進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
眼下で大きく口を開けていた12m級のうなじへ、ドリルのような回転斬りを叩き込む。
ズバァァァッ!!という、骨すらも両断する重い手応え。
吹き上がる高温の蒸気を抜け、私は近くの太い枝へと軽やかに着地した。
その瞬間だった。
(……え?)
私は、自分の身体に起きた「奇妙な感覚」に思わず息を呑んだ。
息は全く切れていない。
それどころか、頭の奥底で、今までバラバラに動いていた無数の歯車が、唐突に「カチッ」と完璧に噛み合ったような、強烈な錯覚を覚えたのだ。
視界が、異様なまでにクリアだった。
舞い散る木の葉の一枚一枚の軌道、森を吹き抜ける風の僅かな流れ、立体機動装置から噴出されるガスの微細な圧力の変化。
今まで無意識下で処理していたはずの膨大な情報が、まるで静止画を一枚ずつめくるように、極めて鮮明に脳内に入ってくる。
それに、身体が軽い。ただ疲労がないというだけではない。
脳で「こう動きたい」とイメージしたその瞬間に、筋肉が一切の遅延なく、1ミリの狂いもなくその通りに駆動している。
5年間の地獄の訓練で培ってきた私の技術が、ある一線を越えて「別次元」へと昇華されたような……そんな、恐ろしいほどの万能感。
「リーシェ、15m級だ! 動きが速い、私が――」
下方から、アトラスの焦ったような重低音が響く。
視線を向けると、木々をなぎ倒しながら、アトラスと同じほどの巨体を誇る15m級の巨人がこちらへ猛スピードで迫ってきていた。
普通なら、精鋭班がかりで陣形を組まなければ対処できない相手だ。
しかし今の私には、その巨人の動きがひどく大振りで、隙だらけの「スローモーション」に見えていた。
「──大丈夫、見える!」
私はアトラスの制止を遮り、巨大樹の幹を蹴り飛ばした。
─シュガァァァッ!!
アトラスの作ってくれたクリスタルボンベから高圧のガスが噴き出し、私の身体が弾丸のように宙を舞う。
15m級が私を空中で叩き落とそうと、丸太のような巨腕を猛烈な勢いで振り回してきた。
(来る。……右斜め下から、迎撃の薙ぎ払い)
巨人の筋肉の僅かな収縮から、次の軌道が完全に「読める」。
私は空中でほんの僅かに腰を捻り、ガスの噴射角をミリ単位で調整した。
ブゥンッ!!という風圧を伴って、巨人の巨大な指先が私の鼻先数センチを掠めていく。
恐怖は全くない。
自分の身体が空間のどこにあり、どう動かせば躱せるのか、その全てを完全に支配しているという確信があった。
「そこっ!」
巨人が腕を振り抜いたその最大の死角。私はすかさず巨人の手首へとアンカーを撃ち込んだ。
───ガキィッ!
巨人の腕が振り上がる強烈な遠心力を、私はそのまま自身の推進力へと変換する。
ワイヤーの巻き取り速度とガスの噴射を完璧に同調させ、一気に上空へ。
巨人の視界から完全に消え去った最高到達点で、私は重力すら味方につけて急降下した。
両手のブレードを構える。刃の角度、手首の返し、体重の乗せ方。
そのどれもが、今まで私が振るってきたどの斬撃よりも速く、鋭く、そして美しかった。
────ズバァァァァァァッ……!!
15m級の硬いうなじが、まるで薄い紙を切り裂くかのように、抵抗らしい抵抗もなく完璧な「Vの字」に抉り取られていく。
────ドズゥゥン……!!
大地を揺らして倒れ伏す15m級の巨体を見下ろしながら、私は近くの枝へとふわりと舞い降りた。
ブレードについた血を払い、鞘に収める一連の動作すら、自分のものではないように洗練されている。
(……私、今、一人で15m級を……?)
自分の両手を見つめる。
震えはない。
ただ、信じられないほどの静かな高揚感が全身を駆け巡っていた。
訓練の成果? アトラスの作ってくれた装備の性能?
いや、それだけじゃない。私の中で、兵士としての「何か」が根本から書き換えられたような、そんな劇的な進化を、私は自分自身の体で確かに体感していた。