進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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リーシェ視点です


第二十四話

視界を埋め尽くすほどの、巨大な肉の壁。

 

木々をなぎ倒し、地鳴りを轟かせながら全方位から押し寄せる無垢の巨人たちの群れが、遂に私たちから100メートルほどの距離にまで迫ってきた。

 

耳まで裂けた不気味な笑顔、焦点の合わない濁った瞳、垂れ流される涎。

 

それが何十、何百と重なり合い、こちらへ向かって雪崩れ込んでくる光景は、5年間調査兵団で地獄を見てきた私でさえ、思わず呼吸を忘れるほどの絶望的な圧迫感だった。

 

だが、その絶望のド真ん中で、青白いクリスタルに覆われたアトラスは微動だにしない。

 

彼は私を見上げることもなく、ただ静かに、けれど絶対的な力強さを持って告げた。

 

「しっかり木に掴まっておけ」

 

次の瞬間だった。

 

巨大な刃と化した右腕を水平に構えたアトラスの15メートルの巨躯が、まるで重力や質量という概念を完全に無視したかのような、信じられないスピードで独楽(こま)のように回転を始めたのだ。

 

「っ……!」

 

私は咄嗟の生存本能に従い、腰のトリガーを強く引いた。

 

ガキンッ!と鋭い音を立てて、立体機動装置のアンカーが足元の太い枝に深く突き刺さる。

 

直後、鼓膜を破るような凄まじい轟音と共に、下から上へと吹き上げる破滅的な暴風と衝撃波が私を襲った。

 

「きゃぁぁっ……!」

 

アンカーのワイヤーが悲鳴を上げて軋み、私の身体が木の葉のように宙に浮きかける。

 

ワイヤーを巻き戻し、必死に枝に抱きついて吹き飛ばされそうになるのを堪えながら、私は眼下で繰り広げられるその光景から、どうしても目を逸らすことができなかった。

 

鋭利な巨大刃と化したアトラスの腕が、回転による遠心力で目にも留まらぬ真空の刃を生み出している。

 

周囲を完全に包囲し、飛びかかろうとしていた数え切れないほどの巨人の壁が

 

アトラスの巻き起こす暴風の渦に触れた端から、まるで柔らかい果実でも切り刻まれるかのように、次から次へと一瞬にして細切れにされていく。

 

硬い骨を断つ音すら聞こえない。抵抗など一切ない。

 

ただ、巨大な肉塊がスライスされ、宙を舞い、血飛沫が高温の蒸気となって竜巻のように森の天井へ巻き上がっていく。

 

それは最早、戦闘などという生易しいものではなかった。

 

ただの、圧倒的で一方的な蹂躙。

 

人為的に引き起こされた、局地的な自然災害。

 

「……信じられ、ない」

吹き荒れる蒸気と暴風の中、私は瞬きすら忘れ、ただただ息を呑んだ。

 

人類が100年間、どれほどの血と涙を流しても決して抗うことのできなかった絶対的な恐怖の象徴たちが、たった一体の巨人の前で、文字通り塵芥のように散らされていく。

 

私は枝にすがりついたまま、その人智を遥かに超えた、恐ろしくも美しすぎる殺戮の光景を、自身の網膜に深く、深く焼き付けていた。

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