそうになるのを必死に堪えながら、人差し指を立てて、あまりにも現実味のない、冗談のような事実を暴露した。

 

 

「なんか、少女になっちゃったらしい。ぷぷっ」

 

 

「は?」とナイルが間抜けな声を漏らし、「はい?」とフリーダ女王が目をパチクリと瞬かせる。

 

 

「……」

 

リヴァイは、言葉すら発することを拒絶し、ただ深い舌打ちを一つ落とした。

 

 

「なんじゃと?」

 

 

ピクシス司令が、スキットルを落としそうになりながら目を丸くする。

 

 

ミケに至っては、もはや自身の優れた嗅覚や直感のすべてを放棄し、両手で鼻と口をしっかりと包み込みながら、静かに目を閉じて天を仰いでいた。

 

 

沈黙。 再び、会議室が理解不能な情報の濁流に飲み込まれた。

 

 

少年が、少女になった? 人間の性別という、生物学的な絶対の定義が、ある日突然反転したというのか。

 

 

「…………」

 

 

私は、己の胃の腑の奥底で、鋭い爪で引っ掻かれるような鈍く重い痛みが再発するのをはっきりと自覚した。

 

 

私は一切の表情を崩すことなく、懐に忍ばせていたハンジ特製の胃薬の小瓶を取り出し、蓋を弾き開けて数錠の錠剤を口の中に放り込んだ。

 

 

ガリッ、ガリガリッ、と、苦い薬を噛み砕く音が、静寂の会議室に虚しく響く。

 

 

思考を、止めるな。 私は冷徹な指揮官として、この理不尽な超常現象の発生原因について、脳内で猛烈な速度で演算を開始した。

 

 

(……原因は、一つしかない)

 

 

時期からして、符合しすぎる。

 

 

先月、始祖ユミルが突如として高熱を出して体調を崩した、あの一件だ。

 

 

ハンジの仮説によれば、アトラス殿からの過剰なエネルギー供給により、ユミルの『道』がパンクしかけていたという。

 

 

結果として、ユミル自身が『道』の空間を強固に補強し、供給口を絞り込むという神業によって事なきを得たわけだが……

 

 

「やっぱりエルヴィンもそう思うよね?」

 

 

私の視線を受け取ったハンジが、手紙の続きをヒラヒラとさせながら、私の推測を裏付けるように補足の説明を始めた。

 

 

「手紙の詳細によるとね。ユミルちゃんの『道』が過剰な圧力で不安定な状態だったあの数日間……その間に、三人以外で最も彼女たちと関わりの深い存在、すなわちエレンの肉体に、何らかの拍子で座標を通じて強烈な干渉が起き、致命的な『バグ』を生じさせた可能性が濃厚なんだって」

 

 

つまり、エネルギーの暴発の余波が、彼らと太い因果で結ばれていたエレン少年の物理的な肉体構造を、アトラス殿と同じように『黄金比の超絶美少女』へと強引に書き換えてしまったとでも言うのか?

 

 

なんという、恐ろしく、そしてデタラメな余波か。

 

 

「でさ、これの何が一番面白いかって言うとね」

 

 

ハンジは、さらにニヤニヤと笑いを深めながら、その少年の、いや、天才画家の業の深すぎる性癖を、我々の前に暴露したのだ。

 

 

 

「アトラスちゃんたちが、元に戻す方法を探そうかって心配して聞いたらさ。本人が、たっての希望で『この少女の姿のままが良い! これでアトラスさんたちが織りなす百合の表現の解像度に、増々磨きがかかる!』って言って、満面の笑顔で今の身体を大絶賛して受け入れてるらしいんだよねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………狂っている)

 

 

私は、限界を迎えた胃を押さえながら、内心で深く、深く天を仰いだ。

 

 

突如として性別が反転するというアイデンティティの崩壊を前にして、絶望するどころか、「女性の身体構造を身をもって理解できるから芸術の肥やしになる」と歓喜してのける、あの少年の狂気的なまでのポジティブさ。

 

 

彼……いや、彼女もまた、間違いなく、この新エルディア帝国において最も規格外な『狂人』の一人であった。

 

 

だが、頭を抱えている暇はない。 この事実が持つ真の『脅威』に、私は即座に気づいていた。

 

 

「……他に、同様の事象が起きている可能性はないか。念の為、各管轄内でそういった不可解な身体変異の報告があれば、直ちに全力を挙げて対応に当たって欲しい」

 

 

私は、駐屯兵団を束ねるピクシス司令と、憲兵団を束ねるナイルに向けて、厳しい眼差しで即座に指示を飛ばした。

 

 

もし、この『性別反転』が帝都中に蔓延しているようなことがあれば、社会基盤は一瞬にして崩壊する。

 

 

「ああ、それなら心配ないよ。手紙にも書いてあるけど、ユミルちゃんが座標を通して全エルディア人の状態を一通り確認して、エレン以外に同様のバグは起きていないって断言してるみたいだから」

 

 

ハンジが手紙の末尾を指差して安心させるように言う。

 

 

「……一応、念の為だ」

 

 

私は深く、重いため息を吐き出しながら、低く念を押した。

 

 

始祖ユミルの、そのあまりにもデタラメな権能。

 

 

壁の解体や超大型巨人の人間化などで、その異常さについては完全に把握しているつもりであった。

 

 

だが、その気になれば、我々エルディア人の身体構造すらも、指先一つ、あるいはシステムのエラー一つで、いとも容易く自由自在に書き換える事が出来るという、神の如き権能の恐ろしさ。

 

 

今回は、彼らと縁の深いエレン一人だけで済んだから良かったものの。

 

 

何かの不具合で、民衆の肉体が簡単に書き換えられてしまうという事実が世間に知れ渡ってしまえばどうなるか。

 

 

これまで我々が死に物狂いで構築し、積み上げて来た新政府への信頼と、神に対する畏敬の念が、根底から崩れ去る危険性があるのだ。

 

 

「ハンジ」 「何だい? エルヴィン」

 

 

「その手紙は、直ちに完全に廃棄するんだ。そして、本件については、この部屋にいる全員、決して外部に口外してはならない。エレン・イェーガーの戸籍に関しても、私の権限で出生記録から『女性』であったと完全に書き換え、隠蔽処理を行う」

 

 

不幸中の幸いか、エレンは王都の一部政府関係者や特定貴族、パトロンたちと面識があるのみで、一般大衆にはその顔は広く割れてはいない。

 

 

裏で圧力をかけ、詳細を省きつつ関係者に強力な口止めを施せば、問題なく揉み消せるだろう。

 

 

彼には、最初から『天才美少女絵師』として世に出ていたという新たな設定を背負ってもらうしかない。

 

 

私は、再び為政者としての冷徹な顔つきを取り戻し、窓の外、煌びやかな光に包まれた帝都ミットラスの夜景を見つめた。

 

 

 

現在、我が新エルディア帝国は、歴史上類を見ない正真正銘の『黄金期』を迎えている。

 

 

 

壁の中から解放された約五十万人の屈強で従順な同胞たちを新たな労働力として迎え入れ、彼らの力によって、帝都から各区を結ぶ長距離線路の敷設や、大規模な道路網の整備が猛烈な速度で進行している。

 

 

帝都の地下や、広大な領土からは新たな資源が次々と発掘され、蒸気機関という画期的な動力が帝国の産業を爆発的に牽引している。

 

 

そして何より、アトラス殿の手によって構築された、絶対に破壊不可能な絶対防壁『ウォール・アトラス』。

 

 

その内側に確保された、約110万k㎡にも及ぶ広大な手付かずの生存圏と豊かな大地の獲得。

 

 

軍事面においても、新兵器の開発や、既存の技術を応用した立体機動装置の改良が進み、来たるべき人間同士の戦争を想定した苛烈な訓練にも力を入れ始めている。

 

 

また、新技術開発部門のアルミン少年とハンジの頭脳により、旧王制が不当に秘匿し、押収してきた数々の文献や資料等から、電波を利用した通信技術───『無線電信』と呼ばれる画期的な技術の理論が提唱され、来年辺りには大規模な実証実験が行われる予定だ。

 

 

 

もしこの技術が実用化され普及すれば、帝国内における情報の伝達速度はこれまでの馬の脚とは比較にならないほど飛躍的に向上し、軍事、経済、あらゆる分野の発展に大いに貢献するだろう。

 

 

 

この、人類がようやく掴み取った希望のうねりを、決して止めるわけにはいかないのだ。

 

 

こんな些細なバグ(性別反転)ごときで、国家の足元を揺るがされてたまるものか。

 

 

我々は、海の向こうの広大な世界に存在する敵国が、我々のこの異常なまでの急成長に気付かない内に。

 

 

静かに、深く、そして極限まで、己の牙と刃を研ぎ澄まさなければならない。

 

 

そしていつの日か。 あの時、地下牢で我々に未来を託してくれた三人の若き戦士たちに約束した、マーレに残してきた彼らの『家族の救出』。

 

 

そして、海の向こうの収容区で、今もなお囚われの奴隷の様に扱われている幾百万の同胞たちを、すべて解放するその日の為に。

 

 

「……会議は以上だ。各員、自身の責務に戻ってくれ」

 

 

 

私は、静かに、しかし絶対の決意を込めて宣言した。 腹の底の胃痛は、もはや私が背負うべき誇り高き代償だ。

 

 

 

我々は、世界の理不尽をすべてねじ伏せるまで、決して立ち止まることなく、ただひたすらに進み続ける。

 

 

 

窓ガラスに映る自身の青い瞳に、冷たい闘志の炎を燃え上がらせながら、私は再び分厚い書類の山へと向き直るのだった。

 

 

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