進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
予告無しですみません。再来週ぐらいまで月・水・金・土更新になると思います。
今週は三柱メインで、来週からおっさんメインです。
848年4月8日、夕方。
重く、鉛のようにだるい意識が、ゆっくりと浮上してくる。
微睡みの海から現実へと引き上げられた俺の鼻腔をくすぐったのは、微かな石鹸の清潔な香りと、夕暮れ時の穏やかな風が運んでくる土の匂いだった。
「……んぅ……」
重い瞼をこすりながら薄く目を開けると、そこは見慣れた我が家のリビングだった。
窓の外はすでに茜色に染まりかけており、長く伸びた影がフローリングの床に落ちている。
どうやら俺は、あの広大な寝室の巨大なベッドからいつの間にか運ばれ、リビングで一番座り心地の良い、ふかふかの高級革張りソファーの上に寝かされていたらしい。
身体を動かそうとして、ふと気づく。
俺の肌は、昨晩のあの……ドロドロに溶け合うような狂乱の中で塗れきっていたはずの体液特有のベタベタとした不快感が、一切綺麗さっぱり消え失せていた。
サラサラとした髪からは花の香りのシャンプーの匂いがし、着せられているのは、肌触りの良いゆったりとした清潔なコットンのネグリジェ。
おそらく、俺が完全に意識を飛ばして白目を剥き、気絶している間に、リーシェとユミルの二人がお風呂に入れて全身をくまなく洗い清め、服まで着せ替えてくれたのだろう。
(……ありがたいけど、気絶してる間に洗われるって、冷静に考えたらめちゃくちゃ恥ずかしいな……)
そんな羞恥心に頬を熱くしながら、俺はゆっくりと上体を起こそうと、ソファに手をついて力を込めた。 その、瞬間だった。
「────────ッく……!?」
──────ピキィィィィンッ!!!
全身の筋肉……特に、腰から太ももの内側、そして下半身の中心にかけて、まるで無数の焼けた針を刺し込まれたかのような、強烈で鋭い痛みが突き抜けた。
「あ゛ッ……いっ、つぅ……っ!」
俺は声にならない悲鳴を上げ、ソファの上に再びバタリと倒れ込んだ。
痛い。痛すぎる。身体中の関節が悲鳴を上げ、まともに力が入らない。
混乱する頭で必死に己の身体機能をスキャンしてみて、一つの残酷な真実に思い至った。
どうやら、巨人のデタラメな再生力や治癒能力は、『外傷』や『欠損』には秒で反応して修復してくれるが、限界を超えた運動による『極度の筋肉痛』に対しては、全く効果を発揮しないらしいのだ。
(普通、あそこまでやるか……!? いや、確かに『むちゃくちゃにして』って言ったけどさ……! 言ったけど! 限度ってものがあるだろ!)
俺は、シーツを握りしめながら、昨晩の一晩中続いた徹底的な蹂躙劇を思い返した。
手首と足首を硬質化の縄でベッドの四方に固定され、一切の抵抗を封じられたまま。
何度も、何度も、何度も、意識が吹き飛ぶまで果てしなく続いた、あの甘く恐ろしい愛撫と絶頂の嵐。
マジで死ぬかと思った。 いや、人間だったら間違いなくショック死していたレベルだ。
巨人由来の耐久力があったからこそ、辛うじて命を繋ぎ止めることができたのだろう。
二人の、俺に対する本気(愛と性欲の致死量)を一身に受けた俺は、本能的な恐怖でガクガクと肩を震わせ、ソファの上でダンゴムシのように小さく丸まった。
すると──────
ガチャリ、 キィィ……っ
静寂に包まれたリビングに、玄関の方から、重厚な木製の扉が軋む音が響き渡った。
続いて、ペタ、ペタと、遠慮がちな二つの足音がリビングへと近づいてくる。
「……あっ」 「……アトラス」
リビングに入ってきたのは、少し買い出しにでも行っていたのだろう、紙袋を提げたユミルとリーシェの二人だった。
だが、その二人の顔色は、いつも俺に向けるような自信に満ちた愛妻の顔でも、甘えん坊の妹の顔でもなかった。
彼女たちの美しい顔には、明らかな『気まずさ』と、やり過ぎてしまったことへの深く重い『罪悪感』が、べったりと張り付いていたのだ。
俺の姿を視界に入れた二人は、入り口でピタリと足を止め、おずおずと様子を窺うように立ち尽くしている。
「お……おかえりぃ……」
俺は、無意識のうちに自分自身の両腕を胸の前で交差し、身を守るようにギュッと抱きしめながら、消え入るような震える声で言葉を発した。
完全に、トラウマを植え付けられた小動物が、捕食者を前にして怯えきっている姿そのものだ。
その、俺の痛ましい反応を真正面から浴びた二人は。
「──────ッ」
目に見えてビクンッと肩を跳ねさせ、揃って顔面を血の気のない真っ青な色へと染め上げた。
「っ……ごめんなさい……お姉様……っ」
ユミルが、今にも泣き出しそうな声で、買ったばかりの紙袋を床に取り落としそうになりながら俯いた。
「ごめんなさい、アトラス……私たち、理性が飛んで……貴女に、あんな怖い思いをさせちゃって……」
リーシェも、完全にしっぽを巻いた犬のように肩を落とし、顔を両手で覆って深く懺悔している。
(……やばい。二人が本気で落ち込んじゃってる……!)
確かに昨日の夜は地獄(天国?)だったが、二人が俺を心の底から愛してくれているからこその暴走だったのは痛いほど分かっている。
それに、元を正せば、俺が完全に調子に乗って魅惑的なポーズで挑発したのがすべての発端なのだ。
「い、いや……! 好きにしてって言ったのは私だし! 二人は全然悪くないよ!?」
俺は、二人の深い罪悪感を払拭するために、慌ててフォローの言葉を並べ立てた。
「あっ、そうだ! お腹空いたなぁ!? ほら、夕飯────いっ、つぅぅぅッ!!」
元気に身を乗り出して、空腹をアピールしようとした俺の判断は、完全に裏目に出た。
勢いよくソファの上で上体を起こした結果、限界を迎えていた腰から背骨にかけて、バキィッ!と鳴りそうなほどの鋭い激痛が走り、俺は思わず苦痛に顔を歪めて悲鳴を上げてしまったのだ。
「あ、アトラス!?」 「お姉様!?」
俺が痛みに顔を歪めた瞬間、入り口で立ちすくんでいた二人が、目にも止まらぬ神速で俺の元へと殺到した。
「無理しないで! 動いちゃダメよ!」
リーシェが慌てた様子で俺の背中を優しく支え、ユミルが俺の足をそっと持ち上げる。
二人の極めて慎重で、壊れ物でも扱うかのような過保護な手つきによって、俺は再びソファの柔らかいクッションの上へと、ゆっくりと横たえさせられた。
「ごめんね、お姉様……痛いよね……」
ユミルが、涙目で俺の額の汗を拭いながら心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫よ、アトラス。私がずっと傍についているから……痛いところ、さすってあげるわ」
リーシェも、完全に看病モードに入り、俺の腰のあたりを温かい手のひらでゆっくりと摩り始めてくれた。
二人のそのあまりにも過保護すぎる介抱に、俺は痛みを堪えながらも、思わずふふっと小さく吹き出してしまった。
「もー、二人とも心配し過ぎだよ。私は大丈夫だから。ね?」
俺は、二人の罪悪感を少しでも和らげるために、痛みを隠して、少しだけ甘えるような明るい笑顔を作ってみせた。
「それより、もうお腹ぺこぺこ〜。早く夕飯作って〜?」
(……実際、昨日の昼からまともに何も食べてないし、あれだけ体力を消耗したんだから、腹が減って死にそうなんだよな……)
俺が内心で切実な飢餓感に同意していると。
『ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜っ』
静まり返ったリビングに、超絶美少女の腹の虫とは思えないほどの、立派で野太い音が、丁度タイミング良く鳴り響いた。
「あ……」
俺は顔を真っ赤にして、恥ずかしさで両手で顔を覆った。
だが、その全く飾らない、生きる活力に満ちた盛大な音を聞いて。 二人の強張っていた表情から、ようやく毒気が抜け、少しだけ柔らかく、温かい笑みがこぼれた。
「ふふっ……そうね。こんなに元気な音が鳴るなら、安心だわ。……ユミル、今日はアトラスのために、胃と身体に優しい料理にしましょう」
リーシェが、優しく俺の頭を撫でながら、立ち上がってユミルに声をかける。
「うん、そうだね! 野菜たっぷりのスープとかが良いかな。……出来たら、私があーんして食べさせてあげるね? お姉様」
ユミルも、いつもの無邪気な笑顔を取り戻し、俺の鼻先をツンと突いて甘やかしてくる。
「はいはい。こんな風にさせた二人には、しっかり責任取ってお世話してもらうからね」
俺は、ソファに寝転がったまま、どこか心地よい疲労感と共に、いつもの緩い雰囲気を取り戻した二人に冗談めかして応えた。
お互いに調子を取り戻し、夕暮れのリビングには、いつも通りの温かく、騒がしい家族の空気が戻りつつあった。
「それじゃあ、少し待っててね」
そう言って、二人が揃ってキッチンへと向かおうと背を向けた、その時だった。
何か、いつもと違う……大事なルーティンが一つ抜け落ちているような気がして、俺は思わず声を上げた。
「あ、ちょっと待って」
「どうかした? アトラス」 「ん? なあに、お姉様」
二人が同時に振り返り、不思議そうに疑問符を浮かべて俺を見る。 俺は、昨晩からの一連の激しい出来事と、起きたばかりの微睡みによって、少しだけ頭がぼーっと疲れていたのだろう。
ソファのクッションに顔を埋めたまま、自身の口からどんな爆弾が発射されるかなど全く考えもせず。
ふにゃふにゃとした、警戒心ゼロの甘えきった笑顔を浮かべて、こう応えてしまったのだ。
「……おはよーのちゅー、まだでしょ? ……はやく、ちょーだい?」
とろんと潤んだアイスブルーの瞳で上目遣いをし、無防備に唇を少しだけ尖らせてのおねだり。
「「─────────ッ!!?」」
その瞬間。 キッチンへ向かおうとしていた二人の動きが、ピタリと、完全に石像のように硬直した。
(ん?)
俺は、微動だにしない二人の様子を見て、少し首を傾げた。
二人の顔は、先程までの穏やかな笑顔の形を保ったままなのだが……その瞳の奥には、猛烈な葛藤と、今すぐソファに飛び掛かりたいという限界突破の獣の欲望が、凄まじい勢いで渦巻いているのがはっきりと見えた。
二人の身体が、微かに、プルプルと痙攣するように震えている。
(あれ? 俺、今……何て言ったんだっけ……?)
俺の理性が、一足遅れて急速に再起動を果たし、自身の発言のヤバさを正確に理解した。
「ねぇ、お姉様……そういうの、ほんと良くないと思うよ……」
ユミルが、笑顔のまま、額に青筋を浮かべ、ギリギリと奥歯を噛み締めながら、恐ろしいほどの低い声で絞り出した。
「ええ……アトラスは、もう少し自分自身の『致死量の魅力』を自覚した方がいいと思うわ。これ以上私を試すなら、スープの前に貴女をもう一度メインディッシュにするわよ……」
リーシェも、拳を白くなるほど強く握りしめ、完全に本能の赴くままに襲い掛かりそうになる己の肉体を、超人的な精神力で必死に律しながら、震える声で忠告してきた。
(……やらかした)
俺は、一晩明けても尚、自身の超絶美少女ボディが放つ無自覚なフェロモンが、彼女たちの理性を一瞬で焼き切るほどの威力を維持していることを痛感した。
「あ……うん……ごめんなさい……」
俺はただ、ソファに横たわったまま、ソファのクッションで自身の口元を隠し、顔を真っ赤にしながら、必死に我慢の限界と戦う二人に向けて、力なく謝罪することしかできなかった。
結局、その日。 俺の不用意な発言によって二人の理性が再び決壊するのを恐れたため、毎朝(既に夕方だが)の恒例行事であった『おはようのちゅー』は、無慈悲にもお預けとなってしまったのだった。