進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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リーシェ視点です


第三十二話

拠点に戻り、夕闇が森を包み込む頃。

 

私は、アトラスが創り出してくれた特製のクリスタル鍋の前に立ち、木べらで鹿肉をコトコトと煮込んでいた。

 

パチパチと爆ぜる焚き火の心地よい音と、肉とキノコが煮える美味しそうな匂い。

 

でも、私の頭の片隅には、昼間に体感したあの「異常なまでの万能感」がまだ色濃く焼き付いていた。

 

(……思い返しても、やっぱりおかしいわ)

精鋭班でも手を焼く15m級を、全くの無傷で、しかも一瞬で屠ってしまった。

 

アトラスが作ってくれた装備のおかげなのは間違いない。

 

でも、それだけじゃない。

 

あの時、私の視力、筋力、そして空間を把握する思考の速度そのものが、まるで別人のように跳ね上がっていた。

 

「私って、本当はこんなに強かったの?」と自惚れてしまいそうになるほど、私の身体は私の意志と完全に直結して、完璧な殺戮を体現していた。

 

そんな風に、鍋をかき混ぜながら自分の手のひらを不思議そうに見つめていた時だった。

 

焚き火の向こう側で膝を抱えるように座っていたアトラスが、ふいに低い声で問いかけてきた。

 

「リーシェ……「アッカーマン」という言葉に、何か聞き覚えはあるか?」

 

「……え?」

私は木べらを持ったまま、おたま越しに彼を振り返った。

 

その巨大で端正な顔は、炎に照らされてどこか探るような、真剣な色を帯びている。

 

アッカーマン。

頭の中で、その言葉の響きを反芻してみる。

 

壁の中の貴族の名前? それとも、どこか辺境の地名? いや、訓練兵団時代にそんな名前の同期がいただろうか。

 

記憶の糸をいくら手繰り寄せても、全く引っかかるものがない。

 

少なくとも、私が生きてきた20年の人生で出会ったことのない響きだ。

 

でも、彼がわざわざそんなことを聞いてくるということは……

 

私はハッとして、ぱちくりと瞬きをした。

「アッカーマン? ……うーん、知らないわ。誰かの名前?」

 

私はこてんと首を傾げ、自然と声のトーンが上がるのを感じた。

「ん? もしかして、またアトラスの人間だった頃の話? あなたの故郷の偉人とか、そういうの?」

 

晩に語ってくれた「空を飛ぶ鉄の塊」や「星より明るい街」のように、また彼のいた不思議な世界の話を聞かせてくれるのだろうか。

 

そう思うと、昼間の死闘の余韻も忘れ、胸の奥がじんわりとワクワクしてきた。

 

私のその無邪気な反応を見たアトラスは、ほんの一瞬だけ目を丸くした後、微かに息を吐き出した。

 

巨大な顔の目尻が下がり、どこかホッとしたような、呆れたような、ひどく優しい顔つきになる。

 

「……いや、何でもない。私の気のせいだったようだ」

 

そう言って、彼は静かに微笑んだ。

 

何か隠しているような気もしたけれど、彼が優しく見守ってくれているその視線が嬉しくて、私は深く追求するのをやめた。

 

(ま、いっか。アトラスがそう言うなら)

 

「もうすぐ料理ができるわよ。アトラスは味があんまり分からないって言ってたけど、今日は特別美味しくできた自信があるんだから!」

 

私は満面の笑みでそう返し、再び鍋へと向き直る。

 

昼間の「別次元の力」が一体何だったのか、この時の私はまだ知る由もない。

 

ただ、この優しくて規格外な巨人の隣で、彼が用意してくれた安全な場所で笑い合えるこの日常が、ずっと続けばいいと心から願っていた。

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