進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第二十八話

842年、11月中頃。

 

巨大樹の森にも、本格的な冬の足音が近づいていた。

 

日が落ちると急激に気温が下がり、吐く息は白く染まる。

 

完全な野宿に比べればクリスタルの宿は遥かにマシだろうが、それでも最近、朝夕の冷え込みにリーシェが小さく肩を震わせる姿を目にすることが増えていた。

 

(現代日本でぬくぬくと育った男の端くれとして、女の子にこんな寒い思いをさせ続けるわけにはいかない)

 

そんな謎の使命感に燃えた俺は、深夜、彼女が宿で深い眠りについているのを確認してから、密かに大規模な「冬支度」の改修工事に取り掛かった。

 

まずは、彼女が寝泊まりするクリスタルの宿。

 

指先の硬質化を極限まで精密にコントロールし、内壁の一部を削り出してコンパクトで機能的な「暖炉」を設えた。

 

ただ火を焚けば一酸化炭素中毒で死んでしまうため、外壁に沿って上空へと煙を逃がすための煙突も緻密な計算の元に構築する。

 

続いて、水浴び用の小屋だ。

 

これまで彼女は、この肌寒い中、川の冷たい水で無理やり身体を清めていた。

 

調査兵団の性とはいえ、見ていてあまりにも忍びない。

 

俺は小屋の中央に、俺の硬質化クリスタルを加工した特製の「浴槽」を設置した。

 

原理としては前世の五右衛門風呂に近いが、俺の生成するクリスタルは極めて熱伝導率が高く、かつ耐久性に優れている。

 

下部に薪をくべるスペースを作り、そこで火を焚けば、あっという間に浴槽全体が均一に温まり、冬でも冷めることなく快適なバスタイムを過ごせるという完璧な設計だ。

 

朝日が昇り始める頃、森の空気が一段と冷え込む中、俺は一足先に準備を整えていた。

 

浴槽にたっぷりと澄んだ水を張り、下で火を焚いて湯を沸かす。

 

同時に、小屋の暖炉にも火を入れ、室内をポカポカの適温に暖めておいた。

 

湯気と共に木の爆ぜる香ばしい匂いが漂い、ここが巨人の跋扈する絶望の森であることを忘れそうになるほどの心地よい空間が出来上がった。

 

やがて、クリスタルの宿の扉がコトリと開き、身支度をするためにリーシェが出てきた。

 

少し身を縮こまらせ、白い息を吐きながらこちらを見上げる。

「おはよう、アトラス」

「おはよう、リーシェ」

いつものように穏やかな挨拶を交わす。彼女は寝起きの目を擦りながら、タオルと着替えを抱えて、日課の水浴びのために小屋へと向かった。

 

扉に手をかけ、少しだけ憂鬱そうに(あの冷水責めを思えば当然だが)中へと足を踏み入れた、その直後だった。

 

「……暖か! なにこれ!?」

森の中に響き渡る、お手本のように完璧なリアクション。

 

俺は思わず、15メートルの巨体の顔面をにやけさせてしまった。

 

サプライズを仕掛けた側として、これほど気持ちの良い瞬間はない。

 

ドッキリが大成功した嬉しさを一切隠すことなく、俺は誇らしげにネタバラシをすることにした。

 

「そろそろ冬も本番になってくるだろう。そこで、私は人間だった頃の記憶を頼りに、その小屋に暖炉と浴槽を作ってみたんだ」

 

驚きで小屋から顔を覗かせている彼女に向かって、俺は少し自慢げに言葉を続ける。

 

「水浴びではなく、しっかりとお湯に浸かって温まれるようにね。君が寝ている宿の方にも暖炉を作っておいたから、これからの季節、夜の寒さに震えることも無いだろう」

 

俺の言葉を聞いたリーシェの青い瞳が、限界まで見開かれた。

 

状況を完全に理解した彼女の顔に、みるみるうちにパァッと花が咲いたような極上の笑顔が広がる。

 

「最高すぎるぅぅ! ありがとう、アトラス! 入ってくるね!!」

もはや待ちきれないといった様子で、彼女は弾んだ声で叫び、勢いよく小屋の中へと飛び込んでいった。

 

バタン、と閉まった扉の向こうから、さっそく服を脱ぎ捨てる気配と、お湯の温度を確かめて「はぁぁ……」と幸福の絶頂にいるような吐息が漏れ聞こえてくる。

 

俺はその微笑ましい姿を見送った後、ゆっくりと立ち上がった。

 

これからは毎日、湯を沸かし、暖をとるための大量の「薪」が必要になる。

 

俺は周辺の倒木や枯れ木を拾い集めると、指先を鋭利な刃に変え、人間の筋力でも無理なく持ち運びできる手頃なサイズへと、大根を千切りにするような手軽さで次々と切り分けていった。

 

細かく割った大量の薪を、雨に濡れないようクリスタルで即席の屋根を作り、宿と小屋の間の使いやすい位置に綺麗に積み上げていく。

 

そんな俺の耳に、静かな森の空気を震わせる、ひどく美しく、透き通るような音が届いた。

 

暖炉の煙が立ち昇る水浴び小屋の中から、リーシェの歌声が聴こえてきたのだ。

 

それは壁内で歌い継がれている古い民謡なのか、あるいは彼女の故郷の歌なのか。

 

柔らかなメロディが、パチパチとはぜる薪の音と混ざり合い、木漏れ日の中に溶けていく。

 

命の危険と隣り合わせの調査兵団では、決して見せることのなかったであろう、年相応の無防備で幸せに満ちた歌声。

 

薪割りの手を止め、俺はその場にどっかりと腰を下ろした。

 

心地よい湯の温もりと、安全が完全に保障された空間。

 

心身の芯までリラックスしているのだろう。

 

今日のリーシェは、いつもよりずっと長い時間、その温かな小屋の中で過ごしていた。

 

俺は彼女の美しい歌声を子守唄代わりに聴きながら、この残酷な世界でたった一つ、自分だけが守り抜けるこの平和な時間を、深く噛み締めていた。

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