進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
第三十四話
リーシェとの出会いから3ヶ月弱。季節は巡り、年が明けて843年に丁度入った頃。
巨大樹の森の厳しい冬の中にあっても、俺たちの拠点はクリスタルの暖炉のおかげで常に暖かく、平穏そのものだった。
だが、その暖かな火の前で、俺の中に、ある重い「迷い」が生じていた。
それは──このまま彼女と一緒に、この森で生活を続けていて良いのか、という根本的な疑問だ。
リーシェは人間だ。
この約3ヶ月間、夜な夜な交わした語らいの中で、俺は完全に理解している。
彼女には壁の中に帰るべき故郷があり、共に死線を潜り抜けた調査兵団の仲間たちがいることを。
いくら俺が硬質化能力で快適な住環境を整え、チート級の兵装を与えようとも、ここは本来人類が生きる場所ではない。
20歳のうら若き人間の女性を、人間社会から隔離してこんな原始的な生活に付き合わせ続けるのは、果たして「正しい」ことなのだろうか。
そんな自問自答を繰り返す日々が、ここ最近ずっと続いていた。
不思議なことに、彼女の口から「壁内に帰りたい」という言葉は一度も出てこない。
でも、それはなぜだ?
俺が元人間であり、長い間たった一人で絶望的な孤独の中にいたと知っているから、気を使ってくれているのではないか。
表面上は笑って毎日を楽しんでいるように見えても、内心では仲間たちの元へ帰りたがっているのではないか。
もしそうなら、俺は今すぐにでも彼女を壁まで送り届けてやりたい。いや、そうすべきなのだ。
もちろん、俺自身の正直な気持ちを言えば……酷く、寂しい。
ここまで気を許して、他愛のないことで笑い合い、心の底からコミュニケーションを取れる相手は、前世の記憶を含めても彼女が初めてだった。15メートルのバケモノである俺を、「アトラス」という一人の青年として真っ直ぐに見てくれる彼女を手放したくないという、身勝手な執着があるのは否定できない。
でも、だからこそだ。
これほどまでに俺にとって大切な彼女の人生を、俺の孤独を埋めるための犠牲にしてはいけない。
慎重に、彼女の本当の幸せを考えなければならない。
夜。
いつも通り、パチパチとはぜる巨大な焚き火を挟んで語らい合う時間。
俺の思考は完全に上の空だった。揺らめく炎をぼんやりと見つめながら、無意識のうちに、その名を口にしていた。
「…リーシェ」
ふいに出た低く重い声に、彼女が顔を上げる。
「どうしたの?」
不思議そうに小首を傾げる、夜空のような青い瞳。
その真っ直ぐで淀みのない視線に射抜かれ、俺は胸の奥を突かれたような罪悪感を覚え、思わず気まずい表情で目を逸らしてしまった。
「…いや、何でもない」
「そっか、でね───」
俺の不自然な態度を深く追及することなく、リーシェは再び手元の温かいお茶を啜りながら、楽しそうに調査兵団の同期の話の続きを語り始めた。
コロコロと変わる愛らしいその表情を、焚き火越しに眺めながら。
(俺は……どうすれば、良いのだろうか……)
彼女の明るい声とは裏腹に、俺の胸の奥底には、冷たい冬の夜風よりも重く苦しい問い掛けだけが、いつまでも渦巻いていた。