進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
849年2月21日
冷たい冬の終わりを告げるような、身を切るような冷気が窓ガラスの向こう側に満ちている。
早朝。まだ朝日がのぼりきっておらず、夜と朝の境界線のような、青みがかった暗い空が、寝室の窓に静かに写っていた。
私の意識が、深い、本当に深い微睡みの底から、ゆっくりと少しずつ覚醒していく。
ふと、意識が明確になるにつれて、自身の身体の内側から強烈な違和感が主張し始めた。
昨日の昼から、何も食べていない。
エルヴィン総司令たちの前でのあの決定的なすれ違いから始まり、カルラさんからこの部屋の鍵を受け取り、そして……このベッドの上で、エレンと互いの本心をぶつけ合い、涙を流してすべてを曝け出した。
極限の精神的疲労と感情の爆発を経験した私の胃袋は、今になって酷く空腹を主張し、空っぽの胃酸がムカムカと胸の奥を焼くような感覚を訴えかけていた。
(……起きないと。エレンのためにも、何か温かいものでも作ろう)
私は、少しだけ重い身体を起こそうと、シーツの中で小さく身動ぎをした。 だが、その時だった。
「んぅ……」
私のお腹の辺りに、細く、柔らかく、そして信じられないほど温かい『何か』が、スルスルと滑り込むように巻き付き、私がベッドから離れようとするのを力強く阻んだのだ。
「……えっ?」
私の動きが、ピタリと止まる。
そして同時に、私の背中の辺りに、まるで自身のテリトリーを主張する様に、ピッタリと押し付けられる暖かな温もりと。
むにゅっ……とした、ひどく柔らかな感触が、薄い寝巻き越しに私の背中の神経へとダイレクトに伝わってきた。
(あ……あたってる……///)
私の頭のてっぺんから足の先まで、一瞬にしてカァァッと血が沸騰するような強烈な熱が駆け巡った。
背中に張り付いているのは、間違いなくエレンだ。
女性らしい曲線を帯びて発育し始めている、彼女の柔らかな双丘が。
私の背中に、隙間なく、潰れるほどに押し付けられているのだ。
「エレン……?」
私は、自身の心臓が肋骨を突き破らんばかりに早鐘を打ち始めたのを必死に抑え込みながら、掠れた声でその名を口にした。
すると、私の声に反応するように、お腹に巻き付いている彼女の細い腕の力が、ギュッと、私を絶対に逃がさないとばかりに若干強まった。
何か言葉が返ってくる訳でもない。
ただ、彼女の腕の力と、背中から伝わる密着した体温が、まるでもう少しこのまま微睡みの中で一緒に居たいと言っている様な。
私という存在を、心の底から求め、手放したくないと訴えかけているような、そんな切実な愛情の気配が痛いほどに伝わってきた。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……!
私の胸の奥で、鼓動が段々と速く、そして限界を突破して強くなっていく。
今、こうして自分から私にすがりつき、甘えてくれている。
その事実だけで、私の魂は途方もない歓喜と多幸感に打ち震え、狂ってしまいそうだった。
やがて、私の背中に顔を押し付けていたエレンが、少しだけ身じろぎをした。
私の無防備な項のあたりに、彼女の鼻先と柔らかい唇が、スリスリと擦り寄せられるように顔を埋めてくる。
「……っ」
ハァ……ハァ……と。 一定のリズムで私の肌にかかる、熱を帯びた甘い吐息。
それが、私の首筋の敏感な神経をチリチリと撫で上げ、脳髄を直接揺さぶるような甘い刺激となって全身を駆け巡る。
(エレンが……私に、甘えてくれている……)
その奇跡のような事実に、私の胸の奥がきゅん、と音を立てて締め付けられる。
ただでさえエレンに対して異常なまでの執着と保護欲を抱えている私が、こんな無防備で純粋な甘えを正面から浴びせられれば、理性が吹き飛んで余計に敏感に反応してしまいそうになる。
私が、そのあまりにも幸せな拷問に耐えきれず、小さく身をよじらせようとした、まさにその時だった。
「……ミカサ…………『好き』」
「〜〜〜〜っ!?」
不意に。 エレンが後ろから、私の耳元に唇を寄せて。
寝起きの微睡みを帯びた、吐息混じりの蕩けるような甘い囁きで、その言葉を吐き出したのだ。
ビクンッ……!と、私の全身が雷に撃たれたように大きく震えた。
たった二文字。 たったそれだけの言葉が、私の頭部を貫き、脳を真っ白に染め上げた。
腰の髄からガクガクと震えが走り、顔全体に熱が急激に集まって、耳の先まで火が出るほど真っ赤に紅潮していくのをはっきりと自覚した。
これまでこんな風に、はっきりと直接的な言葉で愛を囁かれたことなどなかった。
それが、どれほどの破壊力を持っているか。
しかし、私の理性を焼き尽くすエレンの追撃は、そこで止まらなかった。
私の限界を超えた反応に対して、心底愛おしいと思ったのか、あるいは自分の言葉で私が震えていることが嬉しいのか。
背中のエレンは、甘い笑い声を零し、シーツの下で彼女のすべすべとした滑らかな素足を、私の脚に絡みつかせるように巻き付けてきた。
「えへへっ……可愛いなぁ……。好きって言われて、嬉しいんだよな……?」
耳元で、悪戯っぽく、しかし底なしの深い愛情を込めた囁きが続く。
「好きだぞ、ミカサ……。ミカサの、少し気だるげな目が好き……今みたいに、俺の言葉で真っ赤になってる耳が好き。もちろん、普段の綺麗な黒髪から覗く、白くて可愛い耳も好き……ミカサの、凛とした低い声が好き。俺の名前を呼ぶ時、少しだけ高く優しくなる声がもっと好き……こうやって、後ろから俺を優しく包み込んでくれるミカサが、本当に好き──────」
「────っ! え、えれん……! 分かった……! 分かったから!……もう、やめて……っ///」
私は、お腹に巻き付く彼女の腕に震える手を重ね、悲鳴のような懇願の声を絞り出した。
立て続けに、耳元でダイレクトに囁かれる、極度の好意と愛の言葉の塊。
それを受け止めるには、私の心臓のキャパシティはあまりにも脆弱すぎた。
鼓動はもはや破裂しそうなほど煩いぐらいに激しく拍動し、顔面は完全に沸騰して、今にも頭から白い蒸気が出そうな程に熱い。
これ以上言われれば、本当に幸せすぎてショック死してしまう。
私は、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い隠し、完全に白旗を上げて降参した。
「……ミカサ、こっち向いて」
エレンのその言葉と同時に。 私の背中に張り付いていた温もりと、お腹を締め付けていた絶妙な力加減の拘束が、ふわりと優しく緩められた。
私は、促されるままに。 顔を覆っていた手をゆっくりと下ろし、羞恥で涙目に潤む視界のまま、シーツの上で身体ごとエレンの方へと振り返った。
「な……なに? エレ──────んむっ!?」
私が、真っ赤な顔で何事かと理由を問おうと唇を開きかけた、その瞬間だった。
私の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
振り返った私の顔に、エレンの両手がそっと添えられ。 そのまま、少しだけ強引に、しかしどこまでも優しく、私の唇が、彼女の柔らかく甘い唇によって完全に塞がれてしまったのだ。
「……っ……」
至近距離。 視界いっぱいに、目を閉じたエレンの、信じられないほど美しい黄金比の顔立ちと、長く艶やかな睫毛が震える可愛い目元が広がっている。
───ちゅっ……ちゅる……はむっ……
ただ重なり合うだけの、昨日の触れるようなキスとは違う。
気付けば、私の後頭部にエレンの手が回され、逃げ場が完全に塞がれていた。
彼女の少しだけ開かれた唇の隙間から、熱を帯びた滑らかな舌先が、私の口腔内へとぬるりと侵入してくる。
「んっ……ぁ……っ」
───ちゅぷ……んっ……れろ……にゅる……ちゃぷ……
互いの舌と舌が絡み合い、甘い唾液が混ざり合う、生々しくも艶かしい水音が、静まり返った早朝の寝室に響き渡る。
エレンの口内から広がる、彼女特有の花のような香りと、甘く熱い体温。
それが、私の脳髄をダイレクトに犯し、思考を完全に麻痺させていく。
甘い、甘すぎる刺激に完全に支配され、私はただ、エレンの背中に腕を回し、彼女の柔らかな身体を強く抱きしめ返すことしかできなかった。
「んんっ……ふぁ……ちゅっ……」
互いの呼吸が荒くなり、次第に息が苦しくなってくる。
肺の酸素が限界を迎え、やがて自然と絡み合っていた舌が解け、名残惜しそうに口を開けたまま顔がゆっくりと離れた。
────つぅ……っ
互いの舌先を繋ぐようにして伸びた透明な銀糸が、重力に従って、シーツの枕元へと静かに滴り落ちた。
「ハァ、ハァ……みかさぁ……」
エレンが、少しだけ息を乱しながら私を見つめる。
そのエメラルドグリーンの瞳は、とろんと熱に浮かされたように潤んでおり、彼女の顔には、どうしようもなく扇情的な、恍惚とした緩みきった微笑みが浮かんでいた。
「これ、凄いなぁ……」
ぽつりと、自分の口元を手の甲で拭いながら、素直すぎる感想を零すエレン。
「……うん」
私は、もはや自身の理性がどこにあるのかも分からず、夢現なまま呆然と、ただ短く返事を返すことしか出来なかった。
彼女のその圧倒的な美しさと、先程までの強烈な快感の余韻に、完全に骨抜きにされていたのだ。
エレンは、そんな私を見てフッと柔らかく笑うと、再び顔を近づけ、私の額に自身の額をこつんと当ててきた。
至近距離で、彼女の澄んだ瞳が、まじまじと私を見つめてくる。
「……ミカサ」
慈愛と、この世の何よりも深く重い感情のこもった眼差しで。 蕩けるような熱のこもった声音で、私の名前を口にする。
彼女の細くしなやかな指先が、私の火照った頬を、宝物を扱うようにそっと優しく撫でていく。
その指先の冷たさが、今の私にはとてもこそばゆくて……そして、心の底から安心するほどに心地よかった。
互いの吐息が混ざり合う、この世界で一番甘くて、尊くて、永遠に続いてほしいと思える究極の空間。
私が、このまま再び彼女の唇を求めようと、ゆっくりと目を閉じかけた、その時だった。
───ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……
「えっ?」
静寂に包まれた甘すぎる空気のど真ん中に。 私のお腹の底から鳴り響いた、空腹を限界まで叫ぶ腹の虫の、あまりにも立派で野太い鳴き声が、容赦なく割って入ったのだ。
「〜〜〜〜〜〜っ!?」
私は、一瞬にして全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
その余りにも情けなく、極上のロマンチックな雰囲気を木端微塵に台無しにする音に、私の羞恥心は完全に限界を突破した。
顔が、火でも噴き出しているのではないかという程に赤く火照り上がる。
私は、エレンの顔を見ることができず、両手で顔を覆ってベッドのシーツにうずくまり、声にならない悲鳴を漏らした。
「ぷっ……ふっ……あははははっ!」
私のそのあまりにも締まらない失態に、エレンは一瞬目を丸くした後、堪えきれない様子で吹き出し、お腹を抱えて明るい笑い声を上げた。
「あははっ、ごめんごめん! そういや俺たち、昨日の昼から感情的になってて、何も食べてなかったな」
エレンは、くすくすと顔を綻ばせながら、顔を覆って縮こまっている私の頭を、優しくぽんぽんと撫でてくれた。
「俺もすっげぇお腹空いたや。……よし、一緒に朝ごはんにするか」
それは、ただの幼馴染だった頃と変わらない、けれど確かな愛情と家族としての絆がこもった、エレンの優しい気遣いの提案だった。
「…………うん」
私は、真っ赤になった顔を両手で隠したまま、ただコクリと一つ頷いた。
そして、私の頭を撫でてくれるエレンの温かい手を感じながら、このどうしようもなく騒がしくて、恥ずかしくて、最高に幸せな日常の始まりに、こっそりと口元を綻ばせるのだった。