進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第三十話

そして、翌日。

 

森の冷気が僅かに緩む昼下がりの時間帯、俺たちは昨日と同じく「実戦訓練」という名目の巨人狩りへと出向いていた。

 

だが、その結果は俺の予想を、いや、人間の限界という常識を遥かに凌駕するものだった。

 

「シィッ……!」

鋭い呼気と共に放たれたアンカーが、巨大樹の幹に深く突き刺さる。

 

俺が調整した硬質化クリスタル製ボンベから噴き出される超高圧ガスが、シュガァァァッ!という爆音を立ててリーシェの細い身体を空高く跳ね上げた。

 

遭遇した10m級の右腕をすれ違いざまに斬り落とし、そのままの勢いで背後に回り込んでうなじを抉る。

 

すぐさま落下地点に群がろうとした5m級の頭を足場にして跳躍し、眼下で口を開ける12m級のうなじへとドリルのような回転斬りを叩き込む。

 

空中で一切の無駄がない。

アンカーの射出タイミング、ガスの噴射量、ブレードを振るう角度、その全てが昨日とは別人のように洗練され、極まりきっていた。

 

太陽の光を反射するクリスタルコーティングのブレードが、まるで舞踏のように銀色の軌跡を描き、次々と無垢の巨人たちを沈黙させていく。

 

そして、最後に現れたのは、俺と同じ体格を誇る15m級の巨人だった。

 

「リーシェ、15m級だ! 動きが速い、私が――」

指示を出し、万が一に備えて俺が前に出ようとした、その瞬間だった。

 

「───大丈夫、見える!」

リーシェは俺の言葉を待たずに、木々の間を縫うようにして超高速で直進した。

 

15m級の巨人がその巨腕を振り回し、彼女を空中で叩き落とそうとする。

 

だがリーシェは空中で信じられないほど滑らかに身をよじり、巨大な指先の間を紙一重で躱すと、そのまま巨人の手首にアンカーを撃ち込んだ。

 

─ガキィッ!

 

巨人が自らの腕を振り上げるその力と遠心力を逆利用し、彼女は一気に上空へとカッ飛ぶ。

 

そして巨人の視界から完全に消え去った最高到達点から、獲物を狙う鷹のように急降下した。

 

────ズバァァァァァァッ……!!

 

硬い肉を断つ不気味な音と共に、15m級の巨人のうなじが、深々と、そして完璧な「Vの字」に抉り取られていた。

 

ドズゥゥン……と、大地を揺らして倒れ伏す15m級の巨体。

 

もうもうと立ち昇る高温の蒸気の中、リーシェは軽やかに太い枝へと着地し、何事もなかったかのようにブレードの血を振り払った。息一つ乱れていない。

 

(……マジかよ)

俺は、顔面の下で冷や汗をかくような錯覚に陥っていた。

 

いくら俺がブレードとガスに硬質化の技術を応用してチート級の強化を施しているとはいえ、だ。

 

精鋭班が数人がかりで、命を散らしながらようやく対処する15m級の巨人を、たった一人の女性兵士が、一切の指示出しすら必要とせず単独で、しかも無傷で撃破してしまったのだ。

 

立体機動装置の圧倒的な性能向上だけでは説明がつかない。

 

彼女自身の動体視力、反射神経、筋力、そして空間把握能力そのものが、昨日から今日にかけて爆発的に跳ね上がっているとしか思えなかった。

 

(……もしかしなくても、アッカーマン家の血筋が混じってるんじゃ……?)

 

俺の脳裏に、前世の記憶───原作に登場した、理外の戦闘力を誇る「一騎当千の戦闘民族」の存在が過ぎった。

 

もし彼女がその血を引いているのだとすれば、この異常な戦闘力の説明もつく。

 

拠点に戻った夕暮れ時。

 

俺が作った人間サイズのクリスタル製調理鍋から、煮込み料理のいい匂いが漂っていた。

 

昨日の残りの鹿肉と、森で採れたキノコを煮込んでいるらしい。

 

焚き火の温かい光に照らされながら、鼻歌交じりに木べらで鍋をかき混ぜるリーシェの姿は、つい先程まで血の雨を降らせていた殺戮兵器とはまるで結びつかない、年相応の可愛らしいものだった。

 

俺は焚き火の向こう側で膝を抱えるように座り、ふいに問いかけた。

 

「リーシェ……『アッカーマン』という言葉に、何か聞き覚えはあるか?」

 

俺の問いかけに、リーシェは手を止め、おたまを持ったままこちらを振り返った。

 

その夜空のような青い瞳をぱちくりと瞬かせ、こてんと可愛らしく首を傾げる。

 

「アッカーマン? ……うーん、知らないわ。誰かの名前?」

 

彼女は少しだけ目を輝かせ、ワクワクしたような声音で聞き返してきた。

 

「ん? もしかして、またアトラスの人間だった頃の話? あなたの故郷の偉人とか、そういうの?」

 

その純粋で、何の翳りもない反応を見て、俺は小さく息を吐いた。

 

(流石に違うか……)

 

アッカーマン一族は迫害の歴史を持っている。

 

もしその血を引いているのなら、偽名を使っているか、あるいは本人も知らない遠い血縁という可能性もあるが……彼女のこの様子を見る限り、全く心当たりがなさそうだった。

 

(まぁ、この残酷な世界だ。生き残るためには、強いに越したことはない……か)

 

異常な戦績に内心戦慄しつつも、目の前でニコニコと料理を作るリーシェの姿を眺めていると、そんな些細な疑問はどうでもよくなってくる。

 

彼女が強くなり、自分の身を自分で守れるようになることは、俺にとっても最大の喜びなのだから。

 

俺は巨大な顔の目尻を下げ、ただただ彼女が作る温かな日常の風景に癒されていた。

 

……だが、この時の俺はまだ知らなかった。

 

彼女にアッカーマンの血など一滴も流れていないこと。

 

 

 

そして、昨日から今日にかけての彼女のこの異常なまでの急成長が、まさか俺というイレギュラーな転生者が持つ、俺自身すら気づいていない「独自のある特殊能力」による影響だったとは───

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