進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
「えいっ! やー! うひゃっ! つめたーい!」
初夏の強烈な太陽が照りつける、アトラス湖の浅瀬。
俺の口から飛び出しているのは、前世の男子大学生だった頃には絶対に発することのなかったであろう、完全にキャピキャピとした高い美少女ボイスだった。
首から下を覆う布面積が絶望的に少ない、フリルとリボンのついた純白の水着姿。
冷たい湖の水が、太陽に火照った白い肌にパシャパシャとはねる度、俺はなし崩し的に湖に引っ張られた勢いそのままに、まるで青春ラブコメ漫画のヒロインもかくやというような、王道の『水の掛け合い』に興じていた。
頭では「何やってるんだ俺」と冷静なツッコミを入れつつも、この極限まで最適化された超絶美少女ボディは、感情の赴くままに無邪気な反応を返してしまう。
だが、そんな平和な水遊びの背後で。
「リーシェ! お姉様をびちゃびちゃに濡らしまくろう!」
「言い方……でもそうね、よし! ユミル! アトラスの後ろに回って! 私が気を引くから、その隙に一気にいくわよ!」
「おっけー!」
……おい。 声がデカい。丸聞こえだ。
俺の、巨人由来の異常なまでに鋭い聴覚を待つまでもなく、数メートル後ろで二人が企てている不穏な作戦は完全に筒抜けだった。
というか、隠す気すらないだろ。俺を挟み撃ちにして、あの手この手で「濡れた水着姿のアトラス」を堪能しようという、彼女たちのピンク色に染まった欲望が透けて見えている。
(……ふっ。舐められたものだな)
俺は、浅瀬の水を両手で掬い上げようとするフリをしながら、口角を僅かに釣り上げた。
確かに、この肉体は華奢で折れそうなほど細く、風が吹けば飛んでいきそうな美少女の見た目をしている。
だが、その中身は、あの15メートルの鋼の巨人の筋肉を極限まで高密度に圧縮した、物理法則を嘲笑うバグの結晶なのだ。
単純な瞬発力や筋力に関して言えば、この身体からは到底想像も出来ないような、馬鹿げたパワーを発揮出来る。
俺は、周囲の安全(一般の兵士や子供たちが巻き込まれない距離にいること)を瞬時に確認した上で。
脳の奥底で、自身の身体に掛けていた『出力リミッター』を、意図的に解除した。
足の指先で湖底の砂を強く掴み、腰の捻りから生み出された莫大なエネルギーを、背骨を伝って右腕へと一気に流し込む。
そして、鞭のようにしならせた右の掌を、水面すれすれの位置で、横薙ぎに全力で振り抜いた。
「──────ふっ!!!」
鋭い呼気と共に放たれた俺の右腕が、空気を、そして湖水を完全に粉砕した。
──────バッッシャァァァアアアン!!!!!!
たった一払い。 ただ水面を払っただけのその動作から生まれたのは、水しぶきなどという生易しいものではなかった。
轟音と共に湖水が捲り上がり、俺の背丈を遥かに超える巨大な『水の壁』となって、背後で企んでいた二人を包み込むようにして襲いかかったのだ。
「り、リーシェ……! のみこまれる!!!」
水の質量のあまりの暴力性に、ユミルが本気でパニックを起こして悲鳴を上げる。
だが、その津波が彼女たちを飲み込もうとした、まさにコンマ一秒の刹那。
「くっ! ユミル、掴まって!」 「うん!」
リーシェの青い瞳が、極限の集中状態を示す鋭い光を放った。
彼女は、自身の身体に流れる擬似アッカーマンとしての理外の反応速度を爆発させ、瞬時にユミルの華奢な身体を横抱きに抱え上げた。
そして、水面に足が沈む前に湖底を蹴り飛ばし、背後へと超音速のバックステップを踏んだのだ。
ザバーーーンッ!! と、二人がコンマ数秒前まで立っていた空間を、数トンの水が虚しく通り過ぎて叩きつけられる。
リーシェは水しぶきの飛沫を僅かに浴びながらも、ユミルを抱えたまま、間一髪のところで完全な直撃の回避に成功していた。
「……アトラス、卑怯よ! 今、明らかにリミッター外したでしょ!」
安全圏に着地したリーシェが、ユミルを下ろしながら、恨みがましい抗議の声を上げる。
俺は、濡れた黒髪を片手で優雅に後ろへと払い、悪戯が成功した子供のようにニッと笑ってみせた。
「ふっふっふー。世の中そんなに甘くないのだよ、リーシェ。
……私も、やる時はやるんだってこと、今日はたっぷり教えてあげようじゃないか」
俺は、右手の人差し指を立てて、ちっちっと左右に振り、挑発する様にウィンクを送ってやった。
「ひゃああっ……! やば……お姉様、今のめちゃかわ……っ♡」
リーシェの横で、ユミルが俺のウィンクの破壊力にやられて両手で顔を覆い、腰をくねらせて身悶えているが、今は無視だ。
「へぇ……そんな事、言っちゃうんだ」
リーシェが、ゆっくりと立ち上がった。
そのアイスブルーの瞳に、先程までの遊び半分の色はもうない。
愛する伴侶からの明確な挑発を受け、彼女の中の『人類最強の鬼神』としての闘争本能と、強烈な情熱の炎がメラメラと燃え上がっていた。
「……良いわ。その勝負、本気で受けてあげる」
(かかったな)
俺は内心でほくそ笑んだ。
これまで俺は彼女たちからどれほどの『辱め』と『過剰なスキンシップ』を受け続けてきたことか。
かつての公開生着替え、毎晩の濃厚すぎるイチャイチャ、そしてセクハラの数々。
今日は、そのすべてに対する俺からの『ささやかな復讐戦』なのだ。
水かけ合戦という、平和極まりない遊びの皮を被った、俺の尊厳を取り戻すための聖戦である。
ふと気付けば。 俺が放った規格外の津波の音と、二人の間に流れるバチバチとした一触即発の空気を察知してか。
砂浜でBBQや宴会を楽しんでいた兵士や幹部たちが、ぞろぞろと水辺の周りに人集りを作り始めていた。
「ほう……リーシェとアトラス殿が、直接対決か。リヴァイ、ミケ……どちらが勝つと思う」
砂浜の最前列で、ビールを片手に持ったエルヴィンが、物珍しそうに深く頷きながら、完全に『冷徹な戦略家』としての視線に切り替わって問いかけた。
(いや、ただの水遊びですよ? なんで国家の命運を分ける決戦みたいなトーンになってるんですか)
「……単純な身体能力や出力の限界値なら、アトラスが圧倒的に優勢だ」
エルヴィンの問いに対し、リヴァイ兵長が、腕を組みながら鋭い三白眼で俺たちの動きを分析し、饒舌に語り始めた。
「だが、さっきのリーシェの動きを見ただろ。人一人を抱えて尚、あのアトラスの放った規格外の波を間一髪で避けやがった。あの反応速度は完全にイカれてる。その上、あいつには対巨人、対人戦闘で培った元兵士としての純粋な『技量』と『駆け引き』がある。それらを考慮すれば、勝敗は五分といったところか」
「……ユミルがどう関わっていくかにもよるな」
続くように、ミケ分隊長が鼻をヒクつかせながら、第三の不確定要素について分析を口にする。
「彼女がリーシェ側に立ってアトラスに立ち向かうのか、それとも静観を決め込むのか……ユミルの身体能力はアトラスやリーシェには遠く及ばないが、あの二千年の神という存在は、予測不能な何かしらの行動を起こすやもしれん。……盤面を引っ掻き回す『ジョーカー』になる匂いがする」
「おおおおお!!!! リーシェとアトラスちゃんが勝負だって!? ちょーーアツいじゃん! 世紀の一戦だよ! モブリット、早く! 詳細に記録しないと!!」
ハンジの、興奮で完全に音割れしたやかましい叫び声が、アトラス湖の周辺に響き渡る。
その他にも、エレンが鼻息を荒くしてスケッチブックを構え、ライナーたちが「アトラス様がんばれー!」と野太い声援を送るなど、ギャラリーたちは皆それぞれワクワクした様子で、どちらが勝つかで完全に祭りの盛り上がりを見せていた。
俺は、周囲の過剰な熱気から意識を目の前の二人に戻し、真剣な眼差しでユミルに問いかけた。
「……ユミル、どっちに着く? 私かリーシェ、それとも観戦か」
俺の問いかけに対して。 リーシェの横に立っていたユミルは、一片の迷いもなく、即答した。
「お姉様のこと泣かせたいから、リーシェの方につく!」
太陽のように純真無垢な、一点の曇りもない明るい笑顔。
だが、その口から放たれた言葉は、完全なるドSのそれであった。
「……いいよ……後悔させてあげる」
俺は、ピキピキと額に青筋を浮かべながら、引きつった笑顔でユミルに言葉を返した。
(この妹、最近俺への愛が歪み始めてないか? 俺が泣く顔を見て喜ぶって、完全にリーシェの影響受けてるだろ……!)
二対一。 望むところだ。俺は思考を切り替え、この聖戦をより公平に、そして危険のないものにするための『ルール』を大声で宣言した。
「じゃあ、ルールを決めるよ!」
俺は人差し指を立てて、ギャラリーにも聞こえるようにルールを設定していく。
「まず、勝敗は『一度でも相手の顔や身体に、直接水をかけられたら』その時点でアウト! リーシェ側は二人だから、公正を期す為に『どちらか一方でも』水を被れば、チーム・リーシェの負けってことにする!」
「ええ、それで構わないわ」 リーシェが不敵に笑って頷く。
「次に禁止事項。第一に、『硬質化能力の使用』は禁止」
これは当然だ。俺やユミルが硬質化を使ってしまえば、もはや水の掛け合いではなく、クリスタルの壁を展開したり、硬質化の散弾を撃ち合う『局地的な砲撃戦』になってしまう。湖の地形が変わる。
「第二に、『巨人化』の禁止」
理由も第一と同じだ。15メートルやら170メートルやらの巨人がここで暴れれば、水遊びの規模が『戦争』になり、ギャラリーが津波で全滅する。
「そして第三に……致命傷になるような、危険な物理攻撃(直接の打撃や関節技など)は禁止! あくまで水を使った勝負だからね!」
いくら不老不死で欠損も一瞬で治せるとはいえ、痛いものは普通に痛いのだ。
それに、もし白熱しすぎて俺が二人に怪我をさせてしまったら、俺自身が激しく落ち込んでしまう。
「以上! 異論はないね?」
俺は、自身の美少女フェイスに、やる気満々な、獲物を狙う猛禽類のような笑みを浮かべて二人を見やった。
「ええ、ふふっ。……こうして、アトラスと真正面から真っ向勝負するのって、何だかすごく新鮮ね。血が騒ぐわ」
リーシェが、舌で自身の唇を妖艶に舐めながら、腰を深く落として完璧な臨戦態勢をとった。
「うん! 私も、お姉様と一度こうして全力でぶつかって見たかったんだー!」
ユミルも、小柄な身体をバネのように沈み込ませ、両手にたっぷりと水を掬い上げて構える。
「……お姉様。私のことも、忘れないでね?」
ユミルの瞳が、怪しく光る。
「大丈夫だよ。……特にユミルは、今日という今日、徹底的に分からせてあげるから」
俺が、底冷えするような低いドSボイスで宣告すると。
「〜〜〜〜〜っ!? ♡ ♡ ♡ ……うんっ!」
ユミルは、恐怖するどころか顔を限界まで真っ赤に染め上げ、両太ももをモジモジと擦り合わせながら、完全に快感に打ち震えた返事をしてきた。
(……ダメだこいつ、早くなんとかしないと)
「無駄口はそこまでよ。……早くやりましょう、アトラス」
リーシェの声が、湖面に低く響いた。
夏の太陽が、三人の火照った肌と水面を眩しく照らし出している。 周囲のギャラリーたちが固唾を飲んで見守る中。
俺は、かつて巨人の群れを蹂躙した時と同じ、いや、それ以上の熱い心臓の高鳴りを感じながら。
愛する二人の伴侶を完膚なきまでに濡らして分からせるための、静かで、しかし強烈な闘志を限界まで燃やし上げるのだった。