進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第二百四十五話

 

 

 

マーレ国の心臓部に近いレベリオ軍港は、これまでの百年の歴史において誰も見たことがない、そして今後二度と忘れることのない、文字通りの『神話の現出』の舞台と化していた。

 

 

 

タイバー家当主、ヴィリー・タイバーによる、マーレからの独立と『新エルディア帝国』による解放の高らかな宣言。

 

 

 

その直後に海面を凍り付かせるように広がった青白い硬質化結晶の海と、そこに傅く六体の神のごとき知性巨人たち。

 

 

 

圧倒的な力と美の暴力を前にして、数万のエルディア人民衆の熱狂と興奮は、もはや沸点を超えて暴走する間欠泉のように空高く噴き上がっていた。

 

 

 

「おおおおおおおっ……!!」 「我らが解放者! 新エルディア帝国万歳!!」

 

 

 

冬の冷たい海風など、彼らが放つ熱気の前には何の意味もなさない。

 

 

涙を流し、互いに抱き合い、あるいはその神聖なる巨人の威容に向かって祈りを捧げる者たち。

 

 

彼らの網膜には、圧倒的な輝きを放ちながら軍港の岸壁へと静かに、そしてゆっくりと滑り込んでくる一隻の巨大な黒塗りの蒸気船が、救済の箱舟として焼き付いていた。

 

 

 

──────ガコンッ……!

 

 

 

微かな衝撃と共に、蒸気船の側面がレベリオ港の岸壁に触れ、完全に着岸した。

 

 

 

背後を取り囲むように硬質化の海の上に鎮座する六体の知性巨人たちは、完璧な『跪く』姿勢を保ったまま、彫像のように微動だにしない。

 

 

 

それは新エルディア帝国が、これらの「神のごとき暴力」を完全に飼い慣らし、支配下に置いているという何よりの、そして絶対的な力の証明であった。

 

 

 

ヴィリー・タイバーは、自らの演説の余韻と、目の前の圧倒的な光景に内心で身震いしながらも、決して特権階級の当主としての気品と威厳を崩すことなく、タラップが降ろされる予定の場所から数メートル離れた位置へとゆっくりと歩みを進めた。

 

 

 

彼の背後には、極秘裏に手配されたマーレ軍内のエルディア復権派の兵士たちが、微塵の隙もなく護衛の陣形を敷いている。

 

 

 

ウィィィィン……ガシャンッ!

 

 

 

重厚な金属音を立てて、蒸気船から分厚いタラップがコンクリートの岸壁に向かって降ろされた。

 

 

 

民衆の歓声が、一瞬だけ、期待と緊張がない交ぜになったどよめきへと変わり、やがて水を打ったような完全なる静寂へと移行する。

 

 

 

ヴィリーもまた、息を呑み、タラップの先──船内の薄暗い影の奥を凝視した。

 

 

 

一体、あの規格外の暴力と神々を束ね、海を越えてこのマーレの喉元にまで到達した『新エルディア帝国の指導者』とは、どのような人物なのか。

 

 

こつ……こつ……こつ……

 

 

静まり返った軍港に、分厚い鉄板を硬い靴底が踏みしめる、規則正しく、一切の迷いがない足音が響き始めた。

 

 

 

その足音は、決して急ぐことなく、しかし確かな重量と覇気を持って、暗がりから光の差す甲板へと近づいてくる。

 

 

 

やがて、船の奥の影から、一人の男が姿を現した。

 

 

 

高級感のある上品な装飾が施された、漆黒の重厚なロングコート。

 

 

長身で恵まれた体躯。

 

 

そして、冬の海風に気高く靡く、美しく整えられたプラチナブロンドに近い金髪。

 

 

 

その男の顔には、長年死線を潜り抜けてきた武人としての冷徹さと、何十万もの命を背負い、大局を見据えて盤面を操ってきた冷徹な軍師としての、計り知れない深淵の知性が同居していた。

 

 

 

ヴィリーも、そして数万の民衆も。 今か今かとその全貌を待ち望んでいた男が、ついに彼らの目の前に完全にその姿を現した。

 

 

 

男は、タラップの上から眼下に広がる広大なレベリオの街並みと、自分を畏敬の眼差しで見上げる群衆を、静かで、しかし底知れぬ熱を帯びた青い瞳で見渡した。

 

 

 

「皆、出迎えに感謝する」

 

 

 

拡声器も使っていないというのに、腹の底から絞り出されたその重く力強い声は、不思議なほどに軍港の隅々にまで反響し、すべてのエルディア人の鼓膜を直接揺さぶった。

 

 

 

為政者として、そして人類を未知の未来へと導く最高指揮官としての、圧倒的なオーラ。

 

 

 

「私は、『新エルディア帝国』特務兵団総司令、エルヴィン・スミスだ」

 

 

背後に数人の屈強な護衛兵を携え、男は自らの名を、マーレの大地に力強く刻み込むように口にした。

 

 

 

「「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」」」

 

 

 

彼の一言を皮切りに、再び民衆の歓声が爆発的に弾けた。 地鳴りのような熱狂を全身に浴びながら、ヴィリー・タイバーは、自らの心臓が早鐘のように高鳴るのを抑えきれずにいた。

 

 

 

(……これが、エルヴィン・スミス。あの恐るべき神々の手綱を握り、世界を盤上に見立てて引っくり返した男……!)

 

 

 

ヴィリーは、一歩、また一歩と前へ歩み出た。

 

 

 

そして、タラップを降りてきたエルヴィン・スミスの前で立ち止まり、万感の思いを込めて、自らの右手を真っ直ぐに差し出した。

 

 

 

「エルヴィン・スミス殿……! ずっと、お会いしたかった。私は、ヴィリー・タイバーと申します」

 

 

 

世界を裏から操ってきた一族の当主として、決して自身の品格を落とさぬよう、必死に感情の昂りを理性の殻で包み込みながら、ヴィリーはその名を口にした。

 

 

 

手紙と密偵越しでしかやり取りをしてこなかった、顔も見ぬ共犯者。

 

 

 

国を売り、歴史を書き換えるという大罪を背負いながら、今日この瞬間まで血みどろの綱渡りを続けてきた戦友。

 

 

 

エルヴィン・スミスは、差し出されたその手を真っ直ぐに見据えると、冷徹な指揮官の顔を僅かに緩め、迷うことなく自らの大きな手で、ヴィリーの手を力強く、骨が軋むほどにしっかりと握りしめた。

 

 

 

「貴殿が、タイバー公であったか」

 

 

 

エルヴィンの青い瞳が、ヴィリーの灰色の瞳を深く射抜く。

 

 

 

「密偵を通じた書簡でのやり取りでも、貴殿の並外れた聡明さと、大局を見極める圧倒的な決断力は、十分に見て取れていた。

……自国を解体してでも同胞の未来を救わんとするその覚悟。

為政者として、そして人類を導く指揮官として、私は貴殿を心から尊敬する」

 

 

エルヴィンが、落ち着いた、しかし確かな熱と重みを含ませた声音で告げた言葉。

 

 

 

それは、彼がこれまでの血塗られた人生の中で、誰に対しても容易く口にしてこなかった、他者に対する『最大最高の賞賛の言葉』であった。

 

 

 

自分と同じように、何十万もの命を天秤にかけ、非情な決断を下すことの孤独と痛みを分かち合える男に対する、魂からの敬意。

 

 

 

「──────っ!?」

 

 

 

その真っ直ぐで、一片の嘘偽りもない称賛の言葉を正面から浴びせられ、ヴィリーの端正な顔が激しく強張った。

 

 

 

長年、英雄の末裔という虚像に押し潰されそうになりながら、同胞を見殺しにしてきた罪悪感に苛まれ続けてきた彼にとって、その言葉は、どれほどの救済であったことか。

 

 

思わず灰色の瞳の奥から熱い涙が滲み出そうになるのを、ヴィリーは奥歯をギリッと噛み締めて必死に堪えた。

 

 

ここで涙を見せるような、情けない三流の姿を見せるわけにはいかない。

 

 

彼はあくまで、マーレの支配者として、そしてこれからの新エルディア帝国を外交面で支える強き同盟者として、威厳ある雰囲気を維持しなければならないのだから。

 

 

「……貴方に、そこまで高く評価して頂けるとは……大変光栄の至りです。スミス殿」

 

 

ヴィリーは、声の震えを完璧に抑え込み、優雅な微笑みを顔面に貼り付けて応えた。

 

 

「さぁ、海の向こうからの長旅で、さぞお疲れでしょう。積もる話は後にし、どうぞ、あちらに用意した安全な天幕へ──────」

 

 

「お気遣い、痛み入る」

 

 

ヴィリーが案内しようと手を差し向けた瞬間、エルヴィンは静かにそれを遮った。

 

 

「しかし、少しだけ待って欲しい。……彼らも、共に連れて行きたいのでな」

 

 

エルヴィンはそう言うと、踵を返し、海面の硬質化結晶の上に傅いている五体の巨大な知性巨人たちへと、鋭い視線を向けた。

 

 

──────プシュゥゥゥゥッ!!!

 

 

 

エルヴィンの視線を合図にしたかのように。 アトラスの15mの鋼の巨人と、マーレから鹵獲した『鎧』『超大型』『女型』『獣』の四体の知性巨人のうなじから、一斉に、凄まじい勢いで超高温の高圧蒸気が噴出した。

 

 

白い霧が、冬のレベリオ軍港の空を覆い隠すように舞い上がる。

 

 

「おおっ……!?」 「巨人の、中から……!」

 

 

民衆たちの間から、驚きと畏怖の混じった小さなどよめきが上がる。

 

 

やがて、立ち昇る蒸気の向こう側から、うなじから抜け出した五つの人影が、硬質化の海の上へと降り立ったのが見えた。

 

 

マーレの戦士であったライナー、ベルトルト、アニ、ジークの四人の若き戦士たち。

 

 

 

そして、彼らの中心に立つ、一際目を引く人物。

 

 

 

 

「なっ……」 「なんて……美しいんだ……」

 

 

 

蒸気が完全に晴れた瞬間、最前列にいた民衆たち、そして警備に当たっていた兵士たちの口から、感嘆と信仰の入り混じった無意識の呟きが漏れた。

 

 

 

そこに立っていたのは、季節に合わせた上質な純白の冬用コートに身を包んだ、アトラスであった。

 

 

長く艶やかな漆黒の髪を冬の海風に揺らし、夜空のように深く澄んだアイスブルーの瞳で、広大なレベリオの街並みを静かに見つめている。

 

 

神がすべての美の法則を計算し尽くして造り上げたかのような、比類なき超絶美少女の顔立ち。

 

 

その首元には、フリルがあしらわれた黒いブラウスが上品に覗き、コートの裾から伸びる細く真っ白な脚が、彼女の可憐さと神秘性を暴力的なまでに引き立てていた。

 

 

「あれが……あの恐ろしい巨人の、中身……?」 「いや、あれは帝国の姫君か何かか……?」 「おい見ろよ! 鋼みたいなイカつい大男の巨人だったから、てっきり厳つい男が出てくると思ったら……とんでもない絶世の美少女が出てきたぞ!?」 「……ぁあっ……あぁ……女神様だ……本物の、女神様……っ」 「結婚してくれぇぇぇっ!!」

 

 

 

口々に漏れる感嘆の声。一部、あまりの美の暴力に脳を完全に破壊され、怪しい欲望や求婚の雄叫びを上げる者もいたが、主に男性陣が頬を林檎のように赤く染めて、彼女の一挙手一投足に完全に目を奪われていた。

 

 

 

百年の絶望の中で生きてきた彼らにとって、アトラスの放つ圧倒的な「生きた美」と、すべてを赦すかのような神聖なオーラは、最も強力な宗教的麻薬であった。

 

 

「お姉様、かっこよかったよー!」 「アトラス、お疲れ様。流石ね」

 

 

民衆が完全にアトラスの美貌に魂を抜かれている中、気がつけば、エルヴィンが降りてきた蒸気船のタラップの奥から、すでに二人の女性が姿を現していた。

 

 

 

人類最強の鬼神たるリーシェと、鈍色の金髪を揺らす始祖ユミルである。

 

 

二人は、海上の硬質化結晶の上に立つアトラスを甘やかすように迎え入れるべく、弾むような足取りでタラップを降りてきた。

 

 

「ふふっ、二人ともありがとう。今そっちに行くね」

 

 

アトラスは、愛する人からの労いの言葉に、花も照れるような極上の微笑みで応えた。

 

 

そして、彼女は海面を覆う青白い硬質化結晶の膜の上に立つと、スッと自らの白い右手を、岸壁の縁に向けてかざした。

 

 

 

──────ピシィィィィンッ! シャララララ……!

 

 

 

その瞬間、アトラスの足元のクリスタルが、まるで生き物のように意思を持って隆起し始めた。

 

 

 

青白い光の粒子を撒き散らしながら、海面から数メートル高い岸壁へと繋がる、緩やかで美しいアーチを描く『巨大なクリスタルのスロープ』が、コンマ数秒のうちに空中に生成されたのだ。

 

 

 

「えっ……!?」 「か、神か!?」 「なっ!? 何だあれは! 魔法か!?」 「巨人の力って、あんな繊細なことができるのかよ……!?」

 

 

 

先程の巨大な壁の構築に続き、今度は目前で披露された物理法則を嘲笑うような神の御業に、民衆たちの驚愕は頂点に達した。

 

 

 

「俺たち……とんでもなく凄い人達を味方に付けたのかもしれない……」 「凄いなんてもんじゃねぇだろ、これは……! まるで、お伽話の創造主そのものじゃないか!」

 

 

 

熱狂と畏怖が入り混じる歓声の中、アトラスは生成されたばかりのクリスタルのスロープの上を、まるでレッドカーペットを歩く王族のように、ゆったりとした優雅な足取りで上り始めた。

 

 

 

その一歩ごとに、太陽の光がクリスタルを透過して七色に輝き、彼女の姿をさらに神々しく演出している。

 

 

 

ヴィリー・タイバーは、己の目の前でいとも容易く地形が書き換えられたその常軌を逸した光景に、驚愕に顔を染めながら、おずおずと自身が尊敬するエルヴィン総司令に問うた。

 

 

 

「スミス殿……この方々は……もしや、あの書簡に記されていた──────」

 

 

 

彼の問いの続きを、エルヴィンは胃の痛みを微塵も感じさせない、堂々たる、そしてどこか自身の抱える最高の手札を自慢するような誇らしげな声で口にした。

 

 

 

「そうだ。彼女らこそ、我が新エルディア帝国の絶対的柱であらせられる、三柱の『女神達』だ」

 

 

 

エルヴィンのその紹介の言葉に合わせる様に、スロープを上りきったアトラスが、両脇にリーシェとユミルを従える形で、彼のすぐ横へと並び立った。

 

 

 

「初めまして、ヴィリー・タイバー様。アトラス・ベニアと申します。

……この度の、レベリオ解放におけるマーレ側での水面下の工作と、帝国への多大なるご協力、心から感謝申し上げます」

 

 

 

アトラスは、その神がかりな美貌に、花も照れる様な可憐で純粋な笑みを浮かべ、ヴィリーに向けて淑女のように深く、そして気品に満ちた一礼をした。

 

 

 

「こ、これはこれはとんでもない!!」

 

 

 

世界の裏の支配者たるヴィリー・タイバーが、かつてないほどに慌てふためき、顔から血の気を引かせて腰を低くした。

 

 

 

彼は、この島が保有する『歩く終末兵器』の正体が、こんなにも美しく、そして礼儀正しい女性であることを知識としては知っていたが、いざ本物を目の前にして直に頭を下げられると、その存在の強大なギャップに完全にペースを乱されてしまったのだ。

 

 

 

「どうか、どうか御顔をお上げ下され……! 帝国の絶対神であらせられる女神様に頭を下げられては、私もどうしていいか……! 恐悦至極に存じます!!」

 

 

 

必死に恐縮し、平身低頭で頭を下げるヴィリー。

 

 

その様子を見て、アトラスは「ふふっ」と悪戯っぽく、しかし包み込むような温かい声で顔を綻ばせた。

 

 

 

彼女はヴィリーから視線を外し、今度は自分たちを畏敬の眼差しで見つめ続けている、数万のレベリオの民衆たちが立つ方へと顔を向けた。

 

 

そして、真っ白なコートの袖からスッと細い腕を出し、彼らに向けて、控えめに、しかしすべての者の目に焼き付くように、ゆっくりと手を振った。

 

 

 

「キャァァァァァァッ!! 女神様が!! 女神様がこっちを見たわ!!」 「あぁっ……なんて慈悲深い笑顔だ……!」「ぐふっ……」

 

 

 

その圧倒的すぎる美の暴力と、神の如きオーラに正面から当てられた民衆たちは、次々と限界を迎えた。

 

 

 

興奮のあまり過呼吸になる者、鼻血を噴き出してその場にバタバタと倒れ込む者。

 

 

 

彼らは、即座に周囲の兵士たちによって担架で運ばれていくという、まるで狂信的なアイドルのライブ会場のような異様な光景が繰り広げられた。

 

 

「……罪な女だね〜、お姉様は。みんなお姉様の魅力にノックアウトされちゃってるよ」

 

 

ユミルが、バタバタと倒れる民衆を見下ろしながら、くすくすと意地悪そうに笑う。

 

 

 

「アトラス。ファンサービスはその辺にしてよね。……これ以上、他の有象無象にあなたの美しい笑顔を安売りするなら、私が全員の眼球をくり抜いて回ることになるわよ?」

 

 

 

リーシェが、アトラスの腰にスッと腕を回し、独占欲と氷のような冷たい殺意を微かに滲ませながら、耳元で低く囁いた。

 

 

 

「はいはい、分かったから。物騒なこと言わないの」

 

 

アトラスは、苦笑しながらリーシェの頭を軽く撫でて宥め、愛する二人の間に挟まれてギュッと密着されるのだった。

 

 

 

その平和でカオスな三柱の百合空間の背後では、すでに他の戦士組四人もクリスタルのスロープを上りきり、今回、演出上の観点(車力のサイズ感的にバランスが悪いからという理由)から変身での参加を見送られ、待機させられていた車力の巨人・ピークと合流して談笑を始めていた。

 

 

 

「……なんか、私だけ蚊帳の外みたいで、凄く釈然としないなぁ」

 

 

ピークが、手すりに寄りかかりながら、少しだけ不満げに複雑な心境を吐露する。

 

 

「いや、でもピークちゃん、あの十倍のサイズの始祖の巨人の前で、硬質化の海の上に跪いて待機するの、結構怖かったけどなぁ。足元冷えるし」

 

 

ジークが、眼鏡を押し上げながら苦笑交じりに返す。

 

 

「全くだよ。僕の超大型の、大体三倍の高さだからね。真後ろに立たれてるあの迫力、生きた心地がしなかったよ……」

 

 

ベルトルトも、冷や汗を拭いながら心底疲れた顔で同意した。

 

 

「……いや、そんなことより……俺は、アトラス様の隣で跪くポジションが良かった……どうして俺の位置は端っこだったんだ……」

 

 

ライナーは、完全に信仰心を拗らせた狂信者の顔で、ぶつぶつと未練がましく恨み言を呟いている。

 

 

「…………キモ」

 

 

そのライナーの変態的な発言に対し、アニが一切の表情を変えることなく、ゴミを見るような絶対零度の視線を浴びせ、短く、辛辣なツッコミを入れた。

 

 

 

原作では祖国のために血を流し合った彼らも、今や巨人の呪いから解放され、この新エルディア帝国の圧倒的な力と平和な空気にすっかり染まりきり、年相応のどこか気の抜けた会話を繰り広げている。

 

 

 

エルヴィン・スミスは、自らの真横で繰り広げられる「神々のイチャつき」と「元敵国兵器たちの緩い会話」を耳に入れながら。

 

 

 

長年の指揮官生活で培われた『究極のスルースキル(現実逃避)』を遺憾無く発揮して、完全に思考の彼方へとシャットアウトした。

 

 

 

「……それでは、案内をお願いしようか。これからの世界の盤面について、我々で直接話すべきことが山ほどある」

 

 

エルヴィンは、一切の表情を崩すことなく、完璧な為政者の顔でヴィリーに向けて言った。

 

 

「え、ええ……どうぞ、こちらへ……」

 

 

ヴィリーは、もっとこう、厳格で殺伐とした緊張感のある歴史的邂逅を想像していたのだが。

 

 

目の前で繰り広げられている、あまりにもアットホームでカオスな彼らの空気に、若干拍子抜けしたような、それでいてどこか深い安堵の入り混じった表情で、彼らをレベリオの奥の安全な施設へと案内していくのだった。

 

 

 

冬の冷たい海風が、レベリオ軍港に広がる青白い硬質化結晶の海を吹き抜けていく。

 

 

 

新エルディア帝国とマーレの、歴史を塗り替える真の融和と会談が、このどこまでも平和でカオスな空気の中で、静かに、そして確実に幕を開けようとしていた。

 

 

希望する投稿ペースについて

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