進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
無事(?)と言っていいのか分からないほどの圧倒的な暴力で、周辺の巨人を文字通り「一掃」したアトラスは、再び私を右肩に乗せ、静かに元の拠点へと歩みを進めた。
背後には未だ晴れないおびただしい量の高温の蒸気と、地獄のような残骸が広がっている。
しかし、そこから離れていく彼の歩みはひどく穏やかで、一定の揺れ心地すら心地よく感じられるほどだった。
先程の嵐が嘘のように、森には再び木漏れ日が差し込み始めている。
水場のある拠点に戻ると、アトラスはゆっくりと巨大な膝を突き、その掌で私の身体をふわりと包み込んだ。
つい数分前まで数百の同族を血肉の雨に変えていた凶器のような手だというのに、私を肩から地面に降ろすその一連の動作は、まるで極薄の割れ物か、生まれたばかりの雛鳥を扱うかのように、ひどく慎重で優しかった。
地面に足をつき、小さく息を吐き出す。脅威は完全に去った。
さて、この後の長い時間をどう過ごそうか。壁内への帰還ルートを相談するべきか、それとも周辺の地形を把握しておくべきか……そう考えを巡らせていた矢先だった。
ズシン、ズズズ……。
奇妙な音がして顔を上げると、アトラスは先程の「殺戮の化身」から一転、巨大樹の幹の前に陣取り、何やらせっせと作業を始めていたのだ。
指先だけを鋭いカッターナイフのように硬質化させ、器用に木材を切り出し、組み合わせている。
……今朝、私が水浴びをしようとした時に彼が慌てて口にした「今日中に水浴び専用の小屋を作ろう」という約束。
つい十分程前に無垢の巨人を大虐殺し、森の生態系すら変えかねない絶望を巻き起こした15メートル級の巨人が、たった一人の人間の女性の羞恥心を守るために、真剣な顔つきで大工仕事に勤しんでいるのだ。
そのあまりにもシュールで規格外な光景に、私は思わず吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
普通の人間なら、あの地獄絵図を見た直後に発狂してもおかしくない状況だ。
けれど、今の私には痛いほどよく分かる。彼は見返りを求めているわけでも、巨人の奇行でもない。
ただ、人間だった頃の倫理観に従い、私との他愛のない「約束」を馬鹿正直に守るためにそうしているのだと。
巨大な膝を突き、少し背中を丸めてせっせと木材の角度を調整するその姿は、昨日彼が「しがない学生だった」と語った、人間であった頃の等身大の青年の面影を強く想起させた。
その不器用な誠実さが、私の胸の奥を酷く温かくする。
私は頬を緩めながら、一度彼が作ってくれたクリスタルの宿へと入った。
昨日彼が抱えてきた果実の山から、手頃な大きさの赤い実を一つ手に取り、大きく齧り付く。
瑞々しい甘酸っぱさが口いっぱいに広がり、乾いた喉と、少しだけ高ぶっていた神経を優しく落ち着かせてくれた。
簡単な腹ごしらえを済ませた私は、自分の両手で抱えられるだけの果実をいくつか選び出し、それを持って再び彼のもとへと向かった。
「アトラス。何か、私に手伝うことある?」
下から声をかけると、木材の微調整をしていた巨大な顔がこちらを見下ろした。
彼は私の抱えた果実を見て少し目を丸くした後、端正な顔の目尻を下げ、柔らかく微笑んだように見えた。
「ああ。なら……私のこの大きな手では届かない、細々とした部分の仕上げを君に任せても良いかな?」
その低く落ち着いた声には、私をただ庇護すべき弱者として扱うのではなく、共にこの場所を作り上げる対等な仲間として頼ってくれる響きがあった。
「分かった!」
私は今日一番の、満面の笑顔で大きく頷き応える。
絶望に満ちた壁外の森の真ん中で、巨人と人間が共に一つの小屋を建てる。
普通ならあり得ない、そんなおとぎ話のような日常の時間が、今は何よりも愛おしく思えた。
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