進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
849年1月19日
神話の巨人たちを従えた『新エルディア帝国』の威容がレベリオ軍港を熱狂の渦に包み込んだ後。
熱気と喧騒が未だ冷めやらぬ軍港の一角にて、新たな世界の枠組みを決定づける歴史的な会談が、静かに、そして迅速に幕を開けようとしていた。
海風を遮るように設営された、特別仕様の巨大な天幕。
タイバー家当主、ヴィリー・タイバーの洗練されたエスコートにより、帝国特務兵団総司令エルヴィン・スミスをはじめとする新エルディア帝国の首脳陣が、その重厚な天幕の内部へと足を踏み入れた。
内部には高級なマホガニーの長机が用意され、マーレという超大国を実質的に裏から支配してきた真の権力者と、壁内人類を解放し神々をも御する冷徹な軍師とが、遂に直接、同じテーブルを囲んで相対することとなった。
だが、この会談において、互いの腹を探り合うような息詰まる駆け引きや、己の利益を貪り取ろうとする醜い舌戦は一切存在しなかった。
ケニー・アッカーマンという最強の密偵を通じて、彼らはすでに幾度となく書簡と言葉を交わし、盤面の構築を終えていたからだ。
互いの知性と大局観を心から尊敬し合う二人の為政者の話し合いは、まるで長年連れ添ったオーケストラのように円滑に、そして滞りなく進められていった。
本会談で最終的に調印された取り決めは、百年に及ぶエルディア人の苦難の歴史を完全に終焉させる、革新的かつ壮大な内容であった。
第一に、現在何十万というエルディア人が押し込められているレベリオ収容区およびその周辺地域を、タイバー家直轄自治領『レベリオ自由領』として、新エルディア帝国の強固な保護のもとで正式に独立させること。
これまでマーレの法律によって家畜のように扱われてきたエルディア人たちは、この瞬間をもって完全なる自治と自由を獲得する。
第二に、安全保障に関する相互防衛条約の締結。
『レベリオへの攻撃は帝国への攻撃とみなし、帝国への攻撃はレベリオへの攻撃とみなす』。
これは単なる同盟の枠を超え、世界に対して「レベリオのエルディア人に手を出せば、歩く終末兵器を擁する新エルディア帝国が容赦なく報復する」という、絶対的な抑止力を見せつけるための最強の盾であった。
加えて、パラディ島と大陸を繋ぐ重要な拠点となるパラディ港などの港湾使用権については、帝国とレベリオの共同利用とし、現在停泊しているマーレの軍艦の数々も、両者による共同管理・運用とすることが取り決められた。
第三に、途方もない規模の『都市計画』の実行である。
今後、崩壊していくマーレ本土のみならず、世界中の収容区から真の自由と安寧を求めて、無数のエルディア人たちがこのレベリオ自由領へと移住してくることは明白だった。
その爆発的な人口増加を見越し、帝国が保有する莫大な資本と、圧倒的な建築技術を惜しみなく投じ、レベリオの再建を全面的に支援することが決定したのだ。
忌まわしき旧収容区を覆っていた分厚いコンクリートの壁の撤去。
清潔で近代的な公共住宅の建設、衛生的な上下水道の整備。
さらには港湾の巨大拡張と、パラディ島と同様の蒸気機関による鉄道網の敷設。
それは、レベリオを世界のどの都市よりも進んだ、最先端の自由都市へと生まれ変わらせるための青写真であった。
そして第四に。これがエルヴィンとヴィリーが最も重きを置き、慎重に言葉を選んで取り決めた事項であった。
『黄色い腕章制度の完全廃止』、および『マーレ人に対する取り扱い』についてである。
今や、神々を味方につけたレベリオは、エルディア人にとって悲願の『解放の聖地』となっている。
しかし、これまで長きにわたりマーレ人から理不尽な迫害と暴力を受けてきた彼らが、圧倒的な力を背景にして増長し、今度はマーレ人を報復として虐げるようなことになればどうなるか。
それはただ立場が逆転しただけであり、憎しみの連鎖は永遠に断ち切られず、他民族との間に決して埋まることのない深い血の溝を作ることになってしまう。
新エルディア帝国が目指すのは、暴力による恐怖の支配ではない。
故に、両者は固く誓い合った。 レベリオ自由領においては、人種や過去の経歴に関係なく、すべての者に平等な『市民権』を付与すること。
財産の不当な没収を禁じ、私刑を徹底的に取り締まり、いかなる差別も許さない絶対の法治主義を貫くこと。
被抑圧者が抑圧者へと変貌する悲劇を、彼らの高い倫理観と法整備によって未然に防ぐという、歴史的に見ても極めて高潔な決断であった。
第五に。かつてマーレの戦士として数奇な運命を辿って帝国側に引き入れられた元・戦士組五名に対する処遇である。
ライナー・ブラウン、ベルトルト・フーバー、アニ・レオンハート、ピーク・フィンガー、そしてジーク・イェーガー。
彼らの『十三年の寿命の呪い』は、すでに理外の特異点であるアトラスとユミルのハッキングによって完全に解呪され、巨人化能力も封印されている。
彼らに対して、今後の人生における『転居・就職・結婚』等のあらゆる行動の自由を完全に保証し、帝国とタイバー家から正式に『国家功労者認定』を与え、生涯にわたる潤沢な年金を支給することが決定された。
さらに、彼らがマーレに残してきた家族への保証についても、かつて名誉マーレ人として受けていた待遇を遥かに上回る、最高レベルの優遇措置と身の安全が取り決められたのだ。
ジーク・イェーガーを除く、ライナー、ベルトルト、アニ、ピークの四人は、この報せを受け、深い安堵の涙と共に、まずは家族と共に新しく生まれ変わるレベリオの街で生活基盤を築くことを決意した。
特にライナーとベルトルトは、「レベリオでの生活が落ち着いたら、絶対に家族を説得して、パラディ島へ移住するんだ」と、目を輝かせて力強く意気込んでいる。
会談の最後、レベリオの内情と都市開発が落ち着き次第、帝国とレベリオ間の人々の行き交い、すなわち定期航路を段階的に解放していくことで合意し、歴史的な調印はすべて完了した。
だが、課題が全くないわけではない。
レベリオ収容区に住まう十数万のエルディア人達のうち、軍港でヴィリーの演説を聞き、巨大な硬質化の海とひざまずく六体の知性巨人という『神話』をその目で直接見た数万人の者たちは、熱狂的に新エルディア帝国を受け入れている。
しかし、その場に居合わせず、話や噂でしか状況を知らない残りの約十万のエルディア人たちの間には、未だに「本当にマーレから独立できるのか」「自分たちは騙されて捨てられるのではないか」という根強い不安と、懐疑的な反応が多く渦巻いているのが現実だった。
その彼らの恐怖とわだかまりを解いていくのは、武力ではない。
長年、マーレの暗部で同胞のために命を懸けて活動してきたレオンらエルディア復権派の面々や、ヴィリー・タイバー自らが街に立ち、根気強く演説や対話を重ね、言葉と行動で示していくしかないのだ。
だが、彼らの目には微塵の暗い影もなかった。百年続いた暗闇を思えば、言葉で希望を説くことなど、どれほど喜ばしい労苦であろうか。
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翌日849年1月20日
レベリオ港での圧倒的なパフォーマンスと歴史的会談から、一夜が明けた。
舞台は変わり、マーレ共和国の首都にそびえ立つ、かつては世界を震え上がらせていた軍参謀本部。
その最奥に位置する、重厚なオーク材の扉に閉ざされた最高機密会議室。
かつては傲慢なマーレ人の高官たちが、高級葉巻の紫煙を燻らせながら、中東連合の蹂躙や植民地の搾取について余裕の笑みを浮かべて語り合っていたその円卓には、もはや彼らの姿は一人として存在しなかった。
軍の上層部たちは、中東連合の侵攻の気配とパラディ島の圧倒的な脅威に完全に心をへし折られ、命と財産だけを抱えて夜逃げを敢行し、ケニーの部下たちによって呆気なく簀巻きにされて捕縛されていたからだ。
現在、この広大な会議室の円卓を囲んでいるのは、全く異なる歴史の顔ぶれであった。
マーレ軍の最高権力者にして、逃亡した上層部に代わり一時的に国家の『全権』を完全に掌握したカルヴィ元帥。
そして、かつてマーレの広大な植民地として虐げられ、カルヴィの裏工作によって一斉蜂起を成功させた旧植民地群──新たに独立を宣言した『自由諸方連邦国』の代表たち。
さらに、新エルディア帝国の威信を一身に背負う特務兵団総司令、エルヴィン・スミスの姿があった。
「……カルヴィ殿」
エルヴィンが、澄み切った青い瞳で円卓の向かいに座る老将を見据え、静かな、しかし確かな信頼を込めた声で口を開いた。
「私が到着する前に、既に彼らと、煩雑な取り決めについては済ませているという認識で良いのだな?」
エルヴィンがこの会議室に足を踏み入れるまでの間。
カルヴィは、事前に裏で進めていた『旧植民地連合国化計画』を完璧に機能させ、各派閥の意見調整から、独立後の国境線の制定、国家承認、安全保障条約の骨組み、そして貿易に関するすり合わせに至るまで、血を流すことなくすべてを円滑に完了させていたのだ。
エルヴィンの問いに対し、カルヴィ元帥は、相変わらず感情の読めない無機質な鉄仮面の表情を保ちながらも、静かに、そして深く頷いた。
「その認識で問題ない。……あとは、だ」
カルヴィの口元が、ほんの僅かに、長年の重しから解放されたように緩んだ。
「明日、このマーレが……新エルディア帝国に対する『無条件降伏』を全世界に向けて大々的に宣言し、公式な調印を済ませれば。
……我々が描き、長年進めてきた、この長い『国家解体計画』も、すべて終わりだ」
その言葉には、かつてエレン・クルーガーと共にエルディア復権派の工作員として地獄を這いずり回り、同胞の指を詰めながらマーレ人として生き抜いてきた彼自身の、途方もない絶望と孤独の清算が含まれていた。
どこか憑き物が落ちたような、その深く静かな安堵の響きに、エルヴィンもまた、敬意を込めて無言で目を閉じた。
「……エルヴィン・スミス殿」
不意に、円卓に座っていた『自由諸方連邦国』の代表の一人が、緊張に満ちた面持ちで立ち上がり、震える声で口を開いた。
「貴方様の数々の恐るべき智謀と武勇のお噂は、カルヴィ殿や、各地に潜伏しておられた帝国の諜報員の方々を通じて、我々も兼ねてより聞き及んでおります」
代表たちは、次々と椅子から立ち上がった。
彼らは長年、マーレの巨人の力と軍事力によって領土を蹂躙され、資源を奪われ、屈辱を味わい続けてきた植民地の指導者たちだ。
彼らの心の中に、エルディア人に対する理不尽な偏見や差別意識はもはや存在していない。
我々を助け、導いてくれた恩人だという確かな認識がある。
だが、それでも。 目の前に座るこの金髪の男は、世界を百年間恐怖で支配し続けてきたあの超大国マーレを、内部から腐敗させ、ほぼ一滴の血も流すことなく盤上から消し去り、国家解体にまで持ち込んだ冷徹な軍師にして、神々を従える絶対的な指導者なのだ。
彼らの肩に、畏怖と極度の緊張で力が入ってしまうのは、指導者として当然の防衛本能であった。
「我々が今日、こうしてマーレの鎖を断ち切り、新たな独立国家としての産声を上げることができたのは……貴方様が裏で大局を描き、我々の独立の一助として多大なる支援と武器を差し向けて頂いたお陰です」
代表の男は、感極まったように声を震わせた。
「心より……深く、深く感謝申し上げます」 「私からも、どうか御礼をさせてください。本当に、有難う御座いました」
自由諸方連邦国の代表らが、重厚なテーブル越しに、エルヴィンに向けて深く、本当に深く、一斉に九十度の感謝の一礼を送った。
マーレの最高機密会議室という、かつて彼らの故郷を搾取する計画が練られていたまさにその場所で、彼らは解放者に向けて涙を流して頭を下げたのだ。
その誠実で重みのある感謝を受け、エルヴィン・スミスは、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
彼の長身が放つ圧倒的な覇気と威厳に、代表たちは思わず息を呑む。
だが、エルヴィンの青い瞳に宿っていたのは、支配者の傲慢さではなく、共に世界を平和へと導く同志に対する、深い慈愛と敬意であった。
「貴殿らの魂からの御礼、このエルヴィン・スミス、謹んでお受けしよう」
エルヴィンの、低く、しかし空間の隅々にまで響き渡る力強い声が、会議室の空気を震わせた。
「そして、独立後、帝国の巨大な経済圏と武力の傘の下について貰うことにはなるが……私から、貴殿らに絶対の約束をしよう」
エルヴィンは、真っ直ぐに代表たちの目を見据え、一切の淀みなく宣言した。
「我が新エルディア帝国は、盟友たる『自由諸方連邦国』に対して、不当な資源の要求や、貴国の人々の自由と尊厳が侵される様な野蛮な支配は、決して行わない」
「────────っ」
「そしてもし、今後の激動の世界において、盟友である貴国が他国から不当に侵略され、理不尽に脅かされるような有事があれば。
……我々は、この『新エルディア帝国』の持つ武力と知の総力を持って、必ずやその脅威を打ち払ってみせると、ここに誓約しよう」
エルヴィンは、言葉を終えると同時。
右手を強く握り締め、自身の左胸──心臓の位置へと力強く打ち当てた。
旧・調査兵団が長年掲げてきた、己のすべてを捧げる絶対的な敬意と誓いの証。
『心臓を捧げる』礼を、一国の代表たちに向けて、誇り高く送ったのである。
「あぁ……っ……!」
その、一切の嘘偽りがない、圧倒的なカリスマ性と誠実さに満ちた力強い宣言に。
自由諸方連邦国の代表らは、為政者としてではなく、一人の漢として、この誇り高き武人の生き様に胸の奥が熱く焼け付くような感動を覚え、堪えきれずにボロボロと熱い涙を零した。
マーレに代わる新たな支配者として君臨するのではなく、互いの自由を尊重し、血を流してでも友を守り抜くという、超大国のトップからの絶対の約束。
彼らは、この金髪の男に、そして新エルディア帝国という国に、これからの国家の命運と魂を捧げることに、もはや一片の迷いも抱いていなかった。
この日、マーレの旧軍参謀本部で交わされた熱き誓いと、エルヴィン・スミスが放った『不当な支配はしない』『総力を持って助ける』という絶対の宣言は。
後に誕生する『自由諸方連邦国』の歴史書において、一言一句違わず、黄金の歴史として永遠に刻まれることになる。
そして、この一連のやり取りは彼らの国の学校教育でも必ず取り扱われる美談となり、自由諸方連邦国は新エルディア帝国にとって、世界で最も信頼できる『最大の友好国』として、長く歴史に名を馳せることとなるのだった。